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51話 【強欲】の魔王マモンは勧誘係 5

【修行:アイとシーの場合】


「あぁ? 俺にこいつらを鍛えろだって?」


 ガラの悪い男が声を荒げ、立ち上がった。

 傍を通りかかった女がそれに驚き体をびくつかせる。


 あーあ、ただでさえ冒険者たちの間では信用されていないのに、これでまた好感度が下がったな。


「……うるせえな。急に大声上げるなよ」


 こちらから頼みごとをするくせに、態度は大きくしていく。


「だがよ、俺は我流もいいところ。誰に師事を仰いだわけでもねえぞ」

「我流も流派の1つだろ」

「……いいか、闘いを教えるっていうのは基本を作らなけりゃ話になんねえ。俺はその基本すら無い、武器を振り回す山賊みたいなもんだ。俺は俺の体格や性格に合わせた武器の扱い方をする。……いや誰だってそうだ。流派に自分を合わせて使うんじゃなく、武器を自分に合わせて使うんだ」


 そう言い切って、ガラの悪い男――ゴレンは再びドカリと椅子に腰かけた。


 なるほど、ゴレンの言うことは正しい。

 流派に合わせるのではなく、自分に合わせる。


 時間があれば是非ともアイとシーにも身に着けさせたいものだ。


「誰がお前の流派を教えろと言ったよ。別にお前に合わせられたお前の我流なんぞに興味は無い。ただ、俺の知る限り、こいつらの練習台になりそうなのがお前と、その愉快な仲間達なんだよ」


 アイとシーに今から基礎なんぞを学ばせたところで遅すぎるだろう。

 ならば求められるのは戦闘経験。

 そして、それは魔物相手ではなく人間を相手にしたもの。


「……だけどよ」


 と、俺の後ろにいるアイとシーを見てゴレンは言葉を濁す。


「そいつらを鍛えろって話だけどよ……俺と闘わせるってのは……その……酷な話じゃないのか?」

「可哀想だってか?」

「別に女だからってわけじゃねえよ。女は強い奴もいる。だが、それが子供なら話は別だ。子供は大人が守る。それはこんなになっちまった俺にだって分かるルールだ」


 意外と良識……というかいらない常識を持っているやつだな。

 その幻想をぶち壊してやるよ。


「そうだな……それならアイとシー、それぞれと力比べしてみろよ。こいつらが本当に守られるべき弱い存在なのかどうか、お前が確かめてみろ」

「あ?」


 訝し気にゴレンが立ち上がった瞬間、


「まずはアイ、やってみろ」

「分かりましたシドウ様」


 アイがにこやかにゴレンへと手を差し出す。


「……?」


 その形が握手にも似ていたため、ゴレンはそれを握り返そうと手を向け、そして――


「あいだだだだ!? 何だこの馬鹿力は!」


 手を思い切りアイに握りつぶされて苦悶の表情を顔に浮かべるはめになった。


「こう見えて力持ちだぞこいつらは。なんせそこにある武器を使うんだから」


 俺は壁に立てかけておかせた斧とハンマーを指さす。

 

「さて、もう一方の手は無事だな? シー、ちょっと来い」

「はい、シドウ様!」


 ガクガクガク、と首を横に振り少しばかり涙目のゴレンを尻目にシーはゴレンのもう一方の手を握る。


 キツネ耳の可愛い幼女二人に手を握られているんだ。

 あの商会の元店員の野郎が見たらさぞ羨ましがる光景だぞ。


 そして、再びの悲鳴が冒険者ギルド内に響き渡った後に、ゴレンは首を勢いよく縦に振ったのであった。


「んじゃ、今日からよろしくな。ただ闘っていればいいから。アイとシーのことは死なない程度にならどれだけ痛めつけても構わないが、それは戦闘の範囲内でな? そっちの愉快な仲間達も加えるかどうかはお前の裁量に任せる」

「……なあシドウ」

「どうした。今更嫌だとか言うなよ?」

「いや。俺は命の恩人であるお前の言うことは可能な限り聞くつもりだけどよ……こいつらもそれには同意するだろうことだから否と言うつもりはないんだけどよ……」


 ぽつりぽつりとゴレンは口に出していく。


「俺がさっき言った、大人が子供を守るべきっていうのは精神的な問題だ。子供がいくら強くても関係ない。大人が大人であるから子供を守るんだ。シドウがこいつらを強くさせるのはこいつらに闘わせるからだろ? それは……」

「俺がこいつらを守るためだ。こいつらが死なないために、俺はこいつらを強くする」

「お前が代わりに闘うという選択肢はないのか?」

「俺だって闘うさ。だがよ、ただこいつらに見させておくよりも、こいつらが闘いに加わった方がより勝率が上がる。全員死ぬか全員生きるか、闘いって言うのはそういうもんだろ?」

