表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/161

22話 クエスト 3

「グルゥ!」

「グルルゥ」


 コボルドという魔物は案外見た目通りの犬と同レベルの知能らしい。

 同種族であるコボルドの死体を俺は蘇生させてゾンビとして手足のように操っているのだが、その見た目は生きているコボルドと大して変わらない。

 人間であるなら目が虚ろだったりと違いが分かりやすいのだが、あいにくとコボルドは初めて見た魔物であるし、観察したところでどちらにせよ分からない。同じ犬種の大きさも同じ犬を2匹並べられてもどっちがどっちだか分からないのと一緒だ。


 生きているコボルドは死んだはずのコボルドが動いているのを見て、何の危機感も無く近づいていく。どうやら運よく生きていたとか思っているみたいだ。

 だから、そんな無防備なコボルドの脳天に蘇生させたコボルドが木の棒を叩きつけるのにそう苦労しなかった。


「グル!?」


 白目を剥きながらコボルドは倒れる。

 死にはしなかったが、気絶には追い込んだようだ。

 そのまま執拗に蘇生コボルドは木の棒を叩きつけ続ける。

 木の棒が振り下ろされるたびにコボルドの体はピクリと動く。筋だけが反射的に動いているのだろうか。だが、徐々にそれも小さくなり、やがて動くことも無くなった。


「よくやった」


 残り3匹。

 そいつらは黙ってコボルドの1匹が殺されるのを見ていた。


 格付けでもあるのか? 大きさがたった今殺されたコボルドよりも大きい。


「グルウウウ」


 よくもやってくれたな、というよりも邪魔をしてくれたなとでも言いたげな目でこちらを睨みつけてくる。


 一際大きいコボルドを始めとして生きている残り3匹のコボルドはどれも死んだものよりも一回りほど大きい。

 コボルドを殺した蘇生コボルドを敵として認めたのか、そちらにも警戒の目を向ける。

 だが、敵はそいつだけじゃないぜ?


――【オートリバイバル】


 たった今殺されたコボルドも俺のスキルで蘇らせる。


 これで生きているコボルド3体に対して蘇生コボルド2体。

 これで数の有利さは消えた――冒険者らしき人間の死体も俺がすでに蘇生させているからな。


「グ!?」


 冒険者の死体の剣をリーダー各らしきコボルドが木の棒……いや、棍棒で受け止める。

 どれだけ丈夫なのか、棍棒は剣で斬られることはなく、そのままコボルドは押し返す。


 ふむ。そこそこに強いな。

 蘇生させた死体と張り合えるとかジルくらいだと思っていたが……元々この死体が弱かったのもあるだろうが。

 ジルを傷つけることの出来たマイクと違い、この冒険者はコボルドに殺されている。その実力は初心者冒険者のそれなのだろう。


 さすがに分が悪いかと思うが、俺は動くことをしない。

 生きているコボルドと違い、死体にはスタミナはない。傷によって動きが鈍ることもない。

 このままジリ貧でも勝たせてもらおうと、俺は待ち続ける。


「グル!」

「グルルゥ!」

「グ、グウ!」


 やがてコボルト達は連携を取り始める。

 個々では勝っているがいくら攻撃してもきりがないと分かったのだろう。

 3匹で1つの死体を集中的に叩き始める。冒険者だけは剣を持っているためリーダーコボルドがその都度受け止めているが。


「暇だなー」


 俺も蘇生以外のスキルが使えれば良かったが……そういえば土魔法なんてものの適正もあったんだっけか?

 まあ今俺のステータスに土魔法が無いからすぐには使えない。

 大人しく発現するのを待とう。


「あ、やばいな」


 蘇生させたコボルドのうちの1匹が動かなくなった。

 3匹のコボルドによって集中的に叩かれ続けたことで肉がミンチのようになったらしい。見る影もなくコボルドの死体は地面と一体化するように薄っぺらくなっていた。


「グルル!」

「グルゥ!」

「グルルルル!」


 コボルド達は肩で息をしながらようやく1匹目を倒したことを喜ぶかのように互いに声を掛け合う。

 殴り合ったことで多少の傷を負ってはいるがまだまだ動けるらしい。そのまま2匹目の蘇生コボルドへと向かう。


 残り1匹の蘇生コボルドと元が弱い冒険者の死体。

 それだけでは俺は確実に負けるだろうな。

 うん、それだけだったらな。


「ご苦労様ですお客様。お代わりはいかがですか?」


 ――【メンテナンス】


 ぐちゃぐちゃのミンチになったはずのコボルドが立ち上がる。

 いくら傷付こうとも、そんなものは無かったとでも言うかのように。


 ……まあ、本当に傷なんて1つも無くしたんだがな。

 

