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108話 犯人捜し 10

 【爆弾魔】こと雑貨屋の店主が店の近くまで辿り着く頃には息も絶え絶えになっていた。

 年も50を超えた頃。

 日頃の運動など満足にしておらず、せいぜいが日課の散歩といった程度。

 誰が騎士に追いかけられることなど予想できるか。


「だが……ここまで来た……」


 店の灯は消えている。

 だが、それで家の中が無人であるなどと楽観的な考えには至れない。


「……スキル【起爆錬成】」


 懐から細長い筒状の容器を取り出す。

 メスシリンダーにも似たその容器の中には土くれが入れられていた。

 土を一塊掌に取り出すと握りしめる。開けばそこには起爆スイッチが生まれていた。

 

 【錬成】から派生したスキル【起爆錬成】。

 爆薬から抽出した爆発という性質を他の物質に合成できるというスキルである。

 性質を失った爆薬は代わりに土へとなり替わってしまうが、その土にも使い道があった。

 再びスキルを使用すると起爆スイッチへと変化する。

 勿論、スイッチを作らずとも時間経過とともに爆発するのだが、それでは使い勝手が悪い。

 そもそもでスキル自体が爆発に限定したものであるため使い勝手の悪さで言えば元々なのだが。


 店の中の気配は感じられない。

 一介の店の主人にそのようなものは感じ取れない。

 【爆弾魔】とは言っても、スキル頼りのただの一般人である。


「……起爆」


 最も小規模の爆弾を起爆する。

 殺傷能力はない。だが、突然の爆発に驚いた店への侵入者は飛び出してくるだろう。

 その算段であったはずなのだが……。


「な、なぜだ……」


 爆発は起きなかった。

 

「くそ、火薬が濡れていたか!?」


 次弾を起爆させる。

 だが、それも無反応。

 起爆、起爆、起爆、起爆……。

 店中にある全ての爆弾を起爆させるも、何も起こらない。


「何が……何があったんだ!」


 確かめようにも、店内に誰かがいる可能性を考慮すれば入ることも出来ない。

 

「……くそ」


 幸いにも全財産は手元にある。

 これを元手にしてまた爆薬を集めるしかない。

 そう思い、店主は再び街から出ようとするも、


「どうやらロマニコフ卿の策通りであったようだ。爆弾を全て見つけ出し無効化する。流石は【機械技神】である」


 タイミングを見計らったかのようにアレクサンドルとスザルクが立ち塞がる。


「だ、誰だ……」

「誰とは心外だ。先ほど爆破に巻き込んでくれたではないか」

「……っ!? そうか、お前達だったのか。だが……さっきは確実に爆破した。あれは致命傷になるはずだったのに」


 店主は一歩後ずさる。

 アレクサンドルから逃げようとし、しかしそれは店へと向かう道でもあった。


 アレクサンドルも迂闊には近づけない。

 店主の一挙手一投足に注意しながら慎重に歩み寄る。

 にじり寄るアレクサンドルとスザルク。

 少しずつ追い詰められ、店に近づく店主。


 だが、その詰め合いも終わりを見せた。


「ここだ!」


 それはアレクサンドルとスザルクが先ほどまで店主が立ち止まっていた場所にまで近づいた瞬間であった。


 店主が手元にある起爆スイッチを押した。

 その瞬間、アレクサンドルとスザルクに最も近い家が爆発した。

 

「店内にあるものは全て無効化された。ならば、私がつい先ほど作り上げた爆弾ならば問題ないということ!」


 手元にある数少ない爆薬を使い、休憩がてら掴まっていた家に【起爆錬成】を使っていた。

 その威力はさほどではない。使用した爆薬が少量であったから。だが、家そのものが爆弾と化していたために広範囲へと爆破が広がる……はずであった。


「【火断ち】」


 アレクサンドルが爆発を切り裂く。

 突然の爆破であっても構えていたアレクサンドルには通じない。


「そう来ると思っていた! 【起爆錬成】」


 しかし、店主もまた爆発から目の前の2人が生き延びたと知った瞬間にただ家を爆破しただけでは効果は無いと読んでいた。

 すかさず新たに爆弾を作り上げる。

 手元にあるものならば何でも良かった。

 土くれの入っていた容器を爆弾に仕立て上げると、アレクサンドルとスザルクへと放る。

 

