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60話 修行参観 1

【シドウ視点】



 今日も一日あっちへこっちへ情報収集と修行を兼ねて遊び呆けて……もとい歩き疲れて帰ってみればすでにシルビアを始めとしたアイやシー、シドドイが部屋の中で和気あいあいとおしゃべりをしていた。


 俺もそこに混ざろうかとも思ったが、ガールズトークに男が割り込むのも野暮な話だと少し口調をオネェにし心を改める。

 しかしガールズトークとは女がただ集まって会話しているソレを指すのか、それともその内容が女らしくなければならないのか……残念ながら俺の仲間とも呼べる配下達は前者であったようで今日の夕飯について『肉!』『魚!』『野菜!』『茸!』と討論している最中であった。


 くっだらね、となら全部混ぜて鍋にしちまえと投げやりな返答をすればその手があったかと仲良くひと段落。

 俺も一安心し、そういえば、と冒険者ギルドで聞いた話を思い出してシルビアに振るのであった。


「なあシルビア、聞いたか? 昨日の事件の黒幕とも言えるグリセントは何もお咎め無しだとさ」


 というか、こいつどこぞの山に修行しに行っているはずなのだが、何故か夜になればこうして普通に帰宅する。

 まあ日に日に強くなっていることを俺に確認させたいのは分かるが、自慢げに話されれば俺も黙ってはいられない。隅っこの小さな虫をけしかける。普通に風魔法で細切れにされた。


 まあ風魔法で空を飛べるシルビアであれば多少の距離があろうとも問題無いのだろうが、日帰りで遠出する修行って何か……ダサいよなぁ。


 そんなシルビアは昨日の事件と聞いて顔を顰める。


「あれか……あの男が何かをした証拠というのも別にないしなぁ。というか、グリセントはむしろ事件を収めた功労者として評されてもおかしくはないだろうが……」

「何もやっていない。関わっていないとだんまり決め込んでいるみたいだぜ。教会、冒険者ギルドと並んで大樹に襲われていたのもただ人間が多くいたからだろうって憲兵団の……ええと何だっけか……そうだ、【飢える尖兵】か。そいつらに話したんだとさ」


 十中八九嘘だろうし、何ならアイツの奴隷であった『翠の巨人』が逃げ出した末にこんな結末になったのではないかと俺は勘ぐっている。

 それは【飢える尖兵】も同様らしく、グリセントは昨日からずっと軟禁されている。待遇はそれほど悪くはないとか。金の力だな。


「【飢える尖兵】か……良くも悪くも王と国に忠実な憲兵達だからね。たぶんグリセントも悪いようにはされないだろうさ」

「少しくらい大人しくさせて欲しいところではあるがな。アイツの従業員然り、奴隷然り。大事件はアイツの周りで起こっているようなものだぜ」

「君だってそうだろうさ」


 違いない。

 俺の周囲が勝手に起こすんだから。


 グリセントは自身が蒔いた種が事件へと成長しているだけだ。アイツが悪い。


「結局……『翠の巨人』とやらはあれで倒せたのかねぇ」


 そもそもで『翠の巨人』についてもよくは知らんが。

 なんでも自然を操る強大な力を持っているのだとか。

 

「さてね。あれに止めを刺した少女は『蒼の群れ』。対となる伝説手前だ。弱点に適切な攻撃をした。よほど執念深い相手で無ければ確実に倒したことだろうさ」

「なら死体はどこにあるんだ?」


 街のどこにも『翠の巨人』らしき死体は無かった。

 あの紅色に染まった葉を全身に生やした男。


 3つあった大樹にも、地下に空けた穴のどこにも死体らしき痕跡は無かった。

 とはいえ……『翠の巨人』が操っていた木々はどれも氷魔法によって砕かれたという。それが『翠の巨人』本体にも同様に起こっていたとしてもおかしくはない。


「どちらにせよ、あれを蘇生させて操るのは無理だろうね。よくて【オートリバイバル】で君の完全な操り人形とするくらいだろうね。自我を持たせてしまえば、その時点で君はあの大樹の傍にいた人間のように……取り込まれる」

「……愛があるからか」


 蘇生させた死体は基本的には俺へ攻撃出来ない、らしい。

 基本的というのは、そこに殺意が無ければ、悪意が無ければという制約下であれば俺への攻撃が可能だからだ。

 たとえば事故。範囲魔法を放った際にその中に俺がいたことを術者である俺の配下が気が付かなければ俺への攻撃は可能となる。

 たとえば催眠。アイが良い例だ。グリセントの元従業員の黒魔法によって操られていたアイは俺への攻撃が可能であった。しかしまあ、その時たまたま俺への殺意が芽生えていたおかげで逆に攻撃出来なかったわけだが。


 『翠の巨人』であれば、奴が俺を取り込むというのは決して攻撃ではない。悪意も殺意も無く、ただ友好的で親愛的であるだけだ。俺を害そうとは思わないだろう。むしろ愛そうと、そのための手段が取り込みなのだ。攻撃だと受け取っているのは俺達だけ。


「ああいった手合いは稀にいる。殺すことを救済と主張する殺人鬼もいる。……最悪なことにまだ捕まっていないのだがね。だからまあ、蘇生させるにしてもその者の性格くらいは知っておいてもいいんじゃないかなって私は思うよ」

