147話 ダンジョン 15
お久しぶりになりました
二次創作から帰って来ました(二次創作も未完結なのでそっちも終わらせねば)
他者の皮を被り己を偽るモノトリー。
姿ばかりかスキルをも模倣することが出来るという恐るべきスキルを持つ性別不詳年齢不詳外見不詳の魔王の配下。
人形遣いを始めとした、触れるだけで対象を絶命させるという強力なスキルの持ち主の皮を持っている。
だが、果たして脅威は他者のスキルを使えるという点なのか。
いいや、俺はそれよりも皮を被ることが出来るという、変装芸そのものが厄介であると考えている。
どれだけ強力なスキルを使おうとも、それ以上の戦力をこちらが用意すればいいだけのこと。今回もアバセルスやスザルクがいたからこそ、モノトリーの人形の猛攻を凌ぐことが出来た。
だが、俺の知り合いを密かに殺し化けて近づいてきたら?
油断も隙もあるだろう街中や、室内などの密室で2人きりになってしまったら?
俺は何も出来ずに死ぬことだろう。
死んで皮を残すことになるだろう。
それがモノトリーの最も危惧すべき力だ。
他者の力を借りることよりも厄介な、他者に化ける力。
……どうやら、その力は防御にも使えたようだ。
合体魔法【風穴】の穴の部分である【ホール】を解除し、地上に戻る。
密室内で放った【サイクロン】はそのほとんどを瓦礫に変えていた。
姿形が残っているのは巨大な石竜くらいだ。
俺がせっかく応援に呼びつけた【リビングアーマー】も砕かれ消滅していた。
まあ、俺の求めていた役割くらいは全うしてくれたので奴も本望だろう。
そう、安堵した時であった。
石竜――ガーゴイルの死体を押しのけて顔の無い人間が立ち上がった。
それは、俺の知っている知識で最も近いものをあげるとすればのっぺらぼうであった。
目も鼻も口も無い人間。
……いや、のっぺらぼうよりもマネキンに近いだろうか。
「皮を……何枚も何枚も何枚も、重ねて重ねて重ねれば! そよ風くらいは防げるんだよぉっ!」
ソイツは見た目も声も全く聞き覚えの無いものだ。
だが、ソイツが誰であるかは分かる。
【嫉妬】の魔王レヴィアタン、その配下であるモノトリー。
彼?彼女?こそがマネキンの正体だ。
「随分と格好いい見た目になったな」
「……っ! お前が、どの口で、それを言うのか!」
どうやらモノトリーは激高しているようだ。
少しは風にでも当たって落ち着けばいいと思うぜ?
いや、十分すぎるくらいには当たったのか。
「ふむ。皮の一枚それぞれが致命傷を防ぐアイテムの役割を果たしているみたいだ」
「ああ、だから生き延びていたのか」
「【サイクロン】が発動している間は何度も致命傷を与えられていたはずだから、相応に皮を消費したとみていい。というか、あの見た目だからもう無いのかもね」
確かにな。
誰かに化けて戦っている奴が何にも化けていない。
まさか素の状態が強いわけでもないだろうし、今アイツは化けるための皮が一枚も残っていないというわけか。
「しめしめ」
「君、喜ぶにはまだ早いと思うけど」
「……ん?」
だが、この場にモノトリーが被ることのできる皮なんて……。
「アッハッハ! 間抜けね! さあ、シルビア。貴女が教えてあげなさい。私のスキルの発動条件を」
「そんなこと、シルビアに教わらずとも知っているぜ。皮を被れば、だろ」
「ええ、そうよ。だけどその前段階。皮をどうやって作るか知っているかしら? 私が化けることのできる相手は私が殺した相手」
だが、モノトリーが殺した農業戦士も聖女も悲しき不慮の事故で肉体ごと消滅している。
何より、奴等単体での戦闘力はアバセルスやスザルクに劣るだろう。
今更化けたところで……、
「いや、待てよ……まだいるな」
ああ、しまったな。
モノトリーが殺した相手がまだこの場にいたか。
「さあ、その力を私に寄越しなさい。石の如く頑強で、竜の如く屈強。そこにこの私という知恵を加えた最強の生物」
「最後のは余計じゃねえか?」
「……ガーゴイル! 貴方の皮を頂くわ」
俺のヤジを無視し、モノトリーの手にはいつの間にかガーゴイルの石の皮膚と同色の皮が握られていた。
正直、ガーゴイルの全身の皮が剥がれたのかどうか、ガーゴイルの見た目からは分からないのだが、モノトリーのマネキン越しの表情から察するに成功しているようだ。
そして、それを纏うことでモノトリーは膨れ上がっていく。
俺達をあれだけ苦戦させてくれた巨大な石竜の姿へと。
「うおー。でけえな」
「隣に同じガーゴイルの死体があると何だか面白いね」
さて、ガーゴイルは既に俺達の手によって倒されている敵だ。
あの時は農業戦士という前衛やチャミーのぬいぐるみが翻弄してくれていた。
