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146話 ダンジョン 14

「嘘……」

「嘘じゃねえって、しっかり現実を見ろよ。石像騎士10体は俺達で壊したぞ」

「破壊したのはアバセルスとスザルクじゃないか。シドウ、君は見ていただけだろう」

「いいんだよ。シルビアの眼を通して俺がスザルクを助けたんだから」


 残るはモノトリーと操るぬいぐるみ達。

 頑丈性と騎士特有の剣での攻撃一辺倒であった石像騎士と違い、ぬいぐるみはそれぞれが何かしらの力を備えている。無論、通常の魔物と比べれば1体1体は弱いのだが、連携と力の多様性がぬいぐるみの群れを厄介たらしめていた。

 ……が、それも騎士たちが破壊された今となっては過去の話だ。


「シドウ……シドウシドウシドウシドウ……!? 思い出したわ……そう、貴方がマモン様を倒したと言うシドウだったのね」


 え、今更かよ。

 すでに気づかれていたと思っていたが。

 というか、シルビアが未だに生きている理由から察しろよ。


「ならシルビアはすでに死体……皮は……そうだったのね」

「ちなみにシルビアってどうやって殺されたんだ?」

「魔法を反射するスキルを使ったようだ。手加減しようとして不得意な火魔法を使ったらそのまま返されて燃やされてしまったよ」


 ……魔法を反射、か。

 それは厄介なスキルだな。

 事前に聞いておいて良かったぜ。


「さて、反撃の時といこうじゃねえか」


 モノトリーのスキルの種はすでに割れている。

 生者問うのかは分からないが、皮を纏うことでその本来の持ち主のスキルを使うことが出来る。

 そして、皮の付け替えは一瞬。

 ここまでで確認できたのは人形を操るスキルに、触れた相手を絶命させるスキル、そして魔法を反射するスキルか。


「多分だけど、皮はそう多くは持てないはずだよ。皮を完全に纏わなければスキルは使えない――」

「つまりは、少しでも皮が破壊されれば皮は用を為さなくなるってわけか」


 なんだ。

 結局は当初の作戦通りにいけばいいんじゃないか。


「【風穴】だ。アレしかねえ」

「だね。騎士たちが動かなく……否、砕けた今こそ使うとしよう」


 俺とシルビアは詠唱を始める。

 合体魔法だ。

 それなりの準備は必要となる。


 その間にもぬいぐるみ達は襲い掛かるが、騎士を倒したアバセルスとスザルクが応戦に駆け付ける。


「気を付けるっすよ。ぬいぐるみはともかく、あの女の手に触れると死ぬみたいっすから」


 アバセルスは抜け目なく、先ほどシルビアの心臓を止めたスキルについての注意喚起をスザルクに促す。

 あの混戦でも聞いていたか……。

 どこまで俺達について知ってしまったか……。

 いや、今は俺達の味方として扱っておいてもいいのだろう。


「ええ。シルビアさんはその手のスキルに対して防壁の魔法を持っていたので助かりましたが。我々では危ない」


 おお、上手いぞスザルク。

 シルビアがスキルを使われても尚、生きている理由をアバセルスに誤魔化している。

 嘘も方便では無いが、まあ似たようなものだ。

 心臓を止められても俺の【メンテナンス】なら再起動させられるだろうし、心臓が動かなくても肉体を動かすのにそもそもで支障は少ない。


「俺達もその魔法かけてもらえないっすかねぇ」

「どうでしょう……ですが、マスターとシルビアさんには何か手があるようです。我々が今すべきは、それを邪魔されないよう動くのみ……!」


 アバセルスとスザルクはぬいぐるみ達の爪や牙を剣で受け止める。

 騎士たちと違い、人の形をしていない。

 小さく小回りの利く相手を斬るのは難しいのだろう。

 それに、モノトリーに気を払いながらである。

 自然、踏み込みも勢いが減り、守勢に回りがちとなっている。


 だが、それでいい。

 無理に倒す必要はない。

 だって……倒しちまったら俺達の見せ場が無くなるだろう?


