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124話 ストリートチルドレン 7

「おお、いいなそれ。仕切りは私に任せてほしい。後腐れは出来ようとも、怪我無く終わらそう」


 以外にも、この場で最も乗り気であったのはボスさんでした。

 アイさんとシーさんはニコニコと笑っていますし、チャルタ少年は未だ呆けています。


「それで? いつやる? 今か?」

「まあ、時間も限られていますし……チャルタ君がそれでいいなら」

「べ、別にいいけどさ。シドドイさんって弓使いだよね。大丈夫?」


 ……ほう。

 大丈夫、とは……心配しているのはそこですか。

 いくらご主人様のパーティーの中で最も弱いとはいえ、半分程度の年齢の少年に身を案じられますか。


「ふふふ」

「シ、シドドイさん?」

「ボスさん、怪我をしないとは具体的にどのような対策を?」

「ん? 氷魔法の一つでな。攻撃を肩代わりできるものがある。私くらいになれば致死量のダメージだって一回くらいなら無事に防ぎきれる」


 つまり、一回なら致死量に至る攻撃をしてもいいということですか。

 なるほど……。


「チャルタ君」

「は、はい!」

「私が弓使いだったら何を心配しているのですか?」

「え、だって……近づかれたら終わりでしょ? 一回避けられたら対人戦なんて後はただの案山子みたいなものだし」


 ……賢いと思っていましたが、そこはまだ子供ですね。

 ご主人様でしたら鼻で笑って口で返すのでしょうが、生憎と私は行動で示しましょう。






 場所を移しまして。

 流石に路地裏といえど街中で武器を振りまわすのは迷惑なので、門の外に出ます。

 驚くことに、門兵の方々は路地裏の方々を見ると何も言わずに通してくれました。

 ボスさんのお力なのか、それともこの方々に何かあるのか。


 路地裏の方々に魔物を牽制して頂いて、まずはアイさんとシーさんでボスさんの魔法を試します。


「そういえば、全力でアイと戦うのは初めてだね!」

「そうだね。負けないよ?」


 アイさんがハンマーを、シーさんが斧を構えます。

 魔王マモンに壊されてしまったため、質はあの時よりいくらか落ちてしまいましたが、お二人の技量は上がっています。


 ……万が一、ボスさんの魔法が嘘であったり不完全なものでもアイさんとシーさんであれば大抵の傷はご主人様が直してくれるという保証がありますから、お二人も名乗りを上げたのでしょう。

 私やチャルタ少年では手足を失えばそれまでですから。

 

 お二人の頭上にそれぞれ六角形の氷の結晶が浮かび上がります。

 これがダメージを肩代わりしてくれるようです。

 ダメージ量の大小に関わらず砕け散るようですから、かすり傷であろうと傷が付けばそれで決着、というルールです。

 

 アイさんとシーさんはそれぞれ掛け声をあげながら互いの獲物を振り上げました。


 膂力ではアイさんが僅かに勝っているでしょうか。

 ハンマーと斧が打ち合う度に爆発音のような音が轟きます。

 爆弾魔による爆発にも匹敵する音に周囲の魔物は逃げていくようです。


 膂力に勝るアイさんに比べシーさんは斧を盾にし上手く懐に潜り込もうとしているようです。

 ハンマーと比べれば斧の方が軽いのでしょうか。私からすればどちらも持ち上げることすらできないため比べられませんが……それでもお二人にとってはその差は歴然のようで、シーさんの方が動きが良いです。


 まともにぶつかれば斧の刃が先に使い物にならなくなるでしょうが、側面で受け流し……半ば力尽くですね。でもそれで成り立っているのですから恐ろしいものです。

 

 しかし防戦一方であったのもまた事実。

 徐々にバランスを崩されたシーさんを遂にアイさんのハンマーが捉えます。

 シーさんも負けじと倒れながらも斧を横なぎに振るいました。


 氷の結晶が砕け散りました。


「……同時、でしょうか」

「一応、先に傷を負ったほうだけの結晶が砕けるようにはしたのだが、両方砕けたか。ならば、引き分けだな」


 傷を与える。

 それだけのルールでしたから引き分けとなりました。

 尤も、当人たちはどちらが勝ったか理解しているようですが。


「次は負けないからね!」

「うん。もう少し遅かったら私の方が危なかったよ」


 バランスを崩しながら振るわれた斧がアイさんの腹部に浅く傷を付け、大きく振り下ろされたたハンマーはシーさんの頭部を完全に崩す勢いでした。

 これが本当の闘いであればアイさんの勝利だったのでしょう。

 それを認められるのも、勝っても反省点を見つけられるのもアイさんとシーさんの良いところですね。


「ではチャルタ君。私たちも闘いましょうか。準備は出来ていますか?」

「うぇっ!? あ、う、うん……」


 おや、チャルタ少年はお二人の闘いの勢いに呑まれていたようですね。

 

「あのさ……シドドイさんももしかしたらあの二人みたいにすごい怪力だったりするの?」


 こんな細腕の女性に何を言いますか。

 アイさんとシーさんも細腕ですが。


「そんな、まさか。あのお二人が特別ですよ」

「そ、そうなんだ……良かった」


 ほっと溜息をついているようですが、後で後悔しても知りませんよ?

