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20話 クエスト 1

「金が必要だ」

「それは分かっている」


 俺とシルビアは奴隷商館を出ると冒険者ギルドへと真っすぐに向かっていた。

 目的は当然ながら金策。クエストを受けて手っ取り早く金を稼ごうという魂胆である。


 その辺の魔物を倒せとかいうクエストなら俺の能力とシルビアの魔法を使えば大した事はないはずだ。


「君が分かっているからこそ、あえて問いたい。ギルドに向かっているのだろうが、クエストを受けるつもりか?」

「ああ、そのつもりだ。今の俺達に出来ることなんかそうそう多くない。なら冒険者らしく闘いに身を置いて金を稼ぐってのはそれっぽくないか?」

「……これで私が万全の状態だったらね、それも賛成出来たのだが」

「あ? どこか悪いのか? ならとっとと【メンテナンス】で直してやるから見せてみろ」


 一応、蘇生させた際に全身に【メンテナンス】を使ったのだが……。その後に棺桶の蓋を持たせたり階段を駆け上がらせたりと、元々貧弱な体を酷使していたからガタが来たか?


「安心してほしい。君のはスキルちゃんと機能している」


 フッとシルビアが笑う。


「これは体の問題ではないのだよ。心の問題……とも少し違う。魔力の問題だ」

「魔力?」

「先程も言っただろう。私の力はだいぶ落ちている。魔力というのは精神力だ。使い切れば当然死ぬが、まあそうなる前に気絶するからなることはないね。生きていれば増えてくるし、君は相当多いね。うん、大きな闘いをしたことで精神が成長したのだろう」


 そういやスキルを使った時に脳が疲れる感覚があった。

 体力でも消費しているのかと思っていたが、それが魔力だったのか?

 ジルとの追いかけっこの途中でスキルによる体力消費とかよく考えれば追い付かれていそうだし、魔力という概念が消費されているのであれば納得だ。


 精神が成長云々はまあそうだろうな。

 ジルとの友情が芽生えて俺はまた1つ上の段階に進んだ。

 このまま精神を成長させまくっていずれ老害と呼ばれるまでに熟成した考え方になるんだろうな。


「思考とは関わりない、といえば嘘になるけど精神力ってのはそこまで大したものではないよ。スキルや魔法を使うために必要なものと思っていればいい。筋トレすれば筋肉が付くように、生きていれば増えていくものさ」

「そういうものか」

「そういうものさ」


 まああって困るわけではないことは分かった。

 とりわけ俺やシルビアのようなスキルや魔法をメインにして闘うような職業のやつには。


「それで、シルビアの言っている魔力の問題というのはどのくらい重症なんだ?」

「うむ。それでなのだがな、魔力というのは肉体に同調する。だが今の私の体は別物に近い。全く別物ではないから魔力は残っているのだがまだ完全に馴染んでいるとは言い難いのだ」

「つまり魔力由来の力を上手く使えないと?」

「【鑑定】程度なら使えるのだが、魔法はまだ無理のようだ。一回くらいならともかく、連戦するような使い方は到底出来ない」


 それは困ったものだ。

 シルビアの魔法に頼りきるつもりは無かったが戦力の1つとして数えていた。

 ……どこぞの中ボスにでも挑むつもりが考え直す必要があるな。


 そうこうしていると、冒険者ギルドに到着した。

 相変わらずの喧騒である。


「シルビアはその仮面があるから冒険者ギルドに入っても大丈夫だな」

「ああ。正体が明かされるようなヘマはしないから任せておけ」


 すでにフラグなんだよなぁ……。

 念のため、一言も発さないように言い聞かせておく。


 奴隷商会ではシルビアのターンだったから今度は俺の出番だ。


「……なあ」

「どうした?」

「クエストなのだが、君1人で行ってきてはくれないか? 上手くいくかは分からないが、私は私で動いてみようかと思う」


 少しばかり黙ったまま歩いているとシルビアがそう言ってきた。

 ほう、それはつまり


「何か考えがあるのか?」

「ああ。君1人に危険を背負わせてしまって申し訳ないが、魔法を使えない私では足を引っ張りそうだし、小金稼ぎくらいなら1つ考えがある」

「そっちに俺は必要ないのか?」

「ううむ……いてくれた方が助かるが、私一人でもなんとかなるものだ。失敗した時は稼ぎが無くなってしまうから、君にはクエストに専念してほしい」

「分かった。……そうだな、確かにシルビアを今更冒険者として登録も出来ないか。なら夜に宿屋で集合だ。その時に成果を話し合おうぜ」

「ああ、期待していてくれ」


 せっかく冒険者ギルドに到着したというのに、シルビアはこのまま別行動のようだ。


「自宅……元自宅に少しだけ取りに行くものがある。君は君でクエストを頑張って……ああ、そうそう」


 去り際に思い出したかのようにシルビアは俺を指さす。


「どれだけ弱くても魔物の討伐クエストは1体や2体くらいの群れからはぐれたものを選ぶように」

「はいはい、分かっているよ」


 なんでも、群れ規模の魔物複数の相手は危険度が格段に上がるそうだ。

 弱い魔物を何匹か倒してほしいというクエストを面倒臭がって群れへと特攻して一度に終わらせようとした冒険者が後を絶たないらしい。そしてそのまま死ぬのだとか。


 ギルドの扉を開けると、カランコロンと軽快なベルの音が響き渡る。

 しかしそれがギルド内に広がることは無く、すぐ別の音に掻き消されていく。


 ……相変わらず五月蠅い場所だ。

 何をそんなに語らうことがあるのか。やるなら道中にでもやれ。こんなところで大勢で話すな。ソロのやつが可哀想だろ。

 

 やっぱり無理にでもシルビアを引き留めておくべきだったかなと思いながら俺はクエスト用紙の貼られたボードに近づいていく。


「なんだ兄ちゃん。そんなにヒョロイ体で魔物なんか倒せるのか?」


 そう煽ってくる輩もいる。

 俺はそれを無視してクエストボードを眺める。


「おい兄ちゃん、お前のことだよ。その碌に揃ってない装備からすると冒険者に憧れて村から飛び出していったクチか?」


 ええと、今あるクエストは……色々あるな。

 クエストボードには多種多様の魔物が描かれた用紙が貼られていた。


 狼のような魔物。

 ドラゴン。

 犬や豚の頭をした魔物。


 内容は……やはり強そうな魔物の報酬は良いが、俺でも倒せそうな魔物だとしょぼいな。

 

 犬頭の魔物なら俺でも倒せるものだが、そうすると1匹やそこらを倒したところで焼け石に水みたいなものだ。

 もっと10匹や20匹くらい倒さなければ話にならない。


「おい兄ちゃん、若いからって血気盛んになるんじゃねえぞ。自分の身の丈に合ったクエストを選ぶこったな」


 ドラゴンなら余裕で余るくらいの金になる。

 狼は少し余るくらい。

 豚頭は15匹で丁度か。

 犬頭は25匹。


 一番危険が少なく尚且つ短時間で金を稼ぐなら……


「ううん……」

「なあ兄ちゃん!」

「……なんだよ」


 さっきから無視していたがおっさんがずっと俺に話しかけてきていた。

 どうも俺をイラつかせているようだから目に入れないようにしていたのだが、目に余ってきた。


「その装備じゃ魔物なんて倒せないだろ?」

「余計なお世話だ。俺には俺のやり方がある」


 ジルに一発で殺されそうなおっさんは黙っておけ。

 ……またあの鼠でもけしかけるか?

 そうすればこいつも大人しくなるだろ。


「まあまあ。いいから年上の言うことは聞いておきな。ほら、これをやるよ」


 そう言っておっさんが俺に1本のナイフを渡してきた。


「これは……」

「そいつは量産品で安いやつだが切れ味は保証するぜ。軽いし、兄ちゃんでも使える武器だ。武器を無くした時の為に持っていたやつだが使ってくれよ」


 ふむ。

 確かに軽い。

 剣とか振り回したらものの数分でばてるだろうなとは思っていた。

 スキルに頼り切る俺の戦闘スタイルだが、死体が無い場所だとどうしようかなと思っていたものだ。


「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」


 ここはお礼を言っておこう。


「おうよ。礼は今度酒を奢ってくれりゃあいいぜ」

「……覚えていたらな」


 というか、金があったらな。

 金策に走っている俺が奢る金などあるものか。


 さてさて、ではクエスト用紙をボードから剥がして受付に持っていくか。


「こんにちは、アシュリー」

「シドウさん! その手に持っているのは……クエストを受けられるのですか?」

「そうなんだ。ようやく、闘う準備も整ったからね」

「分かりました。……これはシドウさんの受けられるクエストの中でも困難なものの1つですね。分かっていますかシドウさん? もう少し簡単なのもあるんですよ?」

「分かっているよ。まあ少しずつやっていくからさ。一つ一つ報告をするのが面倒だから纏めてあるのを選んだだけさ」

「そうですか……私に会いに来るのが面倒というのが気になりますけどね?」

「それは……ははは」


 ……なんだこの女は。

 まあいい。受けられるなら早いところ受けて完了したい。


「はい、では受付しました。時間は無制限とはいきませんが、たくさん使って慎重に行ってきてくださいね?」


 シルビアよ。

 魔物を1体か2体倒すクエストを受けろだって?

 そんなこと、言われても言われなくても俺の行動は変わらないさ。


 犬頭の魔物25匹。

 群れをいくつか倒せばこんなクエストすぐに終わるだろ?


「行って来ます」


 手の中でおっさんにもらったナイフをくるくると回しながら俺は門の外へと向かうのであった。

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