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104話 犯人捜し 6

 夜も明け、仮眠を取った俺達は次の行動を考える。


「依頼自体は【爆弾魔】に関する手がかりです。このまま終わりにすることも出来ますが……」

「それは2つの理由で無理だな。1つ目は単に俺がムカつくから逃がしたくないってのだ」

「それを一番に挙げるご主人様は流石ですね。では、2つ目は私的な理由ではないのですか?」


 1つ目は冗談として置いておいて、だ。

 俺達が掴んだ情報はおいそれと口外することは出来ない。

 別に俺が若くて瞳の濁った男だからとかではない。

 こんな爽やかさ100パーセントの男をつかまえて誰が言うものだろうか。


「いや、情報源尋ねられたらどうするんだよ。死体から聞きましたなんて言えないだろ?」


 生き残った奴の情報でも、フードの男程度であったはずだ。

 そのフードの中身までもを掴んだのは俺達くらいだろう。


 かといって、他人がそれを信じられることでは無いだろうし、信じられてしまえば俺が蘇生魔法を使えると知られてしまう。


「ですが、あの情報だけでは絞り切れるものではありません。人の手を借りない事には……」

「人の手、ねぇ……」


 現在、この街で借りられる手があるとすれば【ドクター・ストップ】と金髪勇者の執事の爺さんくらいだろう。

 【ドクター・ストップ】は用があるらしいし、爺さんも居場所が分からない。


「せめて……結界が無ければなぁ」

「結界? 教会のですか? 墓地に張られていたという」

「そう、その結界。それさえ無ければ丸く収まったかもしれないのに」


 無いものねだりというか、無ければねだりというか。

 本当に、色々な意味で教会のやっていることは邪魔に思えてしまう。


「結界が無ければどうなさるおつもりだったのです?」

「適当な死体を蘇らせて、証人にする。犯人に心当たりがあるって、あの情報を言ってもらうな。俺達はそいつを探し出したってことで依頼完了だ」

「それは嘘……では無いのでしょうが……うーん」


 被害者を装らせるわけではなく、実際に被害者であるのだ。

 現場の状況でも話させれば信じてもらえるだろう。


「だが、死体を持ち運び出せないからな。かと言って、そこいらの奴を雇って証人にするわけにはいかないし……」


 裏切られてしまうと俺の立場が危うい。


「なるほど。ご主人様は用心深い方ですから出会ったばかりの者は簡単には信用されないのですね」

「おい俺を疑心暗鬼みたく言うな」

「でしたら、別の死体をご用意されては?」

「うん?」


 別の死体とな。


「おいおい……俺に人を殺せと? 物騒なものだぜシドドイさんよ」

「ち、違いますよ! そうではなく、教会の結界が張られていない場所から死体を持ち運べば良いのではないでしょうか」

「良いのではないでしょうかって、そんな簡単には無いだろ」


 



 あった。

 ただし、死体は死体でも、【爆弾魔】による被害者ではない。

 死因も素性も知れぬ死体だ。


「……こんだけ近代的な街でもやっぱり廃れているところは廃れているのな」


 機械仕掛けの馬が行き来する道を外れてみればあら不思議。

 スジャッタでも見慣れた路地裏があるではありませんか。


 麻薬でもやっているのではないかと疑う程に荒れ狂う人々や倒れている人間。

 パッと見ただけでも数人分の死体は落ちている。

 宝庫じゃねえか。


「今は質も量もいらねえからな。ただそこにあればいい」


 治安の悪さが隠しきれていないな。

 ここはまだアレクサンドルも手を付けていないようだ。


「教会の方も、弔いが追い付いていないと言っていました。毎日死者が出てしまっていると」

 

