後編
続きを書いてみた。
途中で、本当に悪役令嬢物が成立してるのか、心配になって来た。
ざまぁがねぇ! どうしよう!!
「ペルラ=ファリス=ハンデンブルグ! 貴様は、貴族たるに及ばない、毒婦である! あろうことかエイマン王子が寵愛を受けし、エミリー=ファーリア=エクスタリア伯爵令嬢に対し、暴言飛語の数々を流し、更には、彼女を傷つけんとした事、明白!! 誠に許し難き事!! 捕縛し、罪に問う!!!」
学園の卒業記念パーティが始まる直前の事だった。 ミラー=ソイド=ベルクマン子爵が、パーティ会場に入って来たペルラに対し、突然の糾弾を始めた。 学園のパーティとは言え、内外の賓客も列席する豪華な会場には、すでに各国の貴人、貴族、王族が集まっており、糾弾の言葉は、彼等の注意を引きつけた。
ペルラは、そんな彼らを冷ややかに見つめ、顔を半分隠した扇の下で、フッと溜息をもらしてしまった。
”やはり…… こうなるのね。 でも、何故? 理由が無いわ”
事実、彼女は婚約を白紙化された後、学園の授業は、熱心には受け続けては居たが、それはあくまでも自分の為。 社交もそこそこにしか出席しなくなり、もっぱら慈善活動に力を入れていたからだった。
いわんや、いじめたと言われる、エミリー嬢に関しては、なんの関心も抱かず、反対に周囲から心配されていた程だった。
「発言の御主旨が判りかねます。 いわれなき中傷はお止め下さい」
「毒婦が何をいいだすか! 貴様は王子の婚約者とされて居るが、その心根、王子妃にはあまりにも邪! ミラー伯爵令嬢に対しての悪罵雑言、決して許されるべきものでは無い!」
扇の裏側で、ペルラは思い出そうと眉を顰める。 しかし、ほぼ接点の無かった、エミリーに対して、何かを言った覚えはもちろん、衆人環視の中でも、個人的にも逢った事さえない筈だった……
「ベルクマン子爵、わたくし、そのエミリー嬢と言う方の御姿すら知りませんが? また、御噂も気にしておりませんし、何故、わたくしがそのような事をしたと?」
「殿下の寵愛なき貴様が、嫉妬に狂ったに相違あるまい!! エミリー嬢に茶会の招待が来ない様に画策し、学園の舞踏会では彼女のドレスにワインをぶち撒く、非道の数々!! 許し難い!!」
「あの、ベルクマン子爵…… わたくしは、学院初年度以外、学園の舞踏会には参加しておりませんし、御茶会も、舞踏会も、夜会も出席はほぼしておりません。 また、参加していた各種の会も、出席者は皆さま、侯爵位以上の方々のみの物で御座いました。 その会場で、エクスタリア伯爵令嬢とお逢いする事はありますまい……それに……」
「では、二日前、エミリー嬢を階段から突き落とした件については! 証人も居る。 証拠も、この通り、貴様のハンカチがその場に落ちて居った!! 言い逃れは出来ぬぞ!!」
ますます、混乱する、ペルラ。 此処一週間は、隣国の大使館において留学の手続き、学力試験、各種手続きに、時間を取られ、朝早くから、夜遅くまで、隣国大使館に詰めていたからだった。 されに、証拠とされた、ハンカチを見てみると、なるほどそこには、P・F・Hと彼女のイニシャルの刺繍が施されていたが……
「ベルクマン子爵様? そのハンカチはわたくしの物では御座いません」
「何を! 貴様のイニシャルの縫い取りがあるでは無いか!! これを貴様が使っている処を見た物も居るのだぞ!! 下手な言い訳はよすんだな!!」
ペルラはもう一度、フッと溜息をつき、手元にある、ハンカチを取り出した。
「ベルクマン子爵…… これが、わたくしのハンカチに御座います。 身の回り、わたくしの使う者には、わたくし自身が刺繍を施しております。 また、公爵位を賜る家の者は、その名を刺繍する時、特別の作法が御座います」
そう言って、彼女はハラリと、ハンカチを彼等の前に取り出した。
イニシャルを刺繍されている、そのハンカチには、美しい刺繍が刺されており、そしてその刺繍の文字には特徴があった。DuH・F・P とあった。明らかな差がある。
