161話 ダイイングメッセージ 10
なんかメンテナンスあったみたいで書き直せずに予約投降してしまったので、投降しなおしますね
「さて、とりあえず前提を一つ潰しておこうと思う」
「前提?」
死体がアーノルドであるという前提……ではない。
それはすでに覆っており、確定したものだ。
何よりアーノルド本人が認めているのだから間違ったものではない。
「お前、不壊属性の付与なんていうスキル使えないだろ?」
そう、死体がアーノルドの弟子というのであれば、そのダイイングメッセージすら全く異なるものになる。
消せないダイイングメッセージ。
死体がアーノルドだから、ダイイングメッセージにすら不壊を取りつけ一定時間消えないものとした。
そう、誰もが思っていた。
だが、死体が別人物であるならば。
実は生きているアーノルドがわざわざ死体の近くにメッセージを書いた?
いや、違う。
死体をアーノルドであると錯覚させるための一押しであるかもしれないが、わざわざダイイングメッセージの形を取る必要はない。
故に、こう考えるのが自然だろう。
アーノルドの弟子こそが不壊属性付与のスキルの使い手である、と。
そもそもこれは公になっている情報だ。
今更改めて表出するまでもない。
なので、こう言い直そう。
「アーノルドが売り出した作品に不壊属性を付与していたのはお前の弟子だな。ここまでくれば殺害動機なんて金に目がくらんだか、弟子が名声を得ようとしたか、どちらにせよ弟子が師匠を脅したことによる、その逆恨みだ」
「しかしご主人様。そのスキルは自身が完成させた作品にのみ効果があるのでは?」
「……ご主人様?」
おい、人前でそれを言っても別にいいけど、アーノルドは俺をただの雇い主程度にしか認識していなかったんだぞ。
ほら、怪訝な目でこっち見てる。
そういうプレイ中なわけじゃないからな。
「そんなん当人らが言っているだけだ。もしかしたら関係なく付与出来る可能性もある」
「だとすれば俺の名はもっと広まっているべきだろう。俺の剣や鎧は高性能であることは自負しているが、それでも上があることも知っている。そちらにスキルを使って欲しいと依頼が殺到する」
まあな。
それに、その場合であれば絵画などの芸術作品にも使えるだろう。
「だったら使い方はこうだ。途中まで……完成一歩手前まではお前が作る。そして最後の一打ちを弟子がやったってわけだ」
そのスキルがそこまで柔軟性のあるものかは知らんけど。
もしかしたら半分以上手が加わっていればかもしれないが。
それでも、その弟子が多少は鍛冶に関わっていたはずだ。
「違うか?」
「……合っているさ。ああ、憎らしい程にな」
なんだ、正解なんじゃねえか。
ならイチャモン付けてないで話進ませろ。
「さて、お前が本当に持っているスキルは別にある。物質の構成をいじくるスキルだ。お前の鍛冶の腕が良いとされている要因だ」
このスキル、金属だけを指定しているわけではない。
物質であれば何でも可能なのだろう。
鍛冶だけでなく、戦闘にも日常生活にも、そして死体をすり替えるのにも向いているスキルである。
「弟子の顔の構成をいじくったな? お前は殺した弟子の顔を整形した。自分の顔そっくりに。そして、自分の顔を弟子に」
それをやられては推理小説も何もないだろう。
ノックスの十戒もお手上げだ。
だが、何でもあれのこの世界でそれくらいは頭に置いておかなければ何をされるか分からない。
「理由は推測の域を出ないけどな。新しい人生をやり直したかったのか。自分の悪行をリセットしたかったのか。弟子の顔が気に入ったのか」
「悪行、か……。ふん、殺人以上の悪行もあるまい」
そうか?
