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148話 ダンジョン 16

「あー、やっぱり外の空気は美味いな。湿っぽくてじめっとした洞窟内とは大違いだぜ」


 無事に洞窟最奥の宝箱の中身を取得した俺達は洞窟の外に出て一息ついていた。

 洞窟自体は未だ生きている。

 更には様々な罠じみた部屋がいくつもある洞窟にいては安堵して休むことも出来ない。

 帰り道はアバセルスがマッピングしていたようで、その案内に従いながらスムーズに出ることが出来た。


「なあシドウ。その宝箱の中身だが……」

「みなまで言うな。これは依頼主の元まで届ける。宝石に違いは無いからな。それに、別に俺はいらないし」

「……勿体ない」


 手の中で小さな石ころを転がす。

 黒く固い、道端にいくらでも落ちていそうなこの石こそがガーゴイル守る宝箱の中身である。

 シルビア曰く、他の何にも代えがたい価値があるらしい。

 あまり価値とか言うな。

 どこぞのいけすかないデブを思い出す。


「俺達の会話も聞いているのかな」

「恐らくね。反応が伺えないのが残念だけど、まあそこも含めて後のお楽しみというやつなのだろう」


 曰く、知能ある武器――インテリジェンスウェポンの原石らしい。

 会話が出来る。

魔法を放てる。

 固有のスキルを使える。


 他にも様々な恩恵に預かれるらしいのだが、その知能の程度や性格、武器性能は武器になる前の原石が置かれていた環境に依存するらしい。

 ダンジョン産は性能は良いが、性格が負に陥りやすいとか。


「というか、戦闘時に武器から声がしていたらうるさくて集中出来ねえだろ」

「君こそおしゃべりが過ぎる気もするけど……相手の注意を散らす策だったのかな?」


 俺のはあれだ。

 インテリジェンスに基づいたクールでイカしたコミュニケーションってやつだ。


「ともかく、私としてはその石は是非とも私達の武器づくりの素材にしたいのだけど」

「いや、使いたがる奴いるか……?」


 アイとシーに使わせるんだったら、もう1つ必要になる。

 あいつらの片方だけそんなレアな素材にするわけにいかない。


 スザルクは既に発情剣があるから必要ないだろう。


 シドドイは……弓手に集中力欠けそうな武器を渡してもって感じだ。

 武器のスキルや魔法次第にもなりそうだが。


 俺は当然いらない。

 そこまで武器に頼る戦闘しないし。


 シルビアは欲しがっているが……どちらにしても依頼主次第だな。


「随分と依頼主に拘るね。君の性格上、いらないにしても価値のあるものを手に入れたらこっそりと売りそうだけど」

「それもそうなんだけどな……。アバセルスの存在もあるし、何より見透かされていそうなんだよな」


 依頼主のクレジッドとかいう幼女。

 スザルクが俺の仲間であるという情報も掴んでいたし、このダンジョンにインテリジェンスウェポンの原石があったことは既に知っているかもしれない。

 そうなったとき、ネコババしたことを公にされては困る。


「あまり欲張り過ぎないようにってことだ」

「君に一番似合わない言葉だね」

「うるせえ。……ま、俺達に被害が全然無くて報酬が貰えるんだ。それで満足しようぜ」


 今回の死人は農業戦士と聖女くらいだ。

 チャミーの扱いってどうなるんだろうな。

 味方であったけど、敵だった。

 というか、魔王の配下が紛れ込んでいるのって誰の責任になるんだろうな。


 聖女の死に関しては、アバセルスとの協議の結果、ダンジョンの罠部屋の一つが犠牲を強いるものであり、聖女が身を挺したため俺達が生き延びた……ということになった。

 嘘ではない。

 聖女は罠部屋の一つで死んだわけだし、あの戦いが犠牲を強いる激しい戦いであったことに違いは無いのだから。

 そこに魔王配下であるモノトリーが登場するかどうかくらいだ。

 アバセルスによればモノトリーが聖女の死の原因にはしたくないらしい。


「それじゃ、俺はここで戻るっすね」

「ああ。ご苦労だった」

「はは……そんな言葉が出るあたりシドウさんは凄いっすね」


 やや呆れたようなトーンでアバセルスは笑う。

 苦笑も混じっているが、そんなに疲れているのか。

 元気出せ。人間、元気に生きていないと屍になるからな。


「また再会できた折には一試合願えますか?」

「純粋な剣術だと俺よりか七位の方が強いと思うっすけどね。まあ戦闘としてなら相手も務まるかと」


 七位……アレクサンドルか。

 アバセルスの言葉を聞いてスザルクに緊張が走る。

 奴の剣筋はスザルクが良く知っているだろう。

 

