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107話 犯人捜し 9

「先に言っておきますが、儂らは【爆弾魔】を捕らえようとギルドからの報酬を貰えませんぞ?」

「え、マジかよ。貴族たくさん殺したんなら懸賞金出てるんじゃねえの?」


 途端にやる気無くすわー。

 いや、荷物の恨みもあるけどよ。


「儂らは捕まえろという指令の下で動いております。つまりは、成功が前提なのです。失敗を許されない。【爆弾魔】を逃がすという選択肢はないのですじゃ」


ブラック過ぎるだろ。

 絶対に就職したくない会社ナンバーワン。


「……実はの、捕まえるまで帰ってくるなとのお達しがありましてな。もし儂らが捕まえられなければ」

「捕まえられなければ?」

「王がこちらへ来ますじゃ」

「王って……」

「この国を治めているあの?」

「ですじゃ。王は出たがりでして……【王国騎士十傑】も王を止めるために作られたと言っても過言では……」


 随分とアクティブというかアグレッシブな王様じゃねえか。

 陽キャの香りがするぜ。


「ふむ……しかし離れていきますのぉ」


 予備のレーダーを取り出した爺さんは呟く。

 光点は常にどこかへと移動しているようだ。


「おかしいですな。ここへ戻ってきたところを捕縛する、そうなる目論見でしたのじゃが」

「……なあ。ちなみにこの店って最初から開いてた?」

「うん? いいえ、閉まっておりましたよ。どこの世界の店主が店を開けたまま何処かへと行きますか。泥棒にでも入られたら大変ではないですか」


 その泥棒がいるじゃねえか。


「閉めたはずの店が開いていたら怪しまれるじゃねえか! おまけに灯も点けっぱなしだ」

「これは盲点。帰ってきた後のことを予想するあまり、帰ってくる瞬間のことは想定外でしたわ」

「盲点どころか盲目だわ」


 耄碌ジジイめ。


「せっかく、この店の中をありとあらゆる罠で改装し尽くしましたのに」

「無駄なことをしたな」


 そこら中罠なのかよ。

 俺も引っかかるんじゃねえのか、怖えな。


「さて、無駄かどうかはまだ分かりませんぞ」

「あ?」

「外ではクライアンス卿が動いております。ならばきっと、どうにかなりますて」

「どうにかって……まあいいか」


 ここで黙って待つだけだ。

 待つだけだと暇だから外の様子を見よう。


「久々に偵察の出番だ」


 懐から小鳥を出す。

 俺と視界を同調できるこいつならばここから俺が動かずとも安全に周囲を見渡せる。


「……ふむ」


 爺さんは小鳥を一瞥すると何やら思案している。

 まさか気づかれていないだろうな。

 こいつだって曲がりなりにもゾンビであることには違いない。

 それの主人である俺が蘇生を使える【ねくろまんさぁ】なり【ネクロマンサー】であるという結論に辿り着かれてはならない。

 そんな危険があるにも関わらずなぜここで小鳥を出したか。

 それは暇すぎたからである。


「シドドイ、しばらく頼むぞ」

「へ……?」

「寝る。なんか来たら起こして」


 目を閉じて小鳥の視界から街の様子を見渡した。

 寝ると言っておけば、【爆弾魔】がこちらへ来たら起こしてくれるだろう。

 小鳥から見える街の全貌。せっかくならば楽しもう。





【小鳥視点】


 スザルク・ファファルにとってアレクサンドル・クライアンスという男は目標であり憧れでありいつかは倒したい相手でもあった。


 剣士を名乗るのであれば必ず耳にする名前。

 生きて会えるのは一つの人生で一度きり。

 自分の力量では、国の中では廃るほどいるであろう凡夫の才では一度会えたら二度と会えないであろうと思っていた。

 まして、街で実力者と謳われていようと片腕の身。

 強くなったとは言っても、片腕にしては、だ。

 結局は、届かぬ相手に違いない。

 

「それがまさか共に同じ敵を追うことになろうとは……」


 生きているうちはもう会えない。

 それは事実となり、死んだ後……蘇生した身となってアレクサンドルの隣に立つことが出来た。


「どうした? 先に行くぞ」


 アレクサンドルの足が早まる。

 スザルクもまたそれに合わせて早める。


「……ほう」


 蘇生したことでスザルクの身体能力は格段に上がっていた。

 それこそ、王国で七位にいるアレクサンドルと共に走ることが出来る程には。

 

