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41話 その新入りは 1

 10を超える手のひら大の火炎玉が狼にも似た6本脚の魔物を焼き尽くす。


「ギュルルルルルラァァァ――」

「おいおい、あんまり焼き過ぎると、剥ぎ取れるものも剥ぎとれなくなっちまうぞ。俺達の目的は素材集めであって魔物退治じゃない」


 魔物の断末魔をBGMに寝そべりながら俺はシルビアに注意する。

 骨まで、とはいかないまでも皮は確実に焦げているだろうし、肉もレアどころじゃない焼き加減になっているはずだ。


「なに、問題はないさ」

「あ?」


 だが、シルビアは涼しい顔をしながら俺の注意を聞き流す。

 俺よりも火元に近いのだから熱いはずだろうに、本当に涼しそうな顔をしている。

 ……さては風魔法か何かで自分の周囲だけを快適な環境にしているな。


「その時は君の【メンテナンス】を使えばいい。そこで寝そべっているのだから体力はそろそろ回復した頃だろう?」

「……そう、だな」


 その手があったか、とは素直に言えない。

 と言うよりかは俺もそれは頭の隅っこで考えていたのだが面倒だったので無意識に却下してしまっていた。


「シルビアも一丁前に魔力が戻ってきたな。これで一人前の魔法使いとして闘えるってわけだ」


 スジャッタという未だに街なんだか国なんだか分からない場所からシルビア先生の魔法で移動すること数十分のところにある『死霊山』と名高い山。

 昼間であるにも関わらず霧が立ち込めているせいでまともに周囲を見渡せず、聴力や嗅覚に優れた魔物に襲われる冒険者は数知れず。


 おかげで魔物の数は山ほど。人間の死体も山ほど。そしてお宝も山ほど。


 山だけに山ほどなんてことを言いたいわけではないが、魔力が戻りかけてきて魔法で暴れたいみたいなことを言いやがったシルビアに、じゃあここに行こうとギルドで見かけた『死霊山』の調査のクエストを受注してやったというわけだ。


 山ほどだらけのこの『死霊山』であったが、今はその山の一角は……もとい山の全ては崩れ去った。

 山ほどあったお宝は俺のアイテムボックスへ。

 山ほどあった冒険者の死体は動き回るゾンビに。

 山ほどいた魔物は全て山に転がる死体に。


 『死霊山』に巣くっていた魔物は全て殺しつくしたのだ。

 そのほとんどを俺が、だ。シルビアが、ではない。

 あいつは魔力を回復させながら倒していたせいか、最後の一匹をさも今日の集大成とばかりに、ラストアタックとばかりにおいしいところを持っていったが、その前処理というかお膳立ては俺がやってやったのだ。


 俺が蘇生させた人間や、そいつらがさらに殺した魔物の死体によって。


 殺した先から【オートリバイバル】を使っていたおかげか、俺の魔力もすっからかんだ。少し吐き気すら催す。


 だがまあ、一度蘇生させれば後は動かなくなるまで魔物を殺しつくせという命令に従ってくれるため、よほどのことが無い限りは俺が目を離しても動き続ける。


 ……本当に便利な能力だよなぁ。

 だって、この能力……俺が随時魔力を使い続けるものではないのだから。一度魔力を死体に注ぎ込んでしまえば後は俺とは関係なく動く。まあ、俺が死ねばどうなるかは分からんが。


