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137話 ダンジョン 5

【毒の間】


 やたらと天井の低い部屋に辿り着いた。

 宝物の入る宝箱が毒沼の中央に陣取っていた。

 無視しても良いが、みすみす見逃す手も無い。

 

「……毒だべか」


 農業戦士は苦々しい顔をしている。

 農薬とか使うだろ農業には。似たようなもののはず。あんなの濃度弄ったら猛毒だぞ。


 アバセル、チャミーの顔も農業戦士と似たようなものだ。

 まあ毒沼と分かって自分から触れに行く馬鹿もそうはいまい。


「よし、取りに行こう! お宝お宝。金になるかもしれない」


 分かっていて向かう者もいた。

 シルビアだ。

 笑顔で裸足になり毒沼に片脚を突っ込もうとしている。

 

 無論、シルビアが馬鹿だから、ではない。

 馬鹿かもしれないが、これは馬鹿故の行動ではない。


 蘇生させた死体人形に毒は効かない。

 正確には、すでに死んでいるが故に神経毒や人体を蝕むような猛毒の効果は薄れる。

 一時的に動きは止まっても、再活動を始める。

 

 アイとシーも猛毒の大百足と戦い、勝ってきたというし、まあ毒沼くらい大丈夫だろう。


「スザルク、お前も言っておくか?」

「いえ……やめておきます」


 スザルクは慎重だな。

 シルビア1人じゃ持てない物が入っていた時はお前にも行ってもらうことになるが。


「毒程度で何をうろたえているのよ。貴方たちは誰と一緒にいるか分かっているのかしら」


 コネクトルも顔に余裕がある。

 まあ毒の回復なんてお手の物なのだろうな。

 シルビアやスザルクに使われたら毒沼に漬かるよりもひどい目に合うだろうが。


 裸足となったシルビアはざぶざぶと毒沼をかき分けて進んでいく。

 潮干狩りに来た子供のようだ。


 シルビアの足から血色が失われていくように毒沼と同色になっていくが、それ自体は別にどうということはない。

 毒になろうと動きは止まらない。

 だが、


「あああああ足がぁぁぁぁぁ!? 溶けているぞ!」


 どうやら毒沼は毒沼でも、溶解毒沼であったらしい。

 いや、酸の海に猛毒を混ぜたようなものだろうか。

 ともかく、


「回収ぅぅぅぅぅ!」


 さすがに全身溶けてしまえば直しようもない。

 上半身は溶けていないため、農業戦士の持つ鍬を伸ばし、掴ませて何とか毒沼の外まで運び出せた。


「【メンテナンス】……これで一安心だな」

「すまない……だが、貴重な体験だった」


 すまないと言いつつもシルビアの表情は憂いていない。

 全く反省をしていない顔だ。

 まあ、止めなかった俺も悪いか。

 

「無視するか?」

「いいや。私の足の仇だ。絶対に取っていこう」


 いや足直したじゃん。


 シルビアは風魔法を使い、毒沼に触れない高度から宝箱へと向かおうとし――天井に頭をぶつけて落下した。


「はい、回収!」

「だめだ! シルビアさんの両手がもう溶けてるべ」


 ……ああ、もう。

 何やってんだあいつ。


「【スワンプマン】!」


 だったら泥人形だ。

 農業戦士と同じ姿をした人形を作りだす。

 溶解しながらも毒沼を進んでいき、痛々しい姿となりつつもシルビアの下へと到着すると、シルビアを持ち上げ、そしてこちら側へと放り投げた。

 俺も成長した身だ。

 泥人形を作りだす際に使う魔力を多めに消費することで、泥人形自体を強化してある。

 だから、シルビア程度の重量であれば貧弱な泥人形だって持ち上げ、投げることが出来る。

 放り投げられたシルビアはこちらへと放射線状を描き……そしてまたも天井にぶつかった。


「……セーフだべ」


 またも毒沼に落ちそうになったところを農業戦士の鍬が引っかかり、ようやく回収完了となった。


「……何やってるのよ」


 コネクトルが冷ややかな目で俺たちを見ている。

 本当に何やっているんだろうな。

 貴重な魔力をどんどん消費していくぞ。


「直立した姿勢で飛ぶから頭ぶつけるんだろ。水平になればいいんじゃなかったのか?」

「それだと顔近くに毒が迫る。顔から溶けるのはちょっと……」


 ん。

 それは一理あるな。

 いや、女だからとかという理由ではなく、修理的な意味でも。

 たぶんだが、俺の【メンテナンス】で再生不可能な場合というのは全身が細切れになることや、脳が破壊されることだ。あと光系統の属性を浴びること。

 正確には、修理可能なのだろうが、副作用が出る……と思う。

 試したことが無いから分からないが。

 

