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47話 【強欲】の魔王マモンは勧誘係 1 

「魔王様直々にねぇ。嬉しいことだが……」

「嬉しいなら断る理由もないよね。シャドウ君だっけ?」

「シドウだ。それより俺の仲間なんだが……」


 魔王の放つ圧倒的なまでの強さ、プレッシャーに呑まれて固まってしまっている。

 口をパクパクと動かしていることから、呼吸すら上手くいっていないようだ。死体だから呼吸は必要ないんだけどな。


「……? どうしたかい?」

「……いや」


 ……言って何かをしてくれることはなさそうだ。

 俺がどうにかしてやらなければならない。


「そうだな……」


 プレッシャーとは言うが、ようは場の雰囲気に呑まれているだけだ。

 ならば自分を落ち着かせればどうということは無い。


「シルビア、言っていなかったが朝から寝癖が取れていないぞ」

「えっ!? ど、どうして早く言ってくれなかったんだ!」

「アイ、シー、夕飯は肉と野菜どっちがいい?」

「お肉が良いです」

「お肉!」


 一瞬だが目の前の魔王……マモンとやらを忘れ、自分を取り戻す3人。

 再度マモンを見た時にはもう身が竦むような恐れは無かった。


「……大丈夫か。なら、後はすまねえが頼んだぞ」


 そして俺は膝から崩れ落ちた。


「君!? 大丈夫か?」

「シドウ様、まさか攻撃を受けたのですか?」


 シルビアとシーがこちらに駆け寄り、アイはマモンを油断なく睨む。

 

「いや。少し疲れちまっただけだ。頼んだぞとは言ったが、それは俺じゃなく……」

「あの少年か」

「そうだ」


 何のことは無い。

 マモンの視線の対象は俺に向けられたものであり、シルビア達3人が固まっていたのは俺に当てられたプレッシャーの余波であったのだ。

 まともにそれを受けていた俺の精神的疲労が溜まり、耐えきれず地面に座り込んでしまっただけである。


「マモンだったか? 悪いがこんな状態で失礼するよ」

「うーん……別にいいけど、こんな簡単に参ってくれるとさ、困るんだよね。さっきも言ったけど、君を勧誘しに来た僕達魔王の沽券というかメンツというかさ……こんなに弱いんだったらいらないんだよなぁ」

「なら最初から誘うなよ。別にこっちから頼んたわけじゃねえのによ」

「それは僕に言わないで欲しいなー……あ、そうだ」


 ふと思いついたようにこちらに殺気を飛ばしてくる。

 それだけで俺の意識は飛びそうだ。


「は、はは……魔王とやらになってもそんな脅ししか出来ないのか?」

「減らず口がさっきから絶えないね。別にさ、僕はいいんだよどっちだって。君があいつの部下になろうと、断ってここで死のうと」


 やはり断れば殺される流れか。

 ここは上手いこと言ってこの場から逃れるしかないか……。


「ちなみにその魔王の部下になると何か特典でもあるのか?」

「人間を自由に殺してもいいよ。シドウは【ネクロマンサー】なんだろう? それなら死体はあって損はないよね」


 ……ん?

 今、微妙にイントネーションがおかしかったな。

 さてはマモンのやつ、俺が【ねくろまんさぁ】ということには気が付いていないな。

 だからといって何が違うか明確に俺とて理解しているわけではないが。


「君を勧誘している魔王は【ネクロマンサー】さ。そしてその部下も全て【ネクロマンサー】で構成されている。君だって、ただの人間の中で過ごすよりも気分が良いと思うけどなぁ。こんな規律だらけの中で生きづらいでしょ?」

「……そりゃあな」

「でしょ! だったら、僕と一緒に来なよ。【ネクロマンサー】は肉体こそ弱いけど配下さえ強者で揃えればどこまでだって強くなれる存在だ。魔王の皆、君の配下を揃えるのには協力してくれるよ」

「そうか、俺を強くしてくれるのか」


 悪くはないのかもな。

 俺が平和に暮らすのにも、魔王とやらと一緒にいれば俺の平和が脅かされることは滅多にないんだからな。


「強い魔王が俺を守ってくれるんだったら安心だな」

「うん、その点は安心していいよ。魔王は裏切らない。その誓いだけは本物だ」

「しかし、なぁ。問題が1つあるんだよ」

「何だい?」


 困ったことに俺が魔王側に行ってはいけない理由。


「俺、この世界での勇者に設定されているみたいなんだわ。魔王の部下になっちまってもいいんかね」


 魔王を倒すために世界に何人か異世界より導かれる勇者。

 うち1人は死んでしまい俺の配下となっている。


 残りは最大で4人くらいらしいが、そのうちの1人が俺だ。

 俺まで魔王にまわったらさすがに人類、危なくないか?

