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113話 真【爆弾魔】 4

「無理。契約は破棄」


 やはり泥船であった。

 

「いや、早すぎるだろう。まだお前達が出て行って小一時間と経っていない」


 呑気に今夜の祝杯の為のワインをワインセラーから選んでいるとボロボロの集団が帰ってきた。

 低価値であったためか、大した怪我も無いのだが心が折られていた。

 目が死んでいるのは元からだが、今は前を向いていなかった。

 希望を知らぬが絶望はしていなかった。

 

「情報以上の腕利き……そして抜け目のない男」

「抜け目のない……?」


 大胆不敵というか、あまり多くを考えていなさそうな男であったが。

 目的のために手段を選ばず……というか、目的も手段も破綻しており、大を犠牲にして取るに足らない小を取るような印象。

 ある意味では無防備な男であったのだ。

 自身のスキルについて、いとも簡単に種を明かしてしまうあたりからもそれは伺えた。


「それだけの人数で囲めば、武器を受け止められるのも限界だろう」


 爆破だけでは無く、間接的に爆破が可能という推測。

 だが、それも小剣一本で受け止めるには限りがある。

 1人や2人ならばともかく、5人も数を揃えば受け止めきれまい。

 爆破される前に殴打なりで気絶。たとえ爆破されたとしても価値が低すぎて殺傷までに至らず、周囲に被害が及ぶことも無い。

 

「金属鎧、そして大盾。守りを固めていた」

「なっ……!? 爆破だからあえて攻勢に出ないということか……」

「大盾に武器を当てた者全て爆発。軽傷、しかし耐えられない痛み」

「耐えられない痛み? だが、軽傷なのだろう」


 大盾ならば一度に複数の武器を受け止めてもおかしくはない、か。

 防ぎきれなくとも鎧がある。

 剣や矢ならば鎧でも受け止められるだろうし、槌は盾がある。

 一度でも受け止めてしまえば爆破の条件が整ってしまう。

 ……なるほど、抜け目がないか。


「爆破された者曰く、耐え難い痛み。初めて擦り傷を負った時と同じ」

「チッ……なんだそれは。防御無視というやつか」


 ……これもまあ、考えようによっては納得できるか。

 外部からの爆破のダメージでは無く、自身が爆弾そのものになるということ。

 自身が爆ぜるのであれば、いくら丈夫であってもその内側から容赦なくダメージを与える。むしろ丈夫であるという価値があるならその威力は格段に上がるかもしれない。


「……分かった。後はこちらで対応しよう。契約通り、負傷者の治療代はこちらで持つ。それ以上は無しだ。そちらもこれ以上は関わるなよ」

「無論」

「ちなみに……奴に手傷の一つでも負わせられたのか?」

「不明。鎧の上からの攻撃は幾つか。体は揺らぐも傾ぐことは無い」

「効いてはいそうだが……決定打には至らないか」


 ならば次の手は……と、考えていると突如として頭目の体が爆発した。


「うぉっ!?」


 爆風が頬を撫でる。

 全く痛みを感じないが、浴びて気持ちのいい風ではない。

 

「……触れていたのか?」


 頭目の部下と同様に、頭目自身もジャバウォーズもしくはその武器か防具に触れていた……?

 いや、頭目はジャバウォーズを抜け目ないと評していたがそれは頭目も同じ。

 触れたら危うい存在に触れるような男ではない。

 まして、触れてしまったのならば、俺の前に現れるとは考えづらい。

 俺は頭目達を爆破しても致死的ではないと価値を見極めて選んだ。

 それは頭目達も知っていることであるし、そのこと自体を恐れるとは思っていなかった。

 実際には、爆破による痛みは耐え難いものであったようだが、それとて戦意こそ消失しようと蛮勇を煽るものではない。


「とりあえず……生きてはいるな」


 頭目だけあって、他の部下よりは能力が高い。すなわち、価値も相応に高くはなっているが人間としての価値は低い。

 国家を揺るがすどころか、自身の命を脅かす程の価値にならなかったのは幸なのか不幸なのか……。


「頭目ですら気づけなかった、爆破の条件がまだあるということか」


 かりに爆破するとしても命の危険はない。

 ならば次に危惧すべきことは爆破されたその後だ。

 雇い主である俺の下へと帰り、俺を爆破の巻き添えにするようであれば……傷一つ負わせてしまえば信用問題に関わってくる。

 このような裏稼業、一度失墜してしまえばそこいらの犯罪者と何ら変わらない生活が待っている。

 確実に触れていない部下を俺の下へ行かせて、一人爆破するのが、頭目の本来の行動だったはずだ。

 俺の下へ来たこと、それは頭目が爆破条件を満たしていたことに気が付かなったことに他ならない。


「催眠でもかけられていなければの話だがな……ふん、そんなわけないか」


 脅迫も考えにくい。

 そも、あれだけ意気揚々と向かった矢先にコレだ。

 鎧や盾は予想外だろうが、ジャバウォーズが脅迫という手を取ろうとした時に誰が弱点となるかはすでに考え手を打っているはずだ。

 

