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143話 ダンジョン 11

「【ホール】」


 足元の床に小さな穴をあける。


 農業戦士が死に、シルビアが斬られた。

 そして、チャミーが石像を操り、裏切った。

 石像の騎士は少なくとも農業戦士を即死させられるほどには強い。

 それが10体だ。

 ガーゴイルが再び動き出さないところを見る限り、壊された物体を操ることは出来ないらしい。

 

 状況としてはこんなところか。

 非常にピンチであり、こちらの戦力としてはスザルクとアバセルスのみ。

 俺は騎士1体にも敵わないだろうし、コネクトルは錯乱しているようだ。

 うん、このままだとどうしようもないな。


「誤算は貴方よ、シドウ。まさか壊れた私の人形を直してくれるとは思わなかったわ。ええ、私の役に立ってくれるという点では嬉しい誤算よ」


 しまった。

 そういえば俺が直した人形たもいたっけか。

 余計に戦力差が開いてしまっている。


「最初の予定ではガーゴイルを倒し疲弊した貴方達を10体の騎士だけで殺すつもりだったのだけれど。人形がまだ動かせるのであれば尚更楽ね」


 チャミーは笑う。

 先ほどまでとは性格が一変したかのように、心底おかしいとばかりに笑っている。


「随分と饒舌になったもんだな? チャミーちゃんよ、ずっと猫を被っていたのか」

「そうかしら? まあ、私チャミーじゃないもの。被っていたのは猫じゃなくて皮よ」

「皮?」

「ええ。チャミーという少女の皮。人形遣いなんてスキルを持っていたから使わせてもらったわ」


 そう言って、チャミー……いやチャミーであったナニカはSF映画に出てくるような、顔面の皮を剥ぐ仕草を見せる。

 

「おっと、中身は内緒よ。恥ずかしいもの」

「なんだよ、ケチだな」


 チャミーが皮から手を離すと、皮は顔に張り付き、破れていた境目はすぐに消え去る。


「……一応、目的を聞いておこうか」

「あら、気になるの。宝全て……だったら貴方たちにとっては良かったかもね」

「違うんだな。なら、俺達の命か」

「ええ、そう。優秀な人間の抹殺。これが私の目的」


 ……まあ、この場に呼ばれている人間は俺を始めとして一芸に秀でた者ばかり。

 しかし、個人ではなく優秀な人間……ねぇ。

 そんな、人間の力を削ぐようなことを目的としているのなら、正体もすぐに予想出来る。


「魔王、か」

「あら。当たり。正確には魔王直属の配下よ」


 またこんな場所に来なくても……いや、引き込まれたんだったか。

 となると、このダンジョンは罠か。

 俺とシルビアが偶発的に作ってしまったダンジョンであるが、それを魔王たちにも利用されたってわけか。


「七罪魔王が一人、【嫉妬】の魔王レヴィアタン。その配下のモノトリー」


 と、チャミー……ではなくモノトリーは名乗る。


「そうかい、モノトリー。ちなみに、その皮は持ち主はいるのか?」

「ええ。いたわ。尤も、皮を貰う時に殺したけど。じゃないとスキルが私のものにならないし」


 随分と、話してくれるな。

 なるほど、皮を剥ぎ、それを纏うことで姿とスキルを手に入れることが出来る能力か。

 本体はそれほどの戦闘力は持っていなさそうだが……この場で石像の騎士と人形たちを相手にするには少しばかり足りない。

 強さもそうだが、単純に手が足りない。


「というわけで、行ってみましょうか!」


 幸いなことにコネクトルは混乱しているようだ。

 アバセルスも後で何とでも言い訳出来るだろう。

 農業戦士の性格からして、自我を与えると面倒そうだ。



――【オートリバイバル】



 まずは農業戦士を蘇生させる。

 死体としての強さがあれば騎士の相手も出来るだろう。

 こいつの強さは農業戦士というスキルと肉体。

 複雑な魔法やスキルを使うような奴ではない。


「……奥の手を使うわ」


 と、同時にコネクトルが何かを決意したかのような表情を作る。

 奥の手……? 

