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119話 ストリートチルドレン 2

【スジャッタの街の中にて】


『理不尽に抗おうという気持ちはすでに自分が相手より下であることを認めていることである』

 これは、ご主人様がお酒を深く飲んだ翌日に頭を抑えながら言っていたお言葉ですが、私はこれまでの人生の中で何度、理不尽に抗おうと思ったことでしょうか。

 いえ、理不尽だなんて思っているのは主観的なものであり、他の誰かが見たら相応に降り注ぐ人生の一場面なのでしょう。

 両親が魔物に食われようとも、弟が生死不明の行方不明になろうとも、村が雪崩に襲われて半壊状態であろうとも、それはこの世界で生きる人々にとっては当たり前のことのはずです。

 一つ一つがあり触れている日常であり、それが重なったら人生のはず。

 私の人生はなんとあり触れていたものなのでしょう。


 ですが……ご主人様との出会いで人生観も、人生そのものもまるで違うものになりました。

 何せ、魔王を倒してしまったのです。

 私の人生何度やり直したらそんな奇跡起きるのでしょう……?

 ご主人様の人生は何度やり直してもご主人様らしいことでしょうが。





 本日はアイさんとシーさんに連れられて衣服などの買い足しに来ました。

 ご主人様には言えませんでしたが、下着類がかなり燃えてしまったので、普段着よりもそちらを優先して買い足しています。

 アイさんとシーさんはキラキラした目で私の選ぶ下着を見ていますね。2人の年齢で売っているものとはデザインが全く違うので珍しいのでしょう。あまり見られていると恥ずかしいです。

 ご主人様は買い足し用とは別に、個々人が使えるお金を渡してくれています。

 私は必要ないと言っているのですが……こういう時は助かりますね。ええ、ご主人様は年下とはいえ、あまり下とは思えませんので。どころか、たまに私の方が年下に思えてしまいます。ご主人様は年下と年上、どちらがお好みなのでしょうかね。


 衣服が揃えば、ひとまずの目的は達成です。

 私もアイさんシーさんもあまり派手なデザインは好みませんし、シンプルなものをいくつか見繕えば、似たようなものを揃えてお終いです。

 私はともかく、お二人にはもう少しフリルの付いたドレスとか着てもらいたいと思いますが。その方がご主人様が喜ぶと言えば着てくれそうです。


 服よりも道端で売られている肉や魚の串の方がお二人を夢中にさせるようです。

 串焼きは火加減が難しいですが、慣れてしまえばある程度の領域には達せられます。

 その店独自の味を探る方が困難でしょうか。探るよりも実際に食べて味わって、美味しいと感想を述べているだけの方が遥かに楽で賢いですね。

 無邪気に串を頬張るアイさんとシーさんを眺めていると私まで幸せになってきます。


 私も山菜やキノコを焼いた串ものを頂くとしましょうか。

 塩気の中に野菜の甘み、キノコの風味が良いですね。

 シルビアさんはともかく、他の方々はあまり野菜を好まないようですが、それでは栄養状態が偏ってしまいそうです。お肉に混ぜるなどしてどうにかしたいものです。


「アイさん、シーさん。こちらはどうですか?」

「じゃ、じゃあ野菜を……」

「私はキノコの方を……」


 それぞれ比較的嫌いではない方を選んで食べています。

 最初はそれくらいからでよろしいでしょうかね。

 あまり言いすぎても嫌われてしまいますし、食べ物も偏食が進んでしまいます。

 かえって逆効果、そんな経験は弟から学びました。


「次は甘いものー」

「シドドイさん、あちらに行ってみましょう」


 元気に走るお二人に付いていくだけでやっとです。

 食べた直後に何故走れるのでしょうか……若さですかね?

 私もまだ若いはずなのですが……年の割には見た目が大人びているとはよく言われますけども。ご主人様も私を一回り年上に見ているような節がありますから寂しいものです。


 久しぶりに食べ道楽と行きましょうか。

 最近は体を動かす機会が増えたので少しくらいは許してくれるでしょう。

 誰が? 私の中の良心が、です!



