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61話 修行参観 2

【修行:シドドイの場合】


 修行相手を自由に選べと言われたのなら、宿屋のオッサンが最も相応しいと言えるだろう。残念ながらソイツは弓に長けているようであるため、シドドイ以外に教授することは出来ないが。


「そう、そこで弓を構えて! それまでは弓ではなく相手を見ること。腕を動かすのに腕なんか一々見ないでしょ? それと一緒だよ」


 過去の勇者パーティの弓使い。その子孫であるという宿屋のオッサン。

 物語の中でも重要な立ち位置にいそうな人物であるが、俺にとってはただのオッサンだ。

 客の部屋を覗き見する暇そうなオッサン。そのイメージしかない。


 だが、シドドイの修行には真面目に取り組んでいるようで、これからしばらくはそう無下に出来ないんだろうな、と辟易する。

 

 その修行する様子をこっそりと覗いてみれば、シドドイはすでに人間離れした動きをしていた。


「うん。よく頑張っているね。その調子なら明日には【九の(ノナ)弓術(トクソ)】の一つくらいは覚えられるさ」

「本当ですか!? でしたら、魔を滅する【(フォス)封印(スフラギダ)】を教えて頂けませんか?」

「ふむ……難易度としてはそこまでではないから問題は無いよ。というか、私から教えられることはほとんどない。全ての基礎は君の中にしっかりと教え込まれているんだ。後は君自身がそれに気づけるかどうか。気づくことが出来れば、【(フォス)封印(スフラギダ)】どころか【(イーリス)希望(エルピーダ)】とて使いこなすことが出来るだろう」


 ……なんだかもう勝手にやっててくれって感じだ。

 世界観違うじゃん。もっと大人しめの世界だったじゃん。

 こんな厨二臭かったっけこの世界。


 確か……ギリシャ語だよな。イーリスとか聞こえたし。

 俺の脳内変換がギリシャ語として変換するのはまだいいとしても、この世界でそれに値するってことは、古代から伝わった言葉で技名考えたってことだよな。

 ……過去の勇者パーティーの弓使いは何を考えていたんだ。


「そも、弓矢というのは一撃必殺の世界だ。手足を狙っていては、仕留められなかったらそこでこちらの居場所がバレる。そうなってはせっかくの遠距離攻撃という利点が失われる」

「だからどんな姿勢でも矢を放てる訓練を行ったのですね」

「そう。どんな姿勢でも、どんな場所からでも。かつて私の祖先は空を舞う龍の額を撃ち抜き見事倒したという逸話もある。勿論、龍はそこにただ止まっていたわけじゃない。むしろ雷を降り注がせる恐ろしい力を持っていた。だけど、そんな状況でも冷静に一撃で龍を倒す離れ業をやったんだ」

「すごい……今の私では到底できません」

「ははは。私だって出来ないよ。今はただ、技を伝えるだけの役割だと思っていた。だけど、魔王を倒す手段を教えて欲しい。その願いを叶えることが出来る一助になれたのならいいなと思うよ」


 それからは俺に理解できない修行内容が二人の間で行われていた。

 

 木の枝を振り回したり、

 雲をひたすら追っかけたり、

 ボールを蹴ったり、

 ハイタッチしたり……


 あ、ハイタッチは純粋に技の完成に喜んでやったみたいだ。


「え、というかあんなふざけた感じで何であんな技出来るようになったの?」


 おかしいだろ。

 何も弓関係無かったぞ。

 遊んでいただけだろ。俺だって出来るわ。

 というか、俺がやるからその技使えるようにさせてくれ。






【修行:シルビアの場合】


 今回のコンセプトとしては本人気づかれないように、というのが何時の間にか定着してしまっていたが、しかしシルビアの場合はそうはいかない。

 シルビア自身の索敵能力もさることながら、それ以上にシルビアの修行を見るにはシルビアの力を借りなければならないからだ。

 アイとシーの修行場である冒険者ギルド裏や、シドドイの修行場である宿屋の庭先であれば俺の足でも向かうことが出来る。歩けば済む距離であるのならば歩けば良いだけである。面倒だったら馬車なり使えば良いだけだ。

 

