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31話 アイとシー 1

「ふむ。確かにこちらの提示した金額を持ってきたようだな。多すぎず少なすぎない、丁度だ」

「おかげですっからかんだ」


 グリセントは金を数えながら机に並べていく。

 小銭が多いため、机いっぱいに金は広がる。


 俺の財産は今日明日を生きるくらいの金しか残っていない。

 雑魚冒険者は雑魚らしく大した金を持っていなかったし、自称勇者君に至ってはこの世界に来たばかりだったのか日本円しか持っていなかった。

 つまるところ、あのクエストでの臨時収入は強化された死体のみ。

 将来的にはありがたいものではあるのだが、今の俺には全く役立たん。


 シルビアの稼いできた金と合わせてみればほんの少し上回った程度の金にしかならなかった。

 驚いたことにシルビアの稼いだ金は俺とそう変わらない。まあ二手に別れたのだから半分ずつ集めてくるのは当たり前なのだが、俺のように冒険稼業でない稼ぎ方ってのは本当にどうやったのか、不思議だ。


「良く集めてきた、それでこそ彼女らを託すに相応しい……と、本来は言いたいところなのだがな」


 机に並べられていた金の半分を袋に入れると、グリセントは俺に渡してきた。


「これは受け取れない。俺が受け取る金は半分のみだ。それ以上受け取ることは、俺には出来ん」

「……? 何を言って……」


 グリセントの言葉に一瞬だけ疑問を持ちつつも、すぐにその意味を俺は悟った。


「おい、どういうことだ。私達は言われた通りに金を集めてきたんだぞ。約束通りに、彼女たちを売ってくれるのではないのか?」

「シルビア」


 グリセントに詰め寄るシルビアを俺は止める。

 双子の奴隷を売る。それはもうグリセントには不可能なのだ。


「……間に合わなかったんだな」

「ああ。今日の朝にな。姉の方……アイが病気で死んだ。精神的なストレスで悪化が思っていたよりも早かったようだ」

「そんな……」


 シルビアが崩れ落ちる。その瞳は濡れていた。


「ふん。一度、それも短時間のみ会話したくせに情でも湧いていたのか? だが、俺はお前たちに残念だったなと言うつもりはない。今朝死んだのなら、昨日すぐさま買えば良かったのだと思うだけだ。金は命すら救う。だから常に用意しておかなければならないと学習する良い機会だな」

「貴様!」

「だから、止めろってシルビア。そんなことしていたって時間の無駄だ」


 もう一度シルビアを止める。


「それよりも、だ。俺から1つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」


 これは昨日から思っていたことだ。

 アイとシー。彼女たちに対する疑問。


「なぜあの二人は自分たちを買い戻さなかった? 借金を背負っているわけではない。それなら、出て行こうと思えば出ていけたはずだ」


 まあ大方の予想は付いている。

 だからこれはただの答え合わせ。


「そんなことか。もっと大層なことを聞かれると思ったのだがな。まあいい、俺の管理不足で奴隷が死んでしまった部分もある。だからその分は答えてやろう」


 グリセントは懐から1つの小包を取り出す。

 そこには俺の渡した金の半分より少し少ない程度の金が入っていた。


「まず1つ。勘違いしているかもしれんが、奴隷業は何も買った値段と売る値段が同額なわけではない。まあ、それは全ての商売に言えることだがな。俺の儲けが少なからずそこには介在する。だから、奴隷が自らを買い戻すことなど普通は出来ん」

「だが、あの子達は病気で価値が下がっていた」

「ああそうだ。だから買い戻すことは出来た。むしろ釣りが少し出るくらいには下がっていたとも。だがな、そこから外に出たところであいつらに何が出来る? 売れない奴隷としての人生はこれから何の足しにもならない。むしろマイナスだ。だから、奴隷は僅かな希望にかけて最後まで売れることを願って、檻の中に自ら入り続けているんだ」


 ま、そんなとこだろうな。

 予想通りだ。


「そうか。なら、予定とは違うが残りの方を俺に売るってことでいいんだな?」

「ああ。それは守ろう」


 グリセントの掌に乗りっぱなしであった金の入った袋を俺はようやく受け取る。

 と、同時に俺はグリセントの手をきつく握る。


「だが、俺は奴隷を2人とも買いたかった。それは昨日言ったな。そしてお前は結果的にはそれを守れなかった。これは事実だよな?」

「そうだな。それに関して俺は言い訳しない」

「だから、だ。俺のお願い事を1つ聞いてもらってもいいよな?」





「うっうっ……アイ……」

「ほら、もう泣くな。これからは私達と生活するんだ。そう悲しい顔をされるとこちらまで落ち込む」


 残った双子の奴隷の片割れ……シーをシルビアが慰めている。

 場所は移って俺達の泊まる宿屋。

 少し手狭になってしまったが、宿屋の主人には嫌な顔をされただけであった。

 昨日、俺に迷惑をかけたことを蒸し返されたくはないのだろう。

 だから、シーが増えても値段はそのままだし、


「さて、アイを弔ってやるか」


 アイの死体を俺が部屋に運び込んでも何も言わせない。


「しかし穏やかな死に顔だな」

「ああ。残していったシーが自由になれると分かっていたからだろうな」


 俺はまだ俯いているシーに金を渡す。


「それはお前とお前の姉が自分を売った時につくった金だ。お前はさっき、いらないと言って俺の奴隷になることを許諾した。だが、俺は別に永遠に縛り付けておくこともない。自由な時間だって与えてやるつもりだ。その金はその時にでも使え」