「ベルクマン子爵、わたくしは作法に従い、このハンカチのようなイニシャルの刺繍を全ての手廻りの品に刺繍しておりますの。 そのハンカチは明らかにわたくしの物では御座いません」
毅然とそう言い放つペルラに、イラだったミラー=ソイド=ベルクマン子爵の肘を引っ張る様にして彼の注意を引く可憐な女性が、彼の側に立った。
「ミラー……わたくしは、……良いのです…… 学園を卒業すれば……もう……」
庇護欲を掻き立てる様な、哀れで可憐なその女性こそ、ペルラにいじめられているとされる エミリー=ファーリア=エクスタリア伯爵令嬢であった。 彼女の周囲には、ミラー以外にも、数人の男性が彼女を護る様に立っている。
「エミリー、君はなんと心優しいのだ! この毒婦と比べるべくもない。 君こそが、我らが主、エイマン殿下の側に立つにふさわしい!! ええい、衛兵! この毒婦を排除せよ!!」
いきり立つ、ベルクマン子爵とその仲間達。 学園ではエイマン第二王子の周辺に屯する、有力貴族の子弟の言葉に、戸惑いを見せながらも、衛兵たちがゆっくりと、ペルラに向かい始めた……
” やはり…… 避けられないのね…… そうね…… でも、なにも証拠など無い。 調べれば、調べる程、わたくしの潔白は証せられる。 万が一、冤罪を掛けられようと、わたくし一人が被れば…… ハンデンベルグ公爵家には…… 御父様と、兄上たちは…… ”
扇の向こう側で、ゆっくりと目を閉じ、瞼の裏側に浮かび上がる、エイマン第二王子の顔を思い浮かべて、心の内でポツリと呟いた。
” ……愛しい殿下…… お幸せに…… ”
引き立てられるために、掴まれるであろう感覚を、じっと待つペルラ。 顔からは表情が抜け落ち、唯々、冷たく凍りつき、閉じられた瞼から、一筋の涙が零れ落ちた。
===============
「ミラー、何をしている」
しんと静まり返った会場に、重く、冷たい声が、響いた。
「「「「殿下!!」」」」
エイマン=フィン=ハイデベルガー第二王子が会場に姿を現せた。 彼は、その異様な雰囲気の原因に視線を投げる。 彼と近しい者達のみが知る、驚愕の色が彼の瞳に揺らいだ。
「何をしていると、聴いている。 なぜ、このような場所で騒ぎを起こしている」
詰問口調で、そう彼はその場に居る者に問うた。 進み出たのは、ミラー=ソイド=ベルクマン子爵。 誇らしげに、そして、伺うように彼に告げた。
「我が君! エイマン殿下! 殿下の御寵愛をうけしエミリーを苛んだ、毒婦 ぺルラ=ファリス=ハンデンベルグ を弾劾し、この場にて捕縛する所でした!!」
「……」
エイマンの冷たく、蔑んだ視線が、周囲に飛ぶ。 ゆっくりと、周囲を見回した後、顔を扇で隠した、ペルラに視線が向く。 階を降り、ことさらにゆっくりとした足取りで、ペルラの元へ向かうエイマン。 直ぐ側に立ち、彼女に声を掛けた。
「ハンデンベルグ公爵令嬢…… このような場に、貴女は居るべきではない。 もう、時間も余りないのでしょう。 後の事は、私に任せ、お屋敷に戻られては如何か。 学園での最後の時間がこのような仕儀になってしまった。 謝罪の言葉すら出ない。 私は……今日のパーティで、君との最後の別れを言いたかった。 ……あちらでは、有意義で、豊かな時間を送って欲しい。 今まで、ありがとう」
「……殿下……」
「済まない。 許して貰えるならば、……退出のエスコートをさせて貰えないだろうか」
「……喜んで。 これに勝る喜びは御座いません」
「では…… 行くか」
腕を差し出すエイマン、その腕に触れるようにエスコートされるペルラ。 唖然とその後ろ姿を見ている者達。 ミラー=ソイド=ベルクマン子爵の大声が、広間に広がる。
「殿下!! そのような者に手を貸すなど…」
「黙れ!痴れ者!!! 公爵家令嬢に対する、悪罵雑言と、度重なる不敬。 賓客方々を前に、かくも醜態を晒した貴様等の一片の価値も無い! 王宮より発せられる公書簡を読んで居れば、一年の前に、ハンデンベルグ公爵令嬢が、私との婚約者を白紙撤回している事も知らぬ筈はない。 卿は、そんな事も知らぬと見える。 其処まで、王家を蔑ろにするか! 追って沙汰するまで、屋敷にて謹慎して居ろ!! ……私が、目も見えず、耳も聞こえないと思ったか! 下がれ、不快だ!!」
