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33話 アイとシー 3

 奴隷を縛り付けるためには、やはり金や命を握るなど逃げ出させないことが大事なのだと言う。

 というか、奴隷を縛る魔法というものが存在しないため、いかに裏切らせないかが奴隷の主人の腕の見せ所らしい。


 奴隷が主人に心酔して自分から望んで仕えているならそれが一番。

 だが、それは一番であると同時に最も難しい。奴隷として仕えさせる経緯とその目的が奇跡のような巡り逢いで無ければ成立しないからだ。


 だから、次の関係が奴隷を持つ主人と仕える奴隷としてでは最も多い。

 賃金、もしくはそれ以上の逃げ出せないという負荷と枷。奴隷自身が逃げれば今以上に苦しむことを理解しているならば、今の環境がマシだと思えるのなら、逃げ出すことは無くなる。

 主人を殺すというのも同様だ。

 この世界の主人殺しの罪は重い。死罪確定。死刑執行。

 よほどの恨みが無い限りは主人に対して牙をむくような犬っころは出て来ない。


 まあ、恨みを買うような主人は得てしてそれ以上に強い奴隷や護衛を雇うことで反乱を防いでいるらしい。そいつらの待遇は良くすることで、強い奴隷は裏切らせなくし、なおかつ待遇の差によって、弱い奴隷を抑えつけさせる。


 俺が奴隷を買った時にグリセントに聞いてみたことがある。


 こいつらが俺に懐かなかったらどうすればいい、と。

 その答えは無情だった。


『好きなようにすればいい。奴隷はその命の選択権も、生死も全てお前達奴隷を持つ主人に預けているのだ。それで懐かない、言う事を聞かない、では契約違反である。対価がすでに存在している以上、奴隷は奴隷でいるべきなのだ』


 と、答えになっていない分かりにくい返答があった。


 まあつまり、懐かないのなら懐くようにしろということだな。

 無理やりにでも、強制的にでも、強迫的にでも。


 シーを懐柔するにはアイという存在が不可欠であった。

 だが、アイを懐柔するにはどうすればいい?

 まだ話は纏まっていない。

 シルビアによって一時的に、話を後回しにしたようなものだ。

とりあえずは信用してやろう、それがアイの態度である。


 だがまあ、すぐさま逃げられることはない。その前にシーを説得しなければならず、俺に懐いてしまっているシーが俺から離れることは至難である。まして、俺を殺すとなればそれはアイだけの問題ではない。

 というか、不可能と言ってもいい。

 シーには可能かもしれないが、アイに俺を殺すことは出来ない。それこそ事故にでもならない限りは。

 意図的に俺を殺すことなど出来ないのだ。


 そんなことを、アイに眼前にナイフを突きつけられている俺はぼんやりと思ったのであった。


「……で? ここからどうするんだ?」


 あと少し。数センチで俺の顔面に刺さっていたであろうナイフはしかし、アイ自身の力によって止められている。


 奴隷を縛り付ける強制力はない。


 だが、俺が生き返らせた死体には俺を殺せないという強制力がある。


 奴隷ではなく死体。俺を殺せないのは俺の真の配下である証拠だ。


「な、ぜ……体が動かない……? ……いえ、勝手に動いた?」


 アイの目は挙動不審に泳いでいた。

 まだアイにもシーにも、俺が【ねくろまんさぁ】であり、アイが死体であることを伝えていない。この姉妹は病で臥せっていたアイが仮死状態になり、それを俺が治したと思い込んでいる。まあ俺がそう伝えたんだけどな。

 だから死体の強制力を知らないのだから、俺を殺せないことに不思議がっているのは分かる。

 分かるんだけどな……。

 なぜ、アイは俺を殺そうとしたのか。それが問題だ。





 俺達はどこか旨そうな匂いのする店に入ろうと街を探索していた。

 狙い目は裏路地。そういうところの隠れた名店でこそ、食べて飲みたい気分であった。


「今日はめでたい日だからな、たくさん食べろよ」

「シドウ様……はい! 私もシドウ様に出会えたこの日を一生忘れません」


 シーは何やら嬉しそうに俺に抱き着く。


「……そうですね。食べることに関して、私達はシドウ……様に面倒をかけてもらわなくてはいけません。ここは遠慮せず頂かせてもらいます」


 アイも小さく肯定した。


「君にもそういう人間じみたところがあったのだな。うん、そういうところを前面に押し出していってほしい」


 なぜだかシルビアも頷いている。

 

 みんな嬉しそうだ。俺も嬉しい。


 しかしはて、俺は教えただろうか?

 今日が俺の誕生日だということを。

 めでたくも今日は俺がこの世界……ではないどこかの世界に生誕した日だ。


 ……計算合っているよな?

