48話 【強欲】の魔王マモンは勧誘係 2
「……許せねえ。よくも俺の配下を!」
頭部の無い3つの死体を見て、俺は叫ぶ。
【メンテナンス】を使っても効果は無い。
マモンが言っていた通り、俺の蘇生させた死体を消滅させるに足り得る威力だったのだ。
俺なら即死。
ジルでさえ場所によっては致命傷だろう。
「ちくしょう……いくらさっき出会ったばかりだからといって何の情も無かったわけじゃないんだぞ!」
まして、俺の中で雑魚の代名詞ともいえるコボルドでは体のどこに当たろうが消滅待ったなしだろう。
「……へえ」
面白いものを見る目で俺をマモンは眺めている。
「地面に潜る性質を持つコボルドを地面に潜ませ、僕の攻撃から仲間を守らせるために地面から飛び出させて盾にしたってわけか」
「そうだ。説明ご苦労様」
不意打ちでもしてやろうかと思っての伏兵だったが、無駄になっちまったか。
……いや、それでシルビア達が無事ならいいか。
マモンの魔法弾がコボルドを貫通していった時はビビったが、内部で弾丸の方向が変わったのか狙いは逸れていき、辛うじてシルビア達は無傷である。
「そういえば君はそういった闘い方だったね。配下を使い捨てることもする。倒した死体でどうにか場を切り抜ける。うーん……このまま君の配下を魔法だけで壊すのも手間がかかりそうだしなぁ……」
うーんうーんとマモンは考え込んでいる。
「……シルビア、逃げ出せるか?」
「……悪いけど、それは出来ない……というか不可能に近いね。確実に、追い付かれる。倒すか、もしくは追い払った方がいい……のだけれど」
「倒せるビジョンが見えねえよなぁ」
先ほどの攻撃だってマモンからすれば必殺技でもなくただの魔法だろう。
俺が死体を蘇生させるのと同様に、数回……いや数十回は使える。
「シドウ様、闘いますか?」
「倒しましょう!」
言うが早いか、アイとシーは飛び出していった。
「チッ……」
慌てて俺は先ほど殺した魔物達を蘇生させてアイとシーの援護に向かわせる。
コボルドは後1匹しかおらず心元ないが、ニードルアームズとホッピングフロッグは接近戦で十分闘える魔物達だ。
「せいっ!」
「たあっ!」
アイとシーの振り回すハンマーと斧は当たればきっとマモンとてひとたまりも無いはずだ。
「それだけじゃ僕は倒せないよ」
しかし、マモンは両手に黒い渦を纏わせると、アイとシーの武器を受け止めた。
威力や破壊力、衝撃が渦に吸い込まれているように、マモンの体は少しも動かない。
「体が返り血で汚れるのは嫌なんだよねぇ」
マモンはアイとシーを投げ飛ばす。
そして、またも指先に魔力を集中させる。
「まずい!」
蘇生させた魔物をアイとシー、そしてシルビアの前面に盾として置く。
「【アングル・バレット】」
魔力弾は魔物を貫通し、そして消滅させた後、方向を変えていく。
「……なんだ」
しかしこちらの攻撃も通用していないのも事実。
どうにかして逃げ出すか、もしくは倒す策を見つけなければと思った瞬間だった。
おかしい、とアイとシーの周囲を見ていて思った。
マモンの撃った魔力弾は確かに魔物を盾としたことで逸れた。
だが、それにもかかわらず魔力弾はアイとシーへと向かっているような気がした。
空間が揺らいでいるわけではない。
まるで最初から当たることが前提であったかのような、そんな動きであり、しかし魔力弾は直線的に進んでいく。
そしてそれはシルビアに対する魔力弾も同じ。
遥か上方へと逸れた魔力弾はシルビアに向かってきていた。
「っ」
避けろ、という言葉を飲み込む。
直感的にそれは悪手だと感じた。
避けてもどうにもならない攻撃をされているのだと。
だから、
「どうにかして受け止めろ!」
この言葉を受け、シルビアは魔法による盾を、アイとシーは武器を盾にした。
土煙が上がる。
そして血しぶきも。
「……まだ生きているな」
感覚的にまだシルビア達は消滅していないことが分かる。
だが、状態は絶望的だ。
アイとシーは武器が破損……というか全損していた。
そして、三人とも体の一部が欠けていた。
「【アイス・ランス】」
と、その瞬間であった。
シルビアが魔法で氷の槍を生み出す。
それはマモンを貫くために放たれる。
「アハハハハ! 僕にそんなものは当たらない!」
その現象は先ほどのマモンの魔力弾がシルビア達を襲った時と似て、しかし真逆のものであった。
空間が揺らいだわけではない。
狙いが逸れていたわけではない。
にもかかわらず、マモンの体に氷の槍は当たるどころか掠りもせずに後方の木々を薙ぎ倒していった。
「……すり抜けか?」
「いいや、違う。これは角度の問題さ」
すり抜けていたようにも見えた今の現象。
その答えをマモンは口にした。
