26話 勇者の剣 1
「ジルえもーん! 助けてよー」
『誰がジルえもんだ。我の名はジルヴァリック・エルメロン。気高きこの名を忘れるでない』
「何だよつまんねえな。せっかく強そうなお土産持ってきてやったっていうのに。お前の部下にでもさせてやるから置いてっていい?」
ファスナ草原から歩くこと数十分。
他の冒険者に出会うことも無く、しかし魔物とは数多く出会ってしまったことで思いのほか時間がかかってしまった。
「えーと、蘇生させた人間が2人と魔物が3匹だ。マイクと弓使いの何たら君と一緒に使ってやってくれよ」
『正直、必要ないのだがな……』
そう、すでにジルの下には2人の蘇生させた人間を置いている。
街の門を通せるか分からないし、何があってバレるか分からない。ならば、こいつらは公的には死んだものとして扱わせておいた方が良い。
「変わらないだろ、2人も4人も3匹も」
『……一気に3倍なのだがな。いや、まあお前がどうしてもと言うのなら我としても断ることはしないが』
「どうしても!」
『即答か。まあ、良い。使ったのは【オートリバイバル】か? それなら宝物とともに眠らせておけるだろう』
「おう、そうしてくれ」
なんだろう。
手元に置いておけない仲間を一時的に他の人に預けておく。
……どこかで体験したことがあるような。そう、幼少時にゲームとかで。
「俺はトレーナーでジルが博士か?」
『何を言っている?』
「いいや。何でもない、独り言だ」
とりあえず当分は必要のない死体はここに預けに来ればいいか。
どれだけ空きがあるかは知らないが、その辺に積み上げて置いても良いだろう。
文句は言わない。死体なのだから。
「ああ、そうそう。ジルに聞きたいことが1つ……いや、2つか。ついでに小さいこともあるけど、とりあえずこいつらを預ける以外にも用事があったんだ」
『ほう。我に答えられることであれば答えよう。我の以前の主とかか?』
「それはまた今度でいいや」
『そうか……』
なんで少し残念そうな顔しているんだよ。
前回の闘いの後だって、それは雰囲気的に聞いちゃいけないのかなって思って遠慮していたんだぞ。
前の主を裏切れぬ、とか言いそうだから。なら、別にいいかって忘れていたのに。
「まあ、俺に敵対することになったら教えてくれ。無関係なままだったら別にいいや」
『そうか。なら敵対する時を楽しみにしておこう』
されちゃ困るんだがな。
そんなキラキラとした瞳……は死体だからしていないけど、ワクワクした口調で言われてもキャラ変したのかなって疑っちまうわ。
敵が無意味に増えていくのも困るし、なるべく教えてもらう日が来ないことを祈るのみだ。
「そんでさ、ジル。1つ目なんだが、魔物って進化するの?」
コボルドの異様な変化。あるいは進化。
突如起きたアレは一体何だったのか。これから先に魔物がいきなりあれだけ強くなられることが続発したら迂闊に外を出歩けなくなるぞ。
『……これのことか。薄々はそうではないかと思っていたが、我も久しぶりに見たぞ』
ジルは怪物の死体を見る。
久しぶりってことは、この進化は今回限りではないってことなのか。
『進化、あるいは変異……元の姿からは想像もつかない程の変化は、魔物にのみ許された権利だ』
「権利……」
『だから人間にも、そして我にも出来ない。我も一応は巨人族という亜人にカテゴリーされるがな』
「それは知っている」
図書館ですでに調べてある。
だが、そこで読んだ本からの印象では巨人族はジル程に強いとは思えなかった。
少し力持ちの優しい大きな人って感じだった。
『そうか。我のことを知っていたか』
「続けろ」
だから何で嬉しそうなんだよ。
『魔物が進化を果たす条件は2つ。1つは膨大なる戦闘の経験。闘えば闘うほど人間は強くなると言うだろう? 魔物も同じだ。闘えば闘うほど経験と言うものは身に沁みついてくる。そして、半生をかけて得た経験が魔物に進化をもたらすのだ』
「半生ってことは、それだけ人間や他の魔物との戦闘を生き延びてるってことか。滅多にいなさそうだな」
『ああ。だから我も久しぶりに見たと言ったのだ。これで3度目だぞ。長い時を生きる巨人族の我ですら3度。貴様はよほど幸運だったのだな』
「幸運だったらこいつに出会ってねえよ。死ぬかと思ったんだぞ」
いや、快勝と言っても良いのかもしれないが。
死体があれだけあれば、やりようはいくらでもある。
『そうであったな。強者と出会うことは良いことだが、お前は穏便に生きたいのであったな』
「それで、2つ目はなんだよ」
『もう次に行くのか。少しは会話を楽しませてくれても良いのだぞ?』
「うるせえ。相手が可憐な少女じゃない限りは俺にそんなこと期待するな」
『ハッハッハ。色を好むか。そういえば貴様の連れてくる死体は男ばかりだ。……いや、このコボルドはメスか?』
「興味ねえよ。コボルドに俺が欲情するとでも思ったか?」
『我はお前という人間をまだ図り切れていないからなあ。有り得るかも……あ、待て、そう怒るでない。そうだな、2つ目に移ろう。こちらはまだ簡単かもしれないな。他者から力を与えられた魔物だ』
「他者から?」
『ああ。人間の職業で言うのであれば魔物使いが当てはまるだろうか。その他にも魔王やそれに類する力の持ち主であれば容易なことだ。……まあ滅多にあの方々も行わないがな』
魔王、ねえ。
勇者がいるなら魔王がいてもおかしくないか。
そいつらならコボルドみたいな雑魚ですらもボス級にまで進化させられると。
「魔王ってのがいるのか。そいつらは人間の敵なんだよな?」
味方なんてことは有り得ないだろう。
なんせ魔の王。魔物の王……だからではなく、魔物を成長させる力を持つやつなんて大抵ろくなやつじゃない。魔物使いなんて職業に就いたやつも同様だ。魔物は人間の敵だ、敵。相容れることなんてないだろう。
俺? 俺はいいんだ。完全に無力化してから操ってるから。人間すらもな。
『人間の敵……まあ似て非なるものだ』
「違うのか? 魔物の親玉みたいなもんだろ?」
『基本的に積極的に人間に害することはない。傍観する者が大半だ。……稀に遊び半分に人間に手を出す者もいるが、そういった者が現れる直前には必ず勇者と呼ばれる存在が現れていた。神に導かれてこの世界にやってきたと言ってな』
「へえー。魔王って複数人いるのか。勇者……ね、え?」
あれ?
