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71話 望んだもの 2

 マモンの指定した古城は今にも崩れ落ちそうなほど年季が入っていた。


「シルビアの魔法であの城潰せば勝ちじゃね?」

「やってもいいが、失敗した時が怖いぞ。怒り狂ったマモンが出来上がる」


 どうせ闘うしいいんじゃね?

 倒せたなら儲けもの。倒せなくてもダメージくらいは期待してもいいだろ。


「……まあやれと言われればやるしかないな! 私の魔法を、その目をよく見開いて参考にするんだね」


 ノリノリじゃねえか。

 まあこいつの得手しているところの魔法が通用しなかったからな。

 弱体化しているとはいえ、それでもショックだったのだろう。


「更に特別だ。長文詠唱というものを君に教授してあげよう。普通の魔法に、魔力を伴った文言を付与することにより威力や効果を増加させる応用魔法だ。覚えておくといいぞ」

「あ、それ無意識にやってたわ。『スワンプマン』と『ホール』とか出来ないと対処できない魔物いたし」

「え?」


 というか、詠唱とかやってなかったな。

 ちょっと魔力多く消費すればいいんだろって思ってたわ。


「……鉄滅の重撃よ。地割の十拳よ。火を撒け、水を捌け、風を引け。光と闇を等しく穿ち聖と邪を須く統治せよ。『ラストメテオ』」


 古城の真上に巨石が出現した。

 城を飲み込んでもまだ足りない程の大きさ。


「……おい」

「……すごい、です」

「大きいです!」

「シルビアさん……」


 唖然とした顔で隕石を眺める俺達。

 開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。


「炎と水と風もついでに纏わせておいた。私至上でも上位に入る傑作だ!」


 やり過ぎじゃねえのか?

 話し合う暇も無くマモンを倒すことになりそうだが、まあ別にいいか。


 楽に倒せるならそれでいいのだ。 

 強くなりたいのではなく敵を排除したい。

 その一心で俺達は修行に明け暮れたのだからな!


「……ん? 何か弾かれているような」


 何とかって法則があったような気がするが名前を思い出せない。

 巨大な物体は落下がゆっくりに見えるが、それにしては古城へ落ちる気配がしない。

 まるでバリアにでもぶつかっているような……


「……不味い。結界が貼られていたようだ」


 古城から巨大な黒い靄の塊が一本の線となり巨石を貫いた。

 貫いた靄は空の彼方へと飛んでいかず、そのまま巨石に纏わりつく。

 内側から、外側から巨石に侵食していく靄は一気に巨石を砕ききった。


「……やばくね?」

「いやはや驚きだ。あれは魔法というよりは魔王のスキルのようだ。私には真似できない」


 ……さて、マモンの棲み処の頑強さも確かめたところで普通に忍び込むとするか。

 結局は王道でしかマモンは倒せないのだと証明されたのだが、頭上を見上げれば邪道に対する罰則は存在するんだなぁって思うこととなった。


「シルビア……お前の魔法なんだし消せたりするか?」


 巨石は砕かれた。とはいえ、砕かれた物質そのものが消えうせるわけではない。

 蒸発したわけでもなし。砕かれたのだ。


 すなわち、岩や石の礫が文字通り雨となって俺達に降り注いだ。


「俺達もバリアだ! 結界だ! なんか壁を張れシルビア!」


 風の防壁とか、なんかそういうのあるだろ。

 


「……すまない。魔力の大半を使ってしまってすぐには魔法を使えそうにないんだ」

「バッカじゃねえの?」

「き、君がそもそもあの城を潰せと言うから!」


 なんて、言い争っている時間も無く。

 周囲の地面に穴が空いていく。


「砂礫はこの際、諦めよう。致命傷となり得そうな岩だけを避けていくしかあるまい」

「……簡単に言ってくれるぜ」


 シルビア達死体人形組はともかくとして、俺とシドドイは簡単に傷が治らない。

 回復薬の類も無限には無いのだ。


「……時間を稼げ。その間に安全地帯を俺がつくる」


 シルビアが魔法を使えない今、俺が魔法で対抗するしかない。

 やったことの無い使い方だから少しばかり時間がかかってしまう。

 