「『角度』と『距離』、その二つは密接に結びついている。遠くに物を投げたことはあるよね? その時、少しでも方向を誤れば、遠いほどに全く違う方へと飛んでいく。だけど、近い場所に投げる時は方向……まあコントロールにそこまで気を遣わなくてもいいよね」
身に覚えはある。
ゴミ箱にティッシュを入れる時だな。
意外と難しいんだよな、あれ。
百発百中になるにはどれほど練習すればいいんだろう。
……と、まあ冗談は置いておくとして。
近いと方向に気を遣わずに済んで、遠ければ方向を誤れば大きく外れる、か。
方向……マモン曰く『角度』か。
そして、『距離』。
「難しいことは分からねえが、ようは命中率上げているようなもんか」
「うん、その解釈で別にいいよ。僕の攻撃は当たって、君達の攻撃は当たらない。要はそれだけなのだから」
「簡単だな」
「少しでも角度に不純が混じれば僕はその不純をどこまでも大きくすることが出来る。そして、僕の攻撃の不純をどこまでも小さくさせることも出来る。簡単さ。シンプルな能力だ」
「魔王ってのはどいつもこいつもそんな能力なのか?」
七罪魔王だったか。
残り6人……こんなのばっかだったら面倒な奴らだ。
「まさか。脳筋に女子供、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだよ。誰も僕に勝てやしないのに、僕が一番若い魔王だからって威張り散らすんだ。今回だってこんなお使いに僕を使いやがって……」
俺の問いを、マモンのように強いやつらばかりなのかと解釈したようで、マモンは否定する。
「お前だって子供だろうに。魔王、ね。別にどっちでも良かったんだが、お前の態度で決まったわ」
「入る?」
「断る。俺はこいつらと自由に生きたいんだ。お前が勝手に俺の生き方を決めるって言うんなら……そりゃ抵抗してやるよ」
拳を胸の前でもう片方の掌と合わせる。
パン、という小気味いい音が響き渡った。
「そう……じゃあ殺すか」
「っ!?」
マモンの殺意の質が変わったかのように、俺へかかるプレッシャーが増大する。
呼吸すらままならない。
高校受験以来だぜ、こんな重圧。
「ねぇ、シドウ様」
意外なことに、俺の意識を逸らしてくれたのはシーであった。
「魔王ってなに?」
その純朴な疑問を前に、俺は馬鹿らしくなって噴き出す。
「くくっ……そうかシー、お前は魔王を知らないのか」
「シー、魔王というのは……」
「いや、別にいいぞアイ」
シーに説明をしようとするアイを俺は止める。
「どうだマモン、子供が知らない魔王とやら、どこに憧れる要素がある? やっぱり俺はお断りだね」
「そうかい。ならばやっぱり僕から言うことは1つだ……死ね」
マモンの指先の魔力が濃くなる。
「シルビア!」
「時間稼ぎありがとう。【ホーミング・ファイア・ボール】」
シルビアの手元からバスケットボール大の火の玉がマモン目掛けて飛んでいく。
「私にはすでに君の能力は見えていたからね。追尾式さ。これならその当たらない能力も関係無いだろう。不純など0さ!」
俺も考えていたことだ。
マモンへの攻撃は絶対に当たらないというわけではない。
少しでも角度がずれていれば外れる。つまりは、マモンに対して直線的な攻撃を、垂直な攻撃をすればいいということだ。
だが、それは難しい。
ならば、絶対当たる魔法を使えばいいということはシルビアも思いついていたはず。
追尾式の魔法。
それが答えだ。
どれだけ距離を稼ごうと、角度の不純を多くしようと、その魔法には敵に対して当たるという命令が与えられている。
自律的に角度など変えてしまう魔法ならば、マモンにだって通用するだろう。
何やらマモンが能力を発動して無駄なあがきをしていたためか、火の玉はマモンの周囲をうろつき、回転していたが、やがてマモンに着弾すると大きく爆ぜた。
……せめてマモンが撤退するに足り得るダメージでも入っていてくれるといいんだが。
「やったかな?」
「あ、ばっかお前」
シルビアが言ってはいけない一言を言ってしまったがために、煙が晴れたその場所には……マモンが無傷で立っていた。
「魔王は『魔』の『王』だよ? こんな魔法ごときじゃ僕に傷を負わせることだって出来ない。……いい加減、僕を舐めるのも大概にしなよ」
一瞬の閃光。
俺の視界が潰れ、再び回復した時にはマモンはその場にはおらず、砂へと還っていく仲間達の姿があった。
『――気が変わった。5日後、近くにあるお城に来なよ。人間にお別れを言っておくと良い。……この状況でそこまで出来る君に興味が沸いたからね』
……見抜かれていたか。
ともあれ、見逃してくれるというのなら有難く乗っかるとしよう。
「……帰るか」
【スワンプマン】の泥人形でシルビア達の偽物を作り囮にさせたわけだが、さすがは魔王と言うべきか。
土に埋めておいたシルビア達を回収し、俺達は宿へと戻るのであった。




