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35話 アイとシー 5

「君……それは……」


 シルビアが俺の腕に抱かれているシーを見て静かに尋ねる。


 その瞳はすでに輝きを放っている。

 つまりは、【鑑定】をすでに使用している。


 ……俺が言わなくてもすでにシルビアは気がついているのだろう。


 しかし、俺は自分から言わなくてはいけない。

 それが責任、というやつだ。


 気絶したシーを、これまた気絶しベッドに寝かされているアイの横に寝かせると、


「反撃にあってしまった。俺を庇ってシーが刺された。……致命傷だったよ」

「それで、君のスキルを使ったというわけか」

「ああ。大丈夫だ、と啖呵を切って出て行ったあげくにこの始末。本当に申し訳ない」


 シルビアにはこの二人を手に入れるのに相当働いてもらった。

 グリセントとの交渉から資金集めまで。


 そもそもで、二人を見つけてくれたのもシルビアだ。


 生きた奴隷を仲間に入れるはずが結局は死人となってしまった。

 あれだけ働かせてこうなったのが自分でも恥ずかしい。


「いや、私が無理にでも付いて行ったところで結果は変わっていなかった可能性もある。君だけの責任ではあるまい」

「そう言ってもらえると助かるな」

「そもそもで、元凶が誰かと論争するのであれば、適した者がいるだろう?」


 ……そうだな。

 シルビアが俺に気を遣ってあえてこういった言い方をしていることは俺にでも分かる。


「……シーを刺した男は表で気絶させてある。今から回収してくる」

「今度こそ、私が付いて行こうか?」

  

 不安そうな顔をしてシルビアがこちらを見る。

 たしかに、俺への信頼度はこれで地に落ちたに等しいだろう。

 

 だからこそ、俺も1人で回収しに行くつもりは毛頭ない。


「いいや、やはりここをアイとシーの2人だけにするわけにもいかない。だが、俺も1人では行かない」

「……では誰が?」

  

