27話 勇者の剣 2
何時の間にか評価が3つも入ってた
ありがたやありがたや
「なんとびっくり。俺は勇者だったのかー」
思い返してみれば俺の性格って勇者向きだものな。
人を愛して正義を貫く。愛と人情の体現者。
やっぱり分かっちゃう人には分かっちゃうかー。
『随分とまあ、棒読みだな……』
でも1つだけ、そんな正義で勇者な俺にも問題が。
勇者にいくらなりたくてもなれない。
人を救いたくても救えない、致命的な欠点が俺にはあった。
「俺の性格はともかくとしてさ、スキルは勇者向きじゃなくね? 蘇生させた強化死体を魔王とやらに突撃させまくればいいのか?」
これならば犠牲は最小限で済むな。
役に立ったならば、【フリーリバイバル】で意思ごと蘇生させれば元の生活に戻せるし。
『スキルよりもその性格にこそ問題があると我は思うがな……。だが、確かにスキルも問題だ。そもそも、黒魔法というものこそ魔王が極めるもの。勇者は光魔法にこそ適正がある』
「黒魔法の次は土に適性があるらしい。まだ使えないけど」
『あるとは誰が言っていたのだ……? まあそれは後で聞くとして。そうだな、魔王を倒す手段はこの際どうでもよいというわけではないだろうか。お前が魔王を倒す未来と、魔王がこの世界を支配する未来。想像してみるといい』
「ふむ……」
俺が魔王を倒す。その過程で蘇生しまくった死体がそこら中に溢れる。俺はそこで延々と守られながら死体に命令して各地の強敵を倒せる。
魔王が世界を支配する。きっと魔物が溢れて人間が殺されまくるのだろう。そして死体がそこら中に溢れる。
『あ、待って。やっぱ今の無し』
「おい」
『何故だろう……お前と魔王のどちらが勝とうともこの世界に死体が溢れる未来しか思い浮かばなかったのだが……』
俺もだ。
笑っているのが俺か魔王かの違いだ。
『だが……うーん……それでも、五十歩百歩ではあるが、お前が魔王を倒せばそれ以上には魔物による被害も抑えることが出来るはず。譲歩するならやはりシドウにこの世界を託す他ないのだろう』
「俺が世界中の人間を笑顔にする未来は見えなかったのかねぇ……。そこまで悪逆非道なことをやった覚えはないぞ」
と、いうか俺が魔王を倒す前提で話が進んでいる。
そもそもで倒すのがめんどいから辞退したいのだが。
「案外、魔王と意気投合しちまったりしてな……」
『本当に有り得そうだからそれだけは止めて欲しい……。さすがに勇者が寝返るとかこの世界の神も嘆くぞ』
「へいへい。まあ俺は平穏に生きていたいだけだから、魔王と関わることも勘弁だ。どんなやつか知らないけど、強いだろどうせ」
『そうだな。ざっと生きていた時の我の10倍は強いぞ』
「うげ……ならどの道倒せやしない。平行線のごとく俺の人生に現れることが無いよう祈るだけだ」
魔王もまさか、こんなちっぽけな力しかない俺を脅威だとは思わないだろう。
ちっぽけ……まあ俺も俺自身の力の限界を知らないんだけどな。
「えーと、随分と脱線しちまったけど聞きたいことその2だが……」
あれ? 何を聞きたかったんだっけ。
ええと、この怪物のことと……ああ、勇者についてか。
だけどもう聞いてしまったようなものだけど。
「そもそも勇者の役割って魔王を倒すことなんだよな? 今、この世界に何人いるんだ?」
死体となった勇者君と俺だけならこの世界は絶望的なまでに終わっているな。
せいぜい俺にやる気を出させてみせろ。そうしたら死体勇者君を貸し出してやるさ。
『多くて5人。これは魔王が現れるとされた時代だがな。だが、それ以外でも常に1人はいる。所謂、魔王に対する抑止力としての役割だなこちらは』
「抑止力、か。そこにいるだけで抑えつけてくれるのか?」
『うむ。勇者の存在はそこにいるだけで強大な力を発揮する。だからまあ、お前が魔王に対して何もしたくないと言おうが、存在するだけで魔王の力を削いでいることになるわけだ』
存在するだけで目を付けられてるのかよ。
あ、でも5人いるってことは残り3人もこの世界のどこかにいる可能性は高いってわけか。
『すでにお前は、お前自身とこの勇者の2人分の力を手に入れていることになる。これは魔王にとっても厄介な存在であろうな。ハッハッハ』