「……氷魔法、か」

「ゲホッ……私を向かわせる気か? 先ほども言ったがそれは――」


 アオが顔を顰める。

 爆破による揺れですぐに駆けつけてきたのだろう。

 いつからか俺の隣にいた。


「いや、まだお前は出さない。強力なお前は反転してこの街の危機に繋がる。だから、その数歩手前……他の魔法使いを使おうと思う」

「冒険者というやつか。確か雇い主さんは手練れを数人確保していたが」

「ああ。【緑の巨人】を治める際には力不足だったがな。しかし今度の相手は別に伝説でも何でもない。ただの犯罪者だ。それならばむしろ冒険者にはうってつけだろう?」

「……王国騎士とやらの方が向いていないか? 犯罪者の相手と言うならば」

「それはこの商会を畳めということか? 隙を見せたら商会内を漁られてあることないこと挙げられるぞ」


 あることの方が多そうだが。

 

「宮廷魔術師ならばともかく、王国騎士は剣やら槍やらしか使えない連中だ。それは先ほどゴロツキ共で無駄だと分かっただろう。それに、王国騎士は総じて価値が高い。確実に死人が出るし、周囲にも被害が及ぶ」

「珍しく責任を感じているのか」

「責任を押し付けられるのが面倒なのだ」


 棚から取り出した回復薬を頭目の頭へと振りかけた。





 さて、アオの魔法が効くか確かめるためにも、あの時の氷魔法の使い手は外せないとして、氷や雷、風といった各種は揃えておきたいところだ。


「ちなみに、お前は氷以外は使えるのか?」

「いいえ。残念ながら私は器用貧乏にはなれませんでした。せいぜい一つを極めるのが精いっぱいで」


 冒険者ギルドに俺自らが直接赴くのは久しぶりだ。

 目当ての魔法使いを見つけ、早速話を付けてみたが、本人は一つ返事で受けた。

 だが……他をどう探すか。


 エルフか……?

 あの種族であれば大抵の魔法は使える。

 奴隷の在庫は現在少ないが確保はしてあるが……この氷魔法の使い手までのレベルかと問われると悲しいことに劣ってしまっている。

 ……一人、常時マスクのエルフを思い浮かべたが、出来れば頼りたくはない。あの男に弱みを見せたくは無いのだ。


「普段、私とクエストに同行している魔法使いでよろしければ紹介しますが……。2人いまして、私と同じく一つしか極められなかった者です」

「ふむ……属性は?」

「炎と光です」


 光か……使えないことも無さそうだが、回復要員にしかならなさそうだ。

 炎は無論欲しい。

 【緑の巨人】は木々から木々へ燃え移る心配もあったが、今の相手は鎧一つ。

 対象を絞って炙ってしまえばいい。


「では連れてきてくれ。そいつらの報酬はお前に先ほど提示した額と同等。お前には紹介料として1割追加しておこう」

「はい! ありがとうございます」


 すでにジャバウォーズの概要を伝えたはずだが、報酬額がそれ以上に良いためか、氷魔法の使い手は嬉しそうに仲間を呼びに向かう。

 頭目といい、やはり金か。

 報酬は命の危険をも軽視させてしまう。

 その命を賭けるに相応しい額かどうか、本人の価値基準でしか測れないものだ。

 俺の【勘定】やジャバウォーズの【富裕爆砕】はその価値基準を外から壊す押し付けの価値である。


「果たして価値は自分で決めるのか誰かに押し付けられるのか……どちらなのだろうな」


 今度は俺もこの闘いを見ようと思う。

 離れた場所から、奴が何をしているのか、その能力にはまだ何が隠されているのかを見極めに。

 押し付けられたものであろうと、俺の前では価値を偽ることは出来ない。

 能力が触れたものに爆破するというのであれば、きっとそれに追随するカラクリであろう。


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