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ルナクを背負い始めてかれこれ一時間ほどたっただろうか。 僕は追手が近づいてくるのを感じていた。 木の魔法を使った影響だろうか、森の中の様子がある程度分かるのだ。僕の後方2キロ程のところを走っている人間が二人。こんな夜中に森の中を走っている人間など追手以外に誰もいないだろう。 だが僕には奥の手がある。
ルナクを背負って歩いているうちに試したことだがどうやら僕は木をはやすこと、知っている植物の種を作りそれを魔力で育てること、もともと生えている木を魔力を使って育てることができるようだった。
捕まっては元も子もないので出し惜しみをせずに行こうと思う。
「理を外し我が願いをかなえよ。木々よその子種を我が手に。」
すると小指の爪ほどの種が数十個掌に現れた。 この魔法のいいところは時間差で魔法を発動できるところだ。 今ここにまいておき、追手たちが通るころ合いに芽吹けさせれば効果的だろう。種をまき、手ごろな大きさの木に近づきもう一つの呪文を唱える。
「理を外し我が願いをかなえよ。木々よその腕に我を抱け。」
するとちょうど僕たちが入れるほどの洞がその木の幹に現れた。 僕はルナクを洞の中に入れるともう一度呪文を唱え洞を閉じた。 ちゃんと空気穴もあけておいたので窒息の心配はないだろう。
そして僕は種の罠にかかっているであろう追手たちのもとに向かった。
しばらくたつとルナクには見せられないような光景が広がっていた。
うん、やり過ぎた。
そこにはうごめく蔦と、それに雁字搦めにされた追手の姿があった。
まあ、しばりつけているだけなのであんな事やらこんな事にはなってないのが救いだ。
しばりつけられた追手のうち一人に近づいて微笑みながら尋ねた。
「どちらさまですか?」
すると、追手Aは身をよじりこちらを攻撃しようとしてきた。
「おお、怖い。目的はルナクですか?」
それを言った瞬間追手Aの動きがぴたりと止まった。
こんなちょろい奴が追手なんかやっていいのだろうか・・・。たぶん暗部化なんかだろうに・・・
「図星ですか。ルナクは自由を望んでいます。今後一切あなた方とはかかわり合わないので手を引いてください。これは忠告です。 次は殺します。」
すると追手A,Bともに体をびくっとさせた。
だからなんでこんな分かりやすいんだよこいつら・・・。 そしてあきれながら言った。
「この蔦は日が昇るあたりには解けるでしょう。さっき僕が言ったことを帝に伝えなさい。では、」
そういって僕はルナクを残した木に向かって走り出した。
「・・・か!、あ・・う・・・!」
近づくにつれてだんだん声が大きくなる。
ああ、これルナク起きたな。
木の前まで近づき呪文を唱える。 洞が開くと案の定涙と鼻水でぐしゃぐしゃなルナクがいた。
「蒼の馬鹿! 置いてかないって言ったじゃないか! 起きたら暗くて、寒くて、蒼がいなくって、捨てられたかと思った・・・」
ぐずるルナクをなだめているとまたうとうとし始めた。
今日で二度目だなと思いながらルナクを背負い歩き出す。
手ごろな木があったので洞を作り二人で入る。洞を閉じれば万が一あいつらが追ってきても気づかれることはないだろう。
子供特有の高い体温が心地いい。 そういえばさっきも同じことを考えたな・・・と思いながらいつの間にか眠っていた。