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67話 三人目 5

「クレイ!?」


 金髪勇者が叫ぶ。

 奴にとっても予想外だったのだろう。

 『音速の貴公子』君を捉えられる速度の攻撃が出来るとは。


「ヌンッ」


 金髪勇者のお供の一人、浅黒い肌のワイルド系の男が『フットスタンプ』を持ち上げた。

 凄い力だな。

 下手すりゃアイとかシーより怪力なんじゃねえのか?


「力比べといこうじゃねえか」

「私はクレイを回復させるわ。ライドウ、時間稼ぎ頼めるかしら?」

「はっ、もたもたしてると倒しちまうぜ?」


 おいやめろそのフラグ建設。

 さっきの『音速の貴公子』君とまるっきり同じじゃねえか。


 自分の力を過信するな。怯えながら闘え。


「おいデカブツよぉ、耐久力も膂力も無いクレイを倒したくらいで調子に乗るんじゃねえぞ? たまたま当てられたくらいで俺達を下に見るなよ。次はこの『喧嘩王』様が相手だ」


 金髪勇者から距離を置かせるように『喧嘩王』(笑)はシャルザリオンを誘導していく。

 挑発らしき言葉は金髪勇者に回復させる隙を与える為か?


「オラオラオラァ! どうしたよ、反撃する暇も無いってか?」


 『フットスタンプ』を片手で叩きつける『喧嘩王』(笑)に対しシャルザリオンはただ受けるのみ。


「おお、いけるんじゃねえのか? やっちまえやっちまえ!」


 俺も馬車から応援する。


「……シドウ様」


 爺さんがこちらに可哀想な者を見るような目を向ける。


「なんだよ……てか、この繭みたいなのは丈夫なんだろうな」

「まあ、あの竜種程度の爪や尾は受け止められるでしょうな」


 程度って、なんか御大層な奴じゃなかったか? 竜王だとかなんとか。


「爺さんもそうだが、アイツら意外と強いんだな。このまま高みの見物させてもらうわ」

「高みの見物というのなら隅で丸まらずに堂々と見られても良いのでは? それに、彼らが強いことと相手が弱いことは別でしょう」

「あ……? あんだけ押しているじゃねえか」

 

 ……いや、違うな。

 堅固な鱗があるからダメージが無いのだ。

 衝撃程度のダメージなら与えられているかもしれないが、あの様子からいって微々たるものなのだろう。


「これじゃあ本当に姫さんが戻ってくる前に片が付いちまうかもなぁ!」


 それに気づかない『喧嘩王』(笑)は増々調子づいて攻撃の勢いが増すが、一万の体力を持つ敵に1の攻撃をいくら繰り返したって気が遠くなる程に意味が無いことは誰だって分かることだ。


『……もう良い。それには飽いた』


 シャルザリオンは『フットスタンプ』を受け止めると横に投げ捨てる。


「なっ!?」


 驚く『喧嘩王』(笑)を心底つまらなさそうな、表情を変えないままでシャルザリオンは吹き飛ばした。


 ……おおー。

 空高く舞っているぞ。

 雲にまで届きそうな程飛ばされたが……大丈夫か?


「これはいけませんね」


 爺さんが繭から飛び出していく。

 その速度は爺さんには勿体ないほどで、『音速の貴公子』君にも迫るものだ。


 ヒュンと俺の真横を何かが掠めていく。

 見れば、繭の一部に焼け焦げた穴が空いており、後ろにも同様のものがある。


「ちょ、光線飛んできた! 爪とか尾は防げるとか言ってたけど光線は貫通してんじゃねえか」

「申し訳ございませんが、今しばらく持ちこたえてください。『針と糸(ソーイング)』」


 爺さんは空中を縫い留めているかのような網を作り出すと、『喧嘩王』(笑)を受け止めた。

 どうやら『喧嘩王』(笑)の耐久力もそれなりのようで、動きこそ鈍いが網から抜け出してくる。

 

『……ほう。貴様は力ある者のようだな』

「私などまだまだです。貴方様のお相手はお嬢様方にございます」


 爺さんは身を引き、馬車へと戻ってくる。


『……ぬっ?』


 シャルザリオンの足が地面へと埋まる。


「もう、クレイもライドウもドラゴン相手に正攻法じゃかないっこないって分からないのかなぁ。今度は僕、『奇術師』ことセンリが相手するよ!」


 ……何なのコイツら。

 自分に二つ名でも付けるの流行ってのか?


