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68話 三人目 6

 シャルザリオンの尾の一撃によって油断していた金髪勇者は遠くまで飛ばされてしまった。


「シドウ様」

「んあ?」


 お供三人が金髪勇者を追いかける最中、爺さんが俺に話しかけてくる。


「ここをお任せしても?」

「……俺が出来るとでも?」

「出来ますとも。貴方様が真にお力を発揮するのであれば」


 俺を見透かしたような言葉を吐くと、爺さんはそのままお供達の後を駆けていった。


「ちょっ」


 流石は『音速の貴公子』並みの足を持っている爺さんだ。

 制止も間に合わずに見えなくなってしまった。


『それで? 次は貴様というわけか』

「逃がしてくれるんならそれでもいいんだぜ?」


 最悪なことにこの場には俺とシャルザリオンしかいない。

 俺は別にこいつに対して喧嘩を売ったわけじゃないんだし逃げてもいいんだよなぁ?

 シャルザリオンは静かに地に降り立つ。


『抜かせ。あの女と似た臭いを貴様にも感じるぞ。貴様も勇者に連なる者なのだろう』

「……そうかよ。ここでも勇者を俺に求めるってか。じゃあよ、見せてやるよ。チートとも呼べない俺の力をよ」


 ――『オートリバイバル』


「俺自身は大して強くない。ならよ、強い相手に頼る他無いんだよな」


 その魔物は耐久性に優れていた。

 純粋な防御力の他、再生力をも俺の死体人形に迫るものがある。

 『奇術師』も言っていた。

 倒せるかどうかじゃない。

 時間稼ぎこそが目的なのだと。


「感謝するぜ。俺1人じゃ絶対に倒せなかったこいつを俺の手駒に出来たのはお前のおかげだ。お前が一撃で倒してくれたから、俺はこいつを蘇生出来る」

「――――――」


 5つの格を噛み砕かれて死んでいた『フットスタンプ』が再び立ち上がり咆哮を轟かす。


――『メンテナンス』


 通常は1つでも残っていないと再生しない核も俺のスキルであれば別だ。

 尤も、核などあろうが無かろうが直せるのだが。


『……どういうことだ?』

「さあな。てめえが倒し損ねたんじゃねえのか?」


 シャルザリオンは俺に勇者や魔王と同類であることは見抜けても俺の力がどういったものかまでは分かっていないようだ。


「やっちまえ『フットスタンプ』」

「――――」


 俺の合図とともに『フットスタンプ』は再び吠える。


『魔物を使役する力か。だが、そいつは先ほど我が戯れに殺した程度の弱き魔物ぞ。我に敵うわけではない』


 ……確かにそうだ。

 一度負けたからこそこいつは俺の手駒となった。

 だがよ、


「俺の力は配下の強化と回復だ。脳のリミッターを外した身体負荷度外視の攻撃と、致命傷であっても元通りに回復する不死身さ。こいつがさっきまでのお前に虐げられていた獲物だとは思うな」


 さっきまでのこいつ知らんけども。

 たぶん一撃だったんだろうなあ。

 ……強化したとはいえ、大丈夫かな。


「ま、時間稼ぎくらいにはなるだろ」


 そのための耐久性と回復力だ。


 『フットスタンプ』はシャルザリオンに比べれば小さいが、それでも巨大と呼ぶに相応しい咢を開くと、鋭い牙を覗かせる。

 狂獣となった魔物は涎を垂らしながらシャルザリオンに喰らい付き――そして蒸発した。


「……は?」

『……ぬ?』

 

 ……あ。


 輝竜……光竜の上位互換だっけか。

 光とか……死体人形の天敵じゃねえか。

 そういや金髪勇者に群がらせた虫の死体は強制的に蘇生を解除させられていたし、キリンも溶けていた。


『どういうことだ……? よもや幻術の類? 本体を何処かに潜ませている?』


 俺にとっての想定外はシャルザリオンにとっての予想外である。

 