強烈な言葉の数々に、ミラーは、そして、彼の仲間達は。打ちのめされた。 ふらつくミラーを支えようとせず、側に居たエミリー=ファーリア=エクスタリア伯爵令嬢が、強い視線をエイマンに向け、そして言葉を紡ぎ出した。
「エイマン様! 騙されないで!! その方は、わたくしを苛んだ方なのです!!」
ペルラに手を差し伸べながら、ジロリと声のした方に視線を送るエイマン。 深く、暗い声音が辺りに冷気となって広がる。
「貴女に、発言を許した覚えは無い。 また、私の名を呼ぶ事を許した覚えも無い。 伯爵令嬢が、公爵令嬢を弾劾するならば、相応の手順を踏まなければならない。 下がれ、極めて不愉快だ」
バッサリと切り捨てる様な声音だった。 まさしく、一片の温情すらも与えぬ、断罪ですらあった。 冷たい一瞥を、彼の取巻きを自任する者達に呉れると、頭を巡らし、ペルラを伴い、サッと広間を後にした。
===============
ペルラは、呆けていた…… 断罪の先頭に立ち、自分の罪を言い立てる筈のエイマン殿下が、自分を守る様に振舞った事に、戸惑い、驚愕し……そして、嬉しかった。
彼の公平な目は、自分がして来た努力をつぶさに見ていたと、そう感じた。 記憶の中にある、彼は自分の努力をアッサリ無視したのに…… ちゃんと、認めていてくれた…… 最初から、彼から愛など貰えるとは思っていなかった。
記憶の中の自分は、そんな彼の愛を欲し、彼の視線の先に居る女性に嫉妬し、此方を向いて貰えると思い、不敬を重ね、我儘を重ね、最後には断罪された……
それを知る自分は、間違いを犯さないように、家族を守る為にも、努力を重ね、彼の側に立てるようにと、必死になった…… 寝る間を惜しんで、勉強に励んだ事、マナーを守り、常に公爵令嬢として毅然とした態度を取り続け、貴族の義務を果たし……
そんな努力を、彼は見ていた……
心が、熱くなった…… と、同時に、その手は一年も前に放されていた事に、気が付き、愕然とした。
「殿下……」
寂しげに、そう呟く。 あの時に拒否していれば…… いや…… 忙しいと言い訳して、エイマン殿下との距離を極力とった事さえ、今となっては、間違いだったと気が付いた。家族の愛に報いる為、自分の気持ちを押し殺していた事に、今更気が付き、張り詰めていた気持ちがガラガラと崩れ落ちる。
両の手で、顔を覆い咽び泣く。
取り返しのつかない事をしてしまったのだと。
エイマンの言う通り、学園の卒業パーティが、本国で過ごす最後の夜であった。 明日の朝には、隣国に旅立つ。 全てにけじめをつけ、今度こそ、自身を見つめ直せると思っていた。 今更…… 本当に、今更…… 自身の本心に気が付くなど……
屋敷への道。
公爵家の家紋の付いた馬車の中。 嗚咽を押さえもせず、泣き崩れるペルラだった。
===============
翌朝、ハンデンベルグ公爵家の玄関ホールには、公爵家の四人が揃っていた。 公爵家の只一人の娘で在り、当主エイグストの最愛の娘でもある、ぺルラ。 彼女が隣国の学園に留学する為に旅立つ朝だった。
昨夜、この国の学園の卒業パーティだというのに、早々に帰宅し、落ち込んだ様子で、部屋に籠ってしまった彼女を心配して居た所に、エイマン第二王子よりの急使が、事の顛末を伝えた手紙が届いた。
そのあまりの出来事にハンデンベルグ公爵は激昂するも、彼以上に激怒していた王子エイマンの果断な判断に、怒りが萎むのを感じた。 王子からの手紙には、ペルラを苛んだ者達に対し、苛烈とも言うべき処罰を下したと、綴られていたからだった。 王国の国法に則り、最大刑罰を与える旨を書き記した、その親書を手に、エイグストは、エイマンが如何にペルラを大切にしていたかを思い知らされても居た。
そんなエイマンに、エイグストは数冊の羊皮紙の付いたノートを渡されていた。
曰く、エイマンが彼女を見ていた証と。 ペルラを想う気持ちと、彼女を外敵から護る為に行っていた、護衛達の報告書を綴った物だった。