 金髪勇者のお供の最後の一人、金髪勇者に蹴られてて喜んでいた、変態という名の『奇術師』は指を鳴らす。


「ここら一帯の地面は僕の支配下だ」

『ぐ、おおおおぉぉぉ!?』


 地面がぬかるみ、シャルザリオンが沈んでいく。

 もがけばもがくほどより沈む速度は早まっていく。


「力も速さも人間がドラゴンに勝るなんて僕は思っていない。知恵だ。技だ。僕達が魔物に勝てるとすればそこを使わなくちゃ」


 金髪勇者のお供は三人ともスキル持ちか? それも戦闘に関するもののようだ。

 『奇術師』は土魔法に追随するもののようだが、便利そうだから俺も覚えられねえかな。


「姫は時間稼ぎをって言ったんだよ。それなのにライドウも手柄欲しさに焦っちゃって。彼我の戦力差くらい知らなきゃ。僕達に出来るのは足止めくらい。倒せっこないよ」

『そうだ。そして、時間稼ぎすらも貴様には荷が重すぎた』


 シャルザリオンが翼をはためかす。

 それだけでその巨体は宙に浮きあがり、ぬかるんだ地面とお別れする。


「……え?」

『人の身にしては強かったのかもしれぬがな。確かに、我との間には力の差が有り過ぎた』


 シャルザリオンが空中で口を開ける。

 口内には光が灯り、強くなっていく。


「……ブレスか」


 ドラゴンと言えば俺の中では口から炎を吐き出すイメージなのだが、こいつが光を司るのであれば先ほど『音速の貴公子』君を貫いた光線であってもおかしくはない。

 だが、それは光線と呼ぶには余りにも大きすぎる。

 線ではない。周囲を面として捉えるかのような範囲攻撃となり得る程に強大なブレスとなることは間違いない。


「爺さん! この繭はあのブレスも防げるんだろうな!?」

「ほっほっほ。それは無理ですな。物理には強くても、あの類には弱いのが糸でございます」


 逃げるしかないじゃん?

 でも逃げ場ないじゃん?


 ……チッ。見物客は多いがあの手を使うしかないか?

 どうせこいつらはこのまま死ぬ運命だ。

 ならば――


「安心してくだされシドウ様。私どもにはお嬢様が付いております。あのお方は勇者。輝竜など歯牙にもかけない【光】の勇者なのですから」


 シャルザリオンから光のブレスが放たれた。

 それは、『奇術師』だけでなく繭に包まれた馬車をも呑み込まんとする広範囲な光の奔流。


 俺は慌てて馬車から飛び出すと、


――『オートリバイ……


 スキルを使おうとしたその瞬間であった。


「間に合ったわ! 光のブレスね。私とどちらが上か、競い合いましょうか。光よ、我が剣に集まりなさい!」


 金髪勇者が俺たちの前に立つ。

 少し遠くには『音速の貴公子』君が立っていた。

 その顔には勝利を確信した笑みが映っていた。


「私の力の一端を見せてあげるわ。『ソーラー・サテライト』」


 金髪勇者の剣からもまた光が放たれる。

 彼女の髪の色によく似た輝き眩しい光。


 シャルザリオンの光とぶつかると、2つの光はせめぎ合い、揺らぐ。


「太陽よ、星よ、光という光全てを私の下へ!」

『ぬぅっ!? くっ……このままでは……』


 どうやら金髪勇者が押しているようだ。

 どっちも同じ光だから正直、分からない。

 ぶつかり合った後は混ざっているしな。


 シャルザリオンの顔も先ほどの『喧嘩王』(笑)との闘いとは違い、焦りを見せているかのようだ。表情分かりづらいから知らんけど。


 シャルザリオンの口から放たれるブレスも心なしか細くなっていく。


『ぬぅぅ』


 このままでは押し負けると思ったのだろう。

 シャルザリオンはブレスを放ちながら自らの尾を一薙ぎ。金髪勇者へと振るった。


「なーんだ。貴方も大したことなかったじゃない。やっぱり私は強いのよ」

「姫さん、前! 前!」

「来てますよ!? 気が付いてください!」

「ここは私が……うっ……まだ足が……」


 お供三人が必死に叫ぶも虚しく届かず。

 高らかに笑っていた金髪勇者はシャルザリオンの尾により高く宙へ吹き飛ばされた。

 真上ではなく彼方へと目掛けられて。


「「「姫ぇぇぇぇぇ!?」」」


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