65話 三人目 3
冒険者ギルド内で行われていた諍い。
一つのクエストを巡り起こっていたそれは、原因ともいえる金髪勇者の愚行の告白により更に発展していく。
言い争いはついには暴力沙汰となり、金髪勇者のお供の拳は一人の冒険者へと向けられる。
それを止めたのもまた冒険者の一人であり、俺の知る人物であった。
「……ゴレンか。あいつサボってるんじゃないだろうな」
このギルドの裏手でアイとシーと手合わせをしていたはずのゴレンがこの場にいた。
騒ぎを聞きつけてやってきたのかは知らないが……ああ、呼んだやつがいるとか言っていたな。
ゴレンの登場でこの騒ぎが収まるかどうかは……俺の予想通りであった。
「なんでここにゴレンがいるんだよ!?」
「おい、誰だ呼んだのは! アイツじゃ話になんねえよ。もっと強いやつ呼べって言っただろ!」
「仕方ねえだろ他に誰もいなかったんだ。最近じゃ幼女に殴られて喜んでいる変態野郎だけどよ、それでも俺達よりゃ強いのは確かじゃねえか」
丸く太い腕から放たれる拳で金髪勇者のお供の一人である『音速の貴公子』君を撃退したにも関わらずこの扱い。しかもさっきちょっとだけ格好つけていたのに。
どれだけ嫌われていたんだよアイツ。
「……て、てめえら」
ゴレンが震えている。
そりゃまあそうだろうが、しかしそちらを相手している場合ではないと思うぞ。
「……【ヒール】。ゆっくり休んでいなさいクレイ。ついでに頭も冷やしておくように」
「ひ、姫……」
「あなたは真正面から闘うタイプではないでしょ。それは何回も言っているでしょ……次は負けるんじゃないわよ」
「は、はい!」
金髪勇者の手から優し気な光が放たれ『音速の貴公子』君を包み込む。
見るも無残な顔面へと変えられていたが、徐々に元の顔へと戻っていき彼は金髪勇者の言う通りに下がる。
「さて、私の連れが失礼したわね。で、クエストは5人だったかしら。それなら……爺、爺はいるかしら?」
「ここに」
瞬間移動したんじゃないかと思えるほどに突如金髪勇者の隣に爺さんが現れた。
何者だよ。
「爺、人手が必要みたいなの。私と一緒にクエスト受けてくれない?」
なるほど、この得体の知れない爺さんも金髪勇者の仲間か。
この爺さんはかなりの手練れと見たぜ。
「申し訳ございません。私はすでに冒険者を引退した身。付いて行くことは出来ますが、クエストを受けることは出来ません」
「そう……だったわね。ごめんなさい」
金髪勇者がそこでしおらしく引く。
この爺さんにはやけに素直だな。
そしてゴレンへと向き直ると、
「ならあなた、私達と一緒にクエストに行く気はないかしら? 速度重視とはいえクレイを正面から倒したのなら実力はそれなりにあるのだと思えるのだけれど」
何という事だ。
ゴレンがナンパされている。
ついにヤツが日の目を見ることになるとは……金髪勇者がもっと美人だったら嫉妬していたな。
「俺が強えから付いてきて欲しいって?」
「ええ、まあそうね。そう受け取ってもらっても構わないわ。あなたくらいなら私達の足手まといにならない。もっと楽にクエストがクリアできるのならそれに越したことはないしね」
「俺に一発でのされちまう奴の仲間が、俺が足手まといになるか心配しているっていうのか? 笑っちまう話だ」
ゴレンはひらひらと手を振って金髪勇者の誘いを断る。
「ごめんだね。俺の仲間は俺が決める。だから他をあたりな」
まさか断れるとは思ってもいなかったのだろう。
金髪勇者の顔が赤く染まる。
公衆の面前で恥をかかされた。
『音速の貴公子』君を下がらせた時の冷静さはすでに無い。
1分前後で消えたな。情緒不安定すぎんだろ。
「な、なら……力づくでも!」
金髪勇者が剣の柄に手を当てる。
それを見たゴレンもまた自らの得物に手を伸ばす。
一触即発の空気とはこういうことを言うのだろう。
見物している冒険者達も緊張感にたまらずゴクリと喉を鳴らす。
