69話 三人目 7
【マイ・クラサカの人生】
勇者マイ・クラサカこと倉坂舞の人生はおよそ平凡なものであった。
人間の光と闇、それぞれを適所適度に知りながらも決して偏ることは無く、誰かの上に立ち誰かの下で教わりながら、一度目の人生を落雷によるショック死で終えたのであった。
つまらない、と思っていたのかもしれない。
いっそのこと極端であればそのつまらない人生を愛おしく思えたのかもしれない。
だが、倉坂舞は良くも悪くもふり幅の少ない人生の中で生き、望むべくも無かった極端な死に方によって人生の幕を閉じた。
だから、二度目は貴族の令嬢という、それも異世界のという但し書きが付けられる身分に生まれた際は言葉を発せない赤子ながらもガッツポーズをしながら雄叫びをあげたものだ。
乳母に驚かれ反省はしたものの、憧れでもあった貴族の生活はたとえ赤子に与えられるものであっても黙って受け止められる範疇を越えていた。
やがて、剣と魔法、スキルという常識と世界観を一変させる技能を両親や呼ばれた教師陣に教えられる。
貪欲に学んでいく彼女だが、やがて物足りなく感じ、そして両親に頼み込んで学校に通うこととなったのだ。
学校。結局彼女は前世と何も変わっていなかった。
身分や身体能力は大きく変わりはしたが心の奥底、精神の根本的なものは学生気分そのままであったのだ。
そこで出会った騎士の家系の息子、王族の息子、知略で成り上がった平民の息子と出会い、持て囃されながら一応は楽しく学生生活を楽しく過ごした。
成長していくうちに気が付いたのだが、顔は前世と変化無かったらしい。
スキルのおかげか髪の色だけは美しい金に染まり彼女のトレードマークとなったのだが、逆に平凡な顔が浮き彫りになったかのようであった。
幸いなことにこの世界の眉目秀麗の平均値よりは上であったらしい……というか美的価値が微妙にずれているらしく、美しいものはそのままなのだが彼女の顔も十分に美しい範疇であったらしい。
周囲と自分の中のずれを感じながら、無理やりにでも無視して、無理して、冒険者に彼女はなったのであった。
倉坂舞に与えられたスキルは『星光』。
光系統の魔法の習熟度向上、それと12の奥義とも呼べる技の取得である。
未だ成長発展の中にいる彼女に使える奥義は半分以下。
それも、一度の戦闘で何回も使えるわけでもなく、使いどころを間違えれば全滅しかねないものまである。
『双子の絆』。攻撃を二回行えるという、単純で使い勝手の良い彼女にとってもお気に入りの奥義である。
光魔法で剣の攻撃力を上昇させ、奥義で決定打の打点を増やす。
自身の鍛錬がものをいうからこそ、彼女は努力の成果を試すかのように使う。
【シドウ目線】
金髪勇者の剣がシャルザリオンを両断した。
確実に致命傷となるだろう威力を伴ったように見えたのだが……
「……いくら何でも出血量が少なくないか?」
シャルザリオンの光線と同様に触れれば蒸発してしまい、傷口からの出血も少ないのだろうがそれにしては血しぶきも無いし地面に数滴垂れただけだ。
「……斬り損ねたかしら。手ごたえが無いわ」
金髪勇者もまた剣を構え直す。
どうやら、倒したようではないらしい。
「んー、爺がいればすぐに分かるのだけれど」
そういえば爺さん含め4人足らないな。
金髪勇者だけ先んじて走ってきたってことか?
