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157話 ダイイングメッセージ 6

 俺や配下の死体人形の優秀さや特化した技術に埋もれがちであるが、シドドイもまた才女であることに違いない。

 あのグリセントが太鼓判を押して最上級の奴隷として扱っていたのだ。

 単なる家政婦として買ったはずが、いつの間にか魔王討伐の一助となっていたりする。

 それに何より、他の奴等と違い、シドドイは対人に関しての関係性を作るのに優れている。

 戦闘に関してはともかく、策を練って行動する際には、俺は恐らくシドドイを最も信用しているのだろう。

 俺に対して忠誠心が高く、それでいて1人で動ける。

 人間らしさというやつなのだろうか。

 他が死人ばかりだから比較にならないが。


「ご主人様。戻りました」

「ああ。ご苦労だったなシドドイ。上手く聞き出せたか?」

「聴取は私の仕事です。シドドイさんには傍で聞いて頂いていただけです」

「なんだ。そうなのか」

「……まあ、少しは助言を頂きはしましたが」


 トトルもプロとしてのプライドがあるのだろう。

 仕事の一切合切を素人の、しかもぽっと出である俺達に任せきりには出来ない。

 俺とシドドイを分断したのも、何か悪巧みがあった際に連携しづらくしたかったのもあるのかもしれない。

 だが、そこに関してはシドドイが上手く動いているのだと俺は確信していた。


「そちらの首尾は?」

「とりあえず死因の判明だな。ここに死体が無いから確かなことは言えないが。まあ推論程度だ」

「それで充分です」


 俺はトトルに頭部への殴打が死因であろうと話す。

 トトルはそれを鼻で笑うことをせず、真剣に聞いていた。

 そして、現場を荒らした尖兵達に対して溜息を付きながら叱っていた。

 怒られた尖兵達は少し嬉しそうであった。


 その間に俺とシドドイは情報を共有していく。


「それで怪しそうな奴はいたか? 尖兵達によれば弟子が第一候補みたいだけど」


 そういや今別室に集められているのは、あの時現場にやってきた客以外にもいるんだよな。

 弟子みたいなのはあそこにいなかったし、何人くらいが集められているのだろう。


「そうですね。全部で5人。それが容疑者の数のようです。勿論ご主人様を除いての数ですが」

「しれっと俺を容疑者に混ぜる前提があったことは……まあ聞き流すが」


 どこかで容疑者の数が6人だったことがあったんだろうな。

 シドドイは俺が犯人で無いことが確定しているから5人にしたんだろう。


「最初に、容疑者全員に白魔法による解呪が行われました。しかしその効果は発動しませんでしたので、黒魔法等による精神操作の類は受けていないと思われます」


 アイがされていたような魔法だな。

 この何でもありの魔法やスキルがある世界でそれをされたら困る。

 

「次に、容疑者含め関係者全員からアーノルドさんに対して恨みがあった人物を聞きました」

「それがその5人ってわけか」


 それが多いのか少ないのか。

 推理小説なら妥当な数ってところだな。

 売れっ子の鍛冶屋で恨みがあるってのは商売仇とかだろうか?


「いえ……大小あれど、怨恨の線でいくと関係者のほぼ全員がそれにあたります」

「は?」


 何だよそれ。

 つまり、アーノルドは周囲から恨まれていたってわけか?


