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144話 ダンジョン 12

「お前は……そう、シルビア……生きていたのね」


 仮面が外れ、素顔を曝したシルビアの顔を見てモノトリーが驚いている。

 それは、シルビアがすでに死んでいることを知っている反応であった。


「シルビア……同じ名前だ……それもエルフ……。なんでこんなあからさまなことに気が付かなったのよ」

「知り合いか?」

「いや……というか、チャミーだよね? 何で敵対しているんだい?」


 あ、こいつ本当に気絶していたのか。

 てっきり動けないだけかと思っていたが……。


「あいつ、魔王の配下。名前モノトリー。おーけー?」

「なるほど」


 シルビアの眼が光る。

 【鑑定】が発動されたようだ。

 これでチャミーもといモノトリーの能力も分かるだろう。

 力量差があるとあまり見えないようだが、それでもマモンの時よりは得られる情報量も多いはずだ。


「チャミーのようだが?」

「あれ?」


 だが、シルビアの【鑑定】はモノトリーをチャミーとして読んだようだ。


「アイツ、奪った皮を使って擬態する能力みたいだぜ。中身がモノトリーって奴で、チャミーとかいうどっかのガキの皮を使っているんだって。かわかむりって呼んでやろう」

「それは本当にやめて」

「モノトリー……ああ、思い出した」


 シルビアはびしっとモノトリーを指さす。

 それは探偵もので犯人を当てるかのよう。


「ずばり、私を殺した者だね」


 犯人だったようだ。

 というか……ん? んん?


「シルビアお前、火事で焼け死んだんじゃなかったっけ?」


 間抜けな建築物の中で埋もれて死んだと思っていたが……。

 あの婆さんに弔われていたし、俺が直接生き返らせたんだから……あー。


「そういや皮無かったな」


 あの時見えたのは皮の中身……血管や筋、骨であった。

 焼けたのだから当然と思っていたが、剝がされていたのであればむしろそれを隠すために後から燃やされていたと考えることも出来る。


「うん。実は私の直接的な死因はこのモノトリーによるものだ。一瞬だったからよく覚えていなかったが……なんだったかな、あれは」

「心臓を止めるスキルよ」

「そう、それそれ……え?」


 モノトリーが人形を操作する。

 騎士たちはアバセルスとスザルクの足止めをし、ぬいぐるみでシルビアを抑え込む。

 死体であるくせに非力なシルビアは抵抗できず、近づくモノトリーから逃れることは出来ない。

 モノトリーは一瞬にして皮を脱ぐと、別の髭もじゃのオッサンに姿を変える。

 モノトリーの拳がシルビアの胸――心臓部を殴打する。

 その一撃でシルビアの心臓は止まったようだ。


 ぐったりするシルビアをぬいぐるみが放り捨てる。

 顔からは生気が失われているようにも見える。


「えぇ……けっこう直接的じゃね? 力技じゃねえか」

「うるさいわね。こういうスキルなのよ」


 と、モノトリーはいつの間にかチャミーの姿へと戻っていた。

 触らずとも、心臓を止めるビームでも出すのかと身構えていたが……。

 まあどっちでも変わらねえか。

 心臓を止めたところで、死体にはさして影響はない。


「その余裕綽々たる姿もいつまでもつかしら? 今度こそシルビアの皮を頂くわ……というか何で消えたのかしら。確かに奪ったのに」


 もしかしたら、【メンテナンス】でシルビアの全身を直しちまったからかもな。

 シルビアから皮を奪ったようだが、直すついでに消したとかか。


「シドウ。聞いてくれ。私は今心臓が止まっているようなんだ」

「というか動いていたのか? その辺り検証していないから分からないんだが」


 白目をむいていたシルビアが動き出す。

 

「なっ……!?」


 モノトリーは驚きつつ、人形を動かし再度拘束しようとする。


「それは勘弁してほしいな。心臓を止められるよりも動きを止められる方が厄介だね」


 シルビアが全身に風を纏う。

それだけでぬいぐるみは近づけなくなる。


「感想はどうだ?」

「うーん、いつも通りだね」

「そうか。これ以上何かこいつから見たいものはあるか?」

「もういいかな。まあ、殺されたことは残念だけど、君に出会えたことを考えたらプラスマイナスはゼロだしね」


 ゼロかよ。

 むしろ感謝とかじゃねえのかよ。

 喜びが死に勝っていない。


「……なんてデタラメな人間たち」

「いや、人間の皮被ってるやつよりは人間らしいだろ。少なくとも俺は」

「どこがよ! この状況でさっきから平然としているのがまともなはずないでしょ」


 いや、だって……ねえ?