 とは言いつつも、シルビアは廊下へと続く扉を見やる。


「そりゃ、こいつでいいだろ。大の男が2人だ」


 俺が宿屋の部屋と廊下を隔てる扉を勢いよく開けると、


「うわっ!?」


 扉にもたれかかって聴き耳を立てていたその人物は扉が開かれるとそのまま室内に転がり込んできた。


「話は理解しているな? 行くぞ、宿屋のオッサン」


 恐らくは血まみれになったシーを見て興味本位で盗聴していたのだろう。

 勇者の剣の時にも思ったが、客のプライバシーはどうなってんだこの宿。


 俺が冒険者であることを鑑みても、子供が血まみれになっているのは誰でも気になるか。


「え、あ、いやぁ……ハハハ」


 多分だけど、シルビアもオッサンが部屋の外にいることには気がついていた。

 だからこそ、蘇生スキルなんてことを言わずに『俺のスキル』なんて言い方をしていたのだ。

 俺もそれに気がついたから、シルビアの【鑑定】について何も言わなかった。

 そもそもで、シーが死んだことすら言わない。刺された、とまでしかオッサンには情報として伝えない。


「こいつを刺したやつがまだ外にいる。宿屋を経営しているアンタにとっても重要なことだろ?  客を刺した荒くれ者を宿屋の主人が捕まえた。良い話じゃないか。なぁ?」


 盗聴していたことについて触れずに、あえてオッサンに利益のある言い方をする。

 これでオッサンは俺に逆らうことはできないだろう。


 逆らったが最後、次は客の部屋に聴き耳を立てる宿屋の主人と俺が広める、と言外で脅しているのだから。


「……そうだな。お客様にそのような狼藉を働いた悪漢を放置してはおけない。よし、私も付いて行こう!」


 と、思っていたら予想外に名声の方へと食らいついてきた。

 まあこちらの方が分かりやすいし、後々に禍根を残さないからいいが。


「ロープはあるか?」

「馬を繋ぐような荒いものなら」

「それでいい。むしろ丈夫に越したことはない」


 多少肌に食い込んだとしてもそんなの構いやしない。

 むしろ殺されないだけ有難く思ってもらおう。


 およそ数分後、未だ気絶している男をオッサンと2人で縛り上げると、部屋に戻ってきた。


「オッサンはもう戻って良いぞ」

「いや、遠慮しなくていいぞ。私もこの男を見張っていることくらいなら出来る」


 フフン、と胸を張ってドヤ顔をしているオッサンだが、


「お前が遠慮しろや。オッサンは見張っていることくらいしか出来ないんだから、それくらいなら俺たちが片手間に出来るんだよ」

「安心してほしい。後に衛兵に引き渡す際には主人のことを伝えておくのでな」

「ええー……なんだよもう……」


 俺が除け者扱いし、シルビアにそう諭されると、オッサンはすごすごと自室へと戻って行った。


「もし私の力が必要になったら何時でも呼んでくれよなー!」

「……」

「……」


 扉越しにそんな声が聞こえたが、俺とシルビアはあえて無視する。

 というか、仕事していろや。


「……まだ目が覚めないのか」


 シーもそうだが、アイもまだ起きない。

 ……ずっと奴隷だったし、疲れていたのかね。

 なら朝までぐっすりかもしれんな。そこまで寝かせる気はないが。


「さて、そしたらこれからのこと……これからのことについて話すかね」

「そうだね。彼女らには聞かせられないこともあるだろうし」


 そこまでゲスい話をするつもりはないが?


「しかし、殺さないとは思いの外、君も人の心を持っていたのだな。気絶させた後にそのままナイフで滅多打ちにすると思っていたよ」


 ……どんな凶悪犯だよ俺は。


「殺しちまったら勿体ないだろ。だって、この一件をあいつだけの責任にするつもりは無いんだし」

「……ふうん?」


 シルビアだってすでに理解しているはずだ。


 俺がこの男を生かしている理由を。


「今俺達は、俺、シルビア、アイ、シーの4人だな」

「君を除けば死者だね」


 シルビアがこの言い方をしたということは外にオッサンはもういないのだろう。


「なあシルビア、5人目、欲しくないか?」

「5人目……?」


 賢いシルビアのことだ。

 ここまで言えば十分だろう。ここ数日俺と共に過ごしていたのだから俺の本性もとい俺の考えも理解しているはず。

 ……と思っていたのだが、予想に反してシルビアは顔を赤くし、体をもじもじとよじらせ始めた。


「その……5人目もなにもまだ1人目すらいないだろう……?」


 あぁ?

 1人目……?


「いや……その……まだ私達はそういう関係ではないのだからさ。いや、君が子供が欲しいのであれば私としてもやぶさかではないよ?」

「ちげえよ!  仲間の5人目だよ!」


 やっぱバカだわこいつ。


「俺達がアイとシー、本来の目的である生きた仲間を手に入れられなかった原因。その大元はどこだ?」

「それはシーを刺した男……ではないな。アイをも含めるのであれば、そうか……君はそっちに吹っかける気なのだな?」


 こんな下っ端に金をせびったところで大した金額は取れないだろう。

 同時に、こんなやつの命もいらない。


 ……まあ、精神魔法とかいう使えそうな魔法は欲しいけどな。


「いっそのこと殺しちまって、俺の手駒としてあいつのとこに行くっていう手もあるんだけどな」

「それは乱暴だな……」


 さて、時間は遅い。

 しかし、店の性質上まだやっているだろう。


「行くぞ」

「今から行くのか? もう店じまいの時間になるはずだが」


 奴隷を売っているくせにかよ……。

 闇の職業っていうかさ、裏稼業みたいなもんだろ。

 むしろ人目を憚って深夜に訪れる客もいるはずだろうに。


「……むしろ客が減っている時間なら好都合だろ。アイとシーは無理矢理にでも起こす。当然、この男もな」

「なら私がアイとシーを起こそう。少なくともアイが今どのような状態かは測りづらいからね」

「ああ、頼む」


 こうして俺とシルビアはそれぞれ起こしにかかった。


「おらっ、起きろ!」

「ぐあっ!?」


 俺は男を蹴り飛ばし、


「アイ、シー、そろそろ起きようか。出掛けるよ」


 シルビアはアイとシーの肩を揺さぶった。

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