「ハッハッハ……じゃねえよ……。くそ、ならこいつは無理にでも俺の護衛に付けるべきか?」
シルビアのように目立たないように、かつ仮面でも被せておけばいけるだろうか。
いや、まずはあの門を越えなければいけない。
非常事態のための戦力としてここに待機させておくべきか……。
『街中にいるとなればそこまでの危険には晒されないだろう。遠出をするときのみ、連れだせば良かろう』
「強敵相手に勇者を引き出していく……ますますどこぞのトレーナーだな」
さて、それじゃとりあえずの用件は済んだ。
こいつらをジルに預けて、俺はまた街に戻るとしよう。
幸いにも、コボルドの耳は全て集まった。
ちょっとそこらまで狩りに行ってくるつもりがとんだ大冒険になっちまったぜ。
これは急激なレベルアップも望めるはず。レベルなんてものがこの世界にあるのならばだが。
夜にでもステータス見直しておこうかね。新しいスキルがあれば儲けものだ。
「じゃあなジル。また来るぜ」
『いつでも来るが良い。その時はまたゆっくりとくつろいでいけ』
森を出て街の方へてくてくと歩く。
さて、街に戻るのも良いが、1つだけ課題が残っていたな。
それは、勇者君の使っていた剣。
今は彼の腰に刺さってはおらず、俺のアイテムボックスの中に入っていた。
「これ、修理したら俺にも使えるようにならないかね」
なにせ、剣だ。
これがゲームの世界だったら勇者専用だとか特定の職業にしか装備出来ないだとかで俺の貧弱職業は虐められていたかもしれないが、ここは現実。
剣は剣だ。装備とか、手に持てれば関係ない。
「と、いうわけでどうしたものか」
素直に鍛冶屋にでも持っていけば直してくれるだろうけど……この剣自体の性能も良く分かっていないしなぁ。
シルビアがここにいればすぐに教えてもらうんだけど。
魔物に試し切りすればいいが、それは直すまで分からない。
「直す……直す、か。そういえば……」
俺の中で直すといえば【メンテナンス】だ。
死体の修復だけでなく、武器にも使えたりしないものかね。
――【メンテナンス】
「駄目、か」
剣は折れたままであった。
僅かに折れた箇所が盛り上がり、効果があったようにも思えたが、それはすぐさま収まった。
ううむ。行けそうな気がするが、何か足りないのか?
「足りないといえば」
剣の先。
折れて2つになった剣先の方をまだアイテムボックスに入れたままだった。
こいつも取り出して、と。
――【メンテナンス】
「よしよし。今度こそ効果ありだな」
なんということでしょう。
怪物との斬り結び合いでボロボロになった刃。
最後には無残にも真っ二つにへし折られてしまった刃が今ではピカピカの新品に。
縫合面なんてありません。初めから折られたことなど無かったかのよう。
プロです。これは職人による仕事です。
「ギリギリ俺でも持てるか」
そう何度も振り回せやしないが、遠心力を使えばそれなりの威力になることだろう。
試し切りに、と獲物を探すがやっぱりいるのは3匹のコボルドちゃん達。
哀れ仲良し3人組は俺の剣の錆となることが決定した。
「さーて、いきなりよいせっと……って、おお?」
不意打ちよろしく、違う方を向いているうちに忍び寄って剣を振り回してみたのだが、そのまま足を滑らせてしまった。
「グギャウウ」
「グル?」
「グル!」
慌てて顔を上げると、こちらを見やる6つの瞳。
それぞれ3匹のコボルドの体に一筋の赤い線が刻まれているところを見ると当たってはいたようだ。
だが、それはただ怒らせただけに過ぎない。
怖いのはこちらを見て舌なめずりをしている者までいること。
ならばもう一度剣を振るってみようとするが、
「あいてっ」
どうやら手首を痛めてしまった模様。
俺、貧弱過ぎない?
コボルド達はじりじりとにじり寄ってくる。
俺は静かに剣をアイテムボックスにしまうと後ろを向いて、
「助けてー、ジルえもーん!」
今さっき出てきた森目掛けて走ったのであった。
やはり武器は職業に合ったものを選ぶのが一番。
それが身に染みる出来事でしたね、はい。
よろしければ感想でも残していってくださると、やる気が出ます




