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116話 真【爆弾魔】 7

【ジャバウォーズ視点】


 先祖から受け継いだスキルがあった。

 先祖から受け継いだ宿願があった。

 スキルは先祖返りだろう。

 だが、宿願は絶えることなく俺の母親からも伝えらえていた。

 それも……俺の代までであるが。


 先祖のように魔王を倒そうなんて望みも野望も無い。

 なぜそのような危険を冒さなければならないのか、自己犠牲なんてものは性に合わない。

 金で雇われればまだ話は別だ。だが自身のスキルで金などいくらでも稼げる。

 力あるスキルであった。

 価値ある人間程威力を増す爆弾に仕立て上げる【富裕爆砕】。

 つまり、偉ければ偉いほど、強ければ強いほど、賢ければ賢いほど爆破の威力は増していく。

 だが、果たしてこれで魔王は倒せるのだろうか。

 魔王という強さの価値。国1つ滅ぼす価値があるに違いない。

 爆破すれば魔王とて倒せる威力になるはずだ。

 スキルさえ発動すれば……発動さえすればいいのだ。

 触れるという条件を満たすまでが骨が折れる道程であることに目を瞑ればだが。


 俺が魔王に触れようとしたら、触れるまでに何度死ねば辿り着けるだろう。

 目が合えば一度死に、後は一歩踏み出すごとに死ぬだろう。

 殺す力はあれど殺す手段が無い。

 ならば……と、いくつも手段を考えてみた。実際に試してみた。

 自身の手で振れずとも、武器を介せば可能だと気が付いた。

 自身が触れている水越しでも爆破対象に出来ると気が付いた。

 だが……足りない。

 それでも接近戦あるいは中距離戦になる。

 あるいは自爆覚悟で突っ込むか?

 奉仕精神豊かで世界の為に殉ずるともしかすると俺の先祖は考えたかもしれない。血迷った挙句の判断だとしても、それでも足りない。

 足りないのは……威力だ。


 自爆覚悟とは文字通り自爆する覚悟である。

 自身を爆弾と変えることも【富裕爆砕】は可能とする。

 自身に触れればいいのだから何よりも条件は簡単だ。

 だが……相手に触れられない距離からの爆発で、魔王を殺す威力とはどれほどのものなのだろう。

 盗賊崩れの勇者の仲間はどれほどの価値があるのだろう。

 あるいは勇者そのものを……


「夜空もちったあ隠れてくれねえものかね」


 月の光に照らされるのは苦手だ。

 まるで自分が世界の中心にいるように思えてくる。

 そして現実に帰る。

 ただの歯車の一つ……いや、歯車にすら選ばれなかった余り物の鉄くずだ。

 そこにいくらの価値があるのか。


「だけどまあ、影が丸見えってのは悪くねえんだけどよ」


 背後から迫る強襲者に振り向くことなく触れ、その瞬間に爆破する。

 死んではいないようだが、死んだ方がマシかもしれない爆破が起きる。


「うおっとっと……」


 爆風に煽られよろける。

 危ない危ない。

 危うく俺も巻き込まれるところだった。

 というか手が少し焦げた。

 痛いような痛くないような。

 痛覚という感覚は俺の中にあったのか、今更ながらに興味が沸く。もしかすると痛みを感じたことが無かったかもしれない。

 どの道、回復役でもかけておけばすぐに治る。


「こう襲われちゃぁ、休む暇がねえなぁ」


 グリセントに課した期限は残り半日といったところか。

 夜が明け、昼前になればグリセントの用意した貴族クラスの価値を持つ人間を手に入れる。


 グリセントはもう心が折れた。それは確定だろう。

 何か行動を起こせば、俺に傷一つでも付ければ条件を満たしている街の人間を爆破していく。

 本命はあくまで接近する強襲者を接近前に爆破するためであった。無差別爆破は念の為の保険程度であったが、どうやらこちらの方がグリセントにとってはダメージが大きかったらしい。

 大人しく俺の要求に従い、後は街から出るなり街と共に心中するなり好きな方は選べばいい。むしろ俺が世界で最も見たかった爆破を見られるのだ。是非とも残って欲しいものである。


「そこだ!」

「そこってどこだよ」


 矢が放たれる。

 俺は月のおかげで丸見えなそれを小剣で叩き落とすと、矢の主まで駆ける。


「なっ!? 速い……!」


 そりゃ腐っても勇者パーティの末裔だ。

 索敵と素早さであればそこらの冒険者に引けを取らない自信はある。


「あらよっと」

「くっ……」


 小剣で斬りつけるが、弓で受け止められる。

 月光が弓使いの顔を撫でる。


「……エルフなのに闇討ちかよ」


 月明かりに照らされた顔は端正で耳長――エルフの特徴的な顔そのものであった。

 

