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118話 ストリートチルドレン 1

「やあ何だか随分と久しぶりな気がするよ」

「……俺もだ。思ったよりも疲れた」


 隣町の封鎖がようやく解除され、戻ってくることが出来た。

 なんでも、真の爆弾魔が捕まったからだとか。

 風の噂では、グリセントの奴がその逮捕劇に一役買ったらしい。腹立たしいことである。


 アイとシー、シドドイは出かけている。

 偽の爆弾魔のオッサンに吹き飛ばされた衣服や鞄の調達に行ってもらっている。

 まあ、アイとシーから留守中の様子を聞くよりもシルビアの方が向いているからな、残ってもらった。


「だけど互いに収穫はあったようだな。ちなみに俺は新戦力」

「おや、分かるか。まあ長い付き合いだからね……と言うほど別に数年も連れ添ったわけでも無いか」

「一年も経ってねえな」


 どこ行っても問題ばっかだよな、この世界。

 何が原因かって、平和に過ごしづらい『ねくろまんさぁ』がそもそもなのかもしれないが。


「そういえば、例の闇医者の彼からは良い報酬は貰えたのかな?」

「ん、まあ貰えるものは貰っておいたぜ。だが……武器の素材になりそうなのは無かったな。ジルに貰った宝物と同じくしばらくはアイテムボックスの肥やしだな」

「肥やしって……本来使うか売るべき物ばかりだろうに」

「使ったら勿体ないし、売ったら世界を混乱に導くぞ。俺は善意で持て余しているんだ」

「使い道思いついていないだけじゃないかな?」


 ゲームとかでも万能回復薬とかは使わずに取っておいた。

 使わないで進めるなら使わない。

 使わないと駄目なら使う。

 他のもっと重要な場面があるかもしれないし?


「そんなことないさ。【発情剣】は無事に新たな担い手を得たぞ」


 新戦力ことスザルクの腰にある剣を見る。

 一度抜けば、艶めかしく光を反射する刀身が見えるのだろう。

 その見た目に相応しいのかもしれないが、付与された能力が斬った相手を『発情』させるというのは、勇者の1人が持っていた剣という経歴を振り返ると何とも言えない。

 

「……【発情剣】、と銘されているのですかこの剣は」


 スザルクもまた微妙な顔をしている。

 そりゃあ、自分の剣が発情させる剣だなんて嫌だろうよ。


「いや君、スザルクは名前が嫌なんだと思うよ。別に能力自体は悪くないと思うけどね」

「いえ……どちらも……なんですが」

「だったら【チャームソード】なり【ビューティフルブレード】なり自分で名前付けても良いぞ? その場合はお前がその剣の名付け親になるわけだけどな」

「……やはり【発情剣】で。マスターのセンスは良いですね」


 スザルクは苦笑しながら【発情剣】という名前の剣を受け入れた。

 

「勇者の剣だ。武器に相応しく精進するように」

「……勇者は何故このような剣を」

「知らん。女にモテたかったんだろうさ」

「だが、まだ見ぬ能力が秘められていると私の目は言っている。使い手が使いこなせば、ただ発情させるだけにはならないはずだ」


 まあ、斬った対象を発情させて魔王をどうやって倒すんだって話だよな。

 それ何てエロゲ―。


「まあ今は亡き勇者君も、その剣もどうでもいいことだ」


 ジルに預けてあるが、いくつもの死体が積み重ねられているんだろうな。

 勇者君もその1人だけども。

 

「シルビアの方の成果はどうなんだ? 何時までも勿体ぶるなよ」

「別に勿体ぶっているつもりはないが……ほら、この街で爆弾魔の騒ぎがあっただろう?」

「隣の街でもあったけどな。最初から騒がれていた奴がこの街に来たんだっけか」

「そうそう。それで、なんやかんやあってグリセントが捕らえたのだが、私とアイ、シーもそれに助力したんだ」

「は? アイツ、一役買ったどころか中心人物かよ。クソ!」

「どれだけ悔しがっているんだ……。君だったら煩わしいことから逃げられて運が良かったとか言いそうだけど」

「完全に蚊帳の外だったらそう言うかもしれねえけどよ、今回は関わっちまったからな。しかも、偽物掴まされたんだ。知ってるか? 本物の方に掛けられていた賞金額を」


 知らない様子だったので伝えると、シルビアは目を泳がせる。


「……ん? そういやシルビア達も手伝ったって言ったな。勿論、それなりの金をふんだくって来たんだよな?」

「も、勿論じゃないか……」

「どれくらい?」

「これくらい」


 賞金額の1%にも満たない金額であった。

 

