30話 勇者の剣 5
「ふうん、君の言っていた洞窟の巨人の話は本当だったんだ」
本日の一部始終を話し終えた俺への感想がそれであった。ちなみにコボルドの群れに突っ込んだことは黙っておく。
あくまで、勇者に出会って、闘っていたコボルドが怪物に進化して、勇者が死んで、俺がその後倒したという結果のみを話している。その後、街で起きた鬼ごっこも合わせて話をして、勇者の剣について聞こうという考えである。
だが、シルビアはそれよりもジルについての興味がおありのようだ。
シルビアさんよ、アンタいつから俺のことを嘘つきだと思っていた?
「疑ってはいなかったけどね。少し大きい人間を巨人と見間違えているのだと思っていたよ。だって、あの巨人だ。御伽噺の世界の住人、とまではいかないまでもドラゴンや魔人と同列に語られる存在なのだから」
「へえ、あいつがなぁ」
そんなすごいやつだったとは。
まあ強かったけど。今のとこ、俺の出会った中では最強か? 次点はあの怪物だけど、両者の中の力量の差は歴然である。
「巨人はその絶対数も少ないからね。個々がその分強くなっているのさ。……まあ、その話から推測するに洞窟のはその中でも破格の強さと言えるよ」
「破格ねぇ。まあそんな洞窟の巨人さんも今じゃ俺達の仲間だ。安心して今度会ってみろよ」
「君がいるならそうだね、私も一度話はしてみたい。エルフ並みに長寿の巨人だ。得られるものは大きいだろう」
「向上心豊かで結構。そんじゃ、奴隷を買った後にでも会いに行こうや」
奴隷共があの図体のデカいジルを見てどんな顔をするか。それも楽しみだ。
「それで、剣だったね。話を聞いただけでは私にも見当が付かない。見せてくれないか?」
「ああ。こいつだ」
アイテムボックスから勇者君から譲り受けた剣を取り出す。
鞘に入れてあるため、シルビアにそのまま渡すと、シルビアは剣を抜き、その刀身をジッと見つめた。
ものの真価を見通す【鑑定】。そのスキルの力で剣にどのような効果が付与されているのかをシルビアは見ているのだ。
「……」
俺はその間暇だから【鑑定】しているシルビアの様子を見ることにした。
相変わらずの宝石のように輝く金の瞳だ。
きっと取り出して保存液の中に入れたら金持ちに売れること間違い無しなんだろうなー。
なんて、思っていると、【鑑定】は終わったようでシルビアは剣から顔を上げた。
「……中々面白い効果だね。なあ君、1つ確認したいのだが」
「なんだ?」
「その勇者とやらは、この剣の本来の持ち主とやらは、女性に好かれそうだったかな?」
なんだそりゃ。
変な質問だな。
自称勇者君が女にモテるかどうか……。
まず、容姿はというと、顔は普通だな。髪はボサボサと伸ばしていたが計算されたものであった。ワックスでわざと髪を立たせていたなありゃ。あと眼鏡。総じて高校デビューした陰キャってイメージだったんだっけか。多分、眼鏡は怖くてコンタクトに出来なかったんだな。
性格は周囲を助けようとするけど、1人で突っ走るタイプ。それで失敗する。結果的に周囲に迷惑をかけてしまう厄介なやつだ。今回だって、コボルドを怪物に進化させたのは勇者君の介入のせいだし。そして、本人に悪気が無いのがなおのこと質が悪い。委員長とかやらせたら空回りしまくって学級崩壊起こしそうだ。
これらから総じて判断すれば、
「あいつはモテないだろうな。俺としちゃ、友人にすらなりたくないわ」
規律を重んじる真面目君。きっと空気を読まずにいると俺は見たね。もう死んでるから関係ないけど。
「そうか。それならば納得だ」
「何を1人で納得しているんだ。いいから俺にも説明しろ」
シルビアはうんうんとドヤ顔で頷いている。
頭ひっぱたいてやろうか?
「まあ、その前に1つ。君、ちょっと手を出してくれ」
「……? こうか?」
手をパーにしてシルビアに差し出す。
「そうそう。そのまま動かないで……って、動かないでって言ったのに!?」
シルビアがやろうとしていることに気づいた俺はすぐさま手を引っ込める。
「アホか。何でその剣で俺の手を斬ろうとしているんだ。それで斬られたら頭がおかしくなるのは俺だって知ってるんだ。というか、すでに被害者だ」
「悪い悪い。つい出来心で」
シルビアが剣を鞘に納めてこちらに渡してくる。
俺は警戒しながらもそれを受け取ると、アイテムボックスに仕舞う。
……ん? 何でシルビアは俺のことを攻撃出来たんだ?
【フリーリバイバル】はいくら自由になれるとて、主人である俺を攻撃できないはずなのに。
「……出来心ね。とりあえず剣の効果を話してみろ。罰はその後与えてやる」
「本当に出来心だったんだって。それに、1時間だけだ。その間、君はとてつもない性欲に襲われるだけなんだよ」
「せいよく……? それってあの三大欲求の性欲?」
うん? 何でそれが今出てくるんだ。
闘いにおいて死ぬ間際に子孫を残そうとするみたいな話じゃあ、なさそうだな。
「もしかして、あの剣には性欲を増幅させるって効果があるのか?」
戦闘にクソほども役立たなさそうな能力が?