「……だな」


 つくづく俺は運が良かった方なのだろう。

 蘇生させても暴れたりせずこうして俺の仲間となり手足として働いてくれる。

 ああ、なんて幸せなのだろう……マイクの仲間の弓使いが脳裏によぎったが忘れておこう。


「私達も、関わっていたことは伏せた方が良いだろうね。あの穴も出来れば隠しておきたいだろう?」

「だよなー。まあ名乗り出ても報酬は大したことないわりに面倒な事情聴取ありそうし、黙っておくか」


 本当に俺は悪くないのにグリセントの共犯になった気分だ。






 そして翌日。

 今日の予定は特にない。

 というか、俺は俺で独自にマモンを倒す算段を立てていた。

 仲間頼りではない。俺と【オートリバイバル】で蘇生させた操り人形共で実行できる算段だ。

 まあ、あいつらが強くなっていればそれだけ成功率も上がるだろうし、あいつらの修行自体には悪いことは無い。


「授業参観ならぬ修行参観だ。まずはアイとシーを見に行くか」


 我ながらつまらないことを言いながら道を進む。通行人がたとえつまらなさそうな顔をしていようとも。





【修行:アイとシーの場合】


「……なんだ、アイとシーはいないのか」


 まずは冒険者ギルドの裏手にある開けた空間へとやってきた。

 そこは冒険者となったばかりの駆け出しの初心者が修行場としても使えるようギルド側が用意した場なのだが、今は僅かな人数だけしか利用者がいない。


「シドウか」


 恐らくはこの男、ゴレンがいるせいだろう。

 強面なだけでなく、乱暴者のゴレンさんにかかれば周囲から人がいなくなるのも当たり前だ。


「よう、巷では幼気な少女をいたぶっていると噂のゴレンさんじゃないか」

「……本当によ、誰だよそんな噂流しているのは。後ろ指刺されて大変なんだぜ?」


 そりゃ元からだろ。

 俺だってお前に睨まれたのを忘れたわけじゃない。

 睨まれた……俺は殺意を向けられたと思ったから毒ネズミをけしかけてやったがな。


「安心しろって。最近じゃ、その幼気な少女に嬲られているゴレンさんで有名になってきているからよ」

「……否定できねえのが辛いところだ」


 ゴレンは頬を掻きながら遠い目をする。

 その顔面は腫れ、引っ掻き傷のようなものがあり、より一層近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。


「酷え有様だな。だがまあ、前よりは見れるツラになったんじゃねえの?」

「寄ってくるのはよくわからねえ腕自慢どもよ。どうも俺自身がガムシャラな武者修行でもしているのだと勘違いしている野郎がいるみたいでな」


 その実幼女に付けられた傷と明かすのとどちらがマシなんだろうな。

 それはそれで侮られて喧嘩を売られそうだ。


「……しかし、どうなってんだあの双子はよ。グレッタとジョーはもう相手にならねえよ。俺だって辛うじて動きについていってるくらいだ」

「へえ……」


 ゴレンの強さがどのくらいかは知らないが、冒険者ギルドで大きい顔が出来るくらいには、相応の実力が伴っていなければならない。

 頂点とまでは言わないが、最低でも冒険者でも中の上はあると睨んでいる。

 グレッタとジョーってのはゴレンの取り巻きだな。随分と格好いい名前じゃねえか。どんな見た目だったか全然覚えてないけど。


「もう三日目か……すでにあいつら二人だけで闘ってるぜ。曰く、俺ら相手だと手加減しちまって上手く闘えないんだとよ」

「あいつら……変わったなぁ」


 強さと言うよりも心がか。

 周囲を気遣うようになって……成長や強くなったかは別だが。

 それが命取りにならなければいいが。あ、すでに命無くしたんだったなそれで。


「そういや、今はいないのかあいつら」

「飯を買いに行ったぞ。あいつら毎日同じもんしか朝昼晩と食ってねえが、大丈夫か?」

「大人だって酒浸りで生きていけるんだ。それよりは健康的じゃないか」

「酒はいいんだよ。ありゃ、薬と似たようなものだからよ」


 酒は百薬の長ってか。

 普通に薬飲め。


 しかし、あの双子にはクエストで稼いだ金の一部を小遣い代わりに持たせてやっていたが、この分じゃすぐに使い切りそうだな。今夜あたりもう一度渡しておかないとな。


「何かと闘うためにあいつらを強くしたいんだったか。安心しろ。その点であれば問題はねえよ。あの双子は強くなった。『成長限界』こと、このゴレンさんが保証してやろう」


 なんだその二つ名は……。

 『成長限界』って、お前もうこれ以上強くなれねえじゃん。


「そっか……ありがとうな」

「お前……」


 ゴレンは驚いたような顔をする。


「なんだよその顔は」

「いや……この間も思ったがよ。お前って案外と情に厚いんだなって」

「あ?」

「いや、というか良いやつだなって。礼を言えるってのは俺に対して何かしら思っているってことだ。俺を俺として見ているから出て来る言葉だ。……正直意外だったよ」


 なんだそりゃ。

 礼を言えば次も引き受けてくれるだろうから言っているまでだ。

 それに、頼んだ分の働きはしているようだからな。


「今度、一杯奢らせろよ。というか、飲もうぜ」

「ああ、俺の知っている良い店紹介するぜ」


 アイとシーが戻ってくる前に俺は修行場から去った。

 ほら、授業参観でも親がいると集中できないだろ。

 良くも悪くも親の視線ってのは気にするものだ。

 なら行かなければいいと思うものだが、しかし見たいものは見たい。

 ……空から小鳥でも飛ばすかね



 空からこっそり眺めたアイとシーの修行風景はただの暴力と暴力のぶつかり合いであった。ゴレンが遠い目をしていたのは言うまでもない。

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