「売れっ子なのにか?」

「名のある鍛冶師にも関わらず、です。……有名であるからでしょうか。彼は金に意地汚かったようです」


 なるほど。

 金にがめつい鍛冶師。

 武器防具が業物であるとは聞いていたが、それに比例して価値も高くなる。

 だが、命は金に換えられないと冒険者たちは多少高くなろうとも……いや、ぼったくられようとも買わなくてはならないってわけか。


「ご主人様はアーノルドさんのスキルを既にお聞きしてますか?」

「ああ。不壊属性の付与だろ」

「はい。その付与に関してですが、文献によれば永久ではありません。一定期間ごとに掛け直さなくてはいずれ効果を失い壊れてしまうそうです」


 まあ、そうだろう。

 そのあたりは尖兵達も言っていたな。


「効果時間内なら壊れない……なるほど。随分と儲かりそうだな」

「2回目、3回目と付与する度に値段を吊り上げていったそうです」


 ああ。それは恨まれる。

 しかもスキルをかけられるのはアーノルドのみ。

 かけるしかないのなら、いくら高くとも頼むしかなくなる。

 不壊が無ければアーノルドから武器防具を買った意味も無くなるだろうしな。


「他にも弟子の方に関してはその扱い故に。後は……いえ、何でもありません」


 しかし、売れっ子の鍛冶師でその意地汚さなら客全員から何かしら思われているのは確実だろう。

 弟子に関してもだ。

 それにも関わらず容疑者は5人にまで絞られた、か。

 トトルなのかシドドイなのか。随分と頑張ったようだ。


「5人の根拠は?」

「スキルとステータス。それに目撃情報も合わせて、死亡時間と思われる時間帯に店の付近にいたかどうかですね」


 動機は捨て、可不可で絞ったというわけか。

 まあ、死因が特徴的だ。

 誰にでもやれることではない。


 つまり、その5人は出来るという意味か。


「アーノルドの死因が頭部への打撲。まだ凶器の特定はできていないが、もし重量のあるものだったら更に絞り込めそうか?」

「はい。それなら確実に2人は減ります。1人は老婆ですし、もう1人は線の細い男性でしたので」

「スキルとかでめっちゃ力が強い……ということは無いんだったか」


 それはトトル達が調べているのだろう。

 冒険者にしろ他の商会や教会にしろ。

 スキルを隠し持つことは街にいては難しい。

 うっかり誰かに話してしまえば、そこから誰かに漏れ出る可能性もある。


 と、ここで尖兵達と話していたトトルがこちらへ来た。


「工房から血の付いた槌が見つかりました。付着の仕方から飛び散ったものではなく、殴打した際に付いたものであると思われます」

「お、ようやく凶器が分かったか」


 工房から見つかった。

 その情報は弟子が犯人である可能性が高いと示唆出来るのではないだろうか。


「重さは?」

「かなりありますね。成人男性で無ければ振るうのは難しいでしょう」


 これでシドドイ曰く容疑者は3人。

 その中に弟子も含まれているはずだ。


「工房に鍵はかかっていたか?」

「いえ……錠は壊されていました。何か魔法を使った痕跡があります」


 む……鍵を壊したということは身内では無いということか?

 いや、それすらブラフということもあるな。


「トトルは容疑者達のスキルは把握しているんだったよな?」

「ええ、まあ。そのくらいなら何とか」


 何とか?

 俺の過去の契約まで調べることが出来たトトルが容疑者達のスキルで何とか、か。

 過去とスキル、どちらの方が調べ上げるのに難易度が高いのか分からないが、しかしトトルの言い方だと本来はもう少し調べ上げることが出来るように思えた。


「この鍵を破壊出来る程度の威力の魔法やスキルを使える人間は?」

「それが……そこまでは分からずでして。魔法が使える、スキルが使える程度なら分かったのですが、威力の程度までは……」

「ふうん? なら、程度は別にして使える奴は?」

「そうですね。この中ですと……」


 そういってトトルが示したのは弟子を含めた3人。

 しかし、弟子以外は、先ほど凶器の槌を振るうことができるとされていた人物とは別の者であった。


「状況的には弟子が怪しいな……」

「しかしご主人様。その方なのですが、時間的に不可能とトトルさんが」


 トトル曰く、あの死体の損壊を作り出すのには1時間はかかるらしい。

 しかし、死亡推定時刻の弟子はこことは違う場所にいたと目撃情報が上がっている。

 ……そういや買い出しがどうとか言っていたっけか?


「ちょちょっと殺してちょちょいっと胴を捻じって心臓を抉って手足を焼いて頭を叩き潰して首を縄で縛って……出来ないな」


 トトルは1時間で出来るというが、それも休みなしでであろう。

 その後で外で買い物をしていたのであれば、何かしら弟子の様子がおかしいことに周囲は気が付く。

 目撃情報があがっているのであれば、その違和感も同時に上がっているべきであり、この時点で弟子の確保に向かっていないのであれば、その違和感は無かったのだろう。


 さて、まだ情報はきっと足りていないのだろう。

 俺が安楽椅子探偵を気取るには、もう少しだけ時間がかかりそうだ。

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