 直接的な攻撃を持たない俺より姿を消した『フットスタンプ』を脅威だと判断したらしい。

 俺から目を離して周囲を警戒する。


「……よく探してくれ。俺にとっても迷子だからそれ」


――『スワンプマン』


 地面が盛り上がるとシャルザリオンと瓜二つの泥の竜が作り上げられた。

 ぐっ……コボルドに比べれば大分魔力を持っていかれるな。


『泥人形風情が我を倒せると思うなよ!』


 泥の竜がシャルザリオンに覆いかぶさる。

 その牙も爪も尾も、全てが泥であるからダメージなど望めない。

 だが、泥であるからこそ……不定形である泥からこそシャルザリオンからの攻撃もすり抜けていく。


「シャルザリオンさんよ、勇者がどうとか言ったが、俺はまだよく分かっていないんだよ。魔王とか勇者とか、根っこは同じなのか?」

『……そうだ。世界を仇なすか否かの違いに過ぎぬ。ふん、我にとっては魔王の方がまだ友好的かもしれぬがな』

「そりゃ、ドラゴンなんて弱っちい人間からすりゃ討伐対象だもんな」

『弱いからこそ脅威なのだとようやく知ることが出来たわ』


 こりゃ、異世界から来た勇者が世界に反旗を翻したとかそういうオチぽいな。

 それにしてはマモンは人間離れした力を持っていたが俺や金髪勇者も力を付けたらああも強くなるんかね。


『……して、時間稼ぎは十分か?』

「ばれてたか」


 ――『ホール』


 シャルザリオンの足元に大穴が空く。

 これも『スワンプマン』同様にそれなりの大きさで魔力の消費もそれなり。


 ほとんどガス欠寸前だが……これでどうにかなるだろ。


『先ほどの小童と同じことをしても無駄だと学ばなかったか』

「学んださ。だから泥の竜で重しを作ったんだ」


 シャルザリオンは翼をはためかせ浮き上がろうとするが、その動きは鈍い。

 両翼に泥が混じり、更に重量は水と土が主成分となった竜の大きさだ。

 

「鳥は飛ぶために体重を軽くしているみたいだぜ? お前に飛ぶ余分な力はどれだけある?」

『ぐ、うぉぉぉぉぉ』


 泥によって翼が動かせず、シャルザリオンは『ホール』により出来た大穴へ落ちていった。


「……限界か」


 俺はその場に座り込む。

 魔力の消耗とともに体力も使った。

 立ち上がろうと思えば立ち上がれるが、今は少しでも休憩していたい。


 さて、どれだけ時間を稼げるか。


 アイテムボックスからパンと飲み水を取り出しつまむこと数分。

 俺が空けた大穴から光が飛び出した。


『これしきで、我を殺せるとでも思ったか!』

「思ってねえよ。端から俺は相手しているだけで殺し合いには参加してねえんだ」


 あっぶねえぇぇ。

 少し遠くに離れておいて良かった。

 大穴の周囲は蒸発しており、地面は焼け焦げている。


『全身の発光。我の切り札の一つだ。ただ光るだけに非ず。熱を伴う光である』


 つまりは光線か。

 それを全身から放ち泥を蒸発させたんだな。

 

 シャルザリオンは自由になった翼で空を飛ぶ。


『さて、貴様も手が尽きたようだ。楽しき時間であったぞ』

「決着の時ってやつか」

『これ以上抗う術がないのであればな』


 そうだな。

 俺にはもう手が無いな。


「来い! 俺の頼もしき愉快な仲間達!」

「誰が愉快な仲間達よ! ……もう油断はしないわ。光線もブレスも尾も爪も牙も。その全てを凌駕してみせる」


 俺の横を通り抜けて走っていく金髪勇者が剣を抜きシャルザリオンへと斬りかかった。


『戻ってきたか……本当に時間稼ぎだけとは……』

「生憎と俺はお荷物扱いなんでな。戦闘に参加せず馬車の見張りが役割なんだぜ?」


 金髪勇者の剣が光に包まれ巨大化していく。

 シャルザリオンを屠るに十分な大きさとなった剣を振りかぶると、


「【光】は【星】の体現せし力。即ち私は【星】の体現者なり。求めし力は双生。『双子の絆(ジェミニ)』!」


 金髪勇者が右手で振るう巨大な剣。それと逆の左手にも同様の大きさの剣が出現する。


「持ちこたえていたことは素直に驚いてあげましょう。だから、これはそのご褒美よ。私の力を見るのは私が認めた者と敵だけ。シドウ、貴方は私が認めるに相応しい力を持っていたのね」


 金髪勇者の2振りの剣のうち1つをシャルザリオンは爪で受け止める。

 だが、追随するもう一振りの剣を受け止めきれずに、巨大な体躯を光の剣は通り抜けていくのであった。


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