「というか、君の【スワンプマン】で取りに行けばいいじゃないか」

「ダメだ。辿り着けても帰ってこれない。帰路途中で毒沼に中身落とされたら台無しだ」

「なら、私が絶えず回復すればいいんじゃないかしら」


 コネクトルが手に光魔法を収束し始める。

 やめなさい、シルビアとスザルクが怯えているじゃないの。


「……誰が行くんだよ」


 つまりは、猛毒に蝕まれながら、溶かされながら、しかし同時に回復され続けているんだろ。なにその拷問。


「農業戦士、お前が一番丈夫そうだ。それに回復、されたがっていただろ?」

「今なら全身回復してあげるよわ」

「い、嫌だべ! おら、そんなことしたくねえ」


 農業戦士は首を横に振る。

 チッ、文句を言うなんて自分勝手な奴だぜ。


「だ、だったら!」


 と、苦し紛れなのか、次案を出したのは農業戦士。

 

「毒があるから悪いんだ。こうすればいいんだべ。【ホール】」


 それは俺も得意とする地面に穴を開ける魔法。


 なるほど。

 毒沼自体をどうにかするということか。


 毒沼に開けられた穴によって水域が下がっていく。

 これなら溶ける面積も減り、シルビア達で行って帰ってこれるか。


「ナイスだ農業戦士」

「……いや、駄目だべ」


 が、減った分だけ水域は上昇し、元の毒沼へと戻った。


「常に一定の量になるよう細工されてるべか? ……だったら!」


 農業戦士は土魔法のスペシャリストと言う。

 それは絶賛修行中の俺とは違い、自在に土を操れるということ。


「【プレート】」


 押してダメなら引いてみよ。

 穴がダメなら蓋してみよ。


 農業戦士は毒沼全てを覆い尽くす土の蓋を作り出し、そこを地面とした。


「頑丈に作っただ。けど、いつ溶けるか分からないし、早めに取りにいくだよ」


 さて、誰が取りに行くか。

 出来るだけ体重の軽い方が土の蓋にも優しいだろうが、そこで幼女のチャミーを推薦する者は出てこない。

 そこまで非人道的な者が集まったわけではなく、それを言ったが最後、パーティーは崩壊するだろう。


「……やります」


 だが、自薦してくれるのであれば話は別だ。

 チャミーが自ら挙手をした。

 どうぞどうぞと俺は頷く。


「……【マリオネット】」


 チャミーの持つオークのような人形が動き出す。

 トコトコと蓋の上を歩く。


「……中身は綿。軽い、です」


 オーク人形は宝箱へと辿り着くと、中身を開ける。

 そこには宝石や金貨が入っていた。


「やばいだ。想定以上に毒が強力だべ」


 と、蓋に亀裂が入っていく。

 農業戦士は必死に補強しているようだが、もたもたしていられなさそうだ。


「……急ぎます」


 オークを模しているからなのか、荷物があってもその足取りは変わることなく、重量に振り回されることなくオーク人形は無事に帰ってきた。と、同時に蓋は崩壊し、破片は残らず毒沼に落ち溶けていった。


「おお、すごいんだなお前の人形」

「……おーくんは力持ちです」


 おーくん……オークの人形だからか?

 ということはやっぱりオークなんじゃねえかよ。


「まずは宝ゲットだが、どうする? 分配は後回しにするか?」

「それがいいでしょう。ここで揉めてもいいことはなさそうですし」

「俺もいいっすよ。というか、何もしてないっすから」


 ひとまず俺のアイテムボックスへ。

 各々の立場や強さ、それに元々金があったりとで、誰かに預けることに不満はないみたいだ。俺がネコババするとは思っていないのだろうか。


「おっと、その人形見せてくれないか?」


 オーク人形の足の一部が溶けかかっていた。蓋が毒沼に落ちた時にでも跳ねたのだろう。

 別に動きに支障はなさそうだがな。

 まあ、活躍してくれたし、何もしないというのもあれだ。


「【メンテナンス】」


 溶けた足を直してやる。


「ほら、何ともなくなったぜ」


 溶けて中身が出かかっていたぬいぐるみの足も匠たる俺の手にかかればこの通り。

 まるで新品同然となります。


「……ありがとうございます」


 チャミーは修理されたぬいぐるみを抱きしめると、俺の隣に付く。


「……出発、です」


 まあ隣なのはそういう陣形にしたからであって、チャミーが俺に……なんてのは無いだろう。


 毒沼の部屋から宝物を得た俺たちは再び歩き出した。


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