「【風穴】……なんだその魔法は……。まさか! 私の体に穴を……!?」


 モノトリーは自身の体を守るように抱き、後ずさる。


 さて、それはどうかな。 

 まもなく俺達の詠唱も終わりを迎える。

 この魔法は非常に緻密さを要する。

 どこがと問われれば……この魔法が俺達を傷つけないように、だ。


 まずは俺からだ。


「【ホール】」


 ぬいぐるみで周囲を固めて防衛に徹しようとしていたモノトリー。

 それ以外の俺達全員を穴に落とす。


「……え?」


 俺とシルビア、アバセルス、スザルク。

 4人分の穴を空けることに加え、着地地点の地面を柔らかくすることで落下時の衝撃を防ぐ。

 最低でも2mの穴底だ。

 着地にミスれば普通に骨折するレベルの高さであるが、まあそんな奴はいるまい。


「あいたっ」


 シルビアの声が聞こえた気がするが……気のせいだろう。

 というか、早く次の魔法使えや。


 穴の底にいるからモノトリーの顔は見えないが、恐らく困惑していることだろう。

 これから何をするのか……されるのか、予想は出来まい。


「お前ら伏せておけよ!」

「【サイクロン】」


 そよ風が地上で巡り始める。

 閉じられた室内で、それは徐々に勢いを増していく。

 つむじ風はやがて突風へ。

 しかし風の逃げる場所はない。

 徐々に、だが一気に増していくそれは竜巻となっていく。


「……アイとシーの冒険譚を聞いておいて良かったぜ。ほんと、風の力はすごいよな」


 双子の持ち帰った【風魔鉄】は風の力を蓄え、荒れ狂う風を引き起こしていた。

 それをヒントに俺とシルビアで開発した合体魔法【風穴】。

 決して対象に風穴を空けるような魔法ではない。

 地面に空けた穴で自身を守り、風で敵を切り裂く魔法だ。

 近距離で戦っている相手であっても範囲攻撃に巻き込めるという素晴らしい魔法であるのだが……弱点もたくさんある。

 発動までの時間、そして風魔法であるが故に対象を選ぶという点である。

 時間稼ぎはアバセルスとスザルクという前衛がいれば問題は無い。

 だが、対象……石像騎士は風で切り刻むには頑丈過ぎた。そして重すぎた。

 竜巻で飛ばせるか分からない重量。

 それをスザルク達に砕いてもらった。

 残るは綿で出来たぬいぐるみと、魔法配下といえど人間の形をしたモノトリーを吹き飛ばすには十分すぎる威力だ。


「だけど! 私にはまだ――」

「そう。魔法を反射するスキルだったな。それを邪魔しなきゃならねえ」


 だったら簡単だ。

 突風の中でも動け、傷の付かない者がモノトリーのスキル発動を邪魔すればいい。


「忘れたか? 俺は物を修復できるスキルがあるんだよ。たとえ消えかかっている魔物であろうと、それが死体であれ物であれ、修復して蘇生が出来るんだ」


 さて、視覚を共有していたから迷わずにこの部屋へとたどり着けただろう。

 

 その重量と硬度は鎧を着ているだけのことはある。

 その速度は鎧を着ているとは考えられない。

 魔物としての強さに加え、死体となり蘇生された強化。


 かつてアバセルスに倒され、消えようとしていたところを俺が直しておいたのだ。

 ちゃんと描写はあったぜ? 消えようとしていたってところまではな。

 消えたってところまでは誰も確認はしていなかった。

 

「今のお前はここがダンジョンになる前よりも、そしてダンジョンになった後よりも強いぜ」


 なあ、【リビングアーマー】よ。

 まともな戦いをすることなくアバセルスに一蹴された魔物よ。

 最後くらいは強敵と闘いたいだろう?

 一矢報いてみようぜ。


「うんうん。視界良好っと」


 たとえぬいぐるみ舞おうと、【リビングアーマー】の視界は乱れない。

 どっしりと構え――吹き飛ばされまいと地面にしがみつくモノトリーを押さえつける。


「なっ!? スキルが……」


 魔法反射のスキルの発動条件は知らねえけどよ。

 魔法反射のスキルを使うために皮を付け替えなきゃいけないって条件は知っているんだぜ。

 一瞬で付け替え出来るんだろうが、それは両手を塞がれても、突風の吹き荒れる中でも出来るものなのか?


「あ、あ……あああああぁぁぁぁぁ」


 【リビングアーマー】と視覚共有できる俺と、俺を通じて共有可能なシルビア、スザルクはモノトリーの行く末をただただ安全な穴の中で見ているのであった。


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