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112話 真【爆弾魔】 3

【グリセント視点】


「……」


 ジャバウォーズの去った部屋で一人考える。

 シュロロクライはすでに部屋にいない。軽傷重傷入り乱れた負傷者達の回復をするために回復薬や魔法を使える者を探しに向かっている。

 見た限りではすぐに死にそうな者はいない。シュロロクライに任せておけば問題ない。


「俺はどれほどの爆破になるのだろうな」


 ぽつりとつぶやく。

 自身の価値が如何ほどか計ったことは無い。

 だが、それでも一商会の主として、そこいらの貴族にも負けない程度には安い人間ではないと自負がある。

 それこそ俺の価値が低ければ商会の価値を落とすことになる。

 商会を誇りに思うならば俺自身高めていかなければならない。


 二日……それが俺に残されたタイムリミットだ。

 それまでにこの街を壊し得る価値を持つ人間を見つけ出し、連れて来なければならない。

 連れて来なければ俺の価値に相応しい爆発とともにこの世から去ることになるのだろう。……というか下手したら、この俺自身がこの街を壊しきる価値があるかもしれないが。


「見つけるしか無い、か……」

「そいつは選択肢の一つかも知れないが、唯一と考えるのは早計では無いか? 雇い主さんよ」


 背後に冷気。

 振り返ればそこには1人の少女がいた。

 纏う美しさは氷のよう。

 【蒼の群れ】のはぐれ者、アオである。名付けは俺だ。


「……いないと思ったら」

「地下にいたものでな。やっとこさ到着したら今度は価値に応じた爆破を起こす爆弾魔がいると来たものだ。ゲホ……私はこれでも高いのだろう?」

「……だったな」


 伝説手前の存在は果たしてどれほどの価値になるのか。

 一つの街にも等しいか、それとも一国か……手に入れるまでのプロセスや入れた後の苦労譚を思い出せば容易に想像もできる。想像する前に【勘定】で見れば良いだけだが。


「そうだ! 伝説に最も近い存在……【蒼の群れ】であればあのような爆弾魔如き容易に止められるのではないか?」


 まだアオの力は一端だけしか確認出来ていない。

 その機会も無かったが、それ以上にどこまでやれるのか……それを知ってしまうことが怖くなってしまったのだ。

 対となる【緑の巨人】は街を滅ぼしかけた。

 何か一つでも間違えれば俺はアイツに操られていたか死んでいただろう。

 となれば、アオも全力を出せば街を潰せる力を持つ可能性は十分にある。


 だがしかし、全力は出させないが、制御した力は俺にとって必要。

 俺の部下は大半が治療を待たなければならない身となってしまった。

 今の手駒としてはシュロロクライを始めとした数名の従業員、そしてアオだけだ。


「出来なくはないだろう……が、接触はなるべく避けたいところだ」

「十手と小剣か」


 アオが顔を顰める。思い当たる節はある。

 十手を武器にする従業員を爆破した時、ジャバウォーズは一度も触れていなかった。

 その前に爆破した時に触れたのかもしれない。それの名残が有効だったのかもしれない。

 だが、もし違ったら。

 武器と武器。間接的にでもジャバウォーズと繋がることが爆破の条件だとすれば……。


「ああ。私の氷に奴が触れた時に……私も氷に触れていたらどうなるか。それが分からないうちは余り近づきたくないものだ……ゲホッ」


 対象を爆弾にする。それがジャバウォーズのスキルだが、さしずめ奴は導火線に火を付ける着火物みたいなものだ。

 俺に付けられた導火線は……さぞかし長いのだろうな。


「さて、雇い主さんはどう出る? 一番の悪手はこのまま部屋で閉じこもるだと思うが?」

「ふむ……確かにな。二日後に爆破するということは、少なくとも二日は生きる猶予があるということだ。それまでに打てる手はいくらでも考えてやろう」


 つまりはまだ何も考えていないということだが、これから考えつくのだから問題はない。

 解決に至る道では時間軸はさほど問題ではない。

 最終的な結果こそが重要なのだ。


「そうだな……まずは位置の把握くらいはしておこう。何時でも仕留められるように」





 従業員にすら能力の満たない部下を使う。

 荒くれ者の集団は金でしか繋がれない縁であり、俺からの信頼も、そいつらからの信頼も無い。互いに信頼の無い仲でありながら、金という契約を結んだ時にだけ、俺もそいつらも金を信じて契約遂行を待つことが出来る。


 一歩間違えば山賊や海賊と見紛うビジュアルの男女が俺の部屋に集った。

 絶対に街中で歩き回っていい連中ではない。

 すぐさま騎士や兵士を呼ばれることだろう。


「……お前ら街の人間に混ざれるような衣服を……ええい、俺が手配する。いいか、この商会を潰しかけ、あまつさえ俺の命を狙う奴が現れた。そいつを捕まえるのがお前達に貸すミッションだ」