 手持ちの爆薬残りほとんどを使った最後の爆弾。

 家の爆破を切り裂いたアレクサンドルには反応できない。


 反応出来たのは、スザルクのみであった。

 スザルクが剣を振るう。

 アレクサンドルに比べれば未熟といってもいい腕前。

 爆発が2人を巻き込んだ。





 スザルクは生まれつき片腕であったわけではない。

 ただワイバーンとの闘いの末に失っただけである。

 失ったものは取り戻せない。

 だから、他のもので埋め合わせる他なかった。


 しかし今は違う。

 彼には2本の腕がある。

 片腕だけでワイバーンを倒した頃と同等の剣術まで到達した。

 ならば再び両腕を取り戻せばどうなるか。

 両腕で剣を振るう感覚は忘れていない。

 何時しか聖女に回復してもらう日を夢見て忘れぬように日々の鍛錬を欠かすことなく、両腕で振るうことも視野に入れていた。

 加えて死体の身体能力。


 そこまでしてもアレクサンドルには劣るだろう。

 だが、アレクサンドルに届かない剣術が爆発を斬れないと断定はできない。


 初遭遇時と今回で2度、スザルクは【火断ち】を見た。

 どちらも瞬間的なものであり、教えられたわけではない。


 それでも、彼が【火断ち】と同等の技を振るえたのは努力と運、そして武器故にであったのだろう。



 脳裏によぎったのは、果たしてこの爆発はどこまでに被害を及ぼすのだろうかということであった。

 自身とアレクサンドルだけ?

 【爆弾魔】は自爆覚悟だろうか。

 それとも……【爆弾魔】を挟んだ向こう側の建物……雑貨屋の中にいるシドウにまで届くのだろうか。


「それは……困ります」


 それはかつてワイバーンの首を落とした技。

 片腕になっても尚、下竜を殺すために最後に生み出した奥義。


 スザルクの持つ剣が爆炎と爆風を巻き上げる。

 振り下ろす剣に追従するかのように、爆発は収束し、収縮し、剣の中へと吸い込まれていく。



「【竜頭断】」


 振り下ろす剣は地面へと突き立てられず、反作用的に空中へと振り上げられる。

 その瞬間、収束したエネルギーは全て空中へと放出され、空彼方で爆発を起こした。


 空を飛ぶ竜の首を断つ技。

 剣持つ身でありながら、片腕になった上で、竜を殺す技。

 数m先のワイバーンを斬る技を、今の彼は天をも裂く奥義へと昇華させていた。


「……ふう」


 スザルクは剣を納める。

 目の前には最後の爆弾を使い切らされ、彼我の戦力差を思い知らされた店主が呆けていた。

 店主の両腕に縄を巻く。


「捕縛完了……この為に私は生き返ったのでしょうか」


 自身を殺した相手を自分の手で捕まえることが出来た。

 より剣術を磨くことが出来た。

 両腕を取り戻すことが出来た。

 やりたかったことをやり遂げてしまった。


「であれば、私の生きる意味はもう無い……と」


 生前に叶えられなかった夢を叶えてしまった。

 残した未練を自身の手で解決した。


「ようし、よくやったぞスザルク! それでこそ俺のしもべだぜ」


 店の中からシドウが出て来る。

 満面の笑みでスザルクに手を振っている。

 見ていたのだろう、彼が爆発を斬る瞬間を。

 手に入れた手駒が想定以上の強さを持っていた。

 

「……何故でしょうか。無性に嬉しいですね」


 アレクサンドルに手合わせを挑まれた時よりも、両腕があることを知った時よりも。

 何にも増して、シドウが頼りにしているという事実が嬉しい。


 スザルクの感情に呼応するかのように腰の剣が震えたような気がした。


「……ええ、そうですね」


 生きる意味が無いのではない。

 すでに死んだ身だ。

 死んでも仕えたい相手が出来た。


『「【爆弾魔】には勝てても【爆弾】そのものには勝てません。爆発を斬ることなんて人間には不可能なんですよ』

 

 どうやらこの言葉は訂正しなければならないようだ。

 強く在ろうとすれば強くなれる。

 

「マスター。改めて私は己の剣を奉げます。貴方とならば、どこまででも強くなれるでしょう」

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