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110話 真【爆弾魔】 1

ようやく書き溜めていたこの話に続けられる

連続投稿開始だ

 人間の命の価値は死の瞬間にこそ決まる。


 石ころをぶつけられ死んだのなら石ころ程度の価値。

 伝説レベルの宝剣で殺されたら宝剣の価値。


 街ごと死んだら、それは街1つと命が同価値である。


 ならば無価値と決めつけられたこの命。街を巻き込んでも尚、無価値と言い切れるのか。それが楽しみだ。


 俺の名はジャバウォーズ・サイダレック。

 かつて世界を救った勇者の仲間……その末裔だ。

 たしかシーフの役目を負っていたと爺さんは言っていた。

 シーフなんて結局は盗賊崩れ。まともな性格では無いはず。

 それなのに勇者の仲間だとか笑えるが、しかし世界を救ったという事実もまた残っている。

 まともではない勇者の仲間の子孫はやはりまともではなかったと言うべきか、俺は自身でも異常者であると認めている。


 だからこのスキルは先祖返りをするかのように芽生えたのだろう。

 【富裕爆砕】。

 使いづらいようでいて、俺にとっては分かりやすいくらいに俺の性格を表したようなスキルである。

 これを俺のご先祖様がどのように使いこなしていたかは気になるところだが、知ったところで何も変わることは無いだろう。

 人を爆破し続ける人生は変わらないだろう。





【とある商会の一室】


「よう。グリセントってのはお前さんかい?」

「如何にも。それで、お前は何なのだ。うちの従業員共を火傷させてくれたみたいだが、何が目的だ?」


 一階から昇って最上階にあるグリセントの部屋。

 あちこち擦り切れたような衣服を纏う異様な装いの男は、真っすぐにグリセントのいる部屋を目指し、途中で止めようとする従業員達全てを害して昇ってきた。


「まずは名か。ジャバウォーズだ。俺が何かは、そりゃ見ての通りだな」


 ケラケラと笑う男に対し、グリセントはシドウや【緑の巨人】と対峙した時のような冷や汗をかいているのを感じた。

 


――チッ。有能な者程、傷が深いな。まさかそれを狙っているということは俺の商会を潰そうとする商売敵か……?


 

 部屋にはグリセントと腹心の部下であるシュロロクライ、そしてジャバウォーズだけが椅子に座っていた。

 他の者達は一様に全身に火傷を覆い倒れている。

 火傷で済めばまだマシな方だ。

 酷い者では四肢の一部を欠損している者すらいる。

 しかしすぐに助けることは出来ない。

 グリセントは元よりシュロロクライも雇い主を守るためにその場を動けない。

 ジャバウォーズという男の目的が分からない以上、逃げる事すら敵わない。


「もう一度訪ねよう。俺の店の従業員の大半を使い物にならない状態にして、何がしたいんだ?」

「あ? 使い物にならない……? ああ、そうか」


 と、ジャバウォーズは初めて周囲に転がる男達の怪我の度合いを知ったかのような表情をする。

 倒れていることは知っていたが、それが死んでいるのか死にかけているのか、軽傷なのかはどうでも良かったとばかりに。


「まあ運が悪かったんだろうな。いや、これまでの人生は運が良かったんじゃねえのか? 使い物にならない……ならない、ねぇ。使い物になっていた奴がたくさんいてお前さんは幸せものだ。さぞかし人望が厚く、尊い価値のある人間なんだろうな」


 グリセントが直近で出会った異常者といえばシドウと【緑の巨人】であるが、目の前にいる男の視線はどちらかと言えばシドウのものに似ていた。

 全てを愛するが故に些事に拘らない【緑の巨人】では無く、生き物の生き死にがどうでも良いと考えるシドウの目。

 濁った瞳はグリセントを見ているようでいて、別の何かを映しているような気がしてならない。

 その口から吐かれる言葉は意味を持っているようで何を表しているわけでもないような気がしてならない。


「まあ使い物になっていた奴もとい使い物にならなくなった奴は置いておこうぜ。死んでねえってことはそれなり止まりだったんだろうけどな」


 またもジャバウォーズはケラケラと笑う。

 生きていようが死んでいようがどうでもいい。

 そう言って笑う。


「だからもく――」

「目的はお前さんだぜ、グリセント」

「貴様!」

「……止めておけシュロロクライ」


 シュロロクライがジャバウォーズに掴みかかろうとしてグリセントに抑えられる。

 グリセントはこの部屋で見ていた。

 触った者からだ。

 ジャバウォーズに掴みかかろうとしたり、殴ったり、足を踏みつけたりと……触った瞬間に体が爆破した。

 触れば爆破する。それすら確かなことではないが、それはまず避けなければならないことだとグリセントはこれ以上被害を増やさぬためにもシュロロクライを制止せざるを得なかった。


