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105話 犯人捜し 7

「え? 【爆弾魔】ですか? それならもう見つかったようですよ」


 死体の男を連れて冒険者ギルドへと向かうと受付嬢が小さな声でそう返した。


「……へ?」

「なんでも【王国騎士十傑】様が特定なさったようです。明日の朝には捕縛に向かわれるとか」

「そ、そうなんだ……」

「依頼は完了ということでいいですよ。何せ相手が【王国騎士十傑】様ですから。先を越されるのも当然です。その辺の事情を汲んで完了扱いとさせて頂きます」

「……ありがとよ」


 なんとも上からの言い方だな。

 それだけあの二人が偉いってことなんだけどよ。


「ちなみにどのような手掛かりを? 必要とあらば【王国騎士十傑】様へお伝えしますが」


 おいおい、完全に【王国騎士十傑】様のお使いにされてるじゃんか。

 こいつらギルドの連中も権力の前には下に出てるな。

 そしてその更に下にいる俺達は下請けか。


「証人だ。新たな生き残りを見つけてきた」

「生き残り、ですか」

「【爆弾魔】と相対し生き残った奴の証言……なんだがな。こいつ、話すことが出来なくなってしまったみたいだから連れて来た」


 死体の男を前に出す。

 死体さながらに無表情のまま受付嬢の前に出た男は無言で立つ。


「……」

「な?」

「えぇ……証言とは……って、その人、スザルクさんじゃないですか!」

「スザルクさん?」


 受付嬢の知り合いだったか。

 ならばあまりこの男自身の情報は語らない方がいいか。

 どこで何をしていたのかは俺にも分からない。


 というか、証人として連れて来てしまったが、闘う人間でも無かったら護衛だったという設定が矛盾してしまう。


「そうですよ。この街でも指折りの実力者、スザルクさんです。【爆弾魔】の被害者の1人で、死体は跡形もなく吹き飛んでしまったと思われていたのですが……まさかこうして生きていたとは」

「指折りってことは強いのか」

「勿論です! 片腕ながらもそこいらの冒険者とは一線を画する実力を持っていて、あの【王国騎士十傑】七位であるアレクサンドル様にも実力を認められたとか」


 へえ、そりゃ凄いんだろうな。

 俺の手持ちの死体にまた1体、強いのが加わったと思えば……片腕?


「【隻腕の竜殺し】という異名を持つほどに……あれ? そういえばスザルクさん両腕ありますね」


 いっけね。

 布に包まれた状態で直してしまったから隻腕とか知らねえぞ。

 全身の火傷はともかく、腕が生えるのは誤魔化しきれない。


「それはだなー……」

「もしかして、かねてより叶えたかった夢を叶えられたのですね! 【東の巫女】に治療をして頂いたのですね」


 【東の巫女】が誰だか知らんが、巫女というからには回復系の力があったのだろうか。教会に属する連中か? 

 せっかくだから利用させてもらおう。


「ああ、そうそう。【東の巫女】だった。片腕ついでに全身の火傷も治してもらったんだった。危うく死ぬところだったが一命を取り留めるどころかぴんぴんして歩けるんだものな。凄いもんだぜ」

「やはり、巫女のお力は凄いのですね。しかし流石の【東の巫女】でも心の傷までは治せませんでしたか……」


 スザルクが言葉を失ったことを言っているのか。

 

「それで、証言というのはスザルクさんからのですか? それなら情報としての正確性は高そうですね」


 おっと、ここで下手に証言させるのは不味いか。

 

「それが、証言としては少し曖昧でな。どうやら記憶が朧気らしいんだ。なんせ心に傷を負ったんだからな」

「そうですか……」

「【王国騎士十傑】が突き止めたんなら間違いは無いさ。横からあれこれ口を出されて混乱することも無いだろう。なあ、スザルクの兄さんよ」


 スザルクは小さく頷く。勿論、俺の指示である。


「というわけでアンタの言う通り、これにて完了扱いにしてくれ。ほら、間違った証言してたら俺も、スザルクさんも恥ずかしいだろ?」

「分かりました。では、これで【爆弾魔】に関する手がかりの取得の依頼を完了と致します。ありがとうございました」


 




「まずはこいつを蘇生させる」


 宿に戻ると俺はスザルクへとスキルを使う準備を始める。


「蘇生ですか? この方はすでに蘇生されているではないですか」

「ああ。俺に従順な人形としてな。だが、意思が無い。突出した力があるなら少しばかり自由にさせた方が役立つんだよ」


 どうせ俺に害はない。

 それに、調べた限りではスザルクが俺に牙を剥くような経歴は見つからなかった。


「強い手駒は大歓迎だ。こいつは強くなるためにがむしゃらに修行していた。片腕を失ってもなお、強くなろうとした。精神の強さも申し分ないだろ」


 【フリーリバイバル】を使っても発狂しない……はずだ。

 そこは賭けにはなるがな。



――【フリーリバイバル】



 蘇生の重ね掛け。

 フリーからのオートはあったが、逆は初めてだったかもしれない。

 

 すでに蘇生されている死体は意思を持つ。

 