 そう、歩いたり馬車を使ったり……とにかく街中であれば俺はこっそりシルビアに付いて行くことも出来ただろう。シルビアに気づかれるかは別として、シルビアの隣を歩くことはせずに後ろを歩いていたのだろう。


 だが、シルビアが選んだ修行場所は街から少しばかり離れた山だ。それも俺1人では迷って死んでしまいそうな恐ろしい『腐肉山』。何が恐ろしいって、視界を遮る霧だけじゃなく、腐った肉の臭いが立ち込めているという。道に迷って死ぬ前に息が詰まって死にそうだ。


 そんな『腐肉山』でさえシルビアにかかれば見晴らしの良い山に早変わり。臭いだって、自然を感じさせてくれる木々の雄大な香りを楽しむことができ……ない。


「当り前だろう。ここには木々など生えようがない。霧のせいで陽光が遮られているのだ。枯れたような、草の無いものならばあるにはあるが……あれから発せられる臭いなどせいぜいが大地から沸き立つ臭気に似たものだろうさ」

「……くそ。なんだってこんな場所で修行してんだ。もっといい場所があっただろうに」


 シルビアは魔力を取り戻すための修行だったよな。

 なら街でクエストを受けるなりして魔物をばかすか倒してついでに金を稼いでくれればいいのに。

 集中して瞑想がどうたらなら、宿屋に引きこもっていればいいだろ。今は宿屋のオッサンもシドドイにかまけて忙しいだろうし。


「ここがいいんだよ。この山を覆う霧は全て魔力が実体化したものだ。ここにいるだけで魔力が体に吸収されていく」

「マジか。なら俺も――」

「まあ、ただの人間が一時間もいれば魔人化するだろうけどね。運が良ければ爆発して死ぬ」

「ばくはつしてしぬ」


 ……

 落ち着け。

 まずはシルビアの言った言葉を漢字に変換するんだ。

 誤変換して違う意味で捉えたかもしれないだろ。


 ばくはつ……爆発しかないよな。

 して……は、してだな。

 しぬ……死ぬ。


「爆発して死ぬ」

「なぜ二回も繰り返す?」

「うっせ、早く俺を街に帰せよ! 爆発するとか聞いてねーぞ! こんな危険な場所にいつまでもいられるか。俺は先に帰らせてもらう!」


 ミステリーであれば真っ先に死ぬタイプの去り方をしようとしたが、情けないことに俺1人では山から降りれないことを思い出す。

 ここまではシルビアの風魔法で飛んできたのだし、一人で山を降りようとすれば絶対に霧の中を彷徨い歩くことになる。


「少しは落ち着いたらどうだ。大丈夫、君はただの人間じゃない」

「俺……選ばれた人間?」

「と、いうよりも魔法を使える人間だな。魔力を操れるのであれば体内に吸収された魔力も循環させて力として貯めることができる。多少の差はあるだろうが、まあ二日三日いても平気だろうさ」

「二日三日以内ならむしろ強くなると……?」

「ああ」

「よっしゃ、じゃ修行しようぜ! 【スワンプマン】【スワンプマン】【ホール】【ホール】」


 ヒャッホー。

 いくら魔法を使っても魔力切れが無い!

 これが霧状になった魔力ってやつか。


「あ、こら調子に乗って使いすぎると……」

「【スワンプマン】×10! 【ホール】×10!」


 ええい、面倒だ。今の俺なら纏めてだって魔法を使えるぜ。

 この調子なら新しい土魔法を覚えるのも時間の問題だ……な?


「あ、れ……?」


 目の前がぐわんぐわんする。

 風邪を引いた時のような、酒を飲みすぎた時のような。


 頭痛と吐き気を伴った体の熱っぽさがある。


「……やりすぎだよ。失った魔力を霧から取り込むのは確かに修行法としては間違ってはいないのだけれどね……だけど、それは君自身の魔力じゃないんだから。取り込み過ぎれば必ず免疫反応のような、拒否反応が起きる」


 何かシルビアが言っている気がするけど聞き取れない。

 耳に入ってくるのだが、理解が出来ない。


「ああ、もう……仕方がないね。まあ君のこういった姿は珍しいからいいのだけれど……」


 こうして気が付いた時には貴重な一日はあっけなく過ぎていった後であった。


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