49話 【強欲】の魔王マモンは勧誘係 3
宿に戻った俺達はテーブルを囲んでいた。
「逃げるか」
「それは解決にはならないと思うけどね。というか、悪手だよ」
「やっぱ、追ってくるよな。それも、今度こそ殺意100パーセントで」
シルビア達に対してはそもそも殺意満々であったが、次は俺もろとも殺そうとしてくるだろうな。
ならばこちらも殺す気で迎え撃つしか……いや、それは元からだった。
「あの……ご主人様? 先ほどから何の話を……それに、シルビアさん達はなぜこのように汚れたお姿であるにも関わらず傷一つないのでしょうか」
「……」
宿ではなく場所を改めるべきだったか。
シドドイにどこまで話していいのか、それはここ最近の俺の悩みである。
アイとシーは寝ている。
気絶から目覚めずにそのまま寝入ってしまったようだ。
「シドウ、君はいつまで彼女に隠しておくつもりだい?」
「……出来ることなら隠し続けて、押し通すつもりなんだがな」
巻き込むとか巻き込まないとかいう話ではない。
仮に、シドドイが闘える人間で、対マモン戦とか他の魔王と闘うことになったとしても、戦力として数えられないから教えないというわけではないのだ。
シドドイは只の人間……もっと言えば死体ではない。
この点に尽きる。
死体以外は信用できない。
「……シドドイに対して疑惑的であるというならば、それは私が太鼓判を押してあげるよ。彼女は君に対してどうこうするような者ではない」
「それは俺も分かってはいるんだけどよ」
もう一歩。
もう一声。
何かが足りていない。
信用するに値する何かが。
それは、シドドイに限らない。
もしシルビアやアイ、シーが死体では無かったら俺は信用していないだろう。
死体でないことは、俺の配下ではないということ。
俺を裏切ろうと思えば簡単に裏切れる。現段階でその意思が無くとも。
「俺から離れても、俺がいなくとも生きていけるというのが問題なんだよなぁ」
「かといって、殺して蘇生するわけにもいかない。そういうことかい?」
「そういうことだな」
せっかくの蘇生死体ではない生きた人間の仲間だ。
何かに利用できる時が来るはずだ。
「……いえ、これ以上は聞けませんね。ご主人様が何をなさっていようと、私はそれを支える。それが奴隷としてのお仕事です」
俺がシドドイに返さないことに対して、それを言えないことだと悟ったのか、シドドイは下がる。
「この衣服の傷つき方、汚れ方からして尋常ではない闘いであったことは推察できます。そのくせシルビアさん達には傷が無い。つまりは、途轍もない回復のスキルをご主人様はお持ちということですね」
「……うん、まあそういうことだ」
下がったかと思いきやなんぞ考察を始めやがった。
「それを知った悪漢がご主人様を連れ去ろうとして闘いが発生。シルビアさん達が応戦し辛くも勝利。ご主人様がシルビアさん達を労いのご回復をされて今現在、ということでしょうか」
「すごいなー。シドドイは何でも知っているのな」
「いえ。私如き、まだまだです」
何がまだまだなのかは分からないがそれで納得しているなら俺から言い直すこともあるまい。
事実、俺のスキルを狙ってマモンが現れたのは間違いでは無いのだから。
「さて、話を戻すとして。まだやつ……追手は来る。あいつは強い。このまま再戦しても俺達が勝てる見込みはほとんどない」
「私の魔法が効かない。アイとシーの武器も通用しない。はっきり言って手詰まりだね」
「ああ。だからこそ、修行といこうじゃないか。やつが指定して来た5日後。これは俺達に強くなれと言っているんじゃないか?」
マモンは闘いを楽しんでいた。
それはやつが闘いに喜びを覚えるタイプだからというわけではなく、俺達をまだ弱い相手だと侮っているから。
どうあがいても勝てないくせにこちらに小さな牙を向けてくる虫を見下ろす虫のように、俺達を見下していた。