親書に書かれていた ”これを持って、彼女は本当に自由になりました。 王家も、わたくしも、彼女の献身と努力に、感謝を捧げます。 今までありがとうと、お伝えください” と、言う文言が、いかに王家がペルラを気に入っていたかの証左だと気が付いた。
旅立つペルラに、父親として、エイグストはそのノートを渡した。
「良いか、ペルラ。 家族の我等はもとより、王家の方々も、お前の行く末を案じている。ゆめゆめ、自棄になるな。 お前の求めるモノを真摯に追え。 その為ならば、私はなんだってやってやる。 お前の兄達も同じ気持ちだ。 よいな」
「はい……御父様。 ハンデンベルグの名に恥じぬ様、身を慎み、励んでまいりたいと思います。 これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「うむ……達者でな。 ……良き人が出来たなら、一番に伝えよ」
「お、御父様……?」
馬車に繋がれている馬の嘶きが聞こえ、出立の時間になった。 遠く隣国までの道程。 馬車に着く護衛は、教会への慰問について居た騎士だった。 心配そうに見つめている家族に頭を下げ、護衛と道行きの安全を祈り、彼女は住み慣れた生家を出発した。
^^^^^^^
揺れる馬車の中。 父親である、エイグストに最後に渡されたノートを読む。 隣国までは遠く、退屈な時間は有り余るほど。 彼女が一冊目のノートの一ページ目を開くと、そこには、六歳の時の御茶会の情景が書き込まれていた。
突然倒れた自分を心配する文字が並ぶ……
行間に拙い文字で、感想とも、その時の気持ちともつかない言葉が綴られている。
” とても綺麗なお嬢様でした。 あの方がお嫁さんになって下さるのでしょうか? わたしは、どりょくします。 ……突然お倒れになってしまわれてのですが、大丈夫でしょうか? とてもしんぱいです ”
涙がこぼれそうになったペルラ。 読み進めていくうちに、彼女の護衛が報告を細かくエイマン第二王子に送っている事が判った。 学園で、王宮で、それこそ、血の滲む様な努力を重ねていた事。 常に気を張っていて、辛くとも、弱音を決して吐かなかった事。
周囲の信頼を得、高い評価を受けている事。
その報告の合間に、エイマン第二王子のとても優しい一言が綴られていた。 時には、ペルラと比べた彼自身の不甲斐なさを書き、自分への叱咤激励を、行間に刻み込んでもいた。
” ペルラを横に置くには、このままではダメだ。 もっと懸命に努力を積み上げねば、彼女に申し訳が立たない ”
疲れ果てて、机で眠っていた時には、侍従、従者に容赦なの無いお言葉で、ペルラを大切にせよと申し付けられたり、王宮の教育官の高い評価に、自分の事のように喜ばれる文字には、ペルラ自身、とても心が温かくなった。
” ずっと、ずっと……見つめ続けて下さってたのね…… 殿下は…… ”
十二歳に私が成った時、殿下の強い希望で、正式に婚約者として認められたとある。 行間にあった、歓喜の言葉の数々。 思わず、顔を赤らめめてしまう。 希望に満ちた未来を夢見た殿下。 いずれ、時を経て、二人して王家を支えられると喜びに満ちた殿下の御言葉。 その文字が、涙に歪む。
二冊目に入ると、エイマン殿下のペルラへの純粋な気持ちが、度々綴られていた。 ご自身の難しいお立場を良く理解されて、兄殿下の補佐をする為に何が必要か、何を排除しなければならないかを、書き込んでもいた。 そして、運命の時がおとずれた。 マリアベル王女様が嫁がれたとされる国での政変だった。 行間の文字が長くなり、随所に、その時の事が書かれていた。
政略として、嫁がれたマリアベル様が、後宮の離宮で人質の様に幽閉され、その上、その国の宮廷内のゴタゴタにより、政変が起こった時、ペルラの直ぐ上の兄が、マリアベル王女を助け出したという公文書の事柄の真実が其処にあった。
真実は時として、秘匿される。 作られし美談の影に隠れて。