 シルビアの力が別に封じられているわけじゃないし。


「俺とシルビアが揃っているんだぜ? スザルクもまだいる。負けるはずねえじゃんか」

「【鑑定】が効かないのはそのスキル、【蘭游】のせいだろう。皮を被ることで外見やスキルを真似するらしいが、まさか【鑑定】すらも誤魔化せるとはね」

「なんだ、結局【鑑定】は成功したのか」

「いや。今でも中身は見えないよ。知識としてそういうスキルがあることを知っていただけさ」


 なるほどね。

 まあ自分のスキルの把握と対抗されるであろうスキルくらいは調べておくか。


「……っ! だけど、まだ優勢であることに変わりはないわ! シルビア、お前にぬいぐるみは近づけないようだけど、その男はどうかしら? ずっと見ていたけど、その口だけの男に戦う力はないはずよ」


 おっと、バレてたか。

 そう、戦う力の無い平和主義者です。


 ぬいぐるみが一斉に俺へと襲いかかる。

 ……まだ穴は残っているな。


「おいおい、俺にだって動かせる人形があることを忘れたわけじゃねえよなぁ?」


 

――【カースドパペット】


 

 藁人形は忘れてしまったが、この場には壊れモノトリーが操作を放棄した人形が落ちている。

 それに怨念を宿らせる。


「農業戦士と聖女様の怨念だぜ? 死の直前に漏れ出る怨念は強く濃いからほんと大好き」


 俺の藁人形にしたうえで【メンテナンス】で直す。

 そうすればぬいぐるみの主導権は俺に移る。

 モノトリーが再度人形を操ろうとしようが、俺の支配下になったぬいぐるみは動かない。

 いや、俺の思い通りに動いてくれる。


「……まあいいわ。私のぬいぐるみはまだたくさんいる」


 だよなぁ。

 俺の怨霊人形が抑えてくれるのだってせいぜいがモノトリーのぬいぐるみ1匹。

 他大勢のぬいぐるみと石像騎士は依然として暴れまわっている。


「というわけで、だ。シルビア」

「なんだい?」

「対ガーゴイル戦で忘れてしまっていたあれをやろう」


 いくつかある俺達のあれであるが、対大型から対小型まで各種揃っている。

 今回使うべきは対パーティー用でいいだろう。

 だがまずはその前にアバセルスとスザルクに活躍してもらわないと困る。

 石像騎士には通用しないだろうから……。


「あれってなんだっけ?」


 ……。

 俺、いちいち説明しないとこいつと連携取れないの?


「【風穴】」

「……ああ!」


 はい、使いまーす。

 合体魔法【風穴】いきまーす。


「が、その前にあっちを片付けてもらおうぜ。スザルク、アバセルス! そろそろどうだ?」


 それぞれ5体の石像騎士を相手にし未だに戦闘を継続出来ているだけでも驚きだ。

 だが、あいつらなら継続どころか打破できると俺は思っている。


「ふん、あの騎士が負けると思うのかしら。1体1体が並みの騎士よりも剣の腕は上なのよ。それに加えて石像という頑丈性。あの2人が剣士なら、倒せるはずがないわ」

「そ、そうだ……シドウ、これはまずいんじゃないかな」


 確かに、剣で石像を斬るのは難しいだろう。

 石ころならばともかく、石像ともなれば質量もあるため欠けさせるのがやっとだろう。

 その前に剣が綻んでしまう。

 スザルクが石像を斬れると聞いたことはないし、アバセルスのことなんて知らない。

 

「いいや? あいつらは勝つぜ」


 だが、あの2人はただの剣士じゃない。

 スザルクは【竜殺し】であり、その剣はただの名剣などではなく勇者の剣。

 アバセルスに至っては自分で剣士ではないと名乗っていた。


「それは一体……」


 モノトリーが俺の言葉に首を傾げる。

 その間もぬいぐるみは絶え間なく襲って来るが、シルビアの風の壁で弾かれている。

 だが、攻撃力はあまりないのか、それともぬいぐるみ故に綿が衝撃を吸収しているのかダメージを負っている様子はない。


「ほら、目を離してていいのか? もう石像騎士は残ってねえぞ」

「――っ!?」


 鈍い音が響いた。

 モノトリーが振り向くと、そこにいたのは石像騎士であった残骸の中央に佇むアバセルスと、石像を従えるスザルクの姿であった。


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