「……お小遣いってこと?」

「そうだ」


 まあ定期的に賃金は与えていくつもりだがな。

 今のうちから労働の喜びを知っておけばより俺に従順に働いてくれることだろう。


「じゃあ、アイにお供え物でも買おうかな……」

「……はあ」


 重症だなこりゃ。

 たぶんしばらくは吹っ切れない。


「なあシルビアさんよ」


 シーから少し離れるとシルビアに手招きする。


「どうした」

「……シーのことなんだがよ」

「ああ」

「……耳とか尻尾って触ったら怒るかな?」

「……はあ?」


 言うが早いが俺はシーの耳を触り、尻尾を握った。


「んっ……」


 すると、少しばかりの反応を得られることに成功した。

 悶えるような、何かを我慢している感じである。


 さわさわ、と俺は続ける。


「んっ……んっ……」


 シーは俺を睨もうとして、止める。

 感情を押し殺して、アイのことだけを考えるようにしているみたいだな。


 それならこっちは俺のことを考えるようにさせるまで。

 お前が止めろと言うまで俺は触るのを止めない!


「ふははー」

「止めないか」


 パッとシルビアの手がシーを守る。


「何するんだよ」

「君のやりたいことは概ね分かったが。……うん、何となく駄目だ」

「んー、じゃあ違う手を使うか」


 今の感触でシーがこちらに心を閉ざしていることが分かった。

 こりゃ、さっさと終わらせてやった方がいいな。

 そのために俺はグリセントからアイの死体を貰って来たんだからな。


『なあグリセントさんよ。俺のお願いなんだがなぁ』

『早く言え。だが、値下げはせんぞ。これでも最初に設定した金額から2人纏めての値段の半分という金額にまで下げてやったんだ。これで払えなければさっさと帰れ』

『いやいや。俺はさ、オマケをくれって言いたいんだ。ほら、お前にとってもう不必要なものがあるだろ? 商品としての価値が完全に失われたものが』

『お前、まさか……』

『ああ、分かっているんだったら話が早い。アイの死体をよこせ。俺がシーに弔わせてやる』


 こんな感じの会話で俺はグリセントからアイの死体を貰うことが出来た。


「なあシーよ。お前はこれからどうした?」

「……」

「……」

「……」

「……えいっ」

「ひゃっ!? っ!? ……」

「ハッハッハ! そうだもっと俺を睨め。そうしてアイだけに思考を傾けるのを止めるんだ」


 おっと、これ以上はシルビアにまた怒られる。


「アイとシー。俺は最初、お前達2人を買うつもりだった。シルビアの目は特別性でな、2人の潜在能力が凄まじいと分かったからだ」

「おい君、そう真正直に伝えなくても」

「いいんだよシルビア。こんな過去だけしか見ていられないガキに俺は優しくしてやるつもりはない。なあシー、いいか? 俺はお前達の肉体的な面でしか評価していない。どれだけ姉想いでも妹想いでも、心優しくてもそれは関係無い。お前達が優秀だから俺は買おうとしたんだ」

「……」


 聞いていない、というわけではないだろう。

 俺の言葉に反応するように狐の耳は動いている。

 そして、怒っているのだろうか? 尻尾がピンと立っている。


「だが、メンタルってのも確かに大事だよな? やる気ってのは誰かに言われて起きるもんじゃない。自分から立ち上がっていくもんだ。お前のやる気にアイが必要っていうのなら俺は叶えてやるよ」

「……?」

「俺がアイを再びお前と一緒に遊ばせてやろう。それを叶えてやる術が俺にはある。だが、それは無料じゃぁない。俺はお前を買ったが、アイを買っていない。アイを生き返らせるのは可能だが、それはやらなくてはいけない理由にはならない」

「本当に、出来るの?」


 言葉が返ってきた。

 これは……もう少しだな。


「出来るさ。俺は仲間には嘘は付かない。そう、仲間にはだ」

「でも、私は奴隷……」

「奴隷だって俺は等しく仲間として扱ってやるさ。大事なのはお前が俺の奴隷に相応しいかどうか。俺の奴隷たらんとするかどうかだ。そうやってふさぎ込んで俺から心を遠ざけようとしているってんなら、残念ながら仲間とは言えないよなぁ?」


 シーは振り向いて俺の目を真っすぐ見た。


「どうすればいいの……いいのですか?」

「簡単だ。『私とアイはシドウ様の奴隷です』、これを言えばいい。俺に忠誠を誓え。俺に尽くせ。俺に傅け。俺を主人と思うのなら、それでいい」

「分かりました。……私とアイはシドウ様の奴隷です。未来永劫あなた様に誓……います。だからどうか、どうか、アイをまた私と一緒にいさせてください」


 シーはこちらに向けてひたすらに頭を下げる。

 一生懸命さがこちらにも伝わる。


「よく言った。それでこそ俺の見込んだ奴隷だ」


 正しくはシルビアだが。


――【フリーリバイバル】



 さて、偉そうに講釈垂れていたが、これでアイが蘇生できるかは半々。

 肉体的には生き返るだろうが、精神がどうなるか。

 それは、アイの心の強さ次第だ。


思ったよりも悪役ぽくなっちゃったな

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