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46話 光りもの退治 3

「ああ、これだけでは足りないですねぇ。セイント・ジラフの素材は十分過ぎる程にあるのですが……」

「他の魔物の素材が必要ってことか」

「ええ。芋だけではスープは完成しない。それと一緒です。塩や他の野菜、時には肉だって必要でしょう?」


 つまりは繋ぎとなるような素材や、他のメインで使うような素材が必要ってことか。


 場所を移して今は細工屋にいる。武器屋に紹介してもらったこの店は、腕は確からしい。


「光属性に耐性のある装備、ですか。この大量にあるセイント・ジラフの素材を基にするならば……」

「アクセサリー系にしてくれ。さすがにそれで鎧やら兜を作るってのも不安だ」


 セイント・ジラフは特別強い魔物というわけではない。

 ただ、俺達の天敵であっただけだ。


 一般的に見ればそこまでの強さでない魔物の素材でメイン装備を整えたくはない。


「ではブレスレットやペンダント、ネックレスに加工しましょうか。素材は全て持ち込でよろしいでしょうか?」

「ああ。こいつらを鍛えがてら集めるつもりだ」


 嘘だ。

 全てシルビア先生に一撃の下で倒してもらうつもりだ。


「それはよろしいことで。幸い、素材で必要な魔物にそこまで強いものはいません。それぞれ個性や特徴はありますが、じっくりと闘うならば適した魔物達でしょう」


 すっ、と一枚の紙を差し出される。

 そこには何やら文字が書いてあったが俺にはさっぱりだ。


「これが必要な魔物の素材です。今ある分で少しずつ作り始めておきますので、集めた先から持ってきて頂ければそれだけ完成が早くなりますよ」

「分かった。それにしても……」


 と、その後の言葉は飲み込んだ。

 客がいないんだなとは言えなかった。


 たぶん……こんなにもファンシー……というか全体的に髑髏が蔓延している内装のせいだろう。

 死体を操るスキルを持つ俺でさえお腹いっぱいと思わせるのだ。

 より死者とか骨に縁遠い者ならば倦厭してしまうのも分かる気がする。


「何にしろ、早いとこ集めてくればいいってことだな。……まだ日も高い。今日中に出来るだけ集めちまおう」


 安心した生活を送るために必要な処置だと思えば足取りも軽いはずだ。





 細工屋に指定されたモンスターを狩る効率は良い。

 なにせシルビアの魔法で棲み処まで移動し、シルビアの魔法で安全圏から倒す。

 これの繰り返しだ。


 俺やアイ、シーもシルビアを手伝って少しでも負担を軽くしてやりたいのは山々なのだが、何せ光耐性のアクセサリーを作るのだから必要な素材も光属性の魔物に偏っている。

 接近戦しか出来ないアイやシーが万が一でも攻撃を食らってしまえばひとたまりもない。

 肉体的強度の劣る俺は言わずもがな。俺に肉弾戦はさせるな。悲しいかな、ひたすら死体を蘇生し続けることしか出来ない。


 俺達に出来ることはせいぜい、周辺にいる雑魚の魔物からシルビアを守ることくらいだ。

 相手が光属性の魔物で無いのならアイとシーでも対処できる。

 

 いくら無敵の蘇生死体だからと言って、肉体強度は俺と同程度のシルビアは接近戦に強くはない。

 遠距離で光属性の魔物を狙って魔法を放つ間無防備になっているシルビアを守るのは俺達の役目だ。


「ニードルアームズにホッピングフロッグ、それに……コボルドか。俺がコボルドでアイとシーはそれぞれ残りだ」

「分かりました……シーはホッピングフロッグを任せていい?」

「うん、いいよ! シドウ様見ててくださいね! このカエルを叩き潰すところを!」


 魔物は徒党を組んで人間を襲うことはしないはずなのだが、俺達を今、敵として攻撃しようと接近してくるのは複数種類の魔物達である。

 恐らくだが、仲間ではないが敵ではない魔物達の共通の敵が俺達であるから、同時に襲ってきただけであるのだと思う。

 光属性の攻撃手段を持たないこいつらならばアイとシーの戦闘相手にいいだろう。

 俺もコボルド』を相手しながら様子を見るとするかね。

 この中で一番弱い魔物は勿論、コボルドなのだが数は多い。

 ニードルアームズとホッピングフロッグは1匹ずつだがコボルドは4匹。

 油断せずに闘わなければいけないのは俺だろうが、まあ俺には便利なスキルがある。



――【スワンプマン】



 シルビア先生に教えを請いて何とか習得しかけてきた土魔法はたったの2種類だけ。

 その一つ、【スワンプマン】は足止め程度なら可能な魔法である。


 泥人形の作成。

 その形状は相手。

 