「来るぞ」

「たあぁっ!」


 俺達全員を合わせても足りない程の大きさの岩が降り注ぐ。

 思わず目を塞いでしまうが、アイの声が聞こえ、開けてみる。

 そこには大岩を、豆腐でも潰すようにハンマーを振り回し砕くアイの姿があった。


「次! まだまだ来るぞ」

「せいっ!」


 シーも斧で次弾を切り裂く。

 さすが高い武器を買ってやっただけあてその切り口は滑らかなものだ。


「『雷雨カテギーダ(イーコス)』」


 一条の矢が岩に衝突した……かと思えばその矢は岩を破壊しながら曲がり、俺達の頭上を蜷局を巻くようにして天高く舞っていく。


「……ふう」


 シドドイは何時の間にか俺の常識の埒外に到達したようだ。

 そろそろシルビアに『鑑定』で再度見てもらわなければならない。

 絶対におかしなスキル構成になっていることだろう。


 巨大な岩はアイとシーが。

 細かな散弾のような岩はシドドイが一掃してくれた。


――『ホール』、重ねて『ホール』


 地面に人一人が通れそうな穴が開かれる。


「お前ら全員、ここに入れ! すぐ正面に横穴を空けておいた」


 飛び込みながら叫ぶ。

 説明はこれで十分のはずだ。


 俺の後ろをシドドイがすぐ後ろに付き、更にアイ、シーが続く。

 シルビアは……持ち前の体力の無さで走っていた。


「……何やってんだアイツ」


 まあ死体だ。

 粉微塵にでもならない限りは復活出来るが。


 間一髪、シルビアが横穴に入ってきた瞬間に縦穴には土砂のように石が雪崩落ちてきた。


 真っ暗闇な穴の中に光が灯る。

 魔力の回復したシルビアの魔法だろう。


「……危なかったですね」

「シドウ様、これからどうするんですか?」

「このまま古城の真下まで穴を掘り続けるというのは如何でしょうか」


 ふむ、良い意見だなアイ。

 上が駄目なら下から。まだ邪道を行く意思があるとは、俺の配下に相応しい。


「俺の魔力が持つかだな問題は」

「勿論、私達が穴を掘ります! ね、シー、シルビアさん」

「え、私もかい!?」


 この世の終わりとばかりな表情をするシルビア。

 確かに死体人形の力と体力なら可能だろうがなぁ……。


「時間がかかりそうだな。それに結局、侵入した後に城のどこにいるのか分からないマモンを探すことになるのならどこから入ろうが一緒だ」

「でしたか……」


 残念そうなアイ。

 ふむ、どうにか拾ってやりたいなこの案を。


「掘る……採掘……発掘……掘削……何かないもんかぁな」


 城への侵入案ではなく城そのものへの攻撃。

 上からは結界とやらに阻まれているから最悪跳ね返されてしまう。


 では下からならどうだ?

 下からとなると……杭くらいしか思い浮かばないが、結界が貼られていなければ古城を貫くことも出来るだろう。


 ……いや貫いたとしてもマモンを直撃しなければ駄目か。

 ようは古城を壊さなければならないのだ。

 原形を留めるような魔法は魔力の無駄。

 それなら普通に古城に正面からお邪魔しますと言って入ってマモンと闘うのと何ら変わりはない。


「……ご主人様。ふと思ったのですが」

「どうしたシドドイ」

「魔王マモンには配下などはいないのでしょうか」

「……いない、と思い込んでいたな」


 あの性格じゃ誰も付いて行かない、と思っていたが……雑魚の魔物あたりを城に配置していてもおかしくはないか。


「そうだなぁ……都合よくマモン含めて一掃出来れば都合がいいんだが……とりあえずマモン以外の障害は取り除きたいよな」


 マモンの性格からして城の最上階だろう。

 靄のスキルを使っていたことからも、それは間違いない。


 最上階を残して下層は潰す、か。

 丁度良くアイの案と合致するじゃねえか。


「シルビア、合体だ」

「合体か。……へぁ!? 何を言い出すんだ、こんなところで。アイとシーがいるんだぞ!」


 何を言い出すも何も、お前が何を言っているんだ。

 合体ってのはつまり……


「合体魔法に決まっているだろう」


 テンション上がるだろ? 

 攻撃を合体させるのなんて。





「「『ホール』」」


 地上から這い出た俺達の眼前で古城が地に埋まる。最上階だけが地上に出る形で。

 城の結界とて地面にまで施されているわけでは無い。

 いくら頑強だろうとそれを支える地面が無くなってしまえばどうしようもないだろう。


 沈んだ衝撃もそうだが、これで俺達は直接最上階からマモンとご対面できるわけだ。

 当初の予定とはまた違うが、どんな顔をしているやら楽しみだ。


「出て来いよマモンー! 遊ぼうぜ」

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