 というか、なれるものなのか?


「別にいいんじゃないの?」


 まるで些細なことだという風にマモンは答える。


「魔王だって勇者だって力を持つ者ってことに変わりはないよ。ただそれが偽善に使われるか、それとも自分のために使われるかでしょ。あるいは、周囲から嫌われる能力を持つか否か、かな」

「俺の能力は……」

「多分だけど、人間に明かしていないでしょ君の能力。だって、【ネクロマンサー】だなんてバレたら殺されるもんね。危害を加えられたわけでもないのに、それが悪だと決めつけたら排除する。人間というのはそういうものなんだよ」

「そういうもんだよなぁ」


 それは知っている。

 前の世界でも共通の認識だ。


「ほら、どんどんこちら側に付きたくならないかい? 君が平和に生きたいにせよ、刺激的な毎日を送りたいにせよ、それは人間の中にいては叶えられない願いだ。でもこちらに来れば容易く叶う」


 うん、聞けば聞くほど悪くはない。

 ホワイト企業かよって思う。


「いやー、俺の認識が間違っていたわ。魔王ってなんかこう、身内同士でもギスギスして争っているもんだと思ってたわ」

「別にそれも間違いではないんだけどね。仲の良し悪し、相性ってのもあるから。でも、殺し合ったりはしない。互いに高め合うことはするけど。つまらないことで魔王を減らすわけにもいかないからね」

「そうか……そんなにそっちは楽し気なのか」


 思い出せば生きるために随分と苦しい思いをしていた気がする。

 いや、楽しかったこともあったんだがな。

 だが、息苦しさもあった。

 周囲に俺の身分を隠しながら生きるってのは思っているよりも気疲れするもんだ。


 シルビアやアイ、シーと共に生きるなら魔王の道を歩んでもいいのか。

 シドドイは……自由にしてやろうか。

 まだ短い付き合いだ。未練もない。


「そ――」

「そんな弱い配下は捨ててもっと強い配下を用意してあげるからさ。ああ、僕達に着いてくるなら捨てて良いよね? 【ネクロマンサー】の配下は成長しないのが欠点だ。今でそこまで弱いんなら期待できない」

「……あ?」

「君が魔王陣営に付くというのなら生半可な力を持ってはいけないよ。君が弱ければ、人間に魔王が弱いと思われてしまいかねないからね」


 マモンの指先に黒い渦が纏わりつく。

 

「ああ、そうだ。それでもシドウ、君のことは一応、評価しているんだよ」

「あ?」


 指先の渦はやがて一点に集中し、まるでライフルの弾丸のように円柱状になる。

 その数は3つ。

 それが誰を狙っているかは丸わかりだ。

 

「ほら、コボルドが進化したじゃない。あれって僕達魔王7人分の力を込めたんだよ。まあ、互いの力が干渉し合って邪魔し合ってそこまで強力にはならなかったんだけどね」

「あれはお前達の仕業だったのか」

「うん。でも良い実験にはなったよ。魔王は魔物を進化させる力があるとはいえ、僕のような与えることに向いていない魔王はああいうのはしない方が良いね」


 あの怪物があまり強くない方か。

 さすがは魔王だな。


 あれより強力なやつがうじゃうじゃいるとか魔王軍怖すぎだろ……。


「さて、そろそろいいかな? 安心していいよ、君は別に殺さない。ただ、君の配下を消滅させるだけだから。【ネクロマンサー】だから蘇生させた死体だろうけど、それでも再生には限界がある。死体の再生力じゃ間に合わないくらいの力を与えれば、消滅させることは出来るんだ」


 マモンの指先に集められた魔力の塊。

 俺には何の魔法かは分からないが、色が禍々しいから黒魔法なんだろうか。

 3つの指にそれぞれ作られた魔力の弾丸はシルビア、アイ、シーを狙っていた。


「まあ、頭部を破壊するのが一番手っ取り早いんだけどね」


 そう言ってマモンはあっさりと引き金を引くように、魔力の弾丸を俺の仲間に撃った。

 

 そして、3つの頭部が砕け散った。

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