「エルフの基準で言えばまだ半人前だけどね。それでも、まあ、闘えるようにはなった。こうして、山一つ分の霧を払うくらいには」


 『死霊山』の最も恐るべき点。

 それは山ほどの魔物……ではない。そんなもの、ただの雑魚の集まりだ。

 だが、それを山に立ち込める霧は雑魚を強敵へと変える。強化する。


 山の何処へ逃げようとも濃霧からは逃れられない。

 山中に立ち込めているのだから。

 そのため、ただの魔法職程度の風魔法などでは霧を払うことは出来ないらしい。


 だが、シルビアは違う。

 シルビアは未だエルフ基準では半人前と言うが、俺から見ればこれだけの規模での魔法を使う者はギルドの冒険者の中でも一握りだと思う。


「……改めて思うが事故物件……いや、お得物件だったんだなぁ」


 どちらもか。

 だがまあ、戦力として見れば、かなりの掘り出し物だ。


 山全てを覆う風の膜。霧を山の上空より更に上、雲にまで飛ばしてしまう気流を操りながらもまだ魔物を相手に圧倒するシルビアを見て、俺はそう零した。


「全滅させたならとっとと帰るぞ。さすがに俺もお前も魔力切れだろ。アイとシー、それに新入りにこいつらを料理させるなら早めに帰りたい」

「……さすがにこの魔物達は食べられないよ。虫型や、動物型もよくて犬猫のそれだ。素材を売って何か具材となるものを買っていってあげた方があの子たちの為にもなる。初回からキワモノを作られても、君だって困るだろう」

「それもそうだな」


 それにしても、この量の魔物だ。

 解体なんて面倒臭い。


 ゲームなら自動的に皮や骨、肉、爪や牙といった素材に自動的に変換されるのだろうかなんて思いながら俺は蘇生させた人間の死体に命じる。


「ほらほら、きりきりと働けよー」


 別に死体に触れることが嫌なわけではないが、それでも汚いような気がするのは否めない。

 そもそもで、俺に魔物を解体する技術など無いのだ。

 切ったり貼ったり縫ったりと、そんな手術めいたことは出来ない。


 その点、冒険者の死体を使えば効率的にも技術的にも良い。

 冒険者の死体は山ほどあるし、冒険者ならば解体だって出来るだろう。

 マイクが死体となっても剣を扱えたこと、弓使いが弓を撃てたことから、死体になっても体が技を覚えていることは明白だ。


「人使いが荒いなぁ」

「いいんだよ。疲れねえし、文句も言わねえ。……おい、こいつらを使って引っ越し作業とか土木工事やらせたら一儲け出来るんじゃねえか?」


 なんせ人件費は只だ。

 俺の魔力だって消費はしないし、時たま【メンテナンス】をしてやればいい。

 なぜかは知らないが太陽の下でも問題なく動き続けることの出来るゾンビが俺の操る死体の特性。昼夜問わず作業し続けることが出来るのであれば、人手不足で悩むことなんて無い。


「死体の知り合いに見つかったら面倒なことになるよ?」

「そうだな、止めておくか」


 あっさりと自分の素敵なアイディアを捨てる。

 元より、そんなことで金儲けをするつもりはない。


「数が数だったが、冒険者の死体も数がある。もうそろそろ終わりそうだな。シルビア、解体が終わったら死体とか持ち帰れなさそうなのは全部燃やしておいてくれ」

「いいのかい?」

「よく考えればこいつら全て持ち帰るのはシルビア任せになるだろ。今の疲れたお前じゃ持ち帰るのは無理そうだし、またここに後日来るのも面倒だ。こいつらを俺達のいる街にまで歩かせるってのもホラーになっちまう。死体なんてどこにでもあるんだから、こいつらに固執することもない」


 俺が死体を操った証拠が残るとも思わないが、それでも僅かにでも残しておくことも無い。

 消せるなら消してしまおう。


「死体全てを運ぶのと燃やすの。どちらがお前にとって楽だ?」

「……燃やした方が楽だね。分かった、冒険者の死体も、魔物の死体も全て燃やし尽くしてみせよう」


 シルビアの魔力があとどれだけ残されているのかは分からないが、それでもこれまでの闘いでそれなりには削られているはずだ。

 だが、シルビアは見上げる程の火柱を作ってみせると、重ねられていた死体の山を包み込んだ。


 キャンプファイヤーってこんなものなんかなぁ、とその光景を見ながら思うが、それよりも焦げ臭さが鼻を刺激して、現実に強制的に帰らされる。


「……終わったなら火を消しておけ」

「君が命じたのに、やっぱり人使いが荒いなぁ」


 文句を垂れながらそれでもシルビアは雨を火柱にのみ集中的に降らせる。良く分からないが、上空に溜まっていた霧に何か魔法を使ったのだろう。霧には水分がたんまりと含まれている。


「帰り分の魔力は残っているか?」

「それくらいは残してあるさ。さあ、行こう」


 体がふわりと浮き上がると、次の瞬間にはジェットコースターのように俺の体は飛び出していく。

 俺はシルビアの操作に任せてゆっくりと目を閉じ、耐えるのであった。


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