魔王止める存在の勇者。
人間に害しようとする魔王が現れる直前に勇者は現れる?
「……ジル」
『どうしたシドウよ。顔色が悪……くもなさそうだな。そんなににやけてどうしたのだ』
「それさ」
俺は死体の1つを指さす。
「たぶん勇者……」
『……は?』
「いや、だからさ……」
俺は改めてこの死体達をどのように手に入れて蘇生させたかをジルに説明した。
ことの重大さを理解したのかジルは大人しく、口を挟むことなく聞いていた。
まずはコボルド討伐のクエストを受けることになった経緯から、そしてその後に自称勇者君が現れてコボルドが怪物に進化したところ、最後には勇者君が怪物に殺されて俺が生き返らせて仇を討ったことまで。
「それで、こいつらを連れて歩くわけにもいかないからジルのところに来たってわけだ」
『待て。一つ確認したいことがある』
「どうした。どの辺が引っ掛かった?」
余すことなく説明したはずだがな。
シルビアとジルにはそこまで隠し事をしていない。
だから説明不足とか話に矛盾とか起きることはないはずだが。
『……したのか』
「あ? 声が小さくて聞こえねえよ。もっとその図体に見合った声を出せよ。腹から」
『我以外にも【フリーリバイバル】を使ったのか! 我以外にも。我だけではないのか!』
「うわ、めんどくせぇ……」
何、そのめんどくさい彼女みたいな言い方。
お前、オッサンだよな? 口元だけマスクで覆われてるけど、寿命で死んだオッサンだよな?
「そんなん、これからだって使うわ。なんだったら第一号はお前じゃなくてそこの弓使い君だっての。……まあ精神が耐えきれずに動かなくなっちまったがな」
『つまり……』
「まあ、選ばれたやつだけだな、【フリーリバイバル】使っても大丈夫なやつは。生きていた時の感じからしてそこの勇者君ですら無理だと判断した。お前とジル、そしてこいつくらいだ今、【フリーリバイバル】を使っているのは」
俺の肩に止まっている小鳥。
ジルとの闘いの後に使ってやったが、今も俺の目となってくれている。
てっきり逃げるんじゃないかと思ったが懐いているようで何より。可愛いもんだ、目の前の図体のデカくて女々しいオッサンより。
「というか、論点はそこじゃないだろ。俺が言いたいのはそんなことより、勇者君が死んでしまったけど、どうすりゃいいかって話だ。魔王ってのがもし人間を皆殺しにするって言うのなら……」
あれ? 別に俺はちっとも困らないな。
文明やら何もかもを壊されるとつまらなくなるが、皆殺しになった人間の死体を使えるなら俺は何時まででも抗い続けられそうだ。
もしくは魔王に取り入って、俺と俺が気に入ったやつだけ見逃してもらおうかね。話が分かる奴だったらそれも有りだ。
『別に皆殺しにすることはないと思うがな。まあ、弄ばれはするだろう。無暗に戦争を仕掛けられたりと』
「ほーん。それで、勇者君無しで人間は勝てるのか?」
こいつレベルなら、少なからず同程度の強さはいそうだけど。
ジルよりは弱く感じたんだものな。冒険者ギルドのトップ連中が何人かいれば勝てるだろ。
『勇者はその成長率も込みで魔王を倒すと見込まれている。だからこそ、勇者が現れた暁には国が総力をあげてじっくりと育て上げなければいかないのだが……』
「育つ前に死んじまったな」
勇者君もきっとこの世界に来てすぐの戦闘だったのだろう。だからこそ、仲間もおらず1人で俺達に加勢することになってしまった。
……あれ? そう考えれば滅茶苦茶強いじゃん。
初戦闘であの怪物と互角だったのかよ。
『だが、問題なかろう。シドウよ。お前が魔王を倒せばいいのだからな』
「は? なんで俺がやらなきゃいけないんだよ。まさか、俺が勇者の死体の持ち主だからか?」
と、俺は言うが薄々分かってはいた。
勇者。
それは神によってこの世界に導かれてきた者。
勇者が1人だけとはジルは言っていない。
『答えは明白だ。お前もだからだシドウ。お前もまた、魔王を倒す勇者なのだからな』