「……ちなみに、どんな感じで働いて来たんだ?」

「爆弾魔を抑えつけたり、魔法で援護したり」

「……賞金額知ってた?」

「知らなかった」


 ……まあシルビアのことだ。

 相手が世間を騒がす爆弾魔ということも知らされていなかったんだろう。

 能力や強さくらいは直接相対するのだから知らされていただろうが、その知名度は別であったということか。

 そして、はした金を掴まされて帰ってきたと。


「……まあ、俺はお前達の行動には全く関わっていなかったからどうこう言うつもりは無いけどよ」

「グリセントに借りを作ったということにしよう」


【緑の巨人】然り、借りはけっこう作ったはずなんだけどな。こうやって金で解決されちまっているから、返せと言いづらい。


「【竜牙木】という巨木の枝が出回っているらしい」


 唐突に、シルビアはそう切り出した。

 聞いたことないな。

 竜……? 大層な名前だが。


「竜……ドラゴンが牙を研ぐほどに硬度のある木でね。木だから、時間をかければ削ることも出来るし、加工後は容易く壊れないしで、武器の素材としてはかなり良い物なんだよ」

「へえ。でも、珍しいものなのか?」

「うん。まず、大元の木自体は発見されているのだが、まず倒すことは不可能。だから、枝を折るしか無いんだけど、それも人の手では困難。ドラゴンが近くに生息しているってこともあるね」

「枝を斬っている途中でドラゴンに襲われちゃ、たまったものじゃないだろうな」


 木を斬る者とドラゴン対処の者で分けて……何人必要になるんだろうか。


「というか、ドラゴンが牙を枝で削るから、人がわざわざ斬らなくてもいずれは落ちて来るんだよ」

「ああ、だから今回出回ったのか……」


 どれだけ待てば枝が落ちて来るのか分からないが、人間の欲しいタイミングで手に入らないのだから、高額になるだろう。


「出回っているという情報がグリセントからの追加報酬か?」

「それだけじゃ無い。枝を回収した人間が言うには、近いうちにもう一つ落ちてきそうなのだということだ」

「つまり……」

「ああ。私達で取りに行こうではないか」


 木か……槌や斧には向いていなさそうだけど、弓や杖には使えそうだな。

 ただでさえ強力な魔法や弓術を使うシルビアやシドドイの強化はしておきたいところだ。


「……良し、行くか」

「ちなみに、かなりの遠出になる。私の風魔法ならそう時間はかからないが……定員は3人というところかな」


 ……全員とは行かないか。

 枝自体は俺のアイテムボックスに仕舞うとして……というか、仕舞わないとシルビアが帰りの運送が難しくなる。

 シルビアも術者本人として前提。

 あと1人か……。

 バランスとしては前衛が欲しいか?

 アイとシーなら軽いだろうから、2人で1人分として計算出来るだろうし……。


「マスター。私が同行してもよろしいでしょうか?」


 と、スザルクが名乗りをあげた。

 

「ドラゴンということでしたら、是非とも」


 【隻腕の竜殺し】だったけか、スザルクの二つ名は。

 生前はワイバーンを片腕になりながらも倒したという。

 今のコイツがどこまで通用するのか、それは本人としても知りたいところなのだろう。


「もしドラゴンが出てきたら……」

「その時は私が斬ります」


 スザルクは即答する。


「よし、付いてこい。出発は今からだ! 他の奴らに先を越される前に向かうぞ」

「あ、ちょっと! シドドイ達に書置き残していかないと……というか、私がいないと君はそこの場所に行けないだろう」

「久しぶりの冒険ですね……心躍ります」


 こうして俺達は数日留守にすると書置きを残して……その後にシドドイ達に会ったので直接伝えて出発したのであった。


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