「ていうか、ここまで来てグリセント以外に目的があるわけねえだろ。シュロロクライって言ったか。まさかお前さん自身にこの俺が用事抱えて来たとでも思っていたか?」

「どうなんだシュロロクライ。まさか幼馴染では無いだろうな。それならば話は済むのだが」


 決して話が済むわけでは無いが。

 それでも一縷の望みというか、少しでもややこしさを単純に出来るならと一応尋ねてみる。


「いえ……全く知らない男です」

「なら下がっとけや、お使いボーイ」


 ジャバウォーズがシュロロクライを追い払うように手を振る。

 その様子から、ジャバウォーズの目的は少なくともグリセントの店の従業員を使い物にならなくすることではないと推測する。

 実際、商会内の販売に関してで言えばグリセントとシュロロクライさえいればどうにかなる。

 奴隷の育成と世話であれば辛うじて軽傷な者や出て来なかった者らでやればいい。


「俺が目的か。命か、金か。それともこの商会を支える手腕か?」


 グリセントの誇る物といえばその3つだろうか。

 たとえ商会そのものを失ったとしても、グリセントが生きており、金があれば建て直すことだって、新たに作り直すことだって可能だ。

 だから、ジャバウォーズの目的、欲する物は意外といえば意外であった。


「いいや、そんなものには興味ないね。金なんてしょせんは夢現に消える価値無き物さ。命か、お前さんのに限って言えば興味あるけどそんな勿体ないことはしねえよ。手腕なんかもっといらねえ。俺が店を経営しても笑い種だろうさ」

「なら何を」

「お前さん持っているだろう? 物の価値を見極める【勘定】というスキルを」


 それはグリセント自身、商売にしか使えないと思っていたスキルであった。

 グリセントにとって価値のある人間の値段を決めつけるスキル【勘定】。

 商売人であるグリセントにとっての価値があるということは、ほとんどが他の貴族を始めとした国単位でも価値のある者ということである。


「噂に聞いたんだよ。そのスキルって、人間の価値も測れるんだろう? ならさ、俺のスキルと丁度いいんだわ。有効活用どころか歯車がカッチリト合わさっているんだ」

「……何を言っている。お前も自分の店を持ちたいということか? ならば悪いことは言わない。さっさと――」

「だーかーらー! 同じこと言わせんなよ。俺は興味ねえんだよ、働くなんてくそったれなことなんてのはな。興味あるのは楽しいことだけだ。楽しいことってのは知らないことを発見することだ」


 自分の秘密を打ち明けるように、内緒話をこっそりと話す子供のように、心底楽しそうにジャバウォックは声を潜めて話す。


「この街と同等の価値を見つけたいんだわ。そして爆破して街を沈めたいんだ」


 何を言っているのか分からない。

 その真意も、手段すらも。

 街を爆破で沈める……?

 一体どうやって。爆弾なんぞ仕掛けた時点で解除しようと誰かしらが動くに違いないはずなのに。


「ああ、不思議な顔をしているなぁ。ようし種明かしをしてやるよ。だって、俺がどうやってお前さんのスキルを使うか分からないもんなぁ」

「時として知りたくもないことというのはあるのだがな」

「そう言うなよ。邪険にするなよ。見境なくなっちまうぜ?」


 少なくとも人を爆破出来るスキルを持つ男。

 すでに手当たり次第に爆破しているがこれ以上何をしようとしているのか、それを知るためにも大人しく話を聞くしかない。


「人の命の価値は死に方で決まる。【富裕爆砕】は生き物をその価値に応じた威力を秘めた爆弾に変えちまうスキルさ」


 価値を測る【勘定】というスキルを持つグリセントの目の前にいる男はケラケラと笑いながらグリセントへと手を伸ばした。


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