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154話 ダイイングメッセージ 3

「……なるほど。お話ありがとうございます。ひとまずシドウさん達の行動に怪しい点は無いようですね」

「そりゃ、清廉潔白な男だからな」

「ご主人様の行動に間違いがあるわけがありません」


 俺がアーノルドの店に来てからの一部始終を話したところで、トトルは俺を疑わしい人物では無いと断定したようだ。


「あの床に書かれた文字は気になりますが……シドウさんはこの店での購入履歴もありませんし、ひとまず他の方の話を聞いてからでも良いでしょう」


 いや、後回しにされたとみるべきか。

 これ以上は俺から得られる情報は無い。

 どころか、俺と話していると余計な先入観が入ってしまう。

 そんな視線を感じた。


「俺はどうすればいい?」

「そうですね……。帰って頂くわけにはいきませんから、どこかで待機して頂くことになるでしょう」


 やはり容疑者リストから外されてはいないようだ。

 僅かでも可能性が残っているなら逃さないというプロ根性は認めるが、される側からしたらとんでもない。

 早く帰りたいという気持ちと、このまま残って行く末を見送りたいという好奇心がせめぎ合っている。


「トトルはこれから他の客達に話を聞くんだよな?」

「はい。そのつもりです」


 トトル曰く、他の【飢える尖兵】は荒事に長けた連中ばかりであるらしく、こういった聴取には向いていないらしい。

 街の外にでも行った方がいいんじゃないかと思う連中だが、トトルという貴重なスキル持ちを放っておくわけにもいかないようだ。

 トトルの力を悪用されないためどこぞに監禁するほど、この国も人材に富んでいるわけではない。

 故に、【飢える尖兵】を護衛代わりにトトルを働かせている。

 ……とのことだが、実務的なことはトトル任せになっているところを見ると、誰も得をしない役回りだ。


「俺も立ち会っていいか?」

「……はい?」


 故に、俺の入る隙もあるというものだ。


「俺は以前にも愉快犯の捜査を冒険者ギルドの依頼で手伝ったことがあってな。こういうのには慣れているんだ」

「しかし容疑者の1人を捜査班に加えるなど……」

「やっぱり俺は疑われたままなんだな」

「――ッ!?」


 俺の突然の提案に虚を突かれていたのか、やはり口を滑らせた。

 少しばかり友好的な雰囲気を出そうとしていただけに、気まずそうな顔をする。


「別に俺が客達に話を聞くわけじゃねえぜ? ただそこに居させてくれればいい。さっき待機場所に困っていたな。なら聴取場所がそのまま俺の待機場所ってことだ」

「……無茶苦茶です」

「だが、お前に何か困ることがあるわけでもないだろ?」

「それは、そうですが……」


 何か理由を付けて断ろうとしている。

 だが、それは見つからないらしい。


「いつも1人なんだろう?」

「……」


 話を聞く限り、これまでトトルは1人で事件の捜査をしていた。

 【飢える尖兵】は頼りにならず、他の人間に頼るわけにはいかず。

 故に1人でいるしかなかった。


「俺の地元じゃ、捜査は2人一組のペアでやるもんだ。何があっても対応出来るようにな」


 この手の人間はあまり利で納得しない。

 なら攻め方を変えるか。


 俺を捜査に加えないことで起こる損害ってやつを教えてやる。


「なら俺は勝手に動くとするか」

「へ?」


 おいおい。

 何をそんなに意外そうな顔で驚いている。

 お前が言ったんだぜ?

 俺の立ち合いはダメだと。


「トトル。お前の見ていない場所で勝手に他の客達と話して、勝手に情報を仕入れるって言ったんだ。ああ、安心しろよ。俺が奴等から何を聞いてもお前とは共有しない。俺が教えたところで、それが本当に聞き出したことかどうか判別出来ないだろうからな」

「……っ」


 さて、どうする?