まさかの世界を救う役目を果たすべき勇者に?
「ああ。【発情】、と剣のスキル欄には記されていたよ。斬った相手の性欲を爆発的にまで増幅させる。君がこれまで斬った相手にそんな徴候は無かったかい?」
「徴候って言われても、俺は追いかけられただけだし……」
いや、待てよ。
コボルドに掴まった時、俺は全裸にされかけた。てっきり、俺が抵抗するから大人しくするためにやっているんだと思っていたが、よく考えれば意味不明だ。服あったって無くたって殺す分には関係ない。俺は男だし。
宿屋のオッサンに追いかけられた際には俺は掴まらなかったから何もされていないのだが、ゴレンは鎧を脱がされていた。ついでに言えば、下着姿にされていた。俺は男のパンツなんか見たくも無かったので目を逸らしていたがな。
……なるほどな。同性すらも襲うほどの性欲の増幅。
これ、勇者の使う武器じゃねえな。
もっと、悪役の使うやつだわ。貴族とか。
「貴族とか持ってたらやばいやつだよな」
「偏見に過ぎる、とは言い切れないのがどこの国にも腐った貴族がいるせいだけど。それでも、貴族だけでなく、誰が持ってもこのようなスキルを持つ剣を放ってはおかないだろうね」
ならばこの剣を売るのは止めておくか。
俺の蘇生させた死体には効かないだろうが、俺の知り合いの女に使われでもしたら胸糞悪い。
「そんじゃ、アイテムボックスの肥やしにでもしておくわ」
「うむ。しっかりと封印しておいてくれたまえ」
効果的にはジルの洞窟に預けるのも手なのだが、まあ俺が使いたくなるかもしれないからな。それらしいことを言って俺が持っておくのが一番。
「……それで、だ。そんな性欲爆発剣をなんで俺に向かって使おうとしたのかなぁ? というか、何で俺に剣で攻撃出来たのかなぁ?」
「う……忘れてなかったか。……まあ、ジルとやらがいずれ気づくだろうから言っておくか。他の【フリーリバイバル】を使った死体に君がやられるのも何だしな」
「シルビア以外にも出来ることなのか」
「まあね。これは気持ちの問題だ。君を害そうとするかどうか。たったそれだけのことなんだ」
「俺を殺そうとか思うかどうかってことか」
ジルに試しで俺を攻撃できるかやってもらった時は、ジルは動きを止めていた。
それは俺に殺意を持って攻撃したからだろう。さすが武人。主人である俺に殺意を持てるとは。
「そして私が先ほど君を斬ろうとした時、私は君の溜まりに溜まった性欲を解放させてあげようという奉仕の精神を持って行った。これは善意からのものであり、だから私は君を斬ろうとすることが出来た」
「つまり、これから先俺が気を付けなくてはいけないことは……」
俺が死ぬことが俺のためだと思うやつに対してか。
全部が俺のため。そういったやつの行動こそ俺は気を付けなくてはいけない。
「そう、意図無くして君を攻撃する者だ。例えば、敵を攻撃する際に君が巻き込まれてしまうなんてこともあるかもしれない。攻撃対象が君だと気づいていなければ、君に対しての攻撃は可能なんだ」
「あれ、そっちか……?」
「え……?」
いや、確かにそっちも考えはしたが。
重要性でなら意図があって俺を攻撃できるやつの方がヤバいだろう。
俺は自分の考えをシルビアに話した。
「なるほど。そっちの考えもあるか」
「というか、シルビアの話からだと普通、こっちが思いつくんだが」
「……てへ」
無駄に可愛いが、イラつくな。
舌を出すな。ウインクするな。
ジルといい、無意味にキャラ変してくるんじゃねえ。
「さて、そろそろ寝ようか。ざっと見たところ奴隷のあの子たちのお金は足りている。明日、早朝から行くのなら早く寝て体力を取り戻しておいた方がいい」
「そうだな。お前はともかく俺は生身の体だ。しかも運動して疲れた。……って、ちょっと待て。話はまだ終わっていない。寝ようとするな」
ベッドに潜り込もうとするシルビアの腕を掴む。
思っていたよりも柔らかい。二の腕って女の胸と同じ柔らかさって都市伝説なのだろうか。ふとシルビアの薄い胸を見てそう思う。
「俺を剣で刺そうとすることが出来た原理は分かった。だが、俺を指そうとした理由はまだだったよなぁ?」
「誤魔化せたと思ったのに……」
「さーて、じっくり、ねっとり、たっぷりと聞かせてもらおうかねぇ。夜はまだまだ長いぞー」
その後、魔法を使うための魔力が回復傾向にあったシルビアは俺の健康のためにという理屈で眠りの魔法を使い、俺を強制的に熟睡させたのであった。眠かった俺にその魔法はダイレクトに効いた。……いつかちゃんと理由を聞いてやるからな。
そんなわけで、奴隷商会に赴き、クエストを受け、街中で鬼ごっこをした一日は終了したのであった。




