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そうこうしているうちに、ぼんやり光る月が真南に近づいてきた。ジョッシュが“内界”に帰る時刻が近づいている。僕の胸は高鳴った。
湖面の方をもう一度見回す。ゆっくりと左へ、右へ。
そしてとうとう、小さくて弱いながらも、白くてにぶい光が湖底に輝くのを見つけた。
「ジョッシュ!あれ!」
僕は光の方を指差した。彼には僕の手が見えなかっただろうけど、その光は見えたようで、「やった!」という弾んだ声が聞こえた。
「じゃあね、ティム。本当にありがとう」
「こちらこそ。元気で」
声が聞こえる方へ、僕は手を伸ばした。そして彼の手に触れ、彼も僕の手を握り返した。
やがて手が離れ、ジョッシュが湖岸の方へ寄っていく足音が聞こえた。いよいよ時間だ。彼は最後にもう一度、僕の方を振り返った。いや、実際には彼の顔は見えないのだが、息づかいでわかった。僕は思いきりの笑顔を作った。きっと彼にもそれが伝わっただろう。
「じゃあ・・・」
その言葉が聞こえるとほぼ同時に、湖面に彼が飛び込んだ音が聞こえた。そして、その直後、大きな水しぶきが上がり、僕の体にも飛び散った。湖面のにぶい光は、まるでガラスが割れたときのようにばらばらになった。
僕は衝動的に湖岸に駆け寄り、水面をじっと見つめた。前回と同じように、このまま飛び込んだらまた“内界”に行けるだろうか?
でも今回はそうしなかった。以前、長老が言った“月の光が強すぎた”という言葉が頭をよぎったのだ。確かに前回は、何か引きつけられる感覚があった。湖の中から、何かが僕の体を引っ張るような。それが今は、逆に近寄ることを拒否されているかのように感じた。散り散りになった湖面の光は、元の丸い形に戻りそうもなかった。きっと“門”が光るのをやめてしまったのだろう。
僕はゆっくりと後ずさり、湖畔の岩にもたれかかるようにして座り込んだ。空を見上げると、雲が厚くなったのか、さっきまで鈍く光っていた月はその位置がわからなくなっていた。まさに、ジョッシュが帰るそのときにだけ、月は光ってくれたのだ。