 俺を目に見える場所で見張ることで起こる損害。

 俺を見ないことで起こる損害。


 自分で言っていて悲しいことだが、そこまで損害と呼べるほどのことは実際には無いだろう。

 だが、心象的にトトルは俺に勝手に動かれては困ると感じている。

 だから、


「……共に捜査に来ていただけますか」

「仕方ねえな。そこまで言うなら一緒にいてやるよ」


 こう言うしかないのだ。


 明確な容疑者では無く、もしかしたら程度の可能性の低い俺だから、力づくで縛ることも出来ない。

 トトル自身が見張るしか、俺を縛る縄は存在しない。


「さあ。最高のタッグの完成だ」

「ご主人様。私もいますよ」

「最強トリオだな」


 さて、色々とトトルには言ったが、捜査に混ざっちまえばこちらのものだ。

 いくらでも口を出すし、いくらでも容疑者を炙り出すために手も出そう。

 犯人を見つけることこそが正義であり、そのためなら何をしても正義であることをトトルに教えてやるのだ。


「では――お願いしますね皆さん」

「……あれ?」


 俺の両脇には明らかにカタギでない男たち。


「シドウさん、確かに1人では聞き逃すこともあるかもしれないので、言っていることは理解できます、ただ、貴方をこのまま捜査に加えるのは危険だと判断しました。なので、私と共にはシドドイさん、貴女に来て頂きます」

「私、ですか……?」

「え、じゃあ俺は――」

「シドウさんはそちらです」


 俺をがっしりと掴んだ彼らはその厳つい顔を近づける。


「よくも俺達のトトルちゃんを虐めてくれたなぁ?」

「こっちでお話しようや?」

「え、ちょ、待っ――」


 2人の男に引きずられ俺はあっけなく退室させられるのであった。


「ご主人様……その無念は私が晴らさせて頂きます」


 無慈悲に閉められる扉の向こうから、シドドイの悲痛な祈りが聞こえたのであった。

 覚えていろよ。

 たとえ死んだとしても。

 俺は安らかに眠らねえからな。





「んで、俺をどうしたいわけよ」


 【飢える尖兵】の2人に連れられた俺は、まさかの事件現場へと戻っていた。

 死体こそどこかへ運ばれてしまっているが、血だまりや飛び散った骨肉片、荒らされた作業台が凄惨な殺人現場であったことを容易に想像させる。


「兄ちゃん、あれだけトトルちゃんに啖呵を切ったんだからよぉ? そりゃ、何か結果を残しておかなきゃだよなぁ?」

「てめえは今から俺達と共に現場検証だ。足跡、遺留品、犯人の遺した痕跡。何が何でも見つけろや。髪の毛一本見逃すんじゃねえぞ」


 どうやらトトルは俺を信用ならない性格だと判断したようだが、同時に犯人ではないと断定したみたいである。

 俺が犯人なら痕跡を消す最大のチャンスだ。

 尤も、消そうとしたが最後、それをこの2人の尖兵がトトルに報告するのだろうが。


 要は、俺を試しているのだ。

 俺が見た目通りに賢く、そして犯人で無いならば何かしらの手がかりを見つける。

 俺が見た目にそぐわぬ斬殺事件を起こした凶悪犯であるならば、ここで何かしらのアクションを起こす。


 そのどちらかを期待しているのだろう。


 無能な探偵役よろしく、何も見つからなかった時どうなるかは恐ろしくて考えたくもない話である。


「っつーかよ、そのトトルちゃんの力で犯人とか見つけられねえのか?」


 容疑者達の過去を調べ、犯罪歴や取引歴、そして持っている力を調べてしまえば自ずと容疑者は更に絞られるであろう。

 殺し方があまりに特徴的過ぎるのだ。

 ただの一般人には不可能な殺し方。

 冒険者やそれに連なる者の犯行と見て良いだろう。


「トトルちゃんの力はそうおいそれと使えないんだよ」

「制限があるってことか。ふうん……」


 【情報漏洩】って名前だったか。

 あとでシルビアにでも聞いてみるか。

 ともあれ、個人の詮索は出来ても犯人の特定は出来ないのであれば、こうして奴らが地道に動く意味も理解できる。

 トトルが人間性を調べ、他が現場を調べる。

 トトルの話ではあまりあてにならない連中と言っていたが、頼りになるみたいだ。


「おっと、落としちまったぜ」

「おーい、これ何処に置いてあったんだ?」


 前言撤回。

 尖兵は現場を調べるのではなく荒らすのが得意なようだ。

 全然頼りにならねえぞ。

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