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103話 犯人捜し 5

 俺は一つの墓の前に立つ。

 無縁仏同然の扱いと言っていたが、どうやらそれぞれ墓は立てられているようだ。石碑に名前が刻まれている程度のものではあるが。

 今日、新しく作られたばかりだからか、その墓は一つの汚れも無い。


「名前には興味無いがな。とは言え、起こすには名前の一つでも呼んでやろうか」



――【オートリバイバル】



 しばらくの沈黙の後、墓前の地面が盛り上がる。


「さて、さて、さて! 教えてくれよ犯人をよ。お前を殺したのはどこのどいつだ? おっと、そういえばまだ俺はお前の正体すら知らなったんだったな。お前こそどこのどいつなんだ? ええ、おい? ミニッツ・ルマーとやら」


 石碑に記された名前を読み上げる。

 随分と可愛らしい名前だが、女の冒険者か?


 おっと、死体は焼死体というか爆死体だ。

 シルビアの時よりも酷い。

 焼け焦げているプラス衝撃が加わっている。



――【メンテナンス】



 ならばこうして死体の損壊を直してしまえばいいだけのことだ。


「……」


 今回は意志のない死体人形としての蘇生である。

 犯人を特定するだけであればそれで十分だ。


 名前と裏腹に、顔は粗暴な男であった。

 ゴレンのような印象を持つ、脳筋そうな男。

 とりあえず俺に跪かせてみる。

 うん、いいなこれ。


「あの……ご主人様……これは……?」


 固まっていたシドドイがようやく口を開く。

 存在感消しすぎて危うく1人で進めちまうところだったぜ。


「蘇生魔法だ。俺の職業、【ねくろまんさぁ】の固有スキルって言った方が正しいのかもな」

「蘇生……ではまさか、シルビアさん達も!?」


 察しが良いな。

 マモンとの闘いであれだけ傷ついたのを一瞬で直したからな。

 薄々気づいていたのかもしれないが、これで確信したってところか?


「とは言え、俺の蘇生魔法は普通の【ネクロマンサー】とは違うみたいなんだよな。今やった蘇生は操り人形のようにするものだが、シルビア達のように意思を持った死体としての蘇生も出来るんだ」

「【ネクロマンサー】と【ねくろまんさぁ】ですか……」

「微妙なイントネーションの違いだけどな。スキル効果も違うらしい」


 【オートリバイバル】での蘇生とて日中の活動が可能なのだ。

 性能が違う。上位互換の如く、だ。

 

「……」

「どうだ、驚いたか。恐れ戦いたか?」


 何やら考えているシドドイに声をかける。

 すると、驚いた顔を見せている。


「あ、いえ……驚きはしましたが……恐れはないです。はい、シルビアさん達を仲間と認識しているからでしょうか。ゾンビというよりも蘇生と受け取ることが出来ました」

「俺達から逃げようとかは思わねえのか? 教会にチクったりとか」

「しませんよ、そんなこと。私を何だと思っているんですか」


 心なしか、シドドイの口調が砕けている気がした。

 打ち解けたと思っていいのだろうか。それとも俺の錯覚か。


「ええと、ご主人様はこの蘇生したお方に【爆弾魔】の正体をお聞きになるんですよね?」

「そうだ。ちなみに、俺は意思の有る無しで作れるんだが、今回は無い方を選んだ。下手に意思を芽生えさせると混乱して自我を失ってしまうんだよ。シルビアみたいな精神的に強い奴は別なんだがな」


 こいつがどれだけ自我や精神が強いかは分からんが、そこらの一般人に死からの生還に耐えられるとは思えない。

 すでに冒険者を蘇生させ、発狂してしまったという過去がある。

 ここで大声を出されても困るものだ。


「そんじゃあ、俺の命令は分かるな? 分かれば地面にイエスと文字を書け」


 指で地面に『イエス』と書く死体人形。

 自我があろうとなかろうと、今回の死体に求めるのは戦闘力では無く知識や記憶の方だ。

 こうして頭が付いているのならば脳みそから記憶を取り出せると思う。


「……ん? 頭と言えばどこかで見た顔だな」


 この街で記憶に残るような顔は少ない。

 しかもどこかで見た程度であれば、飯屋の店員とかそのレベルだろう。

 店員……店主……雑貨屋……に居たヤクザみたいな連中の1人か。

 すれ違った程度であったが、やはり俺の脳みそは優秀だぜ。

 ちゃんと覚えていた。


「こいつ、街でも嫌われ者だったらしいぜ。あちこちで暴れていたとかで」

「では、むしろ心当たりは無数にあるのでは無いでしょうか?」

「……まあな」


 恨んでいた奴は相当いるんだろうな。

 