「おい勇者さんよぉ、まだどこかに潜んでいそうなのか?」
「そうみたいね。何かしらの魔法を使ったのでしょうけれど、まだ私が習っていないものみたいね。……光……屈折を利用して幻影を生み出していたってことかしら?」
便利な魔法もあるものだな。
シルビアあたりなら知っていそうだが。
「ドラゴン特有の魔法じゃ無さそうね。私も出来そうだもの」
『……我とて十数年は取得にかかったものなのだがな』
両断されたシャルザリオンが消え、その後ろに本物のシャルザリオンの姿が現れた。
顔を掠めたようで、シャルザリオンの頬からは血が垂れていた。
『その通り、光の屈折を操作する魔法だ。緻密な計算と類まれなる魔法の才が必要だが……貴様なら習得できるであろうな』
「あら、急に親切じゃない」
『……流石に死を覚悟したわ。おかげで頭が冷えた。我が子とて我の下を離れ自由に生きていた身。すでに我の管轄外であり何処で死のうとあやつの責任だ。弱く、そして死んだ方が悪い。我らドラゴンが人間や他の魔物を喰らうように、弱きあやつが今度は喰われただけだ』
「この世界にも弱肉強食の考えはあるようね」
結局、弱い方が悪い。強い方が正しい。
最悪な考え方じゃねえか。
『貴様には我の知る魔法をいくつか授けよう。それで、今回の殺し合いは見送りとせぬか?』
「それは願っても無い申し出ね。私だってこうして話せる相手を殺すのは気が引けるもの」
嘘つけ。両断していたじゃねえか。
てか、何で良い話風に終わろうとしてるんだよ。
くそったれな勇者がドラゴンの子供殺して、怒った親が報復に来て、ドラゴンが死にそうになったから命乞いしているだけじゃねえか。
和解したみたいな展開だが、金髪勇者はドラゴンを散々煽っていたし、ドラゴンも言語道断とばかりに俺を巻き込んで殺そうとしていたし、俺としては共倒れになって両方とも俺の手駒になってくれれば一番のハッピーエンドだったんだがな。
『我が生み出した魔法だ。名は貴様が付けるとよい。1つは先ほどの光の屈折を操る魔法。そしてもう1つが――』
シャルザリオンは金髪勇者の頭に手をかざす。
金髪勇者は特に抗うことも無くそれを受け入れると、全身が光り出した。
「これは……」
『ついでだ。輝竜たる我が貴様ら人間では決して開けられぬ扉を開いてやろう。いくら勇者とて、魔王となろうとも引き出せぬ力はあるのだ』
……あ?
なに? パワーアップしたん、あいつ。
俺の苦労は?
死にかけたよね俺も。
諦めない心がピンチをチャンスに変えたよね。
シャルザリオンは金髪勇者から手を離すとこちらを向き
『貴様は……』
「え、俺にもくれんの? くれくれ。力が欲しいかって聞かれれば欲しいと答えるぜ」
謎の声にもはいと答えてやるよ。
『弱き勇者よ……魔王に近しき性根を持つ勇者よ。貴様に我が与えられるものはない』
だよな。そんな予感はしてた。
光の竜だもんな。そんな奴に力もらったところで俺の死体人形全部蒸発しちまいそうだ。
それよりも、だ。
「えぇ!? 貴方も勇者なの! アイツ以外にもいるなんて……」
金髪勇者に俺が勇者だと知られてしまった。
口が軽すぎんだろあのドラゴン。
『もしや……知らなかったのか?』
「俺が何のために誰もいない時を狙って闘っていたと思う?」
『すまぬ……』
ジルといい、何でこうも強いと思った敵はすぐ後にポンコツ感出してくるかなぁ。
「チッ……まあいいや。俺の勇者としての力はテイマーだ。魔物の使役の力なんだが、まあ魔物ってのは人間の敵だろ? あんまり人に言えないから黙っていたんだ」
事前にこういうことを見越して考えておいた嘘をぺらぺらと口から出す。
まあ死体人形で魔物を蘇生させ操っているからあながち間違いじゃない。
「そうなんだ……じゃあ私と貴方だけの秘密ってわけね」
「そうなるな」
シルビア達もいるが、こいつが光を司る勇者である限り、近寄らせるのはまずいだろう。
小鳥も空高くに飛ばしているし、死体人形もといこいつは俺の天敵だ。
『我もいるがな……』
シャルザリオンを無視して、
「もう爺たちも到着する頃ね。『フットスタンプ』の死体は……さっきの衝撃で無くなっちゃったのかしら」
「まあ、な」
蘇生させて蒸発させたなんて言えるわけが無い。
「なら、クエストをクリアするにはまた探さなきゃいけないわね」
どこか嬉し気に金髪勇者はこちらに微笑みかける。
「行きましょ! まだクエストは終わっていないわ」
あー……うん。
これでシルビア並みの顔面偏差値があればなぁ。
如何せん、普通の顔だからときめかねえ。
我ながら最低なことを考えながら俺も答えるのであった。
「馬車の見張りは任せとけ」