 なるほどね。

 ってか、教会からどれだけ聞いているんだよ。


「死体が無いならある場所に行けばいい、か。順応早すぎじゃねえか? 否定はしないが肯定もしないと思っていたぜ」

「ご主人様の意に沿うよう動くのが奴隷の務めですから。死体を望むのであれば、全身全霊、全知を以てして用意してみせますとも」

「悪の女幹部みたいな台詞」

「……自覚はしていましたけども」


 自覚はあるのか。

 まだシドドイにも人の心が残っていたようで一安心。

 それを忘れては人として生きていけない。


「んじゃ、手筈はいいか?」

「ご主人様が蘇生させた死体を私が現場の様子を伝える。そして証人に仕立て上げる、ですね」


 あれだけの数の被害者を蘇生させたのも無駄では無かった。

 現場の状況を誰よりも詳しく知ることが出来たのは僥倖と言ってもいいのだろう



――【オートリバイバル】【メンテナンス】



「おお、こんなところにいたのか!? 心配かけやがって!」

「ご主人様にご迷惑をかけるなど……まったく貴方という人は!」


 布に包まれた人影に駆け寄ると、抱き起す。

 ……臭えな。何日経ってんだよこれ。


「さあ帰るぞ。俺だけじゃない。皆も待っている」

「貴方のいない間も仕事は溜まっています。早く戻ってきてください」


 俺達は布の中身に向けて語り掛ける。

 すると、


「……そいつ、死んでるぞ? もう数日も前に」


 酒瓶を片手に持ったオッサンがそう伝えてきた。

 顔は赤くない。酒瓶はすでに空である。


「……そうか? よく見てみろよ」

「あ? ……あぁ!?」


 オッサンが目をこする。

 だが、いくらこすってもこれは夢じゃねえぞ。

 現実は変わらねえ……いや、俺が変えちまったのか。


 布に包まれていた中身――死体は起き上がると立ち上がった。

 俺やシドドイの手を借りずに歩き出す。


「仮死状態だったんじゃねえの? 知らんけども。ともあれ無事で良かったぜ」

「貴方はこの人のお知り合いですか?」

「あー、知り合いじゃねえけどな……少し前にここに来てからずっと動かなかったもんだから気にかけていたんだ」

「そうか。それなら一つ約束してほしい。こいつがここにいたことを黙っていてくれ。実はな……バレるとヤバいんだ」


 【爆弾魔】の証人がこんなところで野垂れ死にかけていたとか知れ渡るわけにはいかない。

 オッサンに金を握らせると、オッサンは頷いてその場を去っていった。


「……意外と男前だなこいつ。こんなところでホームレスやってたわりには」

「ご主人様の方が魅力的ですよ?」

「ありがとよ」


 俺の全てを肯定してくれるシドドイさんである。


「どこのどいつだか知らねえけど、役に立ってくれよ」


 布に包まれていた状態で【メンテナンス】を使ってしまったから、怪我の具合などは知らない。腐敗していそうだったから見たくなかった。体格で男だなくらいで選んだのだ。


「ご主人様の蘇生は二通りあるのでしたね。これはどちらなのでしょう?」

「これまでと同じ【オートリバイバル】だぞ。【フリーリバイバル】は使える相手がなぁ……」

「となれば、証人としてはどのように使うのですか? 言葉を発せないのであればまた筆談となるようですが……」

「別にいいんじゃねえの? 多弁はボロが出ちまうぜ」

「では、事件のショックで言葉を失ったことにしましょう。爆破事件の被害者なのですから、あまり強い口調で問い質されることはないでしょうし」


 一応、剣でも持たせておけばいいのかな。

 現場にいたってことは、護衛としてが一番良いだろう。

 

 アイテムボックスに余っていた剣は……


「なんか懐かしいの出て来たな」


 勇者の剣である。

 俺命名【発情剣】。


「まあいっかこれで。奪われるなよ?」


 蘇生させた死体は頷く。

 鎧も適当なのを着させて完成だ。

 どこに出しても恥ずかしくない剣士である。


「これで依頼完了の条件は整った。整った上でシドドイ、お前に尋ねたい。【爆弾魔】、捕まえちゃう?」

「ここまで来たのです。捕まえちゃいましょう!」

「ようし、ならば人海戦術だ。まずは依頼を完了し、情報を拡散する。【爆弾魔】を追い詰めた後は俺達でいいところを持っていくぞ!」


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