特殊部隊を率いたのは、エルヴィン兄ではなく、エイマン第二王子であったと。 マリアベル王女の顔を見知って、王女であると判る人間が必要であった事から、最初は渋っていた王家もエイマン第二王子の言についに折れ、彼を突入部隊の人選に入れたという事だった。
結果、救出作戦は成功し、無事マリアベル王女は故国に帰還で来た。 最後の脱出行の際に、最も馬術に長けた、エルヴィン兄がマリアベル王女と馬に乗り、敵地ともいえる場所を駆け抜け、その殿をエイマン第二王子が勤め上げたとある。 ロマンスが生まれたのはその時だった。
その行間に、エイマン王子の文字で書かれた内容が、ペルラの心に深く暗い影を落とした。
” 姉上がハンデンベルグに恋をした。 父上は、きっと叶えようとされる。 不遇であった姉上を人一倍心配されていた父上なら、きっとそうする。 しかし、そうなれば、私の婚約は白紙に戻されるやもしれない。 危ういバランスの上に立つ、王家なれば…… ”
彼の予想は見事に的中する事になった。 激しく拒絶する殿下の様子が、行間に浮かぶ苦悩と共に書き記されていた。 そんな中、エイマン第二王子もまた、国王陛下より、兄殿下の助けの為、国民の生の声を聴く事を命じられ、度々、市井に紛れ王城下の街にお忍びで出歩かれていた。
ペルラの護衛の記述に、彼女もまた、大公妃教育の一環として、教会への慰問が課せられて、度々、王都各所にある教会への慰問に向かっていたことが報告されていた。 ペルラは知らなかった。 同時期に、市井でエイマンと出逢っていた事を。
彼女の護衛の報告書に行間に、 ” もしかしたら、会えるやもしれない。 隠形のマント、認識阻害の魔法の強化を申請しておく ” とあった。
淡々とした報告書の行間に、あるエイマンの文字に、驚愕を覚えた。
” 今日、彼女に出逢えた。 教会の孤児院の入り口に居られた。 護衛の騎士と仲睦まじげに、語り合って居られた。 彼女の想いが少しわかった。 騎士からの想いに、貴女は ”お言葉、嬉しく思います” と、応えられた。 私には見せぬ笑顔をと共に。 心が苦しかった。 王家の私の立場から、君を縛る私が、私自身が憎くなった。 あのような笑顔を浮かべる事の出来る、素晴らしい女性を、押し潰すように貴族の責務を押し付けた事を後悔している ”
到達しない未来を憂い、思わず出てしまった言葉。 そして、なにより、殿下に一番聴かれてはならない言葉。 伝聞ではなく、ペルラ自身の口から出た言葉。 その事実に、胸が張り裂けそうになった。
”まさか、聴かれていたなんて…… ”
彼女の視界がまた涙に歪む。 そして、思い当たった。 今も護衛として隣国への道を共にしているのが、あの時の騎士であったと。 そして、意味ありげな、父、エイグストスの言葉。
” ち、違う…… 違うの…… ”
口から漏れだす嗚咽の合間の言葉。 それでもページをめくる手は止まらず、先を読み進めるペルラ。 その先の記述は、あの婚約白紙撤回の情景…… 行間の文字に、いくつもインクの滲んだ後があった。
” これで、彼女も、自由だ。 才ある彼女は、何処までも高く飛べる。 私の婚約者で有るという、重き頸木を離れ、彼女の思うが儘に。 心に強き翼を持つ愛しきペルラ。 本当に申し訳なかった ”
もう、ペルラの目は、文字を追えない。 涙が後から後から湧き出し、自身がとても大きな愛で包まれていた事を自覚したから。 ノートを閉じる時、手を滑らし、足元に落としてしまった彼女は、ノートの最後のページに何か文字が綴られているのを見つけた。
手に取り直し、その部分を開けてみると……
”我が横に立つのは、ペルラのみ。 王族の責務を果たしし後は、遠き時の輪の接する所で、彼女を待つ。 先に彼女が逝ってしまっていれば、その魂を探し出し、必ずや我が胸に。 此処に誓う ”
熱烈な告白であった。
届かない想いと想い。
涙で何も見えなくなる彼女は、
一つの決断をした。
どんな形で有れ
たとえ、報われなくとも……
エイマン=フォン=ハイデベルガー様の御側に参ると。
後編書き終わって、思った。
ハッピーエンド成分が足りねぇ!!
もにょる~~~ これじゃ、ハッピーエンドマニアとして、失格だぁ~~~
つぎ足す事にした。