 スザルクが一度死に、蘇生したことを知らぬアレクサンドルは、この街にもまだ隠れた実力者がいたのかと目を細める。

 ただ走っているだけではない。

 アレクサンドルはその警戒心や足さばき、消耗する体力などを見ていた。


「スザルクよ」

「は、はい!」

「この件が終わったら、時間がある時で良い。一度手合わせ願えないだろうか」

「はい……えぇ!?」


 まさかの申し出であった。

 スザルクからならばまだしも、アレクサンドル自らの手合わせの申し出。

 それはつまり、


「……アレクサンドル様が私の実力を認めてくださっている」


 生前はあれほど感情を抑えられていたのに、今は止められない。

 常に笑みを浮かべていたが、どのような感情であっても悟られないためであった。

 だが、今は違う。

 嬉しさがこみあげてくる。

 こみあげてきたものがにじみ出て笑みを作ってしまう。


「どうやらこの先のようだ」


 アレクサンドルの持つレーダーはすぐ先を示していた。

 知らぬ間に開店していたことを知りすぐさま逃げた【爆弾魔】――店主であったがアレクサンドルとスザルクの速度に追い付かれるのはそう長くなかった。


 2人が【爆弾魔】の下へと駆け付けた瞬間――爆風と炎が2人を包み込んだ。





「……くそ、まさか追いかけてくる者がいるとは。まさか私が【爆弾魔】であることがもう知られているのか!?」


 その男は焦りに満ちた声で走っていた。

 年齢に相応しく息を切らせながら、それでも走り続ける。


「……一度逃げてしまったが仕方ない。材料はほとんど残されていないのだ……店に戻って補給するしか……」


 男――店主は知らない。

 アレクサンドルはあえて店側へと追い込むようにして回り込んでいたことを。

 追い付くどころか追い抜かれていたことを。


 そうして知らずに回り込まれてしまったことも、店主の行く先が店へと向かうことを意識づけていた。

 そして、息つく間もなくまた走り出す。





「店へと行ったようだな」

「……まさかこのような芸当が出来るとは」


 アレクサンドルは店主が近くにいると分かると常に殺気を放っていた。

 たとえそれが殺気を感じ取ったことのない凡人であっても胸騒ぎがする程度には濃厚な殺気。

 すでに店を抑えられていることを知っていた店主にとっては追手が迫っていることを悟るには十分すぎていた。


「貴方ほどになれば爆炎とて斬れるのですね……」


 スザルクの言った芸当。

 それは殺気を放つという威嚇などではない。

 【爆弾魔】によって起こされた爆発……炎や風を切り裂くというものであった。


「【火断ち】。そのままではあるがな。しかし私だけでやれることではない。この剣が業物であるからでもある」


 自身の実力だけではないとアレクサンドルは刀身を見せる。

 それはシドウからスザルクへと渡された剣にも劣らぬ程の名剣であることはスザルクは一目見て分かった。

 自分では出来ぬであろう技。

 得物に差は無いだろう。あるとすればそれは己の腕のみ。

 ただ走っただけで追い付けるかもしれないと錯覚していたが、改めてスザルクは力量の差を思い知った。


「急ぐぞ。店に向かっている」

「……なぜ、この場で捕まえなかったのです? 私と……いえ、貴方だけで出来たでしょう」

「それはな……」


 アレクサンドルは一瞬だけ言い淀む。

 だが、それは一瞬だけであり、


「私は人斬りなのだ。剣を抜いて相対すれば斬らずにはいられない。……殺してしまうかもしれぬ」

「あの……私と手合わせという話は……」


 まさか手合わせというのは死合だったのかと危惧するスザルク。

 彼はまだシドウが【メンテナンス】というスキルを持っていることを知らない。


「無論、木剣でだ。望むなら、お前だけその剣でも良いが」

「あ、いえ……私も木剣で大丈夫です」


 会話をしながらも彼らは【爆弾魔】を追いかける。

 今度は一定の距離を保ちながら、気配を隠して。


「捕縛であるならば、あのロマニコフ卿の方が向いているのだ」

「……はあ」


 スザルクは第九位の顔も名前も知らない。

 だから、ロマニコフ卿と言われてもそれが誰だかは結び付かない。


「直だ。奴はもう店に辿り着く。そこで私と卿とで挟み撃ちにするぞ」


 逃げ場はない。

 【爆弾魔】の顔も割れている。

 どのようにして爆弾を作り上げたのかも知っている。

 対してこちらは【王国騎士十傑】が二人に加えて冒険者数名。

 街を騒がす【爆弾魔事件】も決着は近かった。

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