 泥であるから可能なことであるのだが、まず地面に沼が現れ、そこから俺の指定した対象と全く同じ形状をした泥人形がそこから生み出されるのである。

 とは言え、所詮は泥である。

 攻撃力はほぼ皆無であり、防御力も無い。

 強力な攻撃を受けでもすれば一撃で崩れてしまう俺よりも弱っちい泥人形だ。


「お前らにはこれで十分だろう」


 だが、相手は数で押すタイプの魔物であるコボルド。

 同じ数の泥人形がいれば、多対一の状況を作れずちまちまとした攻撃しか出来ない。

 コボルド程度の攻撃力であれば泥人形も容易くやられることもないだろう。


 さてさて、アイとシーの様子でも見ておくかね。





 アイの相手はニードルアームズという棘の付いた筋肉質の腕が生えた球体という醜悪な見た目をした魔物である。

 顔らしきものはない。

 胴らしきものもない。

 あるのは球体と腕と棘だ。


 シルビア曰く、球体が何の役割をしているのかはまだ分かっていないようだ。

 心臓部でもなく脳でもない。

 中を割ってみればそこにはひも状の何かが複雑に絡み合っているだけだとか。もしかすればそれが神経の役割をしているのかもしれないが、どこで思考をしているのか、生命器官は結局どこにあるのかが分からない謎の魔物である。


 強さとしてはコボルド以上ではあるが、際立った強さは無い。

 棘は痛そうだし、筋肉質の腕だから力は強そうだが、攻撃パターンは単純だ。やはり脳無しなのだろうか。


「せいっ!」


 アイの斧がニードルアームズの棘とぶつかる。

 棘の材質は分からないが、金属にも似た衝突音が響き渡る。


 武器の質は同等か。


 ぶつかり合った互いの得物を押す両者はそこで停滞する。

 両者の力が拮抗しているようだ。

 あの見るからに力のありそうな腕とパワー勝負で負けていないのは、死体特有のセーブされていない馬鹿力所以だろう。


 ……後は技量で勝てばアイにも勝機はあるのだが。


 だが、アイの斧は一本でありしかもそれを両手で持っていることに対して、ニードルアームズは片手でアイと力比べをしている。

 力は拮抗していると言ったが、それは正確ではない。

 武器であるから両手で持てるアイと自身の肉体であるから片手ずつでしか攻撃出来ないニードルアームズ。その一撃が拮抗しているに過ぎない。

 そして、両手の塞がったアイに対してニードルアームズにはまだもう片方の腕が残っている。


 ニードルアームズのがら空きの腕が振り回される。

 無防備なアイの体を捉えた攻撃であるが、それはアイの跳躍で躱された。

 

 ふむ。身軽だな。ネコ科でなくキツネ科の亜人だから俊敏さは期待していなかったが、ニードルアームズを惑わせるだけの動きは出来ている。

 斧を持っていてこれだけの動きが出来れば及第点どころか俺も満足でニッコリだ。


 空中でアイはニードルアームズに斧を投げつける。

 命中率は低いだろう。まだアイは斧に慣れていない上に、足場の無い空中だ。


 しかし、進行方向の先に落ちた斧にニードルアームズは驚いたかのように動きを止める。

 それをアイは見逃さず、着地しすぐさま斧を回収したアイはニードルアームズの球体部分をばっさりと両断した。


「シドウ様……これ、とても気持ちいいですね……」


 生物に近い魔物であったため返り血を浴びてしまったアイは全身を赤く濡らしながらこちらを振り返って微笑むのであった。





 シーはホッピングフロッ』を相手に攻めあぐねていた。

 4つの足全てがバネのように渦巻いているホッピングフロッグの機動力は非情に高い。


 ハンマーという重量級の武器を扱うシーは四方から跳躍を繰り返して踏みつけてくるホッピングフロッグを前にハンマーを盾にして防ぐしか出来ていなかった。


 皮肉なことにもアイとは真逆。

 跳躍を前にしてシーが攪乱されている。


「こ、のぉ!」


 ホッピングフロッグの攻撃に合わせてハンマーを振り回すが、それも避けられる。

 着地と共にバネとなった足は即座の跳躍が可能なのである。


 ……俺が助けに入った方がいいか?


