66話 三人目 4
優雅に馬車に揺られながら場所を移動する。
遠い場所に向かうのに最近はシルビアの魔法使ってばっかりだったなぁと改めて仲間の便利さを思い知らされる。
さて、今回俺の仲間とも呼べる死体人形は1人もいない。
代わりに知り合ったばかりの知りたくも無かった奴らと共にいる。
5人を条件とするクエスト。
その内容を確認すると、1日で終わりそうどころか数時間で片付くのではないかと思われるものであった。
「数日前に街の付近で行われた謎の高魔力の戦闘で叩き起こされた魔物の退治ね……。強力な魔物が一体って書いてあるけど、勇者様の力があれば問題無いんだろう?」
「当り前よ。勝手に倒しに行ってもいいのだけれど、それだとお金が貰えないのよね。貰えるものは貰っておく。魔物の素材然り、報酬然り」
そこは同意見なのだが……どうも5人きっかりを条件とするあたり、一筋縄ではいかない魔物なのだろうと予想出来てしまう。
金髪勇者がこうも自信ありげで周囲の男共も持ち上げていることは別に俺にとっては構わないのだが、こういう場合は大抵が予想以上に相手が強くてピンチに陥るのがセオリーだ。セオリーというかフラグ回収というか。
「魔物の名前は『フットスタンプ』……巨人の足跡か」
「それだけ大きいってことよ。実際は人型でも無くて、ただの四つ足歩行の怪獣みたいな魔物らしいわ。上から見たら巨人の足跡にそっくりだからそう名付けられたらしいけれど」
大きいだけなら良い的ではないかと思われるが、この魔物は巨人並みに耐久力も高い。
並大抵の攻撃はその皮膚で弾かれてしまうという。
「そんで弱点が頭、両腕両足にある核を同時に攻撃すればあっけなく倒れるってあるけどよ……」
それが5人を条件とする意味らしい。
4人では手が足りず、かといって魔法の類はこの魔物には効かないと。
「あら? そんな不安がることが書いてあるかしら? 核自体はとても脆いらしいじゃない。石ころでも当てればそれでいいのよ」
石ころ当てろって、当たらなかったらどうするんだよ……
「1秒以内に同時に5か所攻撃。しかも物理のみ受け付ける。恐れるに足りないわ。だって、ねえ?」
金髪勇者が『音速の貴公子』君に目配せする。
「はい。1秒もあれば三か所は攻撃できますね。位置的には両腕と頭でしょうか。残りが二か所であれば4人でお釣りが出る」
拳だけでなく俊足でもある『音速の貴公子』君が張り切っている。
他の男共もうんうんと頷いているよ。
「あなたがいてくれて助かるわ」
「これも姫の為とあらばむしろ励みになります」
ってかほんとに俺いらないじゃん。
まじで付いて行くだけかよ……。
「私が1か所は担当するわ。ソルド、シエン。あなた達2人が残りの1か所よ。確実に仕留めなさい」
「分かったぜ姫さん」
「うん。僕頑張るよ」
じゃあ俺も頑張って見守ろっと。
何もしなくていいと言っているのだ。
そのお言葉に甘えなければ相手の気遣いを無駄にしてしまう。
「シドウ、貴方は見張りよ。他の魔物が寄ってくるようであれば牽制でもしておいて」
「へいへい。ま、そんなとこだろうよ」
俺の使える魔法からしても足止め向きか。
やろうと思えば『フットスタンプ』をも足止め出来そうな気がするが……まあやらなくて良さそうだしこれは言わなくていいだろう。
「報酬は私達が先日倒した光竜……ホワイトドラゴンの素材だったわね。これで十分かしら?」
そう言って金髪勇者が何処からともなく牙やらウロコやらを取り出す。
アイテムボックスか。
やっぱり便利だよなそれ。
「あら? 私が今何をしたか理解不能な顔をしているわね。ふふん! 内緒よ。その足りない頭を捻って考えていなさい」
「……」
一々癇に障る女だ。
無視を決め込んでやろうか。
「何も言い返せないの? それでいいのよ。何もかもが違うのだから、会話が成り立たないのも仕方が無いわ」
「さすが姫」
「姫さんはちげえな」
「僕も罵って!」
そして始まるワッショイ。
……早く到着しないかなぁ。
……ん?
