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142話 ダンジョン 10

 10体の騎士の石像に見守られながらガーゴイルは動き出す。

 爪を、牙を、尾を生物さながらに動かす。全身が武器であり防具である石の魔物。

 ドラゴンを模る石像は、その性能自体はドラゴンに劣っている。

 だが、鱗の下がただの肉であるドラゴンと違い、こちらは石。

 ただの石であればスザルクやアバセルスも斬れ伏せたのであろうが、魔物としての力を得た石は、金属以上の硬度を誇っている。


「スザルク! 陽動を兼ねながら少しずつ削っていけ」

「御意に」


 この場で俺の指示に最も忠実なのはスザルクであろう。

 そして、身体能力が強化されている死体であるため、筋力速力共にアバセルスや農業戦士を平均的には超えているはずだ。

 

「アバセルスも、スザルクと共に削っていくんだ。焦ることはないからな」

「了解っす」


 スザルクとアバセルスはガーゴイルの足元を狙っていく。

 巨体であり、そして石。

 ドラゴン以上の硬度があるだろうが、重量もそれだけあるはずだ。

 土台を崩されれば本物のドラゴン以上にバランスを保つのが難しくなるはず。


「農業戦士! スザルクとアバセルスが作った隙で大技をどんどん決めていってくれ!」

「分かっただ」


 スザルクに爪が、アバセルスに尾が振り下ろされる。

 間一髪、剣による防御が間に合うが、それぞれ吹き飛ばされる。


「【メンテナンス】……」


 スザルクは俺が、アバセルスは聖女様がスキルを使い傷を癒していく。

 

「【二猛裂】、【連裂】」


 農業戦士のスキルが発動する。

 確か、左右からの連撃と、一か所への連続攻撃だったか。

 合計四回、鍬が振り下ろされる。


「Gaaaaaa……!?」


 右前足が潰れた。

 これにはガーゴイルも悲鳴らしき声を上げる。


「私は? 私はどうしたらいいんだ!」

「あー……お前はまあ、適当に」


 シルビアも期待した目で俺を見る。

 この戦いに参加し、何かしら成果を上げたいようだ。


 が、シルビアの力は俺も測りかねている。

 好きに攻撃させておいた方が良いだろう。


「酷くないかい!?」

「信頼しているんだぜ? お前の方が俺よりも判断力は上だろうってな」

「そ、そうかな」


 適当なことを言うとシルビアは嬉しそうに魔法を唱え始める。


「あ、俺達を巻き込むようなのは避けてくれよ」


 室内で火や竜巻なんか起こされれば俺も危うい。

 ガーゴイル単体を狙えるような魔法で頼む。


「任せてほしい。【ウォーター・カッター】」


 圧縮された水がガーゴイルの振り上げていた足を弾く。

 罅も入ったようだ。

 先ほど潰されていた足が踏ん張り切れずに、ドラゴンは倒れる。


「今だ!」


 スザルクとアバセルス、農業戦士がガーゴイルの首元に技を叩き込む。

 感覚的にはかなり削れているだろう。

 見た目では全身に傷を付けているが、どれだけ内部へダメージを入れられたか分からない。

 というか、ガーゴイルがどうやって死ぬのか分からない。そもそも生きているのか? 






「Ga、GAaaaaa‼」


 4つの足全てを潰し、俺達も疲弊はしてきたが、それ以上にガーゴイルの体がボロボロになってきた頃。

 ガーゴイルの眼が赤く光ると一際大きく咆哮を轟かせた。


「……そろそろ来るか? シルビア」

「ああ。準備はしているよ」


 ガーゴイルは口を開くと一度頭上を向く。

 そして、再び俺達へと向き直ると、口から炎を吐き出した。

 室内の半分を舐めるほどの火力。


「やっぱり、来るよな? だってドラゴンだものな」

「私の予想は当たったようだね。石像がどのようにして火を吹くのかはまあ、後で考えよう」


 俺の予想だと火炎放射器みたいな構造をしているんじゃないかと思うが、まあそれは今関係ない。

 シルビアが水の壁を作り炎から俺達後衛組を守る。

 水はどんどん蒸発していき、水蒸気が一帯を隠してしまう。


「マスター! 私たちは無事です」

「分かった! そのまま防衛に徹していろ」


 どうやら前衛組も無事だったようだ。

 恐らくは農業戦士のスキルの一つだ。

 地面をひっくり返す【転地返し】というスキルがあると言っていた。 

 畳返しのように地面を壁にしたのだろう。


「だが、奥の手を出してきたということはアイツも追い詰められているということだ」


 最初から火炎放射器を使わなかったということは、ガーゴイルも使いづらかったということ。

 水蒸気が晴れると、ガーゴイルの口周囲は溶けかけていた。

 火炎放射器の温度がガーゴイルの体の融解温度を超えていたのだろう。


 ガーゴイルの尾が農業戦士達の隠れる壁に振り下ろされる。

 3人はそれを見越し、すでに飛び出ている……が、壁の下に動く影があり、それを潰そうと尾は壁ごと影を壊す。


「Gi……Gyaaaaaaa!?」


 ガーゴイルの全身に罅が入る。

 これまでで一番のダメージだろう。

 何せ、自身の攻撃がそのまま返ってきたのだから。


「おいおい。踏んでくれるなよ。可愛い俺の人形ちゃんをよ」


 【カースドパペット】

 藁人形を持ってくるのは忘れていたが、人形ならそこらに転がっている。

 チャミーに出させ、ドラゴンに破壊された人形がな。

 壊されると支配権は失うのか、怨念を込めている俺が操ることが出来た。

 傷を負わされるとそれをそのまま返す人形だ。

 