仲間が怪我を負おうともコネクトルが瞬時に回復をすることでサポートも十分であった。
今俺達はその時の約半数。
戦力としてもだいぶ少ない。
「マスター。私に突撃の許可を。この命を賭してでもあの竜を止めてみせます」
「ここまで来たら俺も本気出しとかないといけないっすかねぇ」
アバセルスとスザルクが前に出る。
「石像の方は壊せたみたいだけど、ガーゴイルも砕けそうか?」
「どうっすかねぇ。最悪、足のほうが砕けるかもしれないっす」
だろうな。
流石にガーゴイルと石像の騎士が全く同じ硬度であるとは思えない。
ついでにいえば、【サイクロン】でリビングアーマーは消滅したが、ガーゴイルは残っていた。
このことからも、アバセルスたちに任せるのは荷が重いと言えよう。
……こんなことなら農業戦士がいればなぁ。
肝心な時にいねえんだ。
『話は終わりか? この竜の姿に畏怖しろ。竜の力に這い蹲え。竜の炎に焼き尽くされろ』
モノトリーの、いやモノトリーの化けたガーゴイルの口に火が灯る。
火炎放射器を使うようだ。
本物は口が溶けかけていたけど、アイツはそれをどうする気なのかね。
まあ、ともあれ。
俺の返答は決まっている。
「アバセルス。ここは俺に任せてくれ」
こいつは俺1人で倒せる。
否、俺でなければ倒せない。
「……へえ。いけるんすか?」
「ああ。だがよ、ここまで共に行動してきたんだ。多少は俺のやることに目を瞑ってくれるよな?」
「黒魔法のことすか? それともネクロマンサーの方?」
やっぱり話は聞いていたよな。
「両方だ」
「んー……」
アバセルスは少しばかり悩む仕草を見せる。
王国に仕える騎士として、ネクロマンサーの存在を認可出来るかどうか。
立場からすると見逃せというほうが難しいか。
「ま、いいすよ。その代わりなんすけど」
「何だ?」
金銭か?
それとも俺の体か?
「いやん」
「……体をくねらせないでくださいよ。いや、勿論交換条件なんですけど……聖女様のことを黙っておいてくれないすか?」
「あ?」
「いやー。魔王ならともかく、その配下如きとの戦いで聖女様を1人死なせてしまうと俺の立場的にも問題なんで」
……。
ははっ。
何だ。
随分とお前もこっち側だったんだな。
「良いぜ。俺とお前。2人だけの秘密だな」
「そうっす。2人だけの」
「いや、私達も聞いているのだが」
『無駄口を叩くのもいい加減にしろ! 全てを燃やし尽くし、そして皮のみ残して行けぇ!』
随分と短気なことだ。
モノトリーの口から火が放たれようとする。
うん、それを防ぐ手段は俺達に無い。
シルビアが水の盾を作ってくれれば防げるだろうが、俺にツッコミを入れている間に魔法を発動するのが遅れてしまったようだ。
馬鹿だなぁアイツ。
そんなことをしなくても、俺が何とかするって言っているのに。
「【メンテナンス】、及び【オートリバイバル】」
瞬間、モノトリーの姿が元のマネキンへと戻っていく。
そこにガーゴイルの皮など無い。
見た目では分からないが、ガーゴイルの死体へと皮が戻っているからだ。
「化けの皮が剥がれたな、なんつって」
「な、何をした!」
「そりゃ、シルビアにやったことと同じことだ。忘れたか? いくらお前が殺そうと、お前が皮を奪おうと、俺が死体を生き返らせて形を修復しちまえば、その皮もまた修復の対象になっちまうってことをよ」
流石は魔王の配下さんだぜ。
俺のスキルで能力が無効化されちまうなんて、ちっぽけな能力をお持ちのことで。
「じゃあな。俺の死体人形として弄んでやろうとも思ったけど、アバセルスの手前だし、肉一片も残さず殺し尽くしてやるよ」
やれやれ。
モノトリーのスキルを俺が持っているだなんて国にばれたら目を付けられちまうぜ。
「あばよ」
ガーゴイルの口から火が放たれる。
自身の発射装置すら溶かす高火力はモノトリーを包み込み、絶叫をあげさせた後に何も残さなかった。
「シドウさん。申し訳ないっすけど、そのガーゴイルも消して貰えると助かるっす」
業突く張りなことだぜ。
俺達がアバセルスを囲んで……その前に俺が殺されるな。
「……名残惜しいけど、お前もお疲れさんな」
ガーゴイルを死体人形から解除させる。
そして、シルビアの魔法で粉々に砕いてもらった。
ここまですれば流石に俺も生き返らせないし、アバセルスも俺の言葉に嘘が無いことを察したのか納得していた。
「……やれやれ。疲れたぜ」
「そうっすね」
その原因はアバセルス、お前なんだけどな。
俺の個人的報酬の大半をみすみす失わせたんだから。
「ほらシドウ。目的のものを取りに行こうじゃないか」
「……ああ、そうだったな」
まだあれがあったな。
ガーゴイルが守っていた宝箱が。
残念な中身だったらどうなるか分かっているよな?