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37話 アイとシー 7

「っつうわけで、改めて食べ直すか」


 もう夜もいい加減遅いが、アイは精神操作魔法で操られていたし、俺達も色々と動いたから疲れている。そして腹が減っている。


「新しい奴隷は明日来る予定だ。だからこれを食べるのはここにいる俺達4人だけ。さあ、食べよう食べよう。分かったな?」


 有無を言わさずに料理を取り分けていく。


 何かを言いたげなアイ。

 状況を良く分かっていないシー。


 乱雑に取り分けた皿を2人の前に出す。


「食べろ」


 まさか腹がいっぱいというわけじゃねえよな?

 

 食事も半ばな時にアイは俺にナイフを突き立てたんだから。

 料理を多く持ち帰ってきたことこそが、まだ誰の腹も満たしていないことを告げている。


「おや? 私の分はよそってくれないのかな?」

「自分でやれ」


 シルビアは不思議そうな顔をしていたが、いや何でだよ。

 アイとシーの歓迎会も込みの食事会だったのだ。メインは勿論俺のセルフ誕生会。

 悲しいことに誰からも祝われない。教えていないから当然だが。


 シルビアは俺の反応を分かっていたのか、そのまま笑いながら自分の皿に料理をよそった。


「あれ? 私の皿は無いのか?」

「てめえは帰れ。呼んだ覚えはないし、部屋に入れた覚えが無いんだが?」


 しかしシルビアよりももっとふざけた野郎が存在した。

 宿屋のオッサンだ。

 こいつは招いてもいない。


 というか、なんで客の飯にありつこうとしているんだよ。


「えぇー……」

「えぇ、じゃねえよ!」

「だって、あの男がどうなったか気になって帰ってきた君達の部屋に入ってみれば美味しそうなものを食べているじゃないか。ならここは一仕事した私の分もあるのかと期待するじゃないか!」