 疲労困憊のコボルト達に向かって立ち上がった蘇生コボルドは元気に駆ける。

 がんばれー。俺は後ろから応援しているからな。


 コボルト達は絶望の表情を浮かべながら、尚も闘う意志を見せ武器を強く握りしめる。

 勇敢なことだ。俺の仲間がこうならどれだけ頼もしいことか。


 さて闘いも大詰め。

 あちらは消耗しているがこちらはメンテナンスでいくらでも回復出来る。しかも死体ゆえにタフだ。


 逃がさないぞと冒険者はコボルド達の背後に配置し、2匹の蘇生コボルドで追い詰めていく。

 木の棒で叩き合っているため子供の喧嘩のようにも見えるが、コボルドの形相は必死だ。

 まあ、死ねばこういう風に俺の手足として蘇生されると分かっているからだからだろうが、それは避けられぬ運命というやつだ。


「運命というものは決められた瞬間には変えられなくなるのだよ。だから、誰しもが遠い未来だけを変えようとする」


 ちょっと格好つけてしまったが、そんな決め台詞とともに決着を着けようとした瞬間であった。

 蘇生コボルド2体に目を向けているコボルドの首を冒険者の死体の剣で刎ねようと思ったのに……


「そこまでだ! この魔物め!」


 突然現れた俺と同じ年齢くらいの男が瞬く間に蘇生コボルド2体を斬りつけた。

 それはもし生きているコボルドであれば即死であっただろうと思わせる程の傷だ。内臓まではみ出してるよ。痛そう……。


「大丈夫か? 怖かっただろう。だが、俺が来たからには安心してくれ。この、神より与えられた力と剣で俺が世界を救ってみせる!」

「は、はぁ……」


 随分とテンションの高いことで。

 乱入者は妄言を俺に言った後に残りの生きているコボルドに剣を向ける。

 見た目はチャラ男を少し真面目路線にした感じだろうか。中学時代は大人しかったけど高校生デビュー男子生徒といったらこんな感じだろうか。どことなく根は真面目そうな雰囲気がある。眼鏡かけてるし。


「すごい。力が溢れてくる! 体が軽い! これならどんな敵にだって負ける気がしない! これが、勇者の力なんだ!」


 ……ああ、要するに俺と同じか。

 あの善良なる神様に素晴らしい力を頂いてしまったのか。

 身体能力強化とか羨ましい限りだ。それに、剣も何かあるのか?

 炎とか氷とか雷とか、そんな魔法みたいなものを出せるならぜひとも欲しいものだ。

 まあ俺も蘇生スキルをもらっている。神に力をもらったという点は同じだ。

 俺と違う点はそれで調子に乗っているということ。


 俺? 俺は違うよ。ジルとの闘いでこの力は決して強くはないってことが分かったし。使い方でいくらでも便利になるスキルだけど。


 と、考え事をしてしまっていたせいでどうやら大変なことになってしまったようだ。


 俺がこの状況で取るべき行動は、弱者の振りをしてこの自称勇者君に助けを乞うことなのだろう。万が一にでも【ねくろまんさぁ】ということはバレてはいけない。

 だから、斬られた蘇生コボルドはそのまま動かさないようにして、生きているコボルドを倒してもらえば良かったんだ。蘇生させた冒険者はどさくさに紛れて倒れさせよう。なんかいつの間にか死んでいたことにすれば問題ないだろう、と。


 もし勇者君が神の力云々を言わなければこのプランでいけたのに。

 余計な一言で俺の思考は別の方向へと行ってしまい、蘇生コボルドへの新たな命令が遅れてしまった。

 すなわち、斬られても尚、蘇生コボルドは立ち上がったのだ。さっきは格好よく見えた蘇生コボルドも今は不気味だ。

 内臓をはみ出しながらも立ち上がるコボルド。

 常軌を逸した光景に最も驚愕したのは自称勇者君であった。


「な、なんだこいつは!? 死んでいる? いや、生きている!? うわぁ、来るな……来るな来るな来るなぁぁぁ」


 どうやらグロ耐性が低かったらしい。自分でこんな状態にしておいて。

 剣をやたらめったら振り回して蘇生コボルドをみじん切りにしていく。蘇生コボルドも動ける限りは残っている命令――コボルドを倒せ――に従っているため生きているコボルドに手を伸ばす。

 その伸ばされた手も勇者君に斬られ虚しく地面へと落ちた。

 そして、蘇生コボルドは動かなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