ならば俺達はあがくだけあがいてやろうじゃないか。
小さな牙の毒性を強め、致死量を一気に流し込んでやろう。
「アイとシーはとりあえず武器に慣れることからだな。当てはある」
「今は武器に振り回されているからね。とにかく場数を踏ませるか、流派を学ばせるか。どちらを選んでもアイとシーは強くなるだろう」
俺は前者を選ぼうと思っている。
武器、武道の流派なんてのはそもそも肉体的に劣っているから学ぶものだ。真に肉体の強さが備わっているならば、流派なんてものは後からその肉体に合ったものが自然と身に付く……と思っている。
「なら私は1人で動くとしようか」
「考えがあるのか?」
「まあね。私の場合は誰かがいるからといってプラスになるものではない。強くなる前に、まずはやることがある」
シルビアがそう言うのであれば、任せるしかないだろう。
なんだかんだ言ってシルビアがこの場で最も闘いに慣れており、強い。
俺が口出し出来るものではない。
「君はどうするんだい? 強い配下を今のうちに増やしておくのも有りだとは思うが……」
ジルや、それこそドラゴンのような強い魔物を倒して蘇生させておき、マモンと闘わせるというのも確かに考えようによってはあり得るのかもしれない。
単純に強い相手であったら、の話であるが。
「あいつに対して、ドラゴンとかそんなのがいくらいても意味がないだろ」
「確かにね。それなら、どうする?」
「ジルのところにでも行くとするか。俺の役目は情報集めだ。少しでも弱点に繋がる情報があれば闘いを有利に進められるだろ」
魔王について何やら知っている口ぶりだった。
マモンの能力についても何か分かるかもしれない。
「『角度』と『距離』、ね。ちなみにあいつのスキル名は分かっているか?」
「私を誰だと思っているんだい? それくらい……と言いたいところだけど、正直、ギリギリだったよ。もう少しでも強さがかけ離れていたらきっと分からなかった」
マモンは一番若い魔王だと言っていた。
ならばマモンよりも強い魔王がいてもおかしくはない。
その時……シルビアの【鑑定】は通用するのだろうか。
「スキル名は【斜角】。その能力はまあ、あの時言っていた通りだね。平面、直角。それ以外の攻撃を受け付けない。逸らしてしまう能力であり、逸れた攻撃を逸らさなくする能力だ」
この手のタイプの能力というものは本体が弱いと相場が決まっている……はずなんだが、魔王補正なのか知らんがシルビアの魔法が効かないときた。
シルビアにはサポートを、アイとシーで直接的な闘いをしてもらう他ないだろう。
「……これで対マモン戦の会議を終了とする」
作戦会議と言えば聞こえはいいが、ここで何を話していても結局は強さも情報も足りていない。
唐突に現れた敵に対してよくぞ生き残れたと自分を褒めてやりたいくらいだ。
「シドドイ、ちょっと来い」
俺はこの宿で部屋を2つ借りている。
さすがにシルビアと2人用の部屋を借りていたところに後から3人増えたのだ。手狭になってしまっている。
俺とアイ、シーの一部屋とシルビアとシドドイで1部屋。
主に寝る時はこの組み合わせだ。アイとシーが俺と一緒の部屋がいいと言うし、シドドイも俺よりかはシルビアの方が気が休まるだろうという判断だ。
会議で使っている部屋には一応、用心の為にアイとシーの寝ている部屋で行っていたが、俺はシドドイと共に隣の部屋に行く。
シルビアを一瞥すると、シルビアは軽く頷いた。
言葉にしなくとも伝わっているはずだ。これで隣は防音完備の部屋へと早変わり。便利なるは風魔法。
部屋を移ると俺は早速、
「俺達を狙う相手、それは魔王の1人……【強欲】の魔王マモンだ」
隠し事をするべきではない。
しかしまだ信用するだけの材料が無いシドドイに対して、俺の正体と俺を狙う相手の正体の二つから、言っても良いだろうと判断できる後者を選んで打ち明けたのだった。