「……なるほど」


 蘇生したスザルクはゆっくりと目を開け、周囲を様子見る。

 そして、納得したとばかりに頷いた。


「私は死にましたか」

「おう。ちなみに死後の世界じゃねえぜ? 俺が蘇生させたんだ」

「蘇生……では貴方は相当の回復魔法の使い手ということですか」

「いいや、蘇生ってのは仮死状態にあったお前を生き返らせたとかではない。完全に死んだ死体を、死体のまま動くようにしたんだ。ようこそ、ゾンビの世界へ。お前も動く死体人形の仲間入りだ」


 煽るような言葉にもスザルクは感情を見せない。

 それは諦めか、単に受け入れが良いだけなのか。

 推測するには情報が足りない。

 この男のことを知らなすぎる。


「ちなみにだけど、【爆弾魔】は見た? 俺さっきまで手がかり探す依頼受けていたんだけど」

「いいえ、残念ながら」


 スザルクは首を振る。

 『残念ながら』

 本当に、残念そうにスザルクは返した。そこだけは感情を見せていた。


「見ていれば私はその者を殺せたでしょう。それだけの力があると自負していた」

「だけど、見なかったんだな」

「【爆弾魔】には勝てても【爆弾】そのものには勝てません。爆発を斬ることなんて人間には不可能なんですよ」


 そうか?

 金髪勇者とかやりそうだけどな。あの執事の爺さんも。


 斬る。その言葉でスザルクは思い出したかのように両手を開閉する。


「貴方が私を蘇生させたのですか。ということは蘇生魔法を使える術者ということ……。この腕も貴方が?」

「死体だったら直せる。俺のスキルはそういうもんだ」

「そうですか……」


 何を思ったのか、スザルクは失ったはずの腕を見ている。

 どっちの腕を失っていたのか知らないけど、良かったじゃねえか。


「シドウだ。好きに呼んでくれ」

「好きに、ですか。これから私は貴方の従者となるのでしょう。ならばマスター、と」


 剣を携えたままスザルクはその場に傅く。


「悲願でもある腕の再生。それを叶えて頂いた貴方には私の一生を賭す価値があります」

「また失えば直してやるよ。その代り、俺を護れよ? 俺が死んじまえば次失ったらそれまでだからな」


 というか、死体人形がどうなるのか予測できない。

 他の【ネクロマンサー】は制御を失い暴走するらしいが。


「畏まりました。マスターの命ずるままに動きましょう」

「そういう堅苦しいのはいいんだけどな。まあ、好きに動いていてくれ。用があったら伝えに行くから。ちなみに、欲しいものとかある? とりあえず剣持たせておいたけど」


 曲がりなりにも勇者の使っていた剣だ。

 そこらのものよりは良質のはず。


「これは……いえ、これ以上を求めるなど私には出来ません。釣り合わなくなる。これで十分です。剣も、防具も。ですが一つ確認したいことが」

「なんだ?」

「先ほど【爆弾魔】の依頼を受けたと、マスターは仰っていました。奴は捕まったのですか?」


 その目は殺意ではなく、純粋な興味に染まっていた。

 自身を殺した相手に対し、恨みは無いかのように。


「目星は付いたんだとよ。明日には捕まるそうだ」

「そう、ですか……」

「【爆弾魔】に言いたいことでもあったか?」

「それはまあ……。良くも悪くも私の弱さというものに気づかせてくれた相手ですから。しかし捕まりますか」


 殺されるのかな。それとも牢屋行きか。

 どっちでもいいけど。良くはねえか、俺達の荷物の恨みがあった。


「ご主人様。歓談の最中に申し訳ないのですが」


 ここまで黙っていたシドドイが口を挟む。


「そろそろ出発の準備をしませんと」

「出発? 今日の午後にはここを発つのですよ。スマイル様とお約束された時刻をお忘れですか?」


 そういやそうだった。

 朝ではなく、午後。何やら用事が長引きそうだからと中途半端な時間であったのだ。なら更にもう一日延ばせよとか思ったが、それ以上の報酬を払う金も無かったのだと。


「荷物の確認を」

「だな。あ、スザルク。こっちシドドイな。めっちゃ弓上手いぞ」

「スザルクです。私は……そうですね、ワイバーンを単独で狩ったことがある。それだけが誇りでしたが……まあ今となってはただの驕りでしたね」

「シドドイです。弓といっても山で獣を狩っていたくらいですよ」


 アイテムボックスから補充したアイテム各種を並べていく。

 それをシドドイが確認する。


「うわ、お前魔王を獣扱いとかやるな。ワイバーン狩りを誇らしげに言っているスザルクの気持ちを考えろよ」

「ち、違いますよ。あれは別格ですし、それに皆で倒したのではありませんか」

「魔王……?」

「それもまた後でな。あ、ちなみにだけど俺達の本拠地というか普段いる街は隣の方だから。しばらくこっちには来ないぞ。持っていきたい物があれば言ってくれ」


 と、荷物を整理していたのだが。


「ご主人様。足りない物資がありますね。いえ、すぐに必要というものでもありませんが、もし必要になった場合に困る程度のものですが」

「マジか。忘れてたな。なら買いにいくか。スザルクも自分ちに取りに行く物があればついでに行こうぜ」


 ならば、と家宝として伝わるネックレスを取りに行きたいということなので今度は全員で行くことにした。シドドイは最終的なチェック係である。

 まずはあの雑貨屋から。

 昨日はほとんどの売り物が駄目になっていたからどのような品揃えになっているか楽しみでもある。


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