「しなくていいわ。オッサンのやったことなんか大したことじゃねえだろ」

「……で、どうなったんだね? 彼は……というか、この宿の主人である私は今後どのように崇め奉られるのかね?」

「どうもならねえよ。この件は、大事にはしない」

「だが――」

「したが最後、明日の朝には冷たくなっているかもしれねえが、それでもいいのか?」

「――うむ、お客様の安全が優先第一。君達が大丈夫なら私から特に言うことはない。では、明日も元気な姿……で私にいさせてくれな」

「あ、ちょっと待ってくれ」


 すたすたと部屋から出て行こうとしたオッサンを呼び止める。


「ほら、部屋で大人しく、1人で食べていろ」


 適当に取った俺の分の皿をオッサンに渡す。


「……いいのか?」

「ああ。まあ報酬が何も無いってのもおかしいからな。これで昨日分はチャラだ」

「また呼んでくれてもいいんだからね!」


 ヒャッホウ、と言いながらオッサンは部屋から勢いよく出て行った。


 よほど料理を食いたかったんだろう。

 扉を閉める音はやけに静かであった。



「さて、再開するか……」

「ああ……」


 オッサンのせいで妙な空気になってしまった。


 1人だけテンション高いと、周囲が冷めていく。

 学校のクラスでもあるあるなやつだ。

 俺もよく冷めた空気ってやつを見たものだ。


 しばし、もそもそと4人が飯を食う音だけが室内に聞こえる。


 誰もが第一声を控えている。

 誰かが切りださなければ、今回の件の落としどころは有耶無耶になったままわだかまりとなってそれぞれの心に残ることだろう。


「アイ」

「っ!?」


 だから、俺が切りだそう。

 実質的な被害者はこの場に3人。加害者は……まあ1人いるっちゃいるのが困ったところであり、救いでもある。

 立場が最も上なのは俺。


「あの……」


 おずおずと、アイが俺に平伏そうとしているのを気配で感じる。

 この場で謝り、何かしらの代償を以て償おうとすることは確実。


 あの操られていた時の情緒不安定であった時のアイではなく、本来の賢明なアイならば、事の重大さを理解した上で俺に何をしなければならないのか、考えることだろう。

 だが、それを考えたところで、アイが死体である、という材料があることで全く別の回答に行きつくことをアイは知らない。


「まず、お前が俺を殺そうとしたことだがな」

「はい……」


 覚悟を決めたとばかりに、アイはぎゅっと目を瞑る。

 俺に殺されることも辞さないといった態度だ。


「ありがとうな。俺に殺意を向けてくれて」

「はい……はい?」


 ああ、やっぱり混乱しているよな。

 分かっているのは恐らくシルビアくらいだろう。


 奴隷である前に死体。

 俺の蘇生させた死体であることを知っているのはこの場では俺とシルビアだけなのだから。


 それを説明しないことには話は始まらない。


「……? 君、どういうことなんだ?」

「いや、お前は理解しておけよ。ほら、俺を除いた、お前達の共通点だよ。俺を傷つけられない条件みたいなのを話しただろ」

「……ああ! そういうことか」

「……そういうことだ。分かったら、部屋の外に音が漏れないようにしてくれ」


 シルビアが風の魔法を使う。

 俺には何も感じないが、きっとこれで外部とは遮断されたはずだ。


「さて、まずはどこから話したものかな……」


 手短に話そうと思ったものの、どこからが手短になのか分からない。

 ならば、どうせならさっさと話すことだけ話してしまうか。


「お前達はすでに死んでいる」


 そんな、漫画の主人公の決め台詞みたいな言葉を幼き少女2人に俺は言い放った。





 奴隷である前に死体。

 死体であると同時に蘇生させられたゾンビ。


 それを伝え、ついでに俺の職業【ねくろまんさぁ】のスキルなんかも教える。

 シルビアも、すでに死んでいることまでも。


 俺が異世界から来た人間っていうのはまだ伏せておいたほうがいいな。

 そこまで言ってしまうと情報過多で混乱してしまうだろう。


 伝えておかなければならないことは3つ。


 俺が【ねくろまんさぁ】であること。

 アイとシー、シルビアは蘇生させた死体であること。

 そして、蘇生させられた死体には俺を殺せない強制力が働いているということだ。


 ここで重要なのは3つ目。

 前2つは3つ目を伝えるための前置きと言ってもいい。


 今回の件で一番重要だったのが3つ目だったのだから。


「ここまでは分かったか?」

「……理解、はしましたが……すぐに信じられるようなものでは……」

「シドウ様が言ったならその通りなのですね! シドウ様は私の命の恩人に2回もなってくれたんだ!」


 アイはまだ頭を悩ませていたが、シーは納得とばかりに顔を輝かせていた。能天気でよろしいことだ。


「まあここまでを踏まえて、だな。改めてアイにはありがとうと言っておく。俺を殺そうと思ってくれて」

「ですからそれが一体……?」


 ここまで説明しても理解していないってことは、まだ自身が死体だってことを理解していないのか?


「だから、俺の蘇生させた死体は俺を殺意を持って殺せないんだよ」

「そう、つまり……操られていたアイ、君は本来はシドウを殺せていたはずなんだ」

「俺の台詞が……」


 シルビアに言われてしまった。

 溜めに溜めていた決め台詞が。


「あー、つまりだな。あの男の魔法だけなら、アイは俺を殺せていたんだ。俺を殺すという意志は魔法によるもの。アイ本来のものではないからな。だが、アイは俺の眼前にナイフを突きつけたまま止まった。なぜなら、アイは俺に殺意を持っていたから」


 それが何由来の殺意なのかは知らない。

 直前の会話なのか、それとも飯屋に行く前に宿屋でした会話がアイの中に僅かに殺意として残っていたのか。


「勿論、俺を明確に殺そうとしていたわけではないことは分かっている。心の闇。内側や裏側、なんてところに隠していたほんの少しの苛立ちみたいなものだったのかもしれない。だが、それがいざ俺を殺す行動に移った時に表に出てきた」

「そして……その殺意が私を止めた……」


 というか、殺意が少しだけじゃなかったらこの先困るがな。

 あ、いや……どの道殺せないなら困らないか。

 まあ言葉の上でならいくらでも偽ろう。


「殺意があったから俺は殺されなかった。殺意が無かったら俺は殺されていた。だから、俺はお前に礼を言うんだ。俺を殺そうとしてくれてありがとうなって」

「そんな……」


 まあ戸惑うよな普通。


 そこで不思議そうな顔をしているシーはいったい何を考えているのかは知らんが。

 料理を見ているから腹が減っているんかね。なら料理のことを考えているな

 

 早めにこの話を終わらせて飯を食わせてやるか。


「長々と話すことでもないから分かったら終わらせるが?」

「いえ……その……」

「なんだ? あるならはっきり言ってみろ」

「シドウ様がありがとう、と私に言われても、私としては気が済みません」

「だろうな。だが、俺にもお前にもこれ以上どうにかできるものじゃない。納得するしかないんだよ」


 そこに殺意があったかどうか。

 殺意の有無は日本の裁判じゃ重要視されていたっけ。

 故意か否かで大きく判決も変わる。


 この場合は殺意があったことが結果的に良かったのだが、判決じゃ重罪になるのかねぇ。


「納得……いいえ、私にも出来ることはあります」

「ほう?」

「私もシーも死体になったということは永遠を生きるも同じ。違いますか?」

「まあ、少なくとも俺が生きているうちはお前達は死なないだろうさ、これ以上はな。白魔法を使われたらどうなるかは知らんけど」


 少なくとも病気や寿命、怪我じゃ死なない体になった。


「でしたらシドウ様。あなたが生きている間は、私もシーもあなたに仕えることを誓います。私とシー、この両名を何時までもお傍にいさせてください」


 死を以て解雇。

 それを無くすってわけか。


 なるほどね。一生をかけて償うってわけか。


 くだらねえ。


「元よりそのつもりだ。俺はお前もシーも手放すつもりなんて毛頭ねえよ」

「で、では……」

「これからもよろしくな。アイ、シー」


 俺は2人にそれぞれ右手と左手を差し出す。

 

 2人は顔を見合わせる。


「手を握るのさ。こういう時にはな」


 小さな手が2つ、俺の手に重ねられる。


「よろしくお願いいたしますシドウ様!」

「やったぁ! これからもシドウ様と一緒だ!」


 今度こそ、偽りの無い笑顔で2人は笑っていた。


 しばらく急ぎの用も無い。

 明日からはゆっくりと過ごせるといいのだがな……。


奴隷少女を仲間に入れるのにずいぶんとかかってしまった……

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