 どうもこっちに来てから曜日感覚が無いから曖昧だが。

 こっちの世界に来た当日、シルビアを生き返らせた翌日、奴隷商会に行った二日目、そして今日の三日目。

 

「いやぁ、なんてめでたいんだ今日は」


 これまで俺の誕生日を共に祝ってくれる者はいなかった。

 本来ならばいの一番に祝ってくれるはずの両親がいなかったせいで、周囲に別に吹聴するのもなと思った俺は静かに1人で誕生日を祝っていた。まあ普段よりも少しばかり豪勢な飯にしているくらいだが。

 周囲の者に尋ねられれば答え、それが近い日であれば祝いの言葉を貰ったこともあったが、それも数日経てば忘れられる。俺個人にとって思い入れのある日であっても、他人からすれば何でもない日常のひとさじだ。俺も特段気にせずに毎年同じ様に豪勢な夕食を1人で食べるのみであった。


「楽しみです。シドウ様はどのようなものがお好みなのですか?」


 シーが俺に尋ねてくる。

 何気ない会話を装っているが、その表情は真面目なもの。


 そういえばこの奴隷2人は家事やらを任せるために買ったんだった。

 俺の飯の好みを知っておくのはこいつらの仕事にとっても重要なことか。


「そうだな、俺は何でも食べるぞ。野菜に魚に肉、何でもござれだ。きのこ類は少しばかり苦手だが、焼いたやつだけは食べられる」

「なるほど……私もお肉は大好きです! お魚も……。お野菜はあまり食べませんが、シドウ様のためにも頑張って食べます」

「おう。たくさん食べてたくさん成長しろよ」


 その貧相な体をちっとは成長させて俺の目の保養になってくれ。

 見比べてもアイとシーの体つきはほとんど変わらない。胸は等しく平らだ。


 正直、こいつらの裸を見ても何にも嬉しくないと思う。


「アイ、お前も食べておけよ? まだ病み上がりだが、だからこそ体力を付けるためにも食べて、少しでも回復のための力にしろ」

「……はい。その、……先ほどは失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした」

「あん?」

「命を助けていただき、それだけでなく私達にこのように優しくして頂いて。よく考えればシーが信頼しているということは悪い方ではないということ。あの時は冷静ではありませんでした。言い訳するわけでは無いのですが、重ねて謝らせてもらいます。そして、ありがとうございます」


 アイが深々と頭を下げる。


「……? ありがとうございます!」


 つられてシーも頭を下げている。

 こっちは何のために言っているかは理解していなさそうだ。


「あー、まあ俺は気にしていないさ。別にあのくらいの反応なら正常だと思っている。もっと、発狂されないかと警戒していたんだからな」


 弓使いみたく叫ばれたら宿屋の他の客や主人のオッサンに睨まれてしまう。

 それでなくとも目立つ金髪のシルビアを引き連れているんだ。マスクで顔の一部を隠しているとはいえ、それでも見えている部分からある程度の造形は分かってしまう。

 おそらく美人のエルフと双子の奴隷。それを連れている俺。相当ヤバいやつだと俺はすでに思われているだろうな。


 そして、それは宿屋だけでなく、この場でもだ。


「とりあえず店に入るか。話はそこでいくらでも聞く」


 双子の少女に道端で頭を下げさせている。

 傍目から見ればどこまでゲスな男なのだ俺という男は。

 勘違いされないうちにさっさと店を決めて入ってしまおう。





 店を決めてしまえば後は早かった。

 全員の希望の合致する店は結局は酒場のような店であり、そこでつまみのような小皿と肉の乗った大皿を頼み、酒以外の適当な飲み物を注文した。


 脂の乗った肉は生に近い触感であったが、どこまでも甘く噛むたびに口内に肉汁が広がっていく。

 シルビアは主に果物や野菜を食べていた。

 エルフだからか?と思い聞いてみればそうではなく、単に好みの問題であった。俺は生野菜は怖かったので一口たりともサラダらしきメニューには手を付けなかった。アイとシーにも今後野菜を使う食事には火を通しておけと伝えておいた。


 アイとシーは肉を中心に食べていたため、メニューにあった肉料理の大半を頼んでやった。それだけで2人の笑顔は増えていく。アイは控えめな笑顔で、シーは口の周りに肉のタレを付けていたもので、シルビアはそれを苦笑しながら拭き取ってやっていた。


 と、雰囲気も良好。

 2人とも手懐けられたかなと思っていたのだが、俺の発した一言がアイを激怒させたようだ。


「アイとシー。そういえば聞きたいことがあったんだが」

「はい」

「何でしょうか?」


 単なる流れで聞いた会話の1つであった。

 時と場所を選ばなくもないが、別に今この場で聞こうが後で聞こうが支障のないもの。


「お前達は自分達を捨てたという両親を探したいか? もし探したいっていうのなら協力してもいいが」


 その瞬間、シーが悲しげな顔をして俯いた。

 それを見たアイが手元にあった肉切り用のナイフを手に俺に襲い掛かったのであった。


 そしてアイの動きは強制的に止められる。

 主人である俺を殺すことの出来ないという死体に課せられた枷によって。


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