 ……そろそろお腹がいっぱいになってきました。

 アイさんとシーさんも同様のようです。

 あの小さな体で私と同等以上を食べていたことに驚きですが。


 それにしても、買い物が上手になってきました。

 事あるごとに、お会計を任せていたのですが、計算はもうばっちりのようですね。

 四則演算のうち、足し引きが出来ればひとまずは大丈夫でしょう。

 乗法除法も時間を掛ければ理解できるはずです。


「ふふっ。本当に子育てをしている気分です」

「どうしたんですか?」

「……? シドドイさん?」

「いえ……お二人の成長が嬉しくてですね。掃除も洗濯もお料理も、良く覚えてきているなって」


 実際に、本当にお二人はよくやってくれています。

 最初は教えることに時間を割いていましたが、今では立派に戦力です。

 時間の余裕が出来たため、お料理を凝ってしまいます。仕込み、楽しいです。


「だって、シドウ様に褒めてもらえるんだもん!」

「はい。それが一番のご褒美です」


 ……ですね。

 私もご主人様にお褒めの言葉を頂いた時、やって良かったと思える瞬間です。

 勿論、シルビアさんやアイさん、シーさんに美味しいと言ってもらえる時も嬉しいですけれど。

 そういえば新しいお方……スザルクさんでしたか。あの方の好物をまだ聞いていませんでした。

 少し大所帯になってきたので、お料理も品数をお出しするのが難しくなりそうです。

 いえ、こういう時こそ腕の見せ所です。

 アイさんとシーさんにも頑張ってもらいます。


……話が逸れてしまいますね。

 ご主人様と一緒にいれば違うのでしょうけれど、こうして離れてしまえば他のことを考える余裕が出てくるのも要因の一つでしょうか。


「シドドイさんは優しいよね」

「……え?」


 不意に、シーさんがそんなことを言ってきました。


「優しいですか? 私が?」

「だって、私達が間違えても怒らないんだもの。叩いたり大声を出したりしない」

「そうですね。ご主人様やシルビアさんもそうです。みんな、あの人たちとは違う」


 ……たしか、アイさんとシーさんは生きるために自らを奴隷として売ったのでしたね。

 グリセント様のところのことを言っているのでしょうか。それともその前のことを?


 ご主人様からお二人の詳しい経緯を聞いたことはありません。

 もしかしたら、ご主人様も知らないことかもしれません。

 それを話してくれたのは私という個人を信頼しているからでしょうか。


「何も教えてくれなかったね」

「間違いが何かすら分かりませんでした」

「生きる為に必死だった」

「死なない為に命懸けでした」


 交互に語るお二人の表情は硬いです。

 なぜ急にそのようなお話に……


 ああ、そうか。


 最近、ご主人様と離れることが多かったから。

 寂しかったのですね。


 いくら私に懐いてくれても、それはご主人様の愛には程遠い。

 思い返せば、今日は空元気と憂さ晴らしが混ざっていたのでしょう。


「……怒りませんよ」


 ご主人様ではない私に何が言えるわけではありません。

 ただ、命じられた教育係として、良い子に育って欲しいとは思っています。

 良い子とは正しい道に生きるだけではありません。

 良い子とは行儀の良い子ではありません。


 誰かを愛し、誰かに愛される子だと思っています。

 

「過誤も失敗も、怒る理由にはなりません。私が怒る時は、人として間違ったことをした時だけです。それに、そこに大声も体罰も必要ありません。貴方方は賢いのですから、静かに話せば分かると私は知っていますよ?」


 だから、私はこの子達を怒ることはきっと無いでしょう。

 間違いの指摘は怒ることとは別ですしね。


「貴方達は何も間違ってはいませんよ。正しく、ご主人様に相応しい奴隷です」

「シドドイさん……」

「……うん。シドドイさんがそう言うなら!」


 笑顔が取り戻されてきたようですね。

 やはりお二人には笑って頂かなければ。

 雲った顔は似合いません。


 私も合わせて笑おうとした時、


「アンタがそういう子だったなんて!」


 路地裏から、バシン、という鈍い音と共に怒号が聞こえてきました。


とりあえず不穏なことは路地裏で起こさせてるからこの街の治安は不安だぜ

感想もらえると更新速度あがるぜ

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