「しかし俺が聞きたいのは心当たりなどではなく、犯人そのものだ。さあ教えろ、お前を殺したのは誰だ!」


 ヤクザの死体人形に命じる。

 すると、死体人形は地面に文字を書き始める。


 書き上げた死体人形は一歩下がる。

 俺とシドドイはその地面を見下ろし、その内容を見た。


「『知らない』って書いてありますよ」

「……」


 よく考えれば爆弾だものな。

 事前に宿に設置でもされていれば気づかずに殺されていた可能性もある。

 真正面から剣で斬られるのとはわけが違ったわ。


「……よし。解散」

「ご主人様!?」

「いやだって、知らないって言うんならどうしようもねえじゃん。これ以上尋ねることある?」

「で、でしたら……」


 シドドイが死体人形に向き直る。

 お、シドドイからも質問か。

 答えるよう死体人形へと命じておく。


「犯人、もしくはその手掛かりとなるものに心当たりはありませんか? 最近、一番貴方を恨んでいた人物とかに」


 心当たりは無数にあるはずと言っていたが、それら全てが等しい恨みでは無いという過程か。

 一番恨んでいる奴こそ一番怪しい、と。

 だが……


「足を踏んだ側ってのは一々覚えていないもんだぜ?」


 果たして死体人形の返答は、これも『知らない』であった。

 まあ誰に何のために恨まれているとか、当事者が把握するのは難しいよな。

 

「……ん?」


 しかし死体人形は続きの文字を地面に綴っていく。

 さっきよりも長いな。文章だ。

 

「これは……」

「『手掛かりになるかは分からない。最後に見たのはバッグが爆発する瞬間だった』……ですか」


 これがヒントになるかどうか。

 ……ううむ。


「とりあえず考えられるのは、宿が狙われたわけでは無さそうってことだな」

「はい。狙われていたのはやはりこのお方だったのでしょうね。無差別ではなく、個人を狙った爆発。バッグが爆発したというよりも、バッグに爆発物を仕掛けられたということでしょうか」

「だな。そして、爆弾の大きさはバッグに入る程度の大きさだ。つまり、持ち運べる程度の大きさで宿を吹き飛ばす威力がある」


 ……これ以上はこのヒントから考えることは出来ないだろう。


「シドドイ、疲れはどうだ?」

「いえ、別にありませんが。ご主人様はお疲れで?」

「疲れはしたけどよ、魔力はまだまだある。というわけで、被害者片っ端から蘇生させようぜ!」


 結果として、無縁仏のように葬られていた死体全てを蘇生させたのだが、誰一人として【爆弾魔】を見た者はいなかった。

 そして俺は疲労困憊で立つこともままならなかった。


「大丈夫ですかご主人様……」

「……大丈夫じゃない」


 後一回かそこらが限界だ。

 やらなくていいならやりたくはない。


 が、試していない墓はまだある。


「……貴族の方もやっておくか」


 最新の死体の方が情報も新しいと思っていたのが間違いであった。


「シドドイ、一番最初に殺された貴族の墓がどれか分かるか?」

「……うーん、どうやら無いようですね。貴族の方々の多くは専用の土地に墓地を作るそうですから」

「……なら、この墓には貴族は全く埋まっていないってわけか?」


 これだけ広くて大勢いる犠牲者の全てが冒険者さんか?

 殺され過ぎだろ。


「そうですね……あ、いました! この名前は……没落貴族のようですね。三番目に狙われた犠牲者の貴族の方です」

「んじゃそれでいいか」


 手際よく蘇生させていく。

 これまでと同じ様に、原形が怪しい死体を直すと……そこには凛々しい顔をした男がいた。痩身長躯ではあるが筋肉はしっかりついている。

 そう、貴族というよりは……


「あ、この方は近衛隊隊長のようですね。貴族様と一緒に吹き飛ばされたようです。恐らくはどちらも損壊が激しいために間違われて埋められてしまったようです」

「ざっけんなよ教会!」


 これで魔力はすっからかんだ。

 また日を改めて、というわけにもいかないぞ。


「……駄目元で聞いてみましょうか。どの道、同じ部屋にいたのでしたら貴族と同じものを見ているでしょうし」

「そうだな」


 俺が落ち着いたころを見計らって、シドドイがそう提案してくる。


「んじゃ、犯人の顔でも見ていたら教えてくれ」


 投げやりな質問に対し、隊長は何やら地面へと書いていく。

 文章ではないな。

 だが、短い単語でも無い。


 そこに書かれてあったのはまごうこと無き犯人の特徴であった。


 『20代ほどの若い男。手入れのされていない髪と淀んだ黒い瞳が特徴』


 一晩かかってようやく【爆弾魔】を捜す第一歩を踏み出したのであった。

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