「お、おやめください姫!? ここで姫が力を使われたら建物が吹き飛びます」
「おい、姫さんよ。そいつぁこの場に相応しくねえ力だぜ?」
「ぼ、僕を斬ってください! それで姫のお気が済むのでしたら何度でも! ……いえ、むしろ何も無くても斬ってください」
「あ、あんた達どこ触っているのよ!」
「え、えへへ……」
三人のお供が必死に金髪勇者に縋りつく。
一人おかしなことを言いながら足にしがみついている。金髪勇者が蹴とばすと嬉しそうに飛ばされていく。
「……ま、とにかく諦めてくれ。どうしてもって言うんなら違うやつを紹介してやっからよ」
毒気を抜かれたのか、ゴレンは武器から手を離すと
「おいシドウ! 今暇だろ? こいつらに付いて行ってやれよ」
あろうことか俺を指名しやがった。
指名料取るぞこの野郎。
「俺今日忙しいんだけど……」
「そうか? 双子から聞いたぞ。明日に向けてご主人様は英気を養っているって。つまりは暇ってことだろ?」
「違えよ! 休みたいってことだよ」
「そうか? だけどよ、あまり闘っているようには見えねえぞ? たまにクエスト受けているのは見るけどよ、5日くらい前からは休みっぱなしじゃねえのか?」
何だよお前、俺のストーカーかよ。
まあ確かに、クエスト自体は最近は受けていないな。
マモンが現れた日の魔物退治のクエストを受けたっきりか。
「なに? あなたの代わりがそこの貧弱そうな男? やだ、コボルドよりも弱そうじゃない」
「あぁ?」
てめえ今すぐに全身泥だらけにしてやろうか?
……いや、ここで土魔法を使うのは良くないな。
すぐに誰がやったかバレるし、最悪刑罰ものだ。
もっと秘匿性の高い、しかし効果的な嫌がらせだ。
となると、これしか無いな。
――【オートリバイバル】
ギルド中に散らばる羽虫を片っ端から蘇生させていく。
それらを集めると、金髪勇者へと纏わせた。
「き……きゃぁ!?」
どうだ見たか!
男であれば僅かに顔を顰めながら冷静に対処できるかもしれないが、お前が女であり尚且つ俺と同じ世界出身であるならば、大量の虫というものは嫌悪感の塊であるはず。
恐れおののいて、更なる恥をこの場で曝していくがいい。
「きゃぁぁ……ってあれ?」
「……あれ?」
纏わりついていた虫。
それらは金髪勇者に触れた途端にまるで死んだかのようにぽとりぽとりと床に落ちていく。
いや、元から死んだのを蘇生させているから死んだかのようにという比喩はおかしいのだが、しかし……まるで蘇生が解けたみたいな。
「おお、姫のお体に宿る勇者としての力が悪しき虫までも退治するとは!」
「何だか変な虫だったからなぁ、もしかしたら魔物の類だったんじゃねえのか?」
「それなら姫は天敵ですものね! はぁ……僕も羽虫のように姫に散らされたい」
……勇者として与えられた力か何かか?
どんなものかは知らんが、先ほどの回復魔法といい、闘う力は持ってるようだ。
「……ふう。何だったのかしら……? まあいいわ。で、あなたがそこの男の代わりに私達に付いてくるのかしら?」
「……」
ふむ、どうしたもんか。
先ほどゴレンにはああ言ってしまったが、この金髪勇者の力も気にはなる。
魔王マモンとぶつからせればあるいは弱らせることも出来るかもしれない。
そして何より、先ほどコイツが言っていた話が本当であれば俺にメリットがあるかもしれないのだ。
「別にいいがよ……一つ条件を付けさせてくれ」
「条件? あなたがそれを言える立場か分かっているの? ……まあ言うだけ言ってみなさい。あなたにとって巨万の価値があるものだって私にとっては路傍の石の可能性があるかもしれないし」
「ありがてえなあ。いやなに、恐らくあんたらが持っているもので俺も欲しいものがあってね……それをちょっとだけ分けて欲しいんだよ――」
そして俺はこの金髪勇者と共にクエストを受けることになった。
約束の期日まで残り一日。
それなのに俺は何をしているんだろう……。