 私とあのお二人の闘い方は全く別物なんですから。

 特に、このルールは私向きです。



 アイさんとシーさんは互いに近接戦闘に向いていたためそう離れた位置からの開始ではありませんでしたが、私は弓使いともあって、50mほど離れさせて貰えました。


 私とチャルタ少年の頭上に氷の結晶が浮かび上がります。

 開始の合図です。


 チャルタ少年が走り出そうとした、その瞬間、私は矢を放ちました。

 矢が飛んでくることを察知する間もなく、チャルタ少年の足に矢が当たり、結晶は砕け散りました。


「私の勝利です」


 チャルタ少年の下まで歩み寄ってそう宣言します。


「えー……えぇ……」


 そんなのありかよといった表情をしていますね。

 ボスさんは笑っています。


「も、もう一回! 今のは油断しすぎた」

「……別にいいですけど。本番では油断なんてしていたら死にますからね?」


 仕切り直して再度開始します。


 今度はチャルタ少年はしっかりと私の手元を凝視していますね。

 先ほどと同じ攻撃では恐らく避けられるでしょう。


「『疾風アエーマ残響(エコー)』……いえ、流石に大人気ないですかね」


 シルビアさんのおかげで使えるようになった奥義を中断し、通常のものを番えます。

 弓使いが弓でチャルタ少年を圧倒してしまっては、何の意味があるでしょうか。

 チャルタ少年のさらなる可能性を示すのであれば、彼の得意分野で相手をしましょう。

 放つと同時に、チャルタ少年は横にずれ、矢を躱しました。

 私が次を番える前に接近してきますね。


「そんなの、もう当たるかよ」

「そうですか?」


 いいでしょう。

 弓を捨てて、徒手空拳で挑むとしましょうか。

 ボスさんの魔法はいいですね。

 傷の肩代わりですか。おかげで私も自分の力を試せます。


 チャルタ少年の構えるナイフを見据えたまま、彼の足さばきに注意します。

 一歩踏み出したと同時にナイフを突き出してきます。

 私はその腕を絡み取りながら、一歩引き、彼がバランスを崩しかけた瞬間に足を払いました。


「うわっ!?」

 

 転倒したチャルタ少年は思わずナイフを手放してしまい、代わりに私の手の中に納まります。

 どうやら魔法は発動していない様子ですね。

 最初から使っていなかったのか、あるいは手放すことで効力が途切れたのか。

 どちらにせよ普通のナイフです。

 彼の頬を軽く引っ掻いてやると、氷の結晶は砕け散りました。


「……なんでだよ。ゴブリンはあんなに簡単に倒せたのに」

「チャルタ君」


 彼を起こしてあげ、正面から真っすぐに顔を見ます。


「ゴブリンは魔物の中では最底辺。冒険者はみんな、軽く倒してしまいますよ。あれで魔物を知ったようになるのは危険です」


 ましてゴブリンはまだ人の範疇の動きをしますが、獣や生物ならざる異形もいます。

 子供のような非力な魔物を一体倒せたくらいでは駆け出しの冒険者でしょう。


「チャルタ君。貴方の才能は確かにあるかもしれません。しかし、貴方の強さは決して非凡では無いのです」

「僕は強くないってこと……?」

「今は、ですが。ですが恐らくボスさんやその他の方々に教わるだけでは限界があるでしょう。彼らは応用を教えますが基本を教えられません。そうではないですか?」


 ボスさん達が当たり前だと思うことが子供である彼にとっての当たり前でないことに気が付くのは簡単ではないでしょう。

 それを教えるのは教えることを生業とする教育者の方が相応しい。


「魔物をどれだけ知っていますか? 世の中の強者をどれだけ知っていますか? 戦いを知っていますか? 魔法を知っていますか? 君は、両親の考えを知っていますか?」


 知っていることを隠すのもいいでしょう。

 ですが、それは同時に知らないことすら隠していることにもなります。


「それは……」

「チャルタ君のことを理解していないと、チャルタ君は言いましたね。ですが、ご両親の行動をが全くチャルタ君の為にならないかと言われれば違うと思います。少なからずチャルタ君の将来を考えた上で教育しようとしていたのではないでしょうか」


 そして、両親に心を閉ざしていたようですが、それこそがすれ違いの原因。


「自身のやりたいことをまずは話してみてはどうでしょう。力を隠してもいい、知識を隠してもいい、才能を隠してもいい。ですが、方針くらいは話すべきでは?」

「……負けました」


 彼は短く敗北の宣言をしました。

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