「そうなのか……そういうもんなのかなぁ……」


 少しばかり葛藤していたゴレンであったが、


「分かった。5日間だったか? その間こいつらを今よりも強くするよう、俺達は努力する」


 ゴレンの後ろではゴレンの仲間も頷いている。


「よろしく頼む……ありがとう」


 その礼は、本心から出た言葉に限りなく近かった。





【修行:シルビアの場合】


「……この辺りでいいかな」


 街から少し離れた山の中腹。

 人の姿は無く、また魔物も、動物すら姿を見せない。

 深い谷と崖、『死霊山』にも匹敵する濃度の霧、そして硫黄にも似た臭気が生物という生物、魔物すらも寄せ付けない場所となっていた。

 

 その名も『腐肉山』。そこに入れば道に迷い、出ることも叶わず崖から落ち死ぬ、食料が尽きて餓死する……死ぬ理由は多々あるが、死後もただ霧の中に放置されるために遺体は荒らされることなくバクテリアに分解され腐るのを待つのみ。

 硫黄にも似た臭いは腐敗臭ではないかと言われているが、その真相は定かではない。


 天然に、自然に殺される山の中にシルビアは降り立った。


「まさか私が本気で魔力を取り戻そうとするとはね……」


 なあなあに、時間のままに魔力が戻っていくのを待つつもりだった。

 あまりに強大すぎる力を見せてもどのような反応をされるか、知りたくなかった。


 肉体の脆弱性と引き換えにして手に入れた魔法の力。それがエルフの最大の特徴である。

 その魔法の力……魔力をシルビアは生前に比べて半分程度しか取り戻せていなかった。


 これが自分一人の為だったら、成るがままに受け入れていただろう。

 シルビアとシドウだけであったら、シドウだけを逃がしてシルビア自身の命は捨てさせていただろう。

 アイとシー、シドドイといった仲間とも呼べる存在。それに出会ってしまったがために、シルビアは失った力を再び自分の中に呼び覚まそうとしていた。


「風は……上々だね。やはり相性が良いだけはある。だけどそれだけでは勝てない……」


 マモンに向けて放った火の追尾式の魔法。

 最も殺傷力が高い火魔法を選んだのではあるが、その魔法はマモンには通用しなかった。

 

 その理由はマモンの魔法に対する耐性が強かったことに加え、


「火が一番回復が遅い……三割、出せればいい方だ」


 森や自然に生きるエルフにとって相性の悪い火魔法に関する魔力の戻り方が遅かったのだ。それも異様に、だ。相性の悪さを抜きにしても遅い。


「代わりに、土魔法が早い、か」


 シドウの土魔法の練習に付き合っていたせい、ではあるまい。

 その程度で魔力の回復が早まるとは思ってはいない。


 水魔法や氷、雷魔法はまずまず。風や土以下、火以上といったところ。これが基準なのだろうとシルビアは推察する。


 個人差でも、種族差でもない。

 練習量の差、訓練の差でもないだろう。

 導き出される答えは、


「個体差……というか私が死体だからかな」


 死体――火をくべて燃やされるもの。あるいは土に埋められるもの。

 

 何がどうなってそのような因果関係になったのかまでは分からないが、死体であるということが魔力の戻り方に関係しているのだろうと、ここまではシルビアも考えることが出来た。

 だが、その先――最も殺傷力、攻撃力の高い火魔法に関する魔力の回復速度を上げる方法までは分からない。


「地道にやるしかないってことかな。だけどそれだと間に合わない」


 5日では仕上がらない。

 火魔法だけに絞っても、5割にまで回復するのがせいぜいだろう。

 それでも、一般の魔法使いとしては十分及第点を通り越している水準ではあるのだが、マモンには効かない。

 魔王に魔法は効かない……よほどの高レベルで無ければ。


 ならばいっそのこと、火魔法は捨てるべきか。

 火魔法は言ってしまえば、攻撃力に特化したもの。

 白魔法のような回復や黒魔法の呪いが筆頭ではあるが、魔法に付き物である付加や負荷を掛けることが火魔法では出来ない。……火傷を除けばだが。


「うん。やはり私には火魔法は合わないね。そもそもで攻撃というなら他にいるし」


 シルビアの脳内ではアイとシーが浮かびあがる。

 斧とハンマー、最初はそんなものが使えるのかと、シルビア自身が非力であるが故に思ったものだが、なんてことはない。見た瞬間にそれは杞憂だったと吹き飛んだ。


 純粋な攻撃はあの二人に任せようと、シルビアは火魔法の回復という選択肢を捨てる。


「風と土、ね……」


 ならば、とその2つの魔法の候補が上がってくる。

 風は言わずもがな。相性的にも良い魔法だ。5日あれば恐らく8割がたにまで回復するだろう。

 だが、土魔法の回復までも合わせると、6.5割といったところだろうか。

 威力や精密性、使える回数は魔力依存だ。訓練次第で精密性は上がるが、魔力が乏しければそれだけ訓練を要する。

 風一択か、風と土を併合するか。

 