「報酬は?」


 頭目が尋ねてくる。 こいつらは部下とはいえ、俺の下部組織ではない。

 俺の声がかからなければ、本当に街のゴロツキと大差ない生活をしている連中である。

 それを纏める頭目とだけ俺は契約を交わしているのだ。

 他の連中が暴力的な気配を纏わせた粗暴者だとすれば、頭目は奇妙な男である。

 占い師のように顔を布で覆っており、その中身は分からない。

 どのような顔の造りであるのかは俺も知らないのである。


「国からも手配されている男だ。それと同額を出そう」

「同額?」

「国が出す報酬に付け加えてそれと同額だ。つまりは、国からの報酬の二倍の金を手に入れられると思っていい」


 手配書を懐から出す。

 さすがに貴族の何人かを爆死させたからか、その賞金額は高い。

 俺の懐もかなり痛むことになるが背に腹は代えられない。


「危険な相手だ。成功報酬だけでは無く、怪我人が出れば別で手当ても出そう。回復に関しても俺持ちでいい」

「武器の破損は?」

「……まあいいが」


 そういえば、物質の爆破はどうなのだろうか。

 直接的に価値を持つ物……それこそ金貨銀貨を爆破されでもすれば街中はパニックだ。

 近い物であれば宝石類か。装飾過多な武器類も怪しいところだ。

 ……今のところ、そのような情報は入ってきていない。人間のみ爆破されている。

 

 頭目は配下達と相談している。

 その内容は声が小さく俺には聞こえない。


「依頼、理解した。報酬、別物は可能?」

「額に不満か?」

「国の報酬の二倍。それは問題ない。上乗せ希望は金では無く……」


 頭目が一点を指さす。

 その先には……アオがいた。


「珍しき種族。【蒼の群れ】を引き入れたことは聞いていた」

「まさか、アオが欲しいと?」


 ならば交渉は決裂だ。

 使いたくは無いが冒険者連中を……


「その少女では無く別固体でいい。【蒼の群れ】の生息地もしくは目撃情報。我らは求む」

「チッ……まあいい」


 情報の価値からすればジャバウォーズの国からの報酬と大差ない。

 捕まえることもそうだが、その位置を特定することとて容易では無いのだ。

 国からの報酬、俺からの報酬、そして【蒼の群れ】の情報。ただ国に差し出していればもらえていた報酬の3倍を手に入れることになる。


「約束」

「だが、それは成功報酬に加えさせてもらうぞ。捕まえられませんでした、強すぎて無理でしたでは話にならない。それであったならば、お前達に与えられるのは治療代までだ」

「了承」


 クックックと笑いながら頭目は頷く。

 その表情は布に覆われていて計り知れない。


 表情は計り知れないが……その価値であれば俺は測り知ることが出来る。

 【勘定】を使ってみればゴロツキ共の価値はそろって路傍の石程だ。

 気絶に持ち込まれた俺の商会の従業員は果実一つ分。それすらにも届かない価値の連中が集まり、それを纏める頭目とて薬草の価値にも劣る。

 

「数で畳み掛けろ。だが殺すことはするな。危険な男だが、俺にかけられた呪いにも似たスキルの解除法を聞くまでは殺すことを俺が許さない」

「貴方は貴重なパトロン。失うわけにはいかない」


 布の隙間から覗く眼。

 それは俺では無く、自身のみを映しているように、俺は思えてならなかった。


「20代半ばの男。髪と瞳は黒。見た目は浮浪者。武器は小剣。スキルは爆破系統。条件は接触。その者の価値が高ければ爆破の威力も高まる」

「……知っている者なのか?」


 これから言おうとしていたジャバウォーズの特徴とそのスキル。

 それを先んじて頭目に述べられていた。


「初見でありまだ顔すら見たことは無い」

「……ならば」

「調べた。つい先ほどここで爆破騒ぎがあったことも知っている」


 公にはしていない。

 それこそシュロロクライしかまともに語る口を持っていないはずの情報が頭目にはすでに知れ渡っていた。


「我らこそ適任」


 ジャバウォーズの情報を知っても尚、自らを最適解と言ってのける頭目。

 その言葉に俺は頼もしさすら感じてしまう。

 情報を揃え、価値の低さで爆破を無効化し、そして数で以て捕縛する。

 このゴロツキ集団ならばやってくれるのではないだろうか。

 怯えて眠れない夜は、安心して酒を飲む夜に変わるのかもしれない。


「大船に乗ったつもりで待機」

「ふん、泥船で無いことを期待していよう」


 手配していた衣服が届く。

 街中へと溶け込めるように、男は商売や作業服を着させ、女は買い物中の町娘を思わせる地味な服を着させる。傷などで顔が厳つい者は冒険者のような鎧もあてがっている。


 全ての準備が整った頃、そこにはゴロツキ集団はおらず、街のどこにいてもおかしくない住民が存在していた。

 ある意味では俺の部屋には似合わない素朴な二十数名の男女が爆弾魔を狩りに街へと繰り出した。


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