「思ったよりも俺のスキルの相性がチャミーのと良いようだな」

「今のって……いえ、それどこじゃないわね」


 聖女様が訝し気にこちらを見る。

 あー、系統的には黒魔法の類だものな、このスキル。

 土魔法が得意と申告しているが、明らかに土ではないし。


「奥の手ってやつだ。誰しも持っているだろ?」

「そうね……私も人のことは言えないわ」


 さて、苦しむガーゴイルにとどめを刺すとするか。


「チャミー。さっきの詫びと仇だ。お前が決めてやれ」

「……もう人形が」


 俺が全て出し切らせてしまい、チャミーの手元には人形がいない。

 手元から離れた人形はガーゴイルにずたずたに裂かれてしまっている。


「心配いらねえよ」


 【メンテナンス】は非生物であれば修復できる。

 勿論、チャミーの人形も込みだ。


「わぁ……!」


 チャミーの顔が綻ぶ。

 と、すぐに引き締めると人形に命令を下す。


「やっちゃえ! こーちゃん、おーくん、はーさん、あっちゃん、ワイ、ドラドラ……!」


 チャミーが動かす人形たちがガーゴイルの全身を叩く。

 ガーゴイルの動きは見る間に精彩を欠いていき、そして動かなくなった。


「……やったのだろうか」

「いやお前、それは言っちゃぁいけねえセリフだわ」

「いえ、倒したようよ」


 コネクトルがシルビアの言葉を肯定する。

 更にフラグが重なり立ったようにも思えるが、確かにガーゴイルの動きは停止したようだ。

 目に光はなく、一応チャミーの人形で攻撃してもらうが反応はない。


「……ふー」


 疲れた。

 今回は誰もボケることなく真面目に戦闘していたからな。

 シルビアも魔法をミスることなくサポートや大技を放っていた。

 全員が全力を出し切った戦いであった。


「お疲れさまでした。マスター」

「スザルクも随分と傷だらけだな」

「激戦の証です。剣士にとっては誉れかと」


 あ、そう。

 すまんが、その誉れ消させてもらうぞ。

 いい意味で。傷は直すんだからな。


「いやぁ、やっぱり指揮する人がいると違うっすね」

「アバセルスに限ってはいらなそうに見えたけどな。最初に方針だけ決めて後は自分で動いていただろ?」

「だけんど、後ろで全体を見てくれると助かるだ。回復の心配がいらないってのは頼もしいだな」

「こちらこそ。炎はともかく、他はほとんど前衛が引き付けてくれたから、安全にサポートに徹することが出来たわ」

「……私も戦いやすかったです」


 互いが互いを労いあい、回復を合わせて一通り終わると、全員がガーゴイルの向こう側……宝箱のある場所を見る。


「場所としても行き止まりだ。ここがダンジョンの最奥地と見ていいんだよな?」

「まあ、あれがボスでなかったらなんて考えたくはないよね」


 まあ、宝石も見つけたし、ドラゴンも倒した。

 何かあってもここで引き返したとて誰に何を言われる筋合いもない。


「お、おらが宝箱開けるだ!」

「あ、ちょ……」


 気が抜けたからか、欲を出した農業戦士が走り出す。

 全員、不意を突かれていたのか止めることは出来ない。

 いや……アバセルスとスザルクは追いかけられたのだろう。

 だが、2人は動くことが……防御に徹するためにその場に留まらざるを得なかった。


 甲冑の騎士が動き出した。

 10体の石像。

 ガーゴイルではなく、騎士の石像が。

 まず農業戦士の胴体の上下が分かたれることとなった。

 声を上げることも出来ず農業戦士の命は消える。


 他9体の騎士の剣が俺達に降り注ぐ。


「……っ!?」


 4体をアバセルスが、3体をスザルクが。

 剣を弾く。

 だがまだ2体の騎士が残っている。


「お、おおおおおおおお!」


 ここで反応出来た俺は偉いと思う。

 マジで抱いてあげたい。


「【ホール】!」


 咄嗟であったから深くも大きくもない穴しか空けられない。

 だがそれで十分。

 騎士が穴に躓き転ぶ。


 残り1体。

 それだけは誰も間に合わず、後衛だらけの中に騎士は混ざり、シルビアを斬り捨てた。


「え……ちょっと!? 何が起こっているの!」


 コネクトルの声が響く。

 

「これで、2人」


 ソイツは、騎士を集めると侍らす。

 何故、という俺達の疑問の視線を一身に受け笑みを浮かべる。


「このタイミングで裏切るとか……最高すぎるかよ」


 強敵を相手にし、勝利した後の疲弊した瞬間。

 そして1人になった者から確実に殺していく。

 行き当たりばったりではない。

 事前から策を練っていたのだろう。


 ああ、考えてみればこの場はソイツにとって実におあつらえ向きじゃないか。


 ガーゴイルという石像。

 騎士という石像。

 非生物というカテゴリーだ。


 それは、俺が【メンテナンス】で修復可能な存在であると同時に、ソイツにとっては操作可能な存在ということだ。


「【マリオネット】……【人形遣い】……すっかり騙されちまったぜ」


 人形であれ石像であれ生物を模った物体であることに変わりはない。

 ソイツが……彼女が操れないなどとは一言も言っていない。


「どんな気持ちだ? 俺達を裏切った気持ちはよ、チャミー」


 俺の言葉を受け、チャミーは笑みを更に歪める。


「ええ。最高よ。最高に最適な展開。理想通り過ぎて疑ってしまうくらいだわ」


 【人形遣い】チャミー。

 彼女の周囲の騎士10体が一斉に剣を振りかぶった。

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