「……いや、別にシドウへ教えるために土魔法の回復を早めたいわけではないからな、うん」


 ふと何故土魔法の回復を早めるか、その理由を思い浮かべてシルビアは自分で否定する。

 【スワンプマン】と【ホール】。どちらもシルビアがシドウに教えた土魔法だ。

 あまり使ったことの無い魔法ではあったが、何とかシドウにはメンツを保つことが出来たと自負できるレベルに到達させることができた。

 だが、これ以上教えるとなるとやはり土魔法を自身でもそれなりに使えないと話にならない。


「……いやいやいや、だから違う。そう、あくまで風魔法がマモンに通用しなかった場合に備えてだ。風魔法は局所的な攻撃よりも範囲的なものが多い。うん、やはり土魔法も使えておいた方が良いな」


 決まればシルビアの行動は早く、『腐肉山』での修行を開始する。


「ふふん。私の取柄がただ物を【鑑定】するだけと思ったら間違いだよ」


 仲間達からの称賛を目に浮かべながらシルビアは風と土魔法を取り戻すべく、それぞれを集中的に使ったり、複合的魔法を使用したりと、勤しむのであった。





【修行:シドドイの場合】


「ふむ、そこでもっと足早に! そう、まるで獲物を捕らえるべく舞う蜂のように!」

「は、はい!」


 シドドイが継ぎ足でステップを刻む。

 足がぎこちないのは生まれてこの方、舞踏など習ったことが無いためだ。


「そこで一回跳躍! そう、カエルなんて目じゃないくらいに跳ぶ!」

「は、はい!」


 シドドイがステップを終えた直後に片脚に力を入れて跳躍する。

 悲しいかな、その跳躍力は一般的な女性のそれであった。


「はい、一回転! アルマジロのように体を丸くして、止まるんじゃねえぞ……」

「は、はい!」


 シドドイが可能な限り体を丸めて転がっていく。

 しかし、それも長くは続かない。人間の体の構造的に無理な話であった。


「はい、起き上がったらもう一回跳ぶ! 今度は両足で!」

「は、はい!」


 シドドイが起き上がり様に再び両足で跳躍する。

 転がった勢いそのままで跳躍したために前方へと跳び上がってしまい、受け身を取れず転倒した。


「うーん……まだまだだね。だけど良いよ! 初めてでこれなら私の持ちうる限りの技能を授けることも夢じゃない!」

「は、はい……あのう、教官?」


 シドドイは宿屋の主人に教官と呼ぶよう強制されていた。

 教えられる立場であるためシドドイもそれを甘んじて受け入れている。


「なんだい、シドドイ君?」

「これ……意味あるんですか?」


 シドドイが教官から教わったこと、それは全てシドドイにとって訳の分からない動きであった。

 弓矢など一度も持っていない。

 的などどこにも見当たらない。


「意味あるよ! 意味しかないよ! 戦場で動き回るんでしょ? しかも魔王が相手なんでしょ? なら激しい闘いになること間違いないからね!」


 教官はシドドイに詰め寄る。

 シドドイは詰め寄られた分だけ下がる。


「君はあれかな? 弓使いはただ突っ立って弓を放つだけの存在だと思っているのかな?」

「違うのですか……?」

「違うよ! そりゃ、暗殺とか待ち伏せとか、そういった役割なら存在感を消す技術も必要だけど、いざ闘うとなったら弓使いは絶えず動き回りながら闘わなければならない。守られなければ闘えない弓使いと、回避出来る弓使いはどっちが戦場で華を咲かせると思う?」

「え、ええと……回避できる弓使い、です……」

「そうだよね! 分かったならもう一度今の動きをやろう」

「い、いつまでですか……?」

「少なくとも今日はこれだけしかやらないよ。でも安心してほしい、動きには様々なヴァリエーションが祖先から伝わっているから飽きないと思うよ」

「えぇ……ご主人様、私なんでこんなことやっているんでしょう……」


 共に闘いたいと言ったのも、弓矢の指南役に宿屋の主人を選んだのもシドドイであるが、シドドイはすでに遠い目をしていた。


「というかシドドイ君……君、弓矢持っていないでしょ。私のを貸しても、それは初心者にならともかく少なからず齧っている君には駄目だよ。君自身の弓矢で無いとさすがに教えられない」

「……そうでした」


 今日中にご主人様に武器を揃えてもらうんだ、と決意しながらシドドイは跳躍した。

シドドイのキャラ書きにくいな……

代わりに宿屋の主人が訳分かんなくなってくる

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