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さて、どうしたものか。 まずどうにかしなくてはいけないのはこの塀、もとい壁だろう。 高さは2.5メートルほど、ルナクを担いでも乗り越えることは無理だろう。悩んでいるとルナクが声をかけてきた。
「あの、魔法は使わないのですか?」
魔法、ほう、魔法か・・・。 知ってるぞ。なに? 知らないわけないだろう。いつも使ってるんだから。 ほら・・・その・・・あれをこうしてやるやつだろ?
「蒼さん・・・?」
頭の中でふざけているとルナクが訝しげな視線を送ってきた。
「もしかして使えないんですか?」
だめだだめだ、期待させておいて脱出さえできないなんてことになったら情けなさすぎる。
魔法・・・、木でも生えてくれれば乗り越えられるのだが・・・
え~い、どうにでもなれ! 碧、お願い。 もう一個願いをかなえて!
「理を外し我が願いをかなえよ、木々よ芽生え、我を運ぶ橋となれ!」
「・・・。」
「・・・。」
「蒼さん・・・?」
「いや・・・そのね・・・」
このことを黒歴史というんだなと理解したその瞬間。僕の足元の地面にひびが入った。
「「え?」」
っと口に出したとたん僕とルナクは空を飛んでいた、いや、猛烈なスピードで育つ木(もはや木とは言えない)に押し出されていた。
「「うわぁあぁぁぁぁぁあぁぁああ!?」」
何重にも張り巡らされた堀、塀をこえ、城下の街をこえ、町はずれの林の中に・・・
落ちた・・・
「ぐへ!?」
「痛い!」
ルナクは僕の腕の中にいたのでそこまでではなさそうだが、痛い。 体中が痛い・・。痛みに喘ぎながら空を見上げると僕が作った橋が光の粒子となって消えていくところだった。
「蒼・・・大丈夫?」
死にそうです。
閑話休題
「蒼さんすごいね! あんな魔法宮廷魔導士でも使えないよ! それにあんな詠唱初めて見た! それから・・・ それから・・・」
僕が体に鞭をうち立ち上がったあたりからずっとこれだ。 くそ生意気で最終的に縁を切るような弟しか持っていなかった僕にとってはとても微笑ましい。 こういう年相応の笑顔や反応を見るとなぜかホッとする。 皇子ということもありいろいろと抱え込んでいたのだろう。
しばらく、林の中を歩いていると街道に出た。この道をまっすぐ行けばどこかの町につくだろう。
最終的な目標はこの国を出ることだが、さすがに首都のすぐ近くに国境があるはずがないだろう。
それに追手もかかるだろうからうかうかしていられない。あの木の橋を見たものは少なくないはずだ。 今頃宮廷内は大騒ぎだ。
「蒼さん・・・」
「どうした? ルナク。それと敬語はやめにしよう。 村に敬語を使うような子供はいないだろう。」
「分かり・・・分かった。 それとごめんね。 蒼は何にも関係ないのにね。たぶん今頃皇国兵が僕たちを探しに出発しているころだよ。もし、もし僕が邪魔だったらおいてっていいから・・・、うぐっ、ぁう・・・」
泣くくらいならそんなこと言わなければいいのに・・・
立ち止まってルナクに向き合って言う
「ルナク、お前は馬鹿か? 途中で見捨てるようなら最初っからお前なんて助けなかった。 それに僕は何もかも守るって誓ったんだ。 何があろうとお前を守る。 最寄りの町に着いたってずっとお前についてくからな。」
「蒼ぉ・・・」
涙で顔がぐしゃぐしゃなルナクを抱きしめると全力で抱きしめ返してきた。 墜落の影響で叫びだしたいほど痛かったのに億尾にも出さずに我慢した僕を褒めて欲しい。
15分ほど泣き続けただろうか。ルナクは泣き疲れて眠ってしまった。今思えば今は夜中だ。 起こすことも憚られるので負んぶして運ぶ。
子供の高い体温が背中に心地よかった。