 アイとは違い明らかに押されている。

 力比べに入れば負けることは無さそうだが、当てることすら出来ておらずアイはダメージを重ねている。

 まだメンテナンスを使う程では無いが、いつでも使えるようにしておいた方がいいかと、未だ泥人形と格闘中のコボルド達を見ながら俺は思う。


「この、逃げるな!」


 アイと違いシーに戦闘に関する決定的な欠点があるとすれば冷静さを欠きやすいことだろう。

 初めて会った時や俺の奴隷になった時もそうだが、感情的になりやすい。

 アイは奥底に秘めて、そして一気に爆発させるタイプだが、シーは小さく連続的に爆発していく。


 苛立つようにハンマーを振り回すが、掠りすらしない。

 そして、


「あ」


 手が滑ったのか、ハンマーがシーの手から離れて振り回す遠心力そのままにすっ飛んでいく。

 運よくそれがホッピングフロッグに当たった……なら良かったがそうはいかない。

 的外れにも程があるといったくらいには魔物も、俺達仲間も誰もいない方へハンマーは飛んでいった。

 ……回収できる位置で良かった。

 茂みの中とかで無くしようものなら蘇生死体総出で探すところだった。


 獲物を失ったシーを見て今が勝機と思ったのか、ホッピングフロッグは大きく跳躍する。

 ハンマーを盾には使えない。

 シーはその身で攻撃を受けなければいけない。


 高く跳べば飛ぶほど位置エネルギー、そして落下とともに運動エネルギーは増加する。

 それに加えて跳躍を可能とした脚力とそのバネのような足の硬度。


 ホッピングフロッグがシーと衝突する。


 ……メンテナンスは必要だろうなぁ。


 蹴りを片手で受け止め、更にもう片手でホッピングフロッグの体を抑えつけたシーを見て俺は思う。


「これ終わりだ!」


 暴れるホッピングフロッグを力づくで抑えつけたまま、シーは飛んでいったハンマーの下へと行くと、ホッピングフロッグをハンマー目掛けて叩き落とした。


 頭部がひしゃげたホッピングフロッグは手足をぴくぴくと痙攣させ口から泡を吹き、そして動かなくなった。


「見てくれましたかシドウ様? 倒しましたよ!」


 折れてしまったのか歪に曲がった腕を抑えながらシーもまた俺を振り返って笑うのであった。





「……お疲れ様」



――【メンテナンス】



 アイとシーを直すと、俺は4つの深い穴の底で身動きの取れなくなったコボルド達を見やる。


「……これ、俺も倒せないんだよなぁ」


 【ホール】。

 いわば、落とし穴の土魔法だ。

 深さと穴の大きさを自由に指定でき、習熟度によってその深さと大きさはどんどん大きくなっていく。

 俺はシルビアとの特訓で深さのみに特化した【ホール】を作り上げることに成功した。


 穴の広さなど魔物と同程度でいいのだ。

 ようは、這い上がってこれないだけの深さがあれば落とし穴としては十分。

 深すぎて、かつ殺すに足りない深さだからこれも足止めのための魔法ではあるが。


 それでも、泥人形でコボルド達の動きを止め、【ホール】で泥人形もろとも沈める。

 ただでさえ背丈よりも高い深さの穴であるのに泥のせいで穴の中で動くこともままならない。


「お待たせ。君は……ああ、こんな状況か」

「おう。早いとこ仕留めてくれ」


 遠距離からようやく光属性の魔物を全滅させたシルビアが戻ってきた。

 俺の土魔法で足止めされているコボルドに向け、シルビアは風魔法で首を断ち切っていく。


「これで全部かい?」

「ああ。アイとシーがやってくれたからな」

「へえ。成長しているね」


 シルビアが目を細める。

 マスク越しでも嬉しそうなのが分かる。


「子供は成長が早いからな」

「それは死体相手でも通用するのかい?」

「知らねえ」


 くっくっくっと俺は笑う。

 考えてみれば死体って成長するのか?

 しなければあいつらは永久的にお子様のままだな。


 何時までも可愛いままってことにもなるが。


「さて、素材を回収して帰るか」

「シドウ様、今日のご飯は何ですか?」

「シー、まずは私達の仕事を終えてからだよ」

「シドドイをあまり待たせては悪いかな。帰りは少し速度を上げようか」

「……それは勘弁してくれ」


 などと楽しくおしゃべりをしながら素材を回収していた俺達であったが、どうやらシドドイをもう少し待たせることになりそうだ。


「――ああ、ようやく魔物を倒したんだね。困るなぁ、こんな弱い魔物如きに手間取ってくれちゃぁ、わざわざここまで来た僕が馬鹿みたいじゃないか」


 ゾクリとするほどの美しい、中性的な少年が俺達の前に現れたのだ。


「……君」

「ああ、分かっているよ」


 背筋が震えたのは何もその外見だけではない。

 雰囲気というか、オーラが違う。

 そこらの魔物とは比べ物にならない程のプレッシャーをそのガキは放っていた。


「ああ、固まってしまったかな。無理もないよね。だって僕は魔王の1人なんだから」


 そんな、俺達のような大した者でもない奴らのところに何の用事だよと思う程には場違いなことを言い出したガキは、


「僕の名前はマモン。七罪魔王が一人、【強欲】を司る魔王だよ」


 続けて、信じられないような言葉を吐いた。


「シドウ君だね? 君を勧誘しに来たんだ」

「……何に、だ」


 辛うじて聞き返せた。


「魔王が勧誘しに来たんだ。決まっているだろう。それは魔王の1人の部下にだよ」


就職したくないなぁ

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