 おいおい、嫌な予感がするのだが。

 余計な真似はしてくれるなよ……。


「蘇生系統は黒魔法とされてきた。けれど、あるのよ。回復魔法の秘術。聖女しか使えない魔法が」


 コネクトルの手から暖かな光が漏れる。 

 それは次第に農業戦士の死体へと伝わっていき――


「【リザレクション】

「あ、ちょ……」


 俺が蘇生させた農業戦士は直後に回復魔法をかけられ……消滅した。


「農業戦士ぃぃぃぃぃ!?」

「え、嘘……失敗した!? どうして……」


 というか、まずい。

 コネクトルの驚き方からして、【リザレクション】という魔法もまた本来であれば失敗するようなものではないのだろう。

 かりに失敗したとしても肉体の消滅なんてことは起こらないのだろう。

 回復魔法を使用し肉体が消滅する。そんな現象が起こる理由を突き詰めて考えてしまえば、おのずと答えは出てきてしまう。


 俺が【ねくろまんさぁ】であることがコネクトルにばれてしまう。


「よ、よくも農業戦士を! おのれ、モノトリーめ」

「え、そうなの?」

「ああ、恐らくだが……回復魔法の類を打ち消す能力を持っているんだろう」


 魔王の配下だし、そういう力も持っているのだろう……ということにしておきたい。


「モノトリー……これが魔王の配下。私の対策もしてきたってことね」

「いえ、別にそういうわけでは――」

「だが! 俺のスキルは聖女のものとは違うぜ! 起きろシルビア!」


 

――【メンテナンス】



 シルビアに付けられた傷を修復する。

 こちらは事前にコネクトルに伝えていたし、俺のスキルのみがかかる。


 シルビアが起きだす前に再び騎士たちの猛攻が俺達へと向かう。

 人形も混ざっており、アバセルスとスザルクでは手が足りない。


「……ちっ。早く起きろよシルビア」


 俺は思わず1歩下がる。

 それは少しでも敵からの攻撃から身をかわすためであった。


 コネクトルは自身の奥の手を防がれたことによりそれを失念していた。

 いや、それよりも聖女らしくみんなのサポートをしようと、俺とは逆に1歩前に出たのかもしれない。


「……あっ」


 10体の騎士は前衛2人が何とか凌いでいる。

 それを掻い潜った人形が、ガーゴイルへしたようにコネクトルの体に攻撃を叩き込んだ。

 いくら致命傷すら治す聖女といえど、己が致命傷を食らってしまえば治すどころではない。

 それを出来てしまえば、それこそ傷の痛みを感じない死体だ。


 しまった、と思った時にはすでに遅く、人形が剥がれたそこにあったのはコネクトルの死体であった。


「これで3人目……いえ、2人目ね。どうやったのかは知らないけど、そちらのエルフは治療されたみたいだから」

「……いいや、1人だけだぜ。お前に消されたのは、農業戦士だけだ」


 死体となってしまったならばむしろ好都合だ。

 すぐさま俺はスキルを使う。



――【オートリバイバル】



 農業戦士とは違い、もう死体に回復魔法を使う者はいない。

 俺は、回復魔法……ひいては光魔法を極めた聖女の体に蘇生のスキルを使った。


「あ、これもダメなのか」


 結果、コネクトルの死体は蒸発した。

 うん、おかしいな。

 光を放つキリンの時は問題なかったのだが。

 程度の問題だろうか。

 ただの魔物と、聖女の違い。

 光を纏う強さの違いだろうか。


「おのれモノトリー……!」

「いやだから、私何もしていないってば」


 ともあれ、聖女の死体も無くなってしまい、ただでさえ防戦一方であった戦況が更に傾く。


 コネクトルを片付けた人形たちが次に向かうのは俺だ。

 剣を持つスザルク達と違い、俺は杖こそ持つが近接戦闘には乏しい。

 自衛用にナイフはあるが……まあこの数には無理だろう。


「もう何人でもいいわ。とりあえず全滅させるのだから」


 チャミーの皮を被るモノトリーが笑う、

 歪に笑った表紙に口元の皮が裂ける。

 それはわざとなのか、それとも裂けるほどにおかしかったのか。


「これ以上は流石に死なねえんじゃねえのか? まあ、死んでるやつもいるけどよ」


 跳躍した人形たちが突風に曝される。

 その勢いは俺を巻き込むが、より軽い人形たちだけが壁へと叩きつけられる。


「随分と減ってしまったようだね。……なんで死体すら残っていないのかは容易に推察できるよ」


 シルビアが杖の先を人形へと向けている。

 その顔についていた仮面が斬られた際に壊れていたのか、立ち上がる拍子に地面へと落ちていった。


「おっと」


 しまらないやつだぜ。

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