「二位が七位に剣の腕で劣るってのも変な話だな。【王国騎士十傑】っていうのは剣の腕で順位が決まるんじゃねえのか?」

「剣の腕……そんなの極めようとしているのはアレクサンドルさんくらいっすよ。騎士っていっても、その強さは剣術だけじゃないっす。魔法、武道、あとは変わり種といったら機構技術とかもありましたっけ。とにかく、十傑は剣術だけじゃなくて、戦闘の強さで決まっている感じっすね」


 剣術だけならアレクサンドルに軍配が上がるが、剣術と体術が合わさればアバセルスの方が強いということか。

 

「なのでスザルクさん。俺から何か学びたいのならそういった戦闘術を学ぶといいっすよ」

「そうですね。対人の駆け引きには疎いのでぜひとも」


 スザルクも魔物をメインに戦っていたからな。

 そういや死因は爆弾……人間によるものだったか。

 人間や人間の形をしている相手には弱いのかもしれないな。

 あの甲冑の魔物にも苦戦していたし。


「では今度こそ」


 アバセルス。

 【王国騎士十傑】第二位である中年騎士は今度こそ去って行った。

 よく考えればあの年齢でまだ第一線で戦えているのが凄いのかもしれないな。

 宿屋のオッサンもそうだけど、この世界での戦士の引退時期ってのは何歳くらいなのだろう。


「俺達も帰るか。若作りババアにさっさと報酬貰わなきゃな」

「……しかし、よくあのまま帰したね。実力差を考えればそうする他無かったとはいえ」

「ん?」


 シルビアが何とも言えない顔をしながら尋ねてくる。


「アバセルスのことさ。私達のことを王国に報告するとは思わなかったのかい?」

「シルビアさん。アバセルスさんは今回の不祥事を無かったことにする代わりに私達のことも黙っていてくれることになったのでは?」


 おーおー。

 スザルク君は純粋だねぇ。

 

「俺達みたいな一介の冒険者と、【王国騎士十傑】なんて肩書きを持つ奴の言葉どっちを信じるよ? 俺達がいくら言おうと端から相手にされないんだよ。逆にアバセルスの言葉ならすぐに耳を傾けるだろうさ」

「でしたらすぐに――」

「口を塞ぐってか? 無理だろ。俺がまたメンテナンスを発動するはめになるだけだ」


 ならばこの場での最善手は何か。

 黙ってアバセルスを見送ることだ。


「アバセルスは見落としていたことだけどな。コネクトルが死んだことよりも、王国にとって突かれたくない傷口があるだろ」

「それは……?」

「チャミー、ひいてはモノトリーの存在だ」

「はぁ……確かに戦闘にはなりましたが、しかし魔王の配下を倒して賞賛こそされましょうが、罰せられることなんて……」

「いいか? 今回の依頼は王国直々の依頼といってもいい」


 コネクトルとアバセルスは王国からの勅命で動いていたようだからな。

 俺達のようなフリーの冒険者とは違う立場だ。


「このバーティ―の人選は王国が選んだようなものだ。そこに魔王の配下が紛れ込んでいたんだぞ?」


 しかも戦闘になるまで気が付かなかった。

 それそのものこそ大きな失態だろう。


 俺達のことを報告するというのならば。

 必ずチャミーがモノトリーであったことも報告しなければならなくならず、その責任がどこにあるかは……まあ運次第ってところだろう。


「ネクロマンサー疑いの男くらい見逃されるんじゃねえの?」


 というか、今更だけどネクロマンサーの立ち位置をはっきりさせて欲しい。

 忌み嫌われている程度なのか、それとも害悪として駆除すべき存在なのか。

 それをシルビアたちに聞いてみると


「うーん……微妙なところだね。悪事を働いていたら間違いなく騎士が来るだろうけど……」

「マスターの行動は王国に利するものですから」


 だろうな。

 ということは、ますます俺の存在をわざわざ王国にチクる意味なんて無くなるわけだ。


「あとな。お前達って死体らしくねえんだよ」


 意識があって日中でも活動出来て。

 ネクロマンサーの操る死体らしさが無いのだ。

 俺のねくろまんさぁとの違いが、アバセルスの報告のしづらさの一因となることは間違いない。


「まあ、いざとなれば使えるコネを使ってどうにかするさ」


 グリセントに大食い痩せ女に若作りババア。

 俺達に味方してくれそうな権力者がこんなにいるなんて涙が出ちまいそうだぜ。


「……本当にどうしようもなくなったら勇者という身分を明かすしかないけどな」


 そう、最後に小さく呟いた言葉は幸いにもシルビアとスザルクに聞こえなかったようで、俺がすぐに咳ばらいをして誤魔化してもただ首を傾げるのであった。


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