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106話 犯人捜し 8

「マスターはなぜ私を蘇生させたのでしょうか?」


 雑貨屋への道ながらスザルクは俺に尋ねた。

 

「感覚で分かります。蘇生する力と肉体を再生させる力。それほどの力があれば、いくらでも古に剣を振るった強者を蘇らせることが出来るでしょうに。それこそ、私なぞ足元にも及ばない程の者を」


 なんだそのメンヘラ女みたいな質問は。

 要は、お前が必要だったんだみたいな答えを求めているってことだろ。


「理由は2つ。1つ目は、英雄とか王様とか知れ渡っている有名人は一目でバレちまうからな。そこらを出歩けなくなる」

「なるほど。私であれば死んで間もないこと、そして死そのものがあやふやであったことで逆に生きていることの証明になりましたか」

「2つ目は、我が強すぎないってことだな。これ以上キャラクターの強い奴はいらねえ」

「私の性格は薄いですか……」


 スザルクは項垂れている。

 悪いなぁ……これ以上追い打ちはかけたくなかったんだが。真実はいつだって残酷なんだ。


「と、まあ建前は置いておいてだな」

「建前ですか」

「本音も建て前も似たようなもんだけどな。建前だって何割かは本音が混ざっているってもんだ」

「しかし、建前以上の本音があるのですね」

「あるぞ。適当に蘇生させてみたら強そうだったから自我を持たせてみたって真実がな」

「……」


 固まってると置いていくぞ。

 

「そんな――」

「そんなもんだぞ。この世なんてその場のノリで生きている奴が大半だ。安心しろ、俺達がこの街に来たのもノリだ」


 スザルクは一度【爆弾魔】によって殺されている。

 それも直接対峙したわけではなく、目標の巻き添えという形で。

 自慢の剣技は全く役に立たなかったのだろう――自信を無くすのも当然である。


 蘇生した時、冷静に見えているようでいて、それはただ見えていただけだったのだ。

 内心は打ち震えているだろうし、喪失したショックで嘆いているのだ。


 何か、再度自信のつくことがあればいいのだが……。


「っと、雑貨屋に到着か。スザルク、その辺の話はまた今度な」

「……はい。いずれ」


 どうせ生き返ったのだからまた好きに生きればいいと思うんだけどな。

 そこら辺は俺は分からないのだろう。

 一つのことに生きた人間など、理解出来ない。

 マルチを求められていた俺には。


「おーい、いるか? ちょっと必要なものが……ん?」


 雑貨屋に入り、冴えない店主に声を掛けたのだが、中からは別の声が返ってきた。


「店主はいない。そう、逃げたのだからな」

「アンタは……アレクサンドルか」


 七位様がこんなところで何用で。

 買い物か? いや、逃げたと今言っていたな。

 つまり、店主は何者かに追われていたのか?


「逃げたってのはどういうことだ。アンタが追い出したのか?」

「いいや、追い出すわけがない。何故ならば、私は彼を捕まえに来たのだからな」

「へえ……あのオッサン何かやったのか? そんなタマには見えなかったけどよ」


 大層な人物か?

 ヤクザ崩れみたいな連中に脅されていたくらいの小心者だ。


「……まあいいか。聞いた話では確か青年も依頼を受けていたのであったな」

「依頼って何の? あと俺はシドウだ」

「そうかシドウ。依頼とは、【爆弾魔】に関する依頼のことだ。手がかりを手に入れたかったのであろう?」

「ああ……って、まさか」


 いや嘘だろ。

 こんな身近にいたのかよ。


「ああ。この店主こそ【爆弾魔】の正体である。恐れ多くもこの街を恐怖に陥れた、な」

「……マジか」

「間違いはない。それこそ九位が突き止めたのだ。性癖こそアレであるが技術は確かな【機械技神】がだ」

「恥ずかしい呼び名ですがの」


 店の奥から九位の爺さんが出てきた。

 その手にはポーションなどの薬品がある。


「間違いないですじゃ。これらは爆弾の性質を持ち合わせております。起爆のきっかけは……まあスイッチか何かを持っているんでしょうな」

「いやヤバいじゃねえかそれ」


 思わず店から出ようとした俺に


「もう爆発せぬよう細工しました。安心してくだされ」


 爺さんはポーションを床に叩きつける。

 身構えるも、何も衝撃が襲ってこないことを確認する。


「どうもアイテムを爆弾に変える力を持っているようですな。商品と称して爆弾を送りつけていたのでしょう。見た目も、なんだったら性能も変わらない故に気づかれない。厄介な力の持ち主ですじゃ」