「風よ――」

「うおっと」


 エルフが魔法を使う気配を見せたため後ろに下がる。

 光魔法に次いで発動から着弾までが速い魔法だ。

 いくら俺が素早さに長けていても避け切れるかは分からない。

 距離を取っておけば紙一重で避けられるかもしれんけどな。


「【ウインド――」

「【富裕爆砕】」


 だが、距離を取ったのはエルフの魔法を回避するためではない。

 俺が、俺の引き起こす爆発に巻き込まれないためだ。


 小剣と弓。間接的に爆破の条件は満たされた。


「あーあー。死んだかねこりゃ」


 顔が吹き飛んじまっている。

 生きていても脳に損傷が起きそうなくらいの威力だ。

 当人だけでなく周囲にも被害を及ぼす程の価値がこのエルフにはあったというわけだ。


「やっぱりエルフは総じて死にやすい。力自慢やただの魔法使いとは違う……顔が良い奴程死にやすいってな」


 全身が爆破する奴は地位とか名声といった肉体とは関係のない価値が高い人間。

 四肢や胴が爆破する奴は戦士や騎士といった闘うための力がある人間。

 エルフのような魔力も高いが、総じて端正淡麗な顔の奴は顔面に集中して爆破し易い。


 その者の最も価値の高い部分が爆破する。

 そして、集中すればそれだけその部位は破壊されやすい。


「結局、そこそこの奴が一番死ににくいのさ。顔だけ良い奴とか救われねえな」


 しかし、今になってあの鎧と大盾が破壊されたのが惜しい。

 今の俺にはもう金は無く、こうやって路地裏を歩くことしか出来ない。

 爆破した人間の懐を漁るが、こんなことをやりに来た奴の懐事情なんてたかが知れている。

 鎧と盾。あの2つは待つのに最適であった。

 一撃は防げる。

 それだけで打てる手はいくらでもある。

 無いものを想定したところでそれは価値のないことだけどな。





 残り数時間といったところか。

 朝を迎えた。

 数分の仮眠を数十回と繰り返し、何とか頭は冴えたままだ。

 今まではこんなことをしてもただ寿命を縮めていただけだが、今は違う。不思議と感覚すらも冴えてきたように思える。


「……んだよ。今良いところなのに邪魔すんじゃねえよ」


 日差しを浴びながら体を解していると、新たな強襲者が現れた。

 グリセントには釘を刺しておいたはずだが……やはりまだ諦めていなかったか?

 少しばかりの苛立ちを込めて、数百とセットされている爆弾の中から一つを爆破する。

 その価値は分からない。俺にとっては爆弾は爆弾。

 爆破するまでどれほどの価値であったのかは計り知れない。


 ……爆破音は聞こえない。

 それほどの価値のある人間では無かったか、あるいは距離が離れ過ぎた場所で爆破したか。

 もしかすると有効範囲から外れてしまったか。

 この街を離れれば俺の爆破条件を満たしていたところで、爆破することは無い。

 次元爆弾にでもすれば別だが、俺が意識して爆破することは出来ない。

 それだけは誰にも言うことは無い。

 ブラフとしても十分に使える手札だ。


 仮面を付けた強襲者は俺を睨んだ後、


「これなら大丈夫そうだね」


 と、こちらへと駆ける。

 俺を抑えようと、手を伸ばしながら。


「甘えよ!」


 その手を掴み、爆破しようとして気が付いた。

 仮面の端から覗くその耳はエルフのもの。

 触れた瞬間に爆破しては俺も巻き添えとなる。


 とりあえず触れることで爆破条件を満たし下がろうとし――


「たー!」

「やー!」


 頭上から降ってきた2つの声の主に抑え付けられた。

 それはガキであった。

 だが、ガキの癖に力が異様に強い。


「……ちっ。何だよこいつらは!」


 爆破するか?

 鎧が無い今、この距離では俺も危ないかもしれない。

 これだけの力があるということは価値も相応に高いかもしれない。

 だが……このままではマズイ。


「【富裕爆砕】!」


 周囲に爆破音が……轟かなかった。


「……え?」


 不発……?

 今まで何十、何百、何千と爆破したが起きたことが無い。

 スキルによる爆破だ。不発も何もない。

 爆破したという結果に導かせるスキルなのだから。


 ガキ2人に抑え付けられ地面を睨みつけさせられる。

 何とか顔を上げるとそこには……


「俺に二度も下げたくもない頭を下げさせた。その対価は高いぞジャバウォーズ」

「グリセント……お前さんか」


 心を折ったはずの男が立っていた。


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