「なあ」
「何かしら? 無知であることを恥じて質問するのならば良いわ、答えてあげる」
「……『フットスタンプ』ってのは巨大な魔物で、耐久力も高くて、同時に五か所の急所を潰さないと駄目なんだよな」
「そうよ。それが何か?」
「それが何かっつうか……だとしたらそういうことなんだなぁって」
索敵をこのメンバーの誰がやっているかは知らんが、俺とて『目』はある。
蘇生させた小鳥の視界は俺と共有している。
高く飛ばせて周囲の警戒をしていたのだが……幸か不幸か『フットスタンプ』を発見してしまった。
それも死体をだ。
巨大という程には巨大ではないが、軽自動車程度の大きさか。
大型の肉食動物より一回り大きい。
力の無い者はひとたまりも無いだろう。
「っ!? まずい、戻れ!」
「……? 何を言っているのかしら?」
他の冒険者によるものだと思っていた。
しょせんは小鳥の視界だ。
広い視点で見えても細かいところまで見えない。
死因なんて分かりっこない。
だが、小鳥の更に頭上。
覆い尽くしても尚有り余る大きさの影。
そこで俺はようやく理解した。
『フットスタンプ』の死因は牙により核を貫かれたのだと。
全身を咢の中に入れられるほどの巨体。
その獰猛生。
弱点を知る知性。
俺達が近づくまで姿を見せなかった狡猾性。
「……ドラゴンだ」
魔物界のピラミッドでも頂点に位置する魔物。
魔王と同格とまでさえ言われるドラゴンが俺達の馬車の頭上を飛んでいた。
「あら、そうなの」
金髪勇者はいやに落ち着いていた。
まるで自身で優に対処できるとばかりに。
「いくら勇者でもよ、魔王みたいな強さなんだろ? 早いとこ逃げた方がいいんじゃないか?」
逃げようと思えばまだ手はいくつかある。
ここは一致団結して逃走に力を合わせようと提案するも、
「馬鹿ねぇ。私を誰だと思っているのかしら」
「だ、誰なんだお前は!?」
いや本当に誰だっけ。
てきとうに金髪勇者とか呼んでたけど名前も知らねえな。
「私は【光】の勇者。マイ・クラサカよ」
くらさかまい、ね。
漢字でどう書くかは知らんけど日本人か。
それより【光】の勇者って何よ。
そんなカッコいい称号貰えてるのかよ他の勇者。
あの委員長もか……いや【発情】の勇者で十分だろ。
「勇者よ? 魔王を討伐するために呼ばれたこの私がドラゴン風情に負けるはずないでしょ」
それ言って殺された勇者いますけどね。
しかもコボルドの進化型に。
「それに、貴方に与えた素材。あれだってドラゴンの素材よ。光竜……光を司る竜だったから私に手も足も出なかったわ」
つまり、すでにドラゴンスレイヤーの資格は得たというわけか。
ならば良い、やってみせよ。
俺はここからしかと見ているからな。
「シドウは馬車で待っていなさい。爺、貴方もよ。馬車を守ってて。馬が怯えて逃げないようにしてて」
「御意」
言うが早いが爺さんが手を動かすと、何やら糸状のもので馬車が包まれる。
「『針と糸』」
「流石ね。その調子でよろしく」
「この程度、造作もございません。姫様もご武運を」
爺さんのはスキルか?
後でシルビアにでも聞いてみるか。
馬車が繭みたくなったところで、隙間から金髪勇者と従者3人が降りていく。
「私は【光】の勇者。マイ・クラサカ! 悪いけれど、ドラゴン如きは倒し慣れているのよ。無駄に命を散らしたくなかったら去るところね」
挑発ともとれる名乗りをあげた金髪勇者に対し、頭上ではためくドラゴンは、
『……勇者か』
ゆっくりと地上へと降りて来た。
『個体を見るのは数十年振りか。……いや、魔王も同類であったか。では数年振りであるな』
……勇者と魔王は紙一重の存在。
マモンのやつも似たようなことを言っていたな。
『倒し慣れている。そう言ったな?』
「ええ、そうよ。この間は何だったかしらね……ホワイトドラゴン……名前は忘れたわ」
『そうか……』
分かった。
これヤバいやつ。
『その名を思い出させてやろう! 我が子の名はアルタート。それが貴様に殺された息子の名だ!』
「それは不運だったわね。私の目の前に姿を見せたのが運のツキだったのよ」
『我が名はシャルザリオン。竜王の一角、輝竜である』
おいおい、絶対に金髪勇者の倒したホワイトドラゴンだか光竜だかの上位互換だろ。
大丈夫か?
金髪勇者は剣を構える。
「それなら貴方からはより上位の素材が取れそうね。有難く思いなさい。貴方から作った剣と防具でドラゴン退治の効率が上がるのだから」
『これ以上我らを愚弄するか、この小娘が!』
輝竜……シャルザリオンだったか。
シャルザリオンが息を吸い込む動作を見せる。
「ブレスか」
広範囲の攻撃。
爺さんの繭がどれだけの防御力を見せてくれるのか知らんが、より近くにいるアイツらがもっとヤバい。
「姫、ここは私にお任せを」
そう言って金髪勇者の前に出たのは『音速の貴公子』君。
「攻撃などさせなければ良いのです。それだけの速度が私にはある」
……なんかさっき見たぞ。
お前それでかっこつけてゴレンにやられていたじゃないか。
「おいドラゴンよ。貴様は音に追い付けるか?」
『音速の貴公子』君が姿を消した、と思ったらシャルザリオンの背後に立つ。
完全に不意を打っている。
今度は拳では無く、自身の獲物であるレイピアで貫かんと構える。
そして――シャルザリオンから放たれた数本の光線に『音速の貴公子』君の体が貫かれた。
『音だと? それは光よりも速いのか?』