 ……そういうことか。

 店主の使っていたスキル。

 確か……


「物質を合体させるような力を持っていた。もしそれが物質同士じゃなくても可能なら……」

「なるほど。爆薬の性質だけを合わせたのですな。他に使い方見つけなかったのかと叱りたいわい」


 この爺さんであれば今の技術を更に発展させるような使い道も見つけられたのだろう。

 だが、店主のオッサンは違う道を見つけてしまった。


「復讐か。自分を脅した人間に対して」


 ヤクザみたいな冒険者や高圧的な態度を取る貴族に対しての復讐。

 これが動機であろう。

 被害者の中には人権的な者もいた気もするが、それは見方の問題。オッサンが害だと感じれば害だったのだ。


「どうやらこれで状況的証拠も、物的証拠も集まったようですな」

「でも逃げちまったんだろ? どうやって捕まえるんだよ」

「安心なされ。実はこの街中に映像記録装置を取り付けておりました。【爆弾魔】――店主の特徴と合致する者がいればすぐにでもこちらへと届くでしょう」


 そう言って爺さんが取り出したのは円盤型の機械であった。

 その中では光点が点滅している。


「すげえな。爺さんもちゃんと仕事していたのか」

「ほっほっほ」

『嘘です。マスターは休んでおられました。設置は全てこの私が行いました』


 爺さんに続いて店の奥からウサ耳少女型ロボットが出てきた。

 

『手柄は私のものです。マスターには決して譲りません』

「つくったのは儂なのですが……」

「おい早く追いかけようぜ。逃げちまうぞ」

「どうもまだこの近くにおるようですな。やはり仕掛けが役に立ちましたか」


 仕掛け?

 なんだこの爺さん頭脳派かよ。


「とっくにお気づきかもしれませんが、実はギルドの方には明日に捕らえに向かうと伝えております。情報が漏れていると想定すれば、奴めはそれを計算に入れた上での逃走となるでしょう。まだこの店には誰も来ていないという前提で」

「ということは、この店にまだ帰ってくる可能性もあるってことか」

「ですな。だからこそ、儂とクライアンス卿がそれぞれ動こうということなのですな」


 どっちかが店に残り、もう片方がレーダーを持って追いかけるんだな。


「だったら俺達にも一枚噛ませてくれよ。そこまで教えられて帰るほど、あの【爆弾魔】に対して何も思っていないわけじゃないぜ」

「ほう……ただならぬ執念をお持ちのようですな」

「荷物一式爆破されたぜ。昨日の巻き添えでな」

「……」

「……まあいいではないですかロマニコフ卿。彼らも冒険者であるならば、自衛の手段くらいあるでしょう」

「む……クライアンス卿がそう言うのであれば。では、彼らにも独自に動いてもらいますか?」

「いや、ここはどちらかに付いてもらいましょう。私は単独の方が動きやすい。拠点を構える卿は人数が多くても構わないでしょう」


 爺さんがあっけにとられた顔をしているうちにアレクサンドルは爺さんの手からレーダーを取ると店を出ていこうとする。


「あの!」


 それを止める男がいた。

 アレクサンドルと同じくこの場で剣を携える者――スザルクであった。


「私のことを覚えていますか……?」


 こいつさっきから発言が乙女かメンヘラのそれだな。

 全然男っぽくねえんだよな。


「……すまない。記憶にないな」

「そう、ですか……」


 表情は振られた女みたいになっちまってる。

 

「スザルク、お前も付いていけ。こっちにこれ以上人いると狭くてかなわねえ」

「……っ!?」

「シドウと言ったか。私は先ほども言ったように――」

「足引っ張られるのが嫌なんだろ? こいつ、これでも街一番みたいだからさ、国七番のアンタに憧れているみたいなんだよ。ちょっとでいいから面倒みてくれねえかな」


 聞かなくても分かる。

 スザルクとアレクサンドルは過去に何かあったんだろう。

 手合わせしたあげくにスザルクが負けたとかそんなものだろう。

 アレクサンドルにとっては常勝したうちの一つかもしれない。

 しかしスザルクにとってはたった一つの敗北。


 ただの勘だけど。

 実は幼馴染とかの設定も有り得そうだ。


「……分かった」


 アレクサンドルは折れた。


「スザルクか。ではお前の力を見せてもらおうか。置いて行くときは遠慮なく置いていくぞ」

「はい!」


 功労者たる俺への礼もそこそこにスザルクはスキップでもしそうな勢いでアレクサンドルの後を追いかけていった。

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