結構あるような気もするけど。
「つまり俺ことアーノルドは弟子を殺してすり替わって今のうのうと生きているってわけか」
「そうなるな」
その後、他の人間がやったことは狙ったわけではないだろう。
アーノルド自身、どこまで自分が恨まれていたか把握していなかったようだし。
「……5割だ」
「あん?」
「奴の、ケヴィンのスキルは5割以上手を加えたものに限って発動する」
「そりゃ随分とケチなスキルだな。ならお前も半分程しか作品に触れていなかったってことか」
それでもアーノルドの名が刻印された武具は売れた。
それだけ不壊が付与された武具の価値が高いのか、あるいは武具自体が高品質なのか。
後者であるならば、弟子が半分手を入れても尚品質を保てるほどにアーノルドの技量が凄まじいのか。
「売れたさ。実に売れた。多少は質は劣ろうとも、それはスキルの代償だとでも言っておけば、劣悪であろうとも売れた」
「商売繁盛で何よりじゃねえか」
「それが数年前の話だ。だが、最近ではな、俺1人で打った剣も鎧も目を向ける者は少なくなった」
それはつまり、差が無くなってきたのだろう。
アーノルド1人と、アーノルドと弟子の合作の性能差が。
「俺は恐怖した。真綿で首を絞められるように。悪霊が徐々に近づいてくるように。戦慄しながら弟子と鉄を打った」
「ケヴィンさんが貴方に迫る技量を身に付けていったのですね」
「ああ。いつ言われるか怯えたさ。ケヴィン1人で事足りる、とな。俺の力なんざ必要無いと、そう言いだされる日がそう遠くないことが分かった」
「だから、その前に殺したのか」
アーノルドはスキル込みで高い技術を誇っていた。
対する弟子は、スキル自体は鍛冶の腕を高めるものではない。
純粋な技量で弟子に既に負けていたのかもしれない。
そして、不壊を付与するスキルがあるのであれば、作り上げた武具は弟子の方が優れていることになってしまう。
「皮肉なものだ。俺が奴を殺してからやったことは弟子に成りすますというもの。それはつまり、俺は既にケヴィンに敗北を認めているようなものじゃないか」
他の人間の話では弟子はアーノルドに対して憧れや崇拝の念を抱いていたそうだ。
それもアーノルドには届いていなかった。
師匠に追いつきたいという思いは、弟子に追い越されるという恐怖に代わっていた。
「ちなみに残されたメッセージの意味は『指導』だろうな。指導者であるお前を表そうとしたみたいだぜ。良かったじゃねえか、最後まで仰がれていたぞ」
「嬉しいものか。……これが俺という道化の全てだ。もはや鍛冶師としても落ちぶれてしまった俺のな」
そう言うやアーノルドは店に飾ってあった剣の1本を手に取る――と同時にシドドイが奴を抑えつけていた。
「――ぐッ!?」
「鍛冶師に冒険者が後れを取るとでも?」
危うく取りそうになった俺は隅っこで大人しくしておくぜ。
「……今話したことは全てお前達の憶測の域を出ない。全てが妄想だ。証拠も無いだろう」
「ああ、そうだな。死体が証拠になるかもしれないが、もう処分されているはずだ」
「ご主人様。処分では無く葬儀です」
「どうあれ、処理された死体は普通であれば何も見せてはくれないな」
俺の【メンテナンス】で死体を復元してもいいが、その後に絶対に厄介なことになるだろう。
そうまでするメリットも無いし、デメリットしか生まない行動だ。
「トトルに今のお前を見てもらうってのはどうだ? あの時はケヴィン何たらという名で調べてもらったが、お前がアーノルドという前提で調べなおせば何か見つかるかもしれないぜ」
体格は似ているだろうが全く同じというわけではない。
それに、顔はスキルで整形しているだけだ。
ならばスキルを使った痕跡を探すということもできる。
「……チッ」
「だが、それを俺がすることで俺に得は無い」
俺達が来なければこのままケヴィンとしての人生を歩むことになったのだろう。
弟子であるのだからアーノルド製の売りであった不壊属性の付与は出来ない。
それでも、性能はアーノルド自身の技術によるものだ。
高品質であるなら以前ほどでは無いが売れるだろう。
「見過ごすということか」
「条件を呑むならな」
トトルに引き渡しても俺にメリットはない。
だが、引き渡さないことで生まれるメリットはある。
「何をさせるつもりだ」
「安心しろよ。金を揺するつもりはない。ただお前に鍛冶師として腕を振るって貰うだけだ」
そもそも俺はアーノルドに壊れない武器を作ってもらいに来たわけではない。
高品質な性能の武器を求めていたのだから。
互いに悪い話ではないだろう。
俺にメリットはあるし、アーノルドにデメリットは発生しないのだ。
「ちょいと俺と俺の仲間の武器を作ってもらえればそれでいいさ」
かくして商売は成立した。
グリセントに言わせれば商売では無く脅迫になるかもしれないがな。
だが、俺は客でアーノルドは店主。
少なくとも俺はそのつもりでこの店に来たのだから。